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【027不思議】花子の妬きもち

 校舎中に帰りのSHR終了を報せるチャイムが鳴り響いた。

 博士と花子のいる一年B組でも、その音に合わせて担任の馬場がクラス委員に号令を促す。

「起立、礼」

 クラス委員の声に生徒達は怠けたり他事したりしつつも、合わせて一礼する。

『ありがとうございました』

 生徒達はそう言うと一斉に騒ぎだし、教室のドアが勢いよく解き放たれた。

 花子も自分の席でひっそりと帰りの身支度を済ませて、一緒に部室へ行こうと博士に声をかける。

「ハカ」

「箒屋君」

 しかし花子の声は博士のもとまで歩いてきた別の女子の声に遮られ、博士の姿もその少女に覆い隠された。

 三つ編みに眼鏡と、どこからどう見ても真面目そうななりの少女である。

真鍋(まなべ)さん」

 博士は目の前に現れた真鍋という少女に、驚いている様子もなくそう声を上げた。

「今日も良いかな?」

 真鍋はそう言って手にしていたノートを顔の近くまで持ってくると、眼鏡の奥から博士の答えを窺う。

 そんな真鍋に博士はさらっと答えを述べる。

「あぁ、良いよ」

「本当に!? ありがと!」

 博士の答えに真鍋は嬉しそうな笑顔でそう言うと、近くにある椅子を引っ張ってくるとそこに座った。

 そんな光景を見せつけられていた花子に、ふと博士は気付いた。

「花子、今日も先行っといて」

「それで、最初はこれなんだけど……」

「あぁこれは――」

 そう言うと二人は顔をノートに寄せて会話を始め、完全に二人だけの世界へ行ってしまったようだ。

 そのせいなのか、博士はこの時気付かなかった。

 いつもは変わらない筈の無表情の花子が、少しだけ目を細くしてその光景を見つめていた事を。


●○●○●○●


 オカルト研究部の部室では、部員達が花子に集中的な視線を向けていた。

 それもその筈、いつも通り上の空な目の花子から尋常じゃない程の負のオーラが肌で感じ取れたからだ。

「はっ、花子ちゃん、どうしたの?」

 千尋が作り笑顔を張り付けてそう訊くも、花子はいつもより二、三倍遅くしたペースで返答する。

「……別に、…………何も」

 ――いや、何かはあったでしょ。

 千尋はそう思うも、寸でのところで声に出すのを止める。

 続いて花子に挑戦したのは乃良だった。

「そういえば、今日もハカセと一緒に来てないんだね。どうしたの?」

 そう言うと花子の体は机に倒れ込み、最早生きる気力無し(とっくに死んでるけど)といった様子だった。

「わぁぁぁ! ちょっと乃良何やってんの!?」

「えぇぇ! これ俺のせい!?」

「当たり前でしょ! 花子ちゃん倒れ込んじゃったじゃない!」

 喚き上がる二人の声も届いていないのか、花子が返答してくる気配は無い。

 そんな花子を見て千尋と乃良も言い争いを止め、心配そうに花子を見つめている。

 少し重たい部室の空気に多々羅は大きく溜息を吐くと、話題をまだ部室に来ていない博士の事へと移した。

「あいつ最近遅れてくるよな」

「何やってるんですかね?」

「委員会とかそういうのは入ってなかった気がするんですけど……」

「もしかして……、あいつまた逃げた?」

「でも、どれだけ遅れても毎日部室には顔出してるよ」

「そうだよなー……」

 どれだけ議論してもしっくりくる解答は見つからず、謎は深まるばかりである。

「……真鍋さん」

「「「「「「!?」」」」」」

 突如聞こえてきた声に、一同はそちらへと目を向ける。

 そこには未だ項垂れている花子の姿があり、花子は絞り出したような声で続けていった。

「真鍋さんと……、一緒にいる……」

 それだけ言うと再び声は途絶え、部室に沈黙が流れる。

「あー……、真鍋さんね」

「うん、真鍋さん」

「真鍋さん……」

 一同は復唱するかのようにそう言うと、頭の中で同じような疑問が一気に膨らんでいった。

 ――真鍋さんって誰!?

