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【029不思議】ノラ猫も杓子も

 段々と一日の最高気温が上がっていく今日この頃、窓から覗く空には燦々と照らす太陽が見て取れた。

SHR終了直後、廊下には一日の疲れを解す高校生達がそれぞれの目的地に向かって歩いていた。

「それじゃあねー千尋」

「また明日ー」

 玄関へと帰ろうとする友達を、千尋は手を振って見送った。

 しばらく後ろ姿を眺めると、くるりと向きを変え、自身の目的地であるオカ研部室へと歩き出す。

 随分楽しみなようで、足取りは軽く、鼻歌まで歌っていた。

 そうして歩いていると、廊下の外から声が聞こえ、千尋は窓を覗く。

「あっ、乃良だ」

 窓の向こうの中庭にはよく目立つ金髪の乃良が見え、千尋は手を上げて呼びかける。

「おーい! 乃良ぁ……」

 しかし千尋の声は、乃良の近くにいる人影を見て急停止した。

 ショートの可愛らしい女子高生が、顔を真っ赤にして乃良の前に立っていたのだ。

「あっ、あのぅ……」

 か弱い声でそう言う少女に、千尋は思わず身を隠す。

 ――えっ、何? そういう感じ!?

 そっと窓から現場を覗くと、少女は意を決したように目を瞑りながら想いをぶちまけていた。

「ぼっ……、私、加藤君が好きです! 付き合って下さい!」

 ――僕っ子だぁぁぁぁ!

 予想外の少女の一人称に、千尋は思わず心の中で叫んでしまった。

 ――いや問題はそこじゃないよ! やっぱり告白じゃんか! 乃良どうすんの……?

 千尋はぐるぐると頭を働かせ、目の前で起こった告白に釘付けになる。

 その為、背後に迫っていた人影に気付く事が出来なかった。

「お前何してんの?」

「わぁ!」

 千尋は思わず跳ね上がって、背後を確認する。

 そこには憐れみ全開というような目でこちらを見てくる博士の姿があった。

「ハカセ! 驚かせないでよ!」

「いや驚いたのはこっちだよ。なんで一人でしゃがんで窓覗いてんだよ」

 未だ驚いているような表情の博士に、千尋は窓の奥の現場を指差す。

 釣られて中庭へと目を向けて、乃良と少女の何とも言えない空気の現場を確認した。

「……カツアゲ?」

「告白でしょどう考えても!」

「あぁ、告白か」

 あっさりそう言うと、博士もしゃがんで窓越しに乃良達を監視する。

「そんなあっさりと……、思春期の高校生にとっては大事件でしょ?」

「いやでもあいつ中学の時からよくされてたしな」

 博士からの衝撃の発言に、千尋は思わず視線を博士に向ける。

「えっ、そうなの?」

「あいつ運動できて顔もパッと見あれだろ? その上人懐っこいからよく告白されてたんだよ」

「へぇ……」

 千尋はそう相槌を打つと、壁にもたれかかって中庭から百八十度視点を変えた。

 それに応じて、博士も窓に背を向けて話を続ける。

「まぁ、乃良は一つも受けなかったけどな」

「えっ? 何で?」

「んなもん知らねぇよ。あいつの恋愛観なんてどうだっていいし」

 博士はそう言い切ると、千尋を見ながら話題をガラリと変える。

「……つーかお前人の告白現場覗くなよ」

「うっ! だって気になるじゃん!」

「そういう問題じゃねぇだろ。人のプライバシーな部分覗くとか」

「ハカセも一緒でしょ」

「「わぁ!」」

 突如背後から聞こえてきた声に、二人は思わず体を仰け反らせてしまう。

 声のした方を見ると、さっきまで中庭にいた筈の乃良が窓から顔をヒョコッと出して笑っている。

 その笑顔が何か孕んでいるような気がして、博士と千尋は体から血の気を引かせていった。


●○●○●○●


「ねぇ、何で二人してあんなところにいたのかなー」

 廊下から場所を部室に移して、乃良は目の前に座る二人に言葉を並べていった。

「人の告白現場盗み見るなんてどうかしてると思うよー? わざわざ彼女あんな見られにくいところを選んで告白してきたんだからさー。俺は別に良いんだけど、彼女の気持ち考えてあげようよー。ねー?」

