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【004不思議】Lanch time

 逢魔ヶ刻高校の入学式から数日が過ぎ、高校生活が段々と日常化してきた新一年生達。

 学校に授業開始を報せるチャイムが鳴り響き、生徒達は決められた時間に動く機械の様に自分の席へと戻っていく。

 先日、花子がクラスメイトとなった一年B組は現代文の授業のようだ。

「零野さん、ここの文章を読み上げてください」

「はい」

 担任教師でもある女性の先生に当てられた花子は、教科書を持って立ち上がった。

「い無だまは前名。るあで猫は輩吾」

「零野さん! 教科書が上下逆!」

「何で気付かないんだよ!」

「昭和のギャグ漫画か!」

 教科書を逆さに持ったままスラスラと読んだ花子に、教室はワッと騒がしくなった。


 また、数学の授業。

「零野。この問題を解いてみろ」

「はい」

 数学の教科担任に当てられた花子は、与えられた問題と数秒間にらめっこする。

「……先生、この記号が解りません」

「イコールだよ!」

「イコール知らないの!?」

「今までどんな数学受けてきた訳!?」

 謎の二重線の意味を尋ねた花子に、また教室はワッと騒がしくなった。


 はたまた、英語の授業。

「……先生」

「はい、何でしょう」

 生徒達に背を向け、黒板にアルファベットを並べていく先生に、今度は花子が自分から話しかけた。

「眠たくなったんで、トイレ行って寝てきていいですか?」

「いい訳ないでしょう!」

「堂々とサボり宣言しよった!」

「つーかトイレで寝てくるって!」

 花子の度々重なる珍言動に、懲りずに教室はワッと騒がしくなった。

 しかし、その事について宜しく思っていない生徒が一人。

 授業を真面目に取り組みたい博士である。

「君! 何しに学校に来てるんだい!?」

「ハカセに会う為です」

「誰だいそれは!」

 花子が自分の話をしている事など最早聞こえず、博士は苛立ちの中、自分の持っているシャーペンを強く握り締めた。


●○●○●○●


「やっぱりこいついらない! 返品します!」

 オカルト研究部の部室で花子を指差しながら声を荒げる博士。

 博士の声の相手である多々羅はというと、博士と同じ熱量は感じられず、至って冷静という態度だった。

「いらないって言われても……、今から花子を退学させるなんてのは無理だろ」

「出来るだろ! 入学させた時みたいに校長ゆすってさー!」

「お前、言い方悪いぞ」

 博士の口調に流石の多々羅も注意し、溜息交じりに言葉を吐いた。

「今急に退学したら、花子、相当目立っちまうだろ? それで七不思議の事とか感付かれたりしたら、色々と面倒なんだよ」

「もう既に目立ってますけどね。目立ち過ぎてちょっと浮いてる」

「? 私、幽霊だけど流石に浮けないよ?」

「大丈夫、浮けてるから」

 博士の言葉を花子は全く理解できずに首を傾け、代わりに多々羅が口を開いた。

「とにかく! 今、クラスで花子の事情を知ってんのはハカセだけだ。しっかり面倒見てやれよ」

「は!? 何で俺が!」

 博士は大声で反抗するが、多々羅は聞く耳を持とうとせず、それ以降、多々羅と話す事は無かった。

 ふと問題の張本人である花子に目をやると、花子は澄んだ眼でこちらを見ており、博士は耐え切れずに溜息を吐いた。


●○●○●○●


 学校にいつも通りのチャイムが鳴り響く。

 この時間帯のチャイムは、皆が待ちに待っていた昼休みを告げるチャイムだ。

 教室に残って弁当箱を開ける者、教室を飛び出して購買へと急ぐ者、昼食を後回しにして友達との話に花を咲かせる者。

 生徒達の昼休みの過ごし方は様々であったが、共通点があるとすれば皆一様に笑顔であるという事だった。

「ハカセー! 購買行くから先行っといてー!」

「おー」

 授業の後片付けをしていた博士は、廊下から声をかける乃良にそう返答した。

