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【017不思議】One for All

「ギャハハハハハハハ!」

 そんな下品な笑い声は、保健室から響いてきた。

 中にはオカ研部員が勢揃いしており、笑い声の主である多々羅が腹を抱えている。

 そんな多々羅を鼻に絆創膏を貼られた博士が不服そうに見ていた。

「お前……、開始五分で……、ボール取れずに退場とか……、アハハハハハ!」

「もう何十回も聞いたよ! いい加減黙れ!」

「だってお前……、だって」

 多々羅はそう言うとまた笑い出し、当分笑いが止むのは無さそうである。

 そんな多々羅とは逆に、斎藤は心配そうな様子で博士に話しかけた。

「大丈夫?」

「はい、全然大丈夫です」

「林太郎も林太郎だよなー! ジャンプボールでぶっ倒れるとか……、ブハハハハ! あー、生で試合見たかった―!」

「もうアンタ笑い死ね!」

 未だ笑い続ける多々羅に、博士はとうとう暴言を吐いた。

 百舌も体調は治ったようで向かいのベッドに座っているが、こちらに向かって口を開く様子は無い。

 博士と百舌が途中退場した後、両チーム補欠を加えて試合が再開された。

 とても白熱した試合だったそうだが、結果は二年F組B班、百舌のチームに軍配が上がった。

 そんな百舌のチームも続いての第二試合で敗退してしまったらしいのだが。

「おっと、それじゃそろそろ行くか」

「あっ、うん。そうだね」

「よっしゃー! 頑張るぞー!」

 多々羅と斎藤、それに乃良はそうやって言うと、保健室から出ていった。

「どうしたんだ三人揃って……、これから試合か?」

「そうだよ」

 誰に投げかけた訳でも無いそんな質問を、西園が拾った。

 西園は博士に向かって微笑むと、その試合についての情報を事細かく説明する。


「斎藤君と多々羅君率いる三年A組A班と、加藤君率いる一年C組A班による、男子バスケットボール決勝戦だよ」


●○●○●○●


 逢魔ヶ刻高校球技大会、男子バスケットボール決勝戦。

 その会場はたくさんの生徒で埋め尽くされており、さっきまでのトーナメントとは観客の人数も気迫も何もかもが違った。

 そんな会場のムードに、博士も呑まれかけていた。

 花子と千尋はこれから試合があると言ってそそくさとグラウンドへ行き、博士の隣には西園ただ一人がいる。

「あっ! 西園さん! ハカセ君! こっちこっち!」

 声のした方へ向けると、試合コートのすぐ隣でこちらに手を振っている斎藤の姿があった。

 西園はそちらへと駆けていき、博士も付いていくように歩いていく。

「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」

「大丈夫だよ、丁度今始まるところだから」

「あのー……、俺ここにいていいんすか?」

 博士の質問に、斎藤は辺りを見渡し始めた。

 そこには斎藤達オカルト研究部三年生組と同じクラスである三年A組の生徒達が集結しており、博士は完全に場違いであった。

 そんなアウェーな状況を心配したのだが、斎藤は博士に笑顔を向ける。

「大丈夫だよ。皆良い人だから」

「いや、そういう問題じゃ……」

 博士が小声でそう呟くが、会場から溢れる大歓声でそれは掻き消された。

 試合コートには決勝まで勝ち上がった猛者達が並んでおり、その中に多々羅と乃良の姿も見える。

「それではこれより三年A組A班と一年C組A班の決勝戦を行います。礼!」

 審判の号令を合図に、選手達は礼をした後、熱い握手を交わしだした。

 多々羅と乃良もガッチリと握手をし、熱い目で見つめ合う。

「今試合は無礼講。先輩とか何だとか関係無しで容赦なくやらせてもらうