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【020不思議】謎の訪問者

 本日の授業が全て終了し、校舎に放課後を報せるチャイムが鳴り響く。

 部室棟の廊下にはオカルト研究部部室を目指す一年生達がいた。

 季節は徐々に春から夏へと移り変わっており、生徒が袖を通す制服も長袖の制服から、半袖のシャツに変わっている。

「だーかーらー! やっぱりキングコングだって!」

「いーや! 絶対ゴジラ!」

 歩きながらそう言い争っている乃良と千尋を、博士は数歩下がったところで不思議そうに眺めていた。

「……なぁ」

 後ろから聞こえてきた声に、二人は言い争いを中断して振り返る。

「何の話してんの?」

 博士の質問に二人の顔色は一気に明るくなる。

 二人の顔色の変わり具合に博士は「しまった」と言わんばかりの苦い顔をした。

「いや、大体解るんだけどさ」

「何!? ハカセもまざりたいの!?」

「そんな事言ってねぇだろ!」

 千尋の嬉しそうな声を博士は大声で跳ね返す。

 それを見かねて乃良が博士の質問の答えを述べだした。

「いやー、数いる怪獣の中で一番強い怪獣は何なのかっていう話だよ」

「所謂怪獣大決戦!」

「うわーくだんねー」

「何ですって!?」

 博士に怒りを露わにする千尋だったが、千尋は視線を博士から逸らし、博士の隣を歩いていた花子に向ける。

「花子ちゃんは何だと思う?」

 突然訊かれた質問に、花子は首を傾げる。

 例の如く、また話を聞いていなかったのだろう。

「一番強い怪獣。やっぱりゴジラだよね!?」

「なっ! だからキングコングだって!」

「何で!? ゴジラ大きいよ!?」

「キングコング強ぇぞ!?」

 ――どっちも変わんねぇだろ。

 博士はそう心の中で思い、歩みを止めた二人を抜いて前を歩いていく。

 花子はそんな論争を目の前で眺めながらぼーっとしていると、一つの答えを口にした。

「タタラ」

「「「は?」」」

 花子の突飛な回答に、その場から離れていた博士でさえも声を漏らしてしまった。

 予想外の答えに千尋が困った様子で理由を尋ねる。

「えーっと……、何で多々羅先輩?」

「大きいし強いから」

「あー……」

 花子の理由に何も口出しが出来なかったのは、納得してしまったからだろう。

 後ろで巻き起こっている会話に博士は溜息を吐くと、いつの間にか到着していた部室を前にドアを開けた。


 そこには見た事も無い和服の男性が立ち尽くしていた。


 ガラガラと博士は思わずドアを閉める。

「? どうしたんだよハカセ。入れよ」

 様子のおかしい博士に乃良はそう言うが、博士の表情は真っ青で依然入る気配は無い。

「……何かいた」

「? 先輩達じゃないの?」

「いや……、おっさんがいた」

「おっさん?」

 博士の言っている意味が解らず、乃良と千尋は顔を見合わせる。

「見間違えたんじゃない?」

「いや、確かにいた」

「どーせタタラ先輩がまた何かやってるってオチでしょ?」

「ほら早く入ろーよー」

 そう言って二人は博士を押しつけていき、半ば強引にドアを開けさせた。


 さっき見えた和服の男性はこちらを凝視していた。


 ガラガラとドアは再び勢いよく閉まる。

 部室前の廊下に異質な沈黙が訪れる。

 しかし、その沈黙は三人にほとんど同時に訪れた叫びによって一気に打ち破られた。

「誰かいたぞ!」

「だからそう言ってるだろうが!」

「誰あのおっさん!」

「何かこっちめちゃくちゃ凝視してたぞ!」

 その叫び声は恐らく部室の方にも届いていると思われるが、今の三人にそんな事を気にする余裕は無い。

 何とか落ち着きを取り戻した三人は、冷静に話し始める。

「で、どうする? 入るか?」

「入れねぇだろ。入ったとしてもどうするんだよ」

「誰かの来客なのかな?」

「来客にしろ不審者にしろ、先生には言っといた方が良いだろ」

 話をまとめていく三人であったが、千尋は目の前の光景に思わず声を漏らした。