「「すみません」」

 気分が良さそうにペラペラと喋る乃良だったが、対する博士と千尋は気が重そうに頭を下げていた。

「全く、大事な話してる時に覗くなんてどうかしてると思うよ」

「……いやお前この前一緒に花子と真鍋さんの覗いただろ!」

 ついこの前の事を思い出して叫ぶ博士に、乃良は「バレたー?」と調子が良さそうに笑っている。

「まぁそういう訳で俺は全然気にしてないんで」

「何だったんださっきの説教!」

 無邪気に楽しんでいる乃良と眉間に皺を寄せながら大声を上げる博士と、部室はいつもと同じ雰囲気になっていた。

 しかし一人だけいつもと同じ表情ではなく、暗い顔をしている。

「結局どうしたの?」

「え?」

 主語の無い質問に、理解できなかった乃良はそう訊き返す。

 訊き返された千尋は必要以上に説明を加えて、もう一度同じ質問をした。

「さっき告白されてた僕っ子ちゃんへの返事! どうしたの!?」

「僕っ子ちゃん?」

 よく解らない単語に博士は首を傾げるが、乃良には理解できたようで質問の答えをあっさりと返す。

「どうしたって……、断ったよ?」

 いつもと変わらない調子で返す乃良に、千尋は思わず声を上げる。

「何で!? 僕っ子ちゃん可愛かったじゃん!」

「可愛かったかどうかは問題じゃないでしょ? この子とは付き合えないなと思ったから断っただけだよ」

 ハッキリと言い切る乃良に、千尋は色々言いたげであったが言葉に詰まった。

「というか、今日のちひろんおかしくない? なんかいつもより暗ーい感じで……」

「だっ、だって……」

 ふと視線を泳がせる千尋に、乃良や博士がじっと目を向ける。

 言い淀んでいた千尋だったが、視線を違う方向に向けたままその理由を口にした。

「あんな可愛い子に告白されたのに断ったのが……、なんか許せなくて……」

「えっ、何でちひろんが怒ってるの?」

 乃良の言葉で火がついたのか、千尋はどんどんと心に秘めている思いをぶちまけていく。

「だってあの子すっごく可愛かったじゃん! 何で断ったの!? アンタみたいなのがあんな可愛い子フッてんじゃないよこのバカ!」

「何でそんな無責任に怒られなきゃいけないんだよ! だったらハカセはどうなんだよ! あいつ花子ちゃんに暴言吐きまくりだろ!?」

「ハカセはもう論外よ!」

「あぁ論外か!」

「待て何で俺がディスられてんだよ!」

 いつの間にか言い争いの中に出てきた博士の名前に、博士はそう言って喧騒を止める。

 しかし千尋はまだ怒りが収まっていないようで、千尋は乃良に指差して更に問い詰めていく。

「ていうか中学校からずっと断り続けてるなんて、アンタ本当に女の子に興味あるの!?」

 興奮が冷めきっていない千尋に、乃良はじっと考えて答えを導いていった。

「女の子っていうか……、まぁ別に誰とも付き合いたいなんて思わないし、興味無いって事なんじゃない?」

 未だ少し臨戦態勢な口調の乃良だったが、そんな乃良の回答に千尋の熱がヒュッと下がっていた。

「えっ……、て事は乃良、男色家?」

「あぁごめん、それは違う」

 顔を青ざめさせている千尋を見て、乃良は早急に誤解を解かねばと焦る。

 ふと千尋の隣を見てみると、自分の腕で体を守って、顔を引きつらせながらこちらを見ている博士の姿が目に映った。

「狙わねぇよ! お前その体勢止めろ!」

 これはいけないと乃良は立ち上がって、あーだのこーだのと必死に弁論する。

 その弁論が功を奏し、何とか乃良=男色家の誤解は解く事が出来た。

 一安心して椅子に座り込んで一息吐く乃良を見て、千尋は続いての質問に移る。

「じゃあ、乃良はどんな女の人が好みなの?」

「あぁ、それは俺も気になる」

 博士も便乗して質問に乗り、乃良からの回答を待つ。

「好みぃ? そういうのあんま解んないからなぁ……」

「簡単じゃん。どんな女の人を見た時『いいなぁ』って思うかだよ」

 千尋の簡略した説明に、乃良はさっきので疲れた頭をなんとか使って答えを捻りだした。

「……年上のお姉さん?」

「「あー」」

「あーなんだ!?」

 意外な二人の反応に、乃良は思わずそう声を出した。

「うん、なんか簡単に想像できた」

「あんまよく解んないけど、年上の女に尻尾振ってるお前が想像できた」

「お前らん中で俺のキャラってどうなってんの!?」

 珍しく乃良はそうツッコみ倒すと、流石に疲れたのか体重を椅子に預けて、強張っていた表情も力なくした。

「あーもう止めよ止めよこんな話」

「えー何でー? 楽しいじゃーん」

「俺の話なんかしてても楽しくねぇっつーの」

 まだ話を続けたそうな千尋を軽くあしらって、乃良は脱皮された皮の様に脱力する。

「……俺なんかより」

 そう言ってデスクに身を寄せた乃良の顔は、いつも通りの楽しそうな顔だった。

「違う奴の恋バナしようぜ!」

「違う奴って誰の?」

「それはぁ……」

 乃良は目を輝かせながら、目の前にいる二人の高校生をじーっと見つめる。

「ちひろんは!?」

「私今オカルトにしか興味無いから」

「じゃあハカセは!?」

「俺恋愛とは無縁だし」

「いや花子ちゃんがいるでしょ」

 バッサリと切り捨てられた恋バナの導入部分に、乃良の目の輝きは失われていった。

 乃良だけでなく博士と千尋もであり、部室に暗い空気が流れたように感じられる。

「……恋バナは無理だな」

「えー!?」

「そもそも恋バナをしようと思ってる時点でおかしい」

 一応この小説のカテゴリはラブコメなのだが、そんな事も知らずに三人の恋バナは静かに幕を閉じた。

このメンツで恋愛話は難しそうかな……。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回は今まであまりスポットライトを当ててこなかった乃良の恋愛模様のお話でした。

書いてなかっただけで『乃良はモテる』という設定はありまして、いつか書こうと思っていたのを書いたという感じです。

乃良と千尋に関しては(まぁハカセもだけど)本当に恋愛に興味が無いです。

これ以上関係を紛らわしくさせたくないというのもありますが、まぁ二人は多々羅と一緒に冷やかし役という事で手を打っていただきましょうww


さて、前回PCが壊れたというお話でしたが、どうやらUSB接続が故障しただけで、PCは交換しなくても大丈夫そうです!

まぁ、もうオンボロなんで交換してほしいというのが山々なんですがww

こうしてまた、小説を無事投稿できて良かったです!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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