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【229不思議】スイトピー

 八十年前、逢魔ヶ刻高校。

 人が産声を上げ、墓石に戻る様な期間の中では、校舎の構造や流行のファッションなどが今とはまるで変わっていた。

 それでも空の青さだけは、今も昔も何も変わらないらしい。

「なぁ! 見ろよこの写真!」

「あっ! この前の! すごい! 思ったより全然綺麗に撮れてるね!」

「ふんっ、どうやら俺にはカメラマンの才能もあったみてぇだな」

「カメラマンの才能もって、タタラ他になんの才能があるっていうの?」

「いっぱいあるだろ! だるまさんがころんだとか!」

「そんなのいつ使うの」

 自分の多彩さをアピールする青年に、おかっぱ頭の少女は思わず吹き出してしまった。

 そんな二人の会話を、少年が眼鏡越しに眺める。

 彼の名前は福越英徳。

 愛称はノリ。

 春から逢魔ヶ刻高校に通っている、ピカピカの一年生だ。

 未だ正式に部活動とは認められていないオカルト研究同好会に在籍しており、放課後はこの体育館の奥にある体育館倉庫で怠惰に時間を費やしている。

 今日も特にする事なく、ただ二人の会話を眺めるばかりだった。

「ほら! ノリ君も見てよ!」

「!」

 俯瞰していた英徳に、知らぬ間に少女はぐっと身を寄せていた。

 突然の接近に、英徳は頬を染める。

「えっ!? なに!?」

「この前タタラが撮ってくれた写真! ねっ!? 思ったより綺麗に撮れてるでしょ!?」

「さっきからその思ったよりってなんだよ!」

 少女はそう言って、英徳に一枚の写真を押しつけてきた。

 彼女の名前は凛野(りんの)さゆり。

 英徳と同じく、春から逢魔ヶ刻高校に通う事となった一年生。

 英徳も在籍するオカルト研究同好会の会長、というか同好会に在籍する二人の生徒のうちの残る一人だ。

 オカルト研究同好会とは、さゆりが勝手に立ち上げた組合なのである。

 立ち上げただけあって、さゆりはそういった超常現象の類を三度の飯と同等に愛しているようだ。

 対して英徳は、特にそういったものにトキメキを覚えない。

 それなら何故英徳はオカルト研究同好会に在籍しているのか。

 それは、二人の出逢いに秘密があった。


 とある日の放課後。

 入学してからまだ一月も経ってないようなその日の帰り道の空には、白のクレヨンで引いた様な線が一本描かれていた。

 ――……あっ、飛行機雲。

 真っ直ぐな雲に、英徳は空を仰ぐ。

 戦争の道具として用いられてきた飛行機が、今では人を遠くの場所へと運搬する交通手段へとなっているらしい。

 とは言ってもそこに大した思い入れもなく、空から目を離して帰り道を歩き出したその時だった。

「あっ!」

 隣から大きな声が聞こえ、英徳は振り向く。

 そこにはなにやらノートを筒状にして空を覗く、一風変わったおかっぱ頭の少女が居た。

「居た! 今絶対UFO居た! 青い光がびゅーんって! あっちの! あっちの方向に!」

 誰に報せているつもりなのか、さゆりの声は校舎中に拡大される。

 しかし、通り過ぎる生徒の誰一人もさゆりに応答する事はなかった。

「畜生ー、どこ行った? 絶対見つけ出してやる……」

 と、不意にさゆりはノートから目を離して、隣の英徳を見つける。

「!」

 突然ぶつかった視線に、英徳はこの場から逃げようと覚束ない足取りで校門の外を目指す。

「ねぇ! 君も今空見てたよね!?」

 ただ、さゆりは英徳を逃がしてくれなかった。

「もしかして、君もUFO探してたの!?」

「えっ? ちっ、違」

「オカルトとか好きなの!?」

「だから違うって、話聞いて」

 どういう勘違いをされているのか、とにかく誤解を解く為に英徳はさゆりに声をかけ続けた。

 しかし、一度スイッチの入ってしまったさゆりは、もう誰にも止められなかった。

「ねぇ! 私と一緒にオカルト研究部作らない!?」


 そんなこんなで数ヶ月を経て、今の状態に落ち着くのである。

 元は部活動を作ろうとしていたさゆりだったが、生徒二人では部活動の部員最低人数に達していないらしく、こうして非公式の同好会としてひっそりと活動しているのだ。

 ほぼ強制的に入会させられた英徳が、不満を垂らす事なくこうして在籍している理由は、彼も青春を謳歌していると言えば分かってもらえるだろう。

「ほら見てよこのノリ君の顔! ちょっと目が半開きになってる! 変な顔ー!」

「………」

 活動と言っても、こうして体育館倉庫で駄弁っているだけなのだが。

「こらさゆり! あんまそう言ってやんなよ。ノリが可哀想だろ?」

 英徳の隣で抱腹絶倒するさゆりに、青年が注意を入れる。

「えー? だって面白いんだもーん」

「男にはプライドがあるんだ。変な顔だなんて笑われたら、そのプライドが傷ついちまうだろ」

「別にノリ君の顔が変だって言ってる訳じゃないよ。写真映りの話。変な顔だなんて、タタラじゃあるまいし」

「おい今俺のプライド傷つけられたぞ!」

 容赦なく心臓を抉りにきたさゆりの一言に、青年は両手を心臓に当てた。

 あまりの青年の声量に、英徳は耳を塞ぎたくなる。

 彼の名前はタタラ。

 逢魔ヶ刻高校の生徒ではなく、何十年と前からこの学校に棲みついていると言われる、逢魔ヶ刻高校の七不思議の一つだ。