 鞄から弁当箱を取り出し、いつも乃良と一緒に食べている中庭へと急ぐ。

 すると、ふと視界に花子が入った。

 博士は一瞬不快に思ったが、花子は席から立ち上がったかと思うとどこかへとふらーっと行ってしまった。

 そんな花子を見て、博士はしばらく立ち尽くしていたが、何をする訳でも無く、中庭へと再び足を進めた。


●○●○●○●


「あいつって、昼飯どこで食ってんのかな?」

 中庭にあるテーブルでの昼食中、購買で買った焼きそばパンを食べている乃良に博士はそう言った。

「あいつって花子ちゃんの事?」

「そう、そいつ」

 頑なに名前を呼ぼうとしない博士に対して、乃良は面倒臭そうな表情をしつつも口には出さなかった。

「さあね。そもそもご飯食べてるのかどうかも解んないし」

 適当に言葉を返す乃良に博士は「それもそうだな」と言って昼飯を箸で口へと運ぶ。

 そんな博士に乃良はニターッという擬音が似合いそうな笑顔を浮かべた。

「なーに、嫌ってる割には結構気遣ってるじゃん」

「そんなんじゃねぇよ」

 乃良の笑顔とは逆に、まるで鉄仮面でも被ってるかのように顔に感情を示さない博士。

「ただ、どうしてるのか、ちょっと気になっただけだ」

 ――それを気遣ってるって言うんじゃ……。

 乃良はそう思ったが、何とか我慢して心の内に留めておいた。

「昼飯といえば、千尋ちゃんは昼飯、クラスの友達と一緒に仲良く食べてるらしいよ」

「どうでもいい」

「なっ! 同じ部活の仲間だろ!?」

 博士の冷酷な態度に乃良は焼きそばパンを口に詰めながらそう大声で言った。

「大体、お前は千尋ちゃんと花子ちゃんを嫌い過ぎ! あの二人が何をしたって言うのさ!」

「別に? 向こうが勝手に俺の事嫌ってるだけだろ」

「花子ちゃんはお前の事大好きみたいだけど」

「好きだから嫌いなんだよ」

「我が儘か!」

 好かれても嫌い、嫌われても嫌いと言う博士に乃良は人差し指を突きつける。

「そんな事言ってたらお前結婚出来ねぇからな!?」

「いいよ別に。結婚なんて」

 乃良の必死の叫びも博士は諸共せず、乃良は頭を抱えながら項垂れ始めた。

 一方、そんな乃良を気にも留めずに、博士は考え事をしながら昼食を噛んでは食道に流していった。


●○●○●○●


 その日の放課後、帰り支度をしている花子のもとに声がかけられた。

「あのさ」

 花子はいつもと同じ無表情で声のした方向へと顔を向ける。

 視線の先には帰り支度を終わらせ、もう帰宅するだけの状態である博士がいた。

「ちょっと話いい?」

 普段、博士から花子に話しかけるなど滅多に無く、ましてや教室で会話をするなどこれが初めてなので、花子は少し固まっていたが、数秒後にコクリと頷いた。

 その頷きに博士は緊張していたのか、少し呼吸を整えて会話へと入った。

「……お前、昼飯食ってんの?」

 ……静寂。

 教室内には最早人の影など無く、窓から夕陽が差し込むだけであった。

 その中で二人の会話は異様に静かであり、会話と呼べるかどうかというような問題であった。

 ――……長ぇ!

 博士は耐え切れず心の中でそう叫ぶ。

 ――えっ、長くね!? 俺、何か難しい事訊いた!? 昼飯食ってるかどうか訊いただけだろ!? YesかNoの二択しか無ぇだろうが!

 心の中でそう喚いてウズウズしていると、やっと花子が口を開いた。

「……食べてる」

「えっ? あぁ、うん」

 かなりの時間差で届いた答えに博士はしどろもどろしていると、続いて次の質問に移った。

「何食べてるの?」

「……購買の、パン」

 今回は割とスムーズに答えが返ってきて少し安堵した博士は、本題の前にちょっと遠回りをする事にした。

「……何のパンが好きなの」

「コッペパン」

 ――早っ! しかもコッペパンって!

 博士の質問に食い気味で答えた花子に、博士は意を決して花子に本題を持ちかけた。

「お前、昼飯どこで食ってんの?」

 ……再び、静寂。

 ――あぁぁぁ意味解んねぇぇぇぇ!

