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【003不思議】ようこそ、オカルト研究部へ

 春の心地の良い朝日が差し込むSHR、生徒達は昨日まで引っ越しの準備をしていたという新しいクラスメイトについて話を盛り上げていた。

「可愛くね!?」

「そうか? なんか無愛想って感じだけど……」

「どこ出身なのかな?」

「昨日まで引っ越しの準備してたって……、有り得るの?」

 ざわつく教室に唯一、黙って教壇の隣に突っ立つ噂の少女をじっと見つめる博士。

 この状況を理解しようと博士の脳では、様々な謎があちこちへと飛び回っては弾かれていた。

 そんな博士に気付かず、先生は騒ぐ生徒達に「静かに」と抑制し、少女に自己紹介をするよう促した。

「零野花子です。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げてそう言った花子に教室は又もや大歓声に包まれた。

 その中でただ一人、冷たい表情をする博士はその自己紹介で確信する。

 ――やっぱり……、あいつ、トイレの花子だよな……?

 博士にとって史上最悪な夜となった昨夜、この学校の校舎一階の女子トイレにて出会った通称、トイレの花子。

 非科学が嫌いな博士にとって存在自体が宜しくないのに、その上告白までもしてくるという、出来れば一生会いたくない相手であった。

 ――なんで? てか、どうやって!?

 眉間にしわを寄せて考える博士を花子は発見したようで、博士に向かって腕を振る。

「あっ、いた。おーい、ハカセー」

 その言葉に博士はビクリと身を震わせた。

 そして、教室中の視線が一斉に博士へと注がれる。

「今あの子が手振ってるのって、あいつ?」

「何? 知り合い?」

「でもあいつの名前って確か……」

「てか、あいつ誰?」

 生徒達の声に博士は体中から嫌な汗が滲み出てくるのを感じた。

 きっかけを作りだした花子はというと、先生に自分の席を博士の隣にしてくれと交渉しているようだ。

 ――あぁもう! 何で高校入ってからこんなに上手くいかねぇんだよ!