「あ」

 千尋の声に二人は「どうした」と不思議そうな顔を返す。

 そんな二人の質問に答えるように、千尋は目の前のありのままを伝えた。

「花子ちゃん、部室に入ってっちゃった」

「おい!」

 急いでドアの方へ振り返ると、そこには確かにドアを開けて部室に入った花子の姿が見えた。

 三人は急いで部室の中へ入り、花子の下へ駆け寄る。

「お前何で入ってんだよ!」

「えっ、だって」

「今部室には……!」

 博士はそう言ったところで思い出して、違う方向へ視線を向ける。

 そこにはこちらを厳しい視線で見つめる男性の姿があった。

 和服を身に纏った男性は下駄を履いており、白髪が数本見える端正な髭を生やしている。

 男性はこちらを見つめるだけで何も言ってこず、博士達も部屋の重い空気で何も言う事が出来なかった。

 そんな中、男性が目を見開いていよいよ口を開けた。

「何奴じゃ!」

「「「こっちの台詞だよ!」」」

 男性の叫びに博士達は思わず口を揃えて叫び返してしまう。

 今の叫びで堰が切れたのか、博士は胸に溜まった鬱憤を大声で叫んだ。

「アンタ誰なんだよ! 俺らの部室に勝手に入って仁王立ちして! 誰なんだよ! 何の用なんだよ! 何がしたいんだよ!」

 博士の叫びはそれに止まらず、次は花子を指差してそのままの大声を放った。

「つーか花子! 何でお前は部室に入ったんだよ! 今は入れないって言ってただろ!」

 花子はいつもの無表情で博士の大声を聞いた後、とある箇所を指差して答える。

「だって林太郎いたもん」

「どうぇい!」

 博士は思わず言葉にならない声を上げて体を仰け反らせる。

 花子の指差した椅子には、確かにいつも通りに読書を嗜む百舌の姿があった。

「百舌先輩いたの!?」

「うん」

「いつから!?」

「ずっと前から」

 本を読む手を止めずに答える百舌に、博士は続いて質問する。

「あの人誰なんですか!」

「知らないよ」

 百舌はそう言って、博士達が部室に来る前の出来事を語り始める。

「部室に来てしばらく一人で本読んでたら、なんか急にドア開いて、誰か来たなと思って見たら、なんかあの人が入ってきてあそこに立ってた」

「なんでそれでそのまま本読んでるんですか! 話聞きましょうよ!」

「だって面倒臭いし」

「そういう問題!?」

 博士は視線を百舌から男性へと移した。

 男性は依然口を開こうとはせず、こちらを圧のある視線で見つめてくるだけである。

 博士は深呼吸をして心を落ち着かせると、男性に声をかけた。

「あのー、すみません。ちょっと混乱しちゃってて。名前と御用を教えてもらっていいですか?」

 博士の声に男性は反応し、口を開く。

「むっ、そうだな。名乗らないのは失礼であったな。我が名はだいだら。ある人物と会う為にここに来た」

 ――やっぱり来客か……。

 だいだらと名乗った男性の正体に博士は納得すると、続いて質問をする。

「ある人物っていうのは誰」

「黙れチビ!」

「アンタと身長そんな変わんねぇだろ!」

「貴様にそれを伝える義務は無ぁい!」

 突然として声を張り上げただいだらに、博士は思わず顔を顰める。

 そして、乃良と千尋の近くへと寄っていき、だいだらについて小声で議論し出した。

「なぁ、どうするよあのおっさん」

「どうするって言われても、誰かの知り合いなんだろ?」

「だいだらって名前、私どっかで聞いた事ある気がするんだけど……」

「何? お前の客なの?」

「いやいや知らないわよあんな変態おじさん」

「先生の知り合いなんじゃない? 先生のところに連れて行った方が良いんじゃ」

 その議論は突如として聞こえたドアの音によって強制終了された。

 そちらに目を向けてみると、斎藤の姿が見え、どうやら三年生達が到着したらしい。

「あっ、斎藤先輩」

「ん? 何?」

 ――斎藤先輩なら何か知ってるかもしれない。

 そう思って博士は斎藤に声をかけたのだが、斎藤の視線は博士を飛び越えてだいだらを捕える。