 七不思議とはこの学校に古くから伝わる作り話の様な怪異の事。

 この学校にはタタラと同じような怪異が、あと六つどこかにひっそりと暮らしているようだ。

 タタラの正体は体育館の巨人。

 今は英徳と大差ないような身長の持ち主だが、その正体は体育館の天井に頭がついてしまいそうな程の大巨人である。

 英徳も初めてその姿を見た時は、夢でも見ているのかと錯覚した。

 そんなこの学校の怪異であるタタラだが、どういう訳かさゆりとは面識があったようで、英徳はさゆりに紹介される形でタタラと初対面した。

 どうやらさゆりが七不思議について調査している間に、偶然か必然か、バッタリと遭遇してしまったらしい。

 最初は混乱こそあったが、今ではすっかり意気投合。

 こうして放課後三人で、他愛もない世間話を咲かせる程の仲となっていた。

「ねぇタタラ」

「ん?」

 さゆりに声をかけられ、タタラは振り向く。

「私ね、そろそろ会いたい人がいるんだ」

「会いたい人?」

 切り出された話題に、英徳は首を傾ぐ。

 会いたい人がいるなど、今までさゆりの口から聞いた事もなかった。

「誰だ? その会いたい人って」

 タタラもピンときていないようで、さゆりにその正体を尋ねる。

 さゆりは勿体ぶる事なく、なんとも明るい表情で自身の会いたい人を公言した。


「七番目の禍!」


 告げられた正体に、英徳は納得する。

「私達さ、タタラに紹介してもらって、今まで七不思議のうちの六つまでは会わせてもらったじゃん? だから、そろそろ最後の七不思議にも会いたいなーって!」

 オカルト研究同好会として活動する中、さゆりと英徳はこれまで幾つかの七不思議と遭遇してきた。

 夜になると現れる女の幽霊。

 独りでに動き出す人体模型。

 タタラの仲介で七不思議達と交流をするようになり、残る七不思議も一つとなっていた。

「ほら、七不思議の禍って、全ての七不思議と出逢ったら現れるっていう怪談でしょ? だったら私達、もう条件満たしてるじゃん!」

 七番目の禍の怪談も、さゆりは当然のように把握済みだ。

「でっ、でも、その怪談って確か、そいつに会ったらとんでもない禍が起こるって話じゃあ」

 英徳も怪談の内容を思い出して、さゆりを止めようとする。

 しかし、さゆりの好奇心はもう駆け出してしまっていた。

「大丈夫だって! 今まで会ってきた七不思議達も、皆良い人ばっかりだったでしょ?」

「そうだけど……」

 確かに今まで対面してきた七不思議達は、怪異という言葉が似合わない程の良心を持ち合わせた者ばかりだった。

 タタラもさゆりの要望に少し頭を悩ませる。

「んー……、まぁお前達にはそろそろ会わせてもいいか……」

 そう自分の中で結論づけると、タタラは顔を上げた。

「よしっ! 良いぜ! 明日七番目の禍に会わせてやる!」

「ほんと!?」

 さゆりの瞳は、星空の様に輝いていた。

「やったー!」

「タタラ、大丈夫なの?」

「大丈夫だって、あいつも別に悪い奴じゃあねぇからさ。ただ一つ問題があるとすりゃあ……」

「なに、やっぱり問題があるの?」

「あいつ今どこにいるかな?」

「迷子!?」

「あーあ! 早く明日にならないかなー!」

 タタラと英徳の心配もさて置き、さゆりは既にまだ見ぬ明日に目を奪われている。

 それはまるで、ピクニック前日の子供の様だった。


●○●○●○●


 そして、次の日。

 タタラに呼び出された指定の校舎裏に、さゆりと英徳は二人してタタラの到着を待っていた。

「おーい! 連れてきたぞー!」

「!」

 待ち望んだ声が聞こえ、さゆりは期待に満ちた表情で振り返る。

 そこに居たのはジャージ姿のタタラ。

 そして、真っ黒なスーツを身に纏った男性。

「はじめまして」

 男性から溢れる雰囲気は実に柔和なもので、その微笑は春風の様に爽やかだった。

 しかし、八十年後の現在を知っている人には一目瞭然だった。

 その微笑の奥に、スーツの様に黒く煮えた狂気が眠っているという事を。


「逢魔創人って言います」


「よろしく」

 これが、逢魔とさゆり、英徳の初対面だった。

この邂逅が全てのはじまりだった……。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回は過去編本格始動という事で、当時の登場人物の紹介がてら書いていきました。

ノリ、さゆりをこうして主観的に書いていくのは初めてですからね。

初登場のキャラクターが多い中、八十年前の過去編であるにも関わらず現在と変わらないタタラはとても有難かったですw


八十年前という時代設定ではありますが、勿論そんな昔に僕は生きていません。

なので、当時どんなものがあったのかとか無かったのかとかが分からないんですよね。

何年経っても違和感なく読めるようにと敢えて西暦などを設定していなかったのですが、ここでそれが仇となってきました。

前回のポラロイドとか、飛行機雲とか、もしかしたら時代背景と間違っているかもしれませんが、そこは大目に見てくださると助かります。


さて、逢魔と遭遇してしまったさゆりとノリ。

これからの二人の運命は……、次回に続きます。


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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