 昨日からの苦行を思い出し、博士は苦虫を噛み殺す勢いで歯を食いしばった。

「先生、ハカセの隣にしてください」

「ダメです。零野さんの席はもう決まってますから」

 先生の頑なな態度に、どうしても博士の隣に行きたい花子はいつもの無表情を少しムスッとさせた。

「そんなに言うなら……、祟りますよ」

「止めろ」

 花子の衝撃発言を聞き逃さなかった博士はそう言うが、クラスメイトがそれに注目する事は無く、花子についての噂話で騒がせていた。

 こうして、一年B組にトイレの花子という新しい仲間が加わったのであった。


●○●○●○●


「どういう事だ、これは」

 放課後、花子を連れてオカルト研究部の部室にやってきた博士は多々羅に対して険しい表情を見せていた。

 初めて来た時は真っ暗で気付かなかったが、部室は意外に広々としていた。

 ドアを開けた真正面はデスクが広がっており、左には寛げる畳、本がびっしりと敷き詰められている本棚、壁にはオカルトじみた装飾品がずらりと並んでいる。

「おいおい、タメ口かよ。これでも立場上、先輩なんだぜ?」

「いいから答えろ」

 真剣な眼差しをする博士とは逆に、多々羅は軽いジョークの様に言葉を返す。

「花子ちゃん、ハカセと同じクラスに入ったの?」

「……うん」

「いいなー、羨ましい!」

 乃良が花子と半ば無理矢理に会話をする中、博士の視線に観念した多々羅は溜息を吐くと口を開いた。

「いやな? 昨日、お前らが帰った後、花子がお前と同じクラスに通いたいっていうから、健気な恋する少女の願いを叶えてやったって訳だよ」

「だからそれをどうやってやったのかって訊いてんだ。というか、考えてみればアンタが学校に通ってる事自体おかしいよな?」

 思い返して疑問に思った博士は、それも含めて一緒に尋ねる。

「なーに、答えは簡単だよ。この学校の校長に交渉したんだよ」

「交渉? というか、面識あんのかよ」

「当たり前だろ? 何せ、ここの校長は元ここのオカルト研究部員だからな」

「マジか」

 衝撃の事実に驚く博士に、多々羅は自慢するかのように鼻を高くして、校長との交渉について語りだした。

「それはもう、見事な交渉術よ」


●○●○●○●


「なー校長ー。昔のよしみだろー? 花子を入学させてやれよー」

「そっ、そうは言ってもな、タタラ? こっちにも色々事情ってのが……」

「あぁ? 俺の言う事が聞けねぇってのか?」

「ひぃ!」

「忘れた訳じゃねぇよな? お前が生徒だった頃にやったあんな事やこんな事……」

「解った! 解ったから! 勘弁してくれ!」


●○●○●○●


「それは交渉じゃなくて脅迫だ」

 冷静に口を挟む博士を多々羅は流れるように無視し、話題を花子の事へ戻す。

「そういう訳で、花子もこの部活に入部するからよろしく!」

「よろしく」

「よろしくない!」

 博士は大きい声で否定すると、昨夜から溜まっていた鬱憤を吐き出した。

「そもそも、俺は入部なんてしねぇから!」

「まだそんな事言ってんのか? 言っただろ? 秘密を知った時点でお前は入部確定だって」

「そんなの認めない! それに強制的に入部させられたって、幽霊部員になればいいだけの話だ!」

「えっ……、呼んだ?」

「呼んでねぇよ!」

 幽霊という単語に反応した花子に博士が苛立ち混じりにそう言うと、多々羅は口角を尖らせながら口を開く。

「んな事言ってー、今日だって部室に来たじゃねぇかよー」

「今日はこいつについて話を訊きに来ただけだ! もう帰るよ!」

 博士は鞄を肩にかけてドアへ向かおうとすると、先にドアがガラガラと開き、ジャージ姿の男が姿を現した。

「よぅ、相変わらずバカやってるか」

楠岡(くすおか)!」

「先生を付けやがれ」

 多々羅に対してそう言ったのは、まだ二十代前半といった若い容姿の男で、顔もそれなりにイケメンと呼ばれる類のものだった。

「誰ですか、この先生」

「楠岡先生。この部活の顧問だよ」

 博士の質問にさっきまで静かにしていた斎藤が答えると、楠岡は自分が部室に来た要件を無愛想に告げた。

「一年生の入部手続、済ませといたから」

「!」

「おー、サンキュー!」

 楠岡の言葉に博士は慌てて引き留めようとする。

「ちょっ先生! 待って!」

「んじゃ、精々頑張りな」

「待ってぇぇぇぇ!」

 博士の必死の叫びも楠岡の耳には届かず、楠岡はドアを音を立てて閉め、そのままどこかへと行ってしまった。

「と言っても、まだ部活動見学期間だから、本入部までもうちょっと時間はかかるけどね」

「それってつまり、入部まであと時間の問題って事じゃないですか」

 斎藤の言葉に博士は絶望に満ちたような表情を見せ、気分はさながら求刑日を静かに待つ死刑宣告者といった感じである。

「つーかハカセ、解ってんだろうな? もし他の生徒に花子が七不思議の幽霊だって事がばれたら……」

「わっ、解ってるよ! 七不思議の事はこの部活の秘密なんだろ!?」

 多々羅の脅迫ともとれる言葉に、博士が怯みながらそう答えると、多々羅は満足したかのように笑い出した。

「しっかし、今回も面白かったなぁ! 部活動見学最初のお披露目会! 去年の林太郎なんて最初俺を見た時気絶しやがったもんな!」

「………」