 時々訪れる謎の静寂に博士は頭を抱えて走り回りたい衝動に駆られたが、何とか意識を保ち、拳を震わせて花子の返答を待つ。

 すると、数十秒後、花子の回答がやって来た。

「……家」

「お前、それトイレだろ」

 眉一つ動かさずにそう言った博士、花子も変わらない無表情で首を縦に振る。

 そんな花子に博士は溜息を吐いた。

 ――つまり、便所飯ってやつじゃねぇか。

 博士にとって予想範囲内の答えだったので、そこまでの衝撃は無かったが、それでも聞いて気分の良い答えでは無かった。

「……お前、そういうの辛くないの?」

 最早恒例となってきた静寂の時間に博士は何も考える事無く、花子の目を見ながら答えを待った。

「……何で?」

「何で!?」

 今度は予想範囲を軽く超えた答えだったので、花子の疑問を反射的に復唱してしまっていた。

「何でってお前……、トイレで飯とか衛生的にも良くないし、それに……、色々と問題があるだろうが」

 博士のどこか遠回りな説明に、花子は全く理解していない様子で首を傾げる。

「寛げるよ?」

「寛げるかぁ!」

 いよいよ大声を上げてしまった博士はなんとか落ち着こうと呼吸を整える。

「……でも、やっぱりトイレで昼飯ってのはよく無ぇよ。他の女子とかに見つかったら色々とヤバいし」

「そうなの?」

「そうなんだよ。だから……、その……」

 何かを言いたげな博士を花子はつぶらな瞳でじーっと見つめる。

 そして、博士は意を決したかのようにその言葉を口にした。


「……俺らと一緒に食わねぇ?」


「……?」

「いやな? 今乃良の奴と一緒に食ってるんだけど、正直あいつと二人だと静かに飯食えねぇから煩わしいし、お前が来れば俺はあいつの呪縛から解放されるし、お前は便所飯から離脱出来て、一石二鳥じゃねぇかっていう話で……」

何かから逃げるかの様に長々と説明する博士に、花子はぼーっとした顔で静かに聞いていた。

「……良いの?」

「……良くなかったらこんな話しねぇっつーの」

 照れからなのか博士も顔を無表情にし、無表情な二人の会話という何ともシュールな現場となっていた。

「でも乃良が」

「大賛成―!」

 突如、花子の言葉を遮る形で聞こえてきた肯定に、博士は肩を震わせる。

 声のした方へ目を向けると、そこには廊下の窓から顔を出す乃良の姿があった。

「お前! いつから聞いてた!」

「んー? 『あのさ』辺りから?」

「初っ端の初っ端じゃねぇか!」

 さっきまでの静けさはどこへやらに飛んで行き、騒がしく喋る博士と乃良に花子は言葉を紡いだ。

「ありがとう」

 突然に届いた感謝の言葉に二人は少し固まるも、直ぐに博士は花子に冷たい視線を送った。

「勘違いすんなよ。俺がお前の事嫌いなのに変わりはねぇから。ただ、知ってる奴がそういう状況になってるってのが気に食わなかっただけだ」

「えっ……、ハカセ、私の事嫌いなの?」

「そこから!?」

 変わらない花子の不思議な発言に、乃良は思わず声を上げて笑った。

「さて、そうと決まったら、あいつも誘わなくちゃな」

「? あいつって?」

 博士の疑問に携帯電話を取り出した乃良は、答えの代わりに笑顔を返した。


●○●○●○●


「あのトイレの花子さんと一緒にお昼を過ごせるなんて! 夢みたい!」

 翌日の昼休み、中庭のテーブルにて花子に向かって目を輝かせているのは、言うまでもなく千尋である。

「おい! 何でこいつ誘ったんだよ!」

「何でって、同じ部活仲間だろ? ここは一つ、オカルト研究部一年生組って事で!」

「そうよ! そんなに嫌ならハカセがどっか行けば?」

「何で俺が外れなきゃいけねぇんだよ! ていうか、俺はあんな部活に入った事認めてねぇからな!?」

 博士はそう声を荒げると、諦めたかのように溜息を吐いた。

「……つーか、お前、クラスの友達と一緒に食ってんじゃねぇのかよ」

「そう。だから、一緒に食べれるのは水曜日だけ。本当は花子さんとずっと一緒にいたいけど、そういう訳にはいかないんだよね」

 弁当箱を開いて、中のおかずを口に入れながら、千尋は思い出したように口を開いた。

「ていうか、いい加減花子さんって呼ぶのもおかしいか。もう友達だし、これからは花子ちゃんって呼ぶね!」

「友達?」

「そう! 友達っていうのは、辛かったり悲しんだりしてる時に助け合える人の事なの! 花子ちゃんも私の事下の名前で気軽に呼んでいいから!」

「……千尋」

「うん、それでいいよ! アンタらも下の名前でいいから」

「解った、石神」

「くっ! 本当ハカセって生意気ね!」

「だから! ハカセって呼ぶなって言ってんだろ!」

「まーまー! ちひろんもそうかっかすんなって!」

「「ちひろん!?」」

 事前にネタ合わせをしてあるかの様に昼休み過ごしていく三人。

 花子の新しく始まった昼休みは何もかもが新鮮で、何もかもが輝いていた。

 花子は目の前で繰り広げられる三人の活劇を、昼食のパンをじっくりと味わいながら眺めていた。

一緒にお昼を食べる事になりました。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


さて、今回はLanch timeという事で昼休みの話でした。

ハカセに誘われるまで、花子ちゃんは一人でトイレでコッペパン食べてたんですね……、悲しい……(本人自覚なし)。

でも、これで皆で仲良く食べるようになったので、これからそんな描写も書ければなと思います!


ところで、皆さんは昼休みはどのように過ごしていましたか?

僕は現役高校生なのですが、友達と一緒にワイワイ騒ぎながら弁当を食べています。

ほんと授業を終えて疲労しきった後の昼休みは……、最高っすね!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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