 その疑問に一同は思わず立ち上がって叫び出した。

「えぇぇぇハカセ真鍋さんと一緒にいんの!? 真鍋さんって誰!?」

「ちょっと! 誰か知ってる人いないの!?」

「俺全然知らないっすよ! ハカセから真鍋さんなんて聞いた事無いし!」

「あぁすっごく気になるー! ハカセと一緒にいる真鍋さん!」

「というか疑問なんだけど……」

 一人冷静そうな西園の発言に皆が振り向くと、西園はいつになく真面目そうに口を開く。

「真鍋さんって……、女の子?」

 西園の声に再び部室は沈黙に包まれる。

 やっと声が出たかと思うと、さっきまでの大声では無く小声でヒソヒソと話し出した。

「……うん、まぁ真鍋さん(・・)だからな」

「でも、男子にさん付けとかもよくある事じゃない?」

「まぁそうだな」

「ていうか、問題はそこじゃないでしょ」

「もし真鍋さんが女子だったら……」

 そう言って一同は悶々と妄想を膨らませていく。

 おそらく全員同じような事を想像しているようで、段々と表情から焦りが見えてくる。

 すると、その妄想と同じくらいに頭にとある予想が組み立てられ、一同は最早等身大の人形となった花子に目を向ける。

 ――もしかして……。

「遅くなりましたー」

「「「「「「!」」」」」」

 いきなり聞こえてきた声に一同は一斉に声のした方へ振り向くと、何食わぬ顔で部室に入ってきた博士が目に入った。

 部員達がこちらを凝視してくる光景に、思わず博士は顔を引きつる。

「……何すか」

「ハカセ……」

 まるでゾンビの様にフラフラとこちらに歩いてくる一同に、博士は閉めたドアに凭れかかった。

 そして皆は大きく息を吸い込むと、息を合わせたように声を張り上げた。

「「「「真鍋さんって誰だぁ!」」」」

「はぁ!?」

 四人の合わせた大声にも劣っていない程の博士の叫び声は、オカルト研究部を飛び越えて学校中に響き渡った。


●○●○●○●


「はー、成程」

 椅子に座り、さっきまでに起きたざっくりとした内容を聞いた博士はそう言って腕を組んだ。

「それで、真鍋さんっていうのは?」

「クラスメイトだよ」

 隣に座る乃良の質問に、博士は真鍋について話し出す。

「最近授業についてけてないみたいで、解んなかったところを放課後俺が教えてんだよ。まだ教室に残って一人で勉強してるぞ」

「ハカセ、人に教えられるの?」

「当たり前だろうが」

 嫌味の籠った乃良の質問を、博士はバッサリと切り倒す。

 そんな博士に今度は千尋が恐る恐るといった表情で、新たな質問を口にした。

「それで……、真鍋さんの性別は?」

「性別? 女だけど」

「「「「「「!」」」」」」

 博士の口からハッキリと聞こえてきた『女』という言葉に、一同は体をビクリと震わせる。

「? 何、男だと思ってたの?」

 部室の異様な雰囲気に博士はそう声を漏らすと、斎藤が焦ったように汗をかいて口を開いた。

「あのねハカセ君。男女がほぼ毎日二人きりでっていうのはぁ、そのぅ……、あれなんじゃないかな?」

「あれ?」

 斎藤の言っている意味が全く解っていないようで、博士は首を傾げる。

「だからそのぅ……、ね?」

「ね? じゃないですよ。ちゃんと言ってくれないと解んないですよ」

「何で解んないの!?」

 博士の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ程の不思議そうな顔に、選手交代して今度は千尋が唸るように声を上げた。

「そもそも! ハカセには花子ちゃんという相手がいるでしょ!?」

「はぁ!? 何でこいつが話に出てくるんだよ! つーか相手でも何でもねぇよ!」

「何で! 花子ちゃん可愛いじゃん! 良いとこばっかじゃん!」

「何の話してんだよ! いつの間にか論点ズレてんぞ!」

 博士と千尋がそう大声で張り合っていると、割って入るようにモソモソと声が聞こえた。

「……ハカセは」

「「!」」

 その声に二人は互いへの怒鳴り声を止めて、声のした方へ目を向ける。

 そこには未だ倒れ込んでいる花子の姿があり、何とか声を出そうと頑張っているようだ。


「ハカセは、真鍋さんの事……好きなの?」


「!」

 予想外の質問に、博士は花子を見る目を真ん丸にした。

 ――やっぱり花子ちゃん、その真鍋さんって子にやきもち妬いてたんだ……。

 千尋は心の中でそう呟くと、解りきった博士の答えを待つ。

「……別に好きでもなんでもねぇけど」

「……そっか」

 部室に二人の会話独特の沈黙が流れ出し、二人以外に口を開く人は現れなかった。

 これで話は終わりかと話を切ろうとした博士だったが、花子は机に伏せていた顔を上げて博士を見つめた。


「真鍋さんは?」


「!?」

 二連発で食らわされた予想外の質問に、博士はゆっくりと回答をし出す。

「……別に、何とも思ってねぇだろ」

「そんなの解んないじゃん」

「いやどう考えても有り得ないって」

「……訊いてくる」

「はぁ!?」

 博士がそう声を漏らすと、花子は体勢を直して立ち上がり、スタスタとドアの方へ歩いていった。

「ちょっ、お前何しに行くんだよ!」

「真鍋さんにハカセの事どう思ってるか訊いてくる」

 そう言うと花子はドアを開けて、そのまま部室を出ていってしまった。

 博士を始めとする取り残された他の部員達は、ただ花子の出ていったドアを眺める事しか出来なかった。


●○●○●○●


 夕日の差し込む一年B組の教室。

 教室には三つ編みで眼鏡をかけた真鍋しか居らず、疲れを少しでも解放しようと、自分の席で伸びをしている。

「そろそろ帰ろうかな」

 そう独り言を呟くと、机に広がったノートやら筆記用具やらの片付けを始めた。

 全てを鞄の中に詰め込み、準備万端といったところで立ち上がろうとする。

「真鍋さん」

「うわぁ! びっくりした!」

 突然自分に話しかけられた声に真鍋はそう声を上げると、いつの間にか目の前にいた人影を見つめた。

「零野さん……?」

 花子の真鍋に対する視線は厳しく、真鍋はどこか委縮しているようだった。

 たった二人だけの教室には二人の話し声以外に音は無く、窓から眩しいくらいに輝くオレンジ色が二人の少女を照らしていた。

妬きもちな花子ちゃんが書きたかったんです。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


メインカップルの二人で前後編の話が書きたいなと思いまして、色々考えた結果、花子ちゃんが妬きもちする話になりました。

僕の中で、無表情の花子ちゃんが段々と表情豊かになるという目標がありまして。

そんな花子ちゃんも書いていきたいと思うのですが……、何分まだカチコチな無表情なのでww

無表情の花子ちゃんが嫉妬するのを書くのは難しかったです。


それでも妬きもちはやっぱラブコメの定番ですよね!

過度な嫉妬はあまり好きじゃないですが、ちょっとした妬きもちは僕大好物ですデヘヘww


気持ち悪い作者ですが、本編は何やら大変な事になりそうです。

これから二人の少女はどうなるのか、次回に続きます。


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!


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