 ゲラゲラと笑う多々羅に話題の人である百舌は静かに読書を続けていた。

 長い前髪のせいで、百舌が今どんな表情をしているかはさっぱり解らない。

「今回は人数が三人、しかもその内の一人が大のオカルト嫌いときたもんだ! 随分楽しませてもらったぜー!」

「こっちは全然楽しくなかったがな」

「俺は楽しかったすよー!」

 博士の皮肉が乃良のせいで半減したせいか、多々羅は気にもしない様子である。

「でもなー、これ何十年と続けてきたけど、最近誰もちびらないんだよなー」

「アンタどんだけちびらせたいんだよ!」

 博士が声を荒げると、再びドアがガラリと開いた。

「花子さん入学したんだって!?」

「あぁまた五月蠅いのが来た!」

 ドアを開けたのは、キラキラと顔を輝かせている千尋だった。

 千尋は勢いよく花子のもとへと駆け寄っていき、花子に顔をグイッと近づける。

「あぁ可愛い! 制服姿も可愛いね! 昨日の和服も可愛かったけど、制服姿は一段と可愛い! もう何でハカセと同じクラスなの!? 私のクラスに来てよ!」

「千尋ちゃん落ち着いて!」

 千尋の暴走を乃良が止めようとするも、千尋は未だに花子に向かって肉食獣の様に食いついてきた。

「どうだった? 初めての学校は。楽しかった? 辛かった? 辛かったに決まってるよね。あんな勉強ばっかりして何が楽しいんだっていう」

「じゃあお前何しに高校来たんだよ!」

「この部活に入る為だよ! 全く、これだからオカルト嫌いは!」

「関係ねぇだろ! これだからオカルト好きは!」

 博士と千尋が激しく言い争う中、花子はその現場をぼーっと眺めており、乃良は面白そうに笑っている。

 そんな新一年生を見ながら、斎藤と多々羅はポツリと言葉を漏らした。

「今年も楽しくなりそうだね」

「……そうだな」

 オカルト研究部部室から漏れ出る喧騒な言い合いは、日が落ちるまで続いたという。


●○●○●○●


 空はすっかりと薄暗くなり、廊下の窓からは真っ暗になった中庭を見る事が出来た。

 バタンと部室のドアを閉めた博士は、苛立った表情のまま自宅へと足を動かす。

 結局、ずっとあの調子で言い争いが続き、面倒になった博士は勉強をする為に一足先に帰る事にした。

 さっきまでいた部室からは未だ賑やかな声が聞こえてくる。

 ――何で俺があんな部活に入部しなくちゃいけないんだ……!

 そんな事を考えては、足音の大きさが次第に強くなっているように感じた。

 すると、不意に気配を察知し、勢いよく振り向く。

 そこには、帰り支度万全といった様子の花子がぼーっと立っていた。

 花子が本物の幽霊という事もあり、夜の暗さも手伝って、少し不気味な演出となっていた。

「……何してんの?」

「一緒に帰ろうと思って」

「帰るって……、家、学校だろ?」

「あっ、そっか」

 わざとなのか、違うのか、花子は無表情のままにそう呟いた。

 博士は花子を無視してさっさと帰ろうとも思ったが、ふと思い悩んで花子に話しかけた。

「……お前、恋した事無いんだよな?」

「? 今してるよ」

「いや、今じゃなくて……。いや、そうか」

 博士の言いたい事が理解できず、花子が首を傾げていると博士はハッキリとそう言った。

「多分、お前は俺の事好きじゃないんだよ」

 博士は自分の意見を口にすると、その意見について語りだした。

「そもそも、恋愛感情ってのは人間が子孫を残す為に作った都合の良い感情だ。俺も誰かを好きになった事がある訳じゃねぇから解んないけど。……でも、多分お前は恋とは違う何か別の感情を恋だって勘違いしてるんだよ」

 花子は博士の意見をいつもの表情で聞くと、再び首を傾げた。

「……そうかな?」

「そうだよ、きっと」

 それは博士にとっての都合の良い解釈の様にも思えたが、如何にも鈍感そうな花子がその事に気付く筈は無かった。

「じゃあな」

 博士は花子にそう言うと、花子をおいて家へと帰っていった。

 残された花子は家へと帰っていく博士の後ろ姿をただじーっと見つめていた。


●○●○●○●


 翌日、全ての日程が終わり、本日も放課後が始まろうとしていた。

「ハカセー! 部活行くぞー!」

「行かねぇよ! バカ!」

 博士は大声でそう叫ぶと、乃良から逃れる為に全速力で廊下を駆けていった。

 そんな賑やかな二人を見つめて、教室から出た花子はポツリと言葉を漏らす。

「そうかな……?」

 花子の小さなその言葉は誰の耳にも届く事は無く、放課後の学校へと静かに溶け込んでいった。

ようこそ、オカルト研究部へ!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


さて、こうしてハカセや花子ちゃんがオカルト研究部へと入部する事になりました!

正直言って、本当はここまでで一話にしたいくらいです。

ここでやっとこの作品の前提部分が終わったって感じですもんねww

今回、部室でただただ駄弁る回だった訳ですが、僕自身こんな不毛な話が好きなんで、これからもこんな回が増えると思いますが付き合ってくださいww


それでは最後にもう一度、最後まで読んで下さり有難うございました!

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