「誰?」

 ――知らないか……。

 斎藤の怯える声に博士が残念がるも、斎藤にとっては訳の解らない状態で博士に助けを求める。

「ねぇハカセ君! この人誰なの!?」

「あー……、この人はだいだらさんという方らしくて、多分先生のお客さんです」

「情報曖昧すぎない!?」

「なんせ俺らもさっき聞いたばっかりで」

 博士の淡々とした紹介に、斎藤はすっかり納得する事が出来なかった。

「そうですよね?」

 自分もあまりよく解っていないまま作った紹介に間違いは無いか、そう思って博士はだいだらに確認をする。

「先生……なのか?」

「いや知らねぇけど。なんでアンタが疑問形なんだよ」

 博士の冷酷な対応にだいだらは耳を貸さず、一歩も動かずに仁王立ちのままである。

 そんなだいだらを見て、西園が口を開いた。

「先生のお客さんなら、職員室に連れていったら?」

「そう、今その話をしてたんですよ」

 西園の言葉に博士が目的を思い出すと、皆に視線を向けて喋り出す。

「んじゃ誰かこの人を職員室に……」

 そこまで言って博士は気付いた。

 この場にいる全員が、この人を職員室まで連れて行きたくないと。

「……誰行く?」

 博士の言葉に返事をするものは誰もおらず、部室に嫌な沈黙が流れる。

「……斎藤先輩行ってくださいよ」

「へっ!? 何で!?」

「何でって、部長でしょ」

「無理無理無理無理! 僕さっき会ったばっかだし!」

「俺らだってさっき会ったばっかなんすよ!」

「この中で一番最初に会ってるのって、百舌先輩ですよね?」

「俺本読んでるから無理」

「中断すればよくないそれ!?」

「石神知り合いなんだろ? 行けよ」

「名前聞いた事あるだけだって!」

「まぁまぁ、ここは間を取ってハカセでいいんじゃない?」

「何でだよ!」

 そんな終わりの見えない議論の最中、再びドアの開く音が部室に響いた。

「いやー割と長くなったわー。小さい方だけだと思ったら大きい方も出てきてさー」

 目を向けると、そこには遅れてやってきた多々羅の姿があった。

 多々羅は部室の異様な空気に違和感を覚え、辺りを見渡す。

 そこで多々羅はだいだらのところで目の動きを止め、大きく見開いた。


「親父……!」


「「「「「「「!」」」」」」」

 部員全員が多々羅の言葉に驚愕し、だいだらの方へと目を向ける。

「たたら!」

 だいだらも待ち望んでいたかの様な目で多々羅を見つめていた。

 しかし、二人の取り巻く空気は感動の再会といったものではなく、どことなく一触即発な雰囲気となっていた。

「この人が……」

「タタラの……」

「「「「「「「お父さん!?」」」」」」」

 博士達はただ、そんな険悪なムードの親子を眺める事しか出来なかった。

謎のおっさんは多々羅のお父さんでした。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


主要メンバーの多いこの作品ではあまり全員に同じように出番が与えられず、燻っているキャラがたくさんいます。

なので一人一人にスポットライトがいくように、それぞれが主人公になる話を書くことにしました。

その第一弾が多々羅です!


この話が出来た経緯はよく覚えてないのですが、部室に変なおじさんがいて、だいぶ絡んだあとに多々羅のお父さんだと解るっていう案は結構前からありました。

多々羅の巨人の話はこれ以上広げるつもりはなかったのですが、折角ですし広げようと思っておじさん投入した訳です。

僕もおじさんって言ってますけど、ちゃんと『だいだら』って名前あるんでよろしくお願いしますww


お父さんと遭遇して多々羅はどうするのか。

これからのタタラ編をよろしくお願いします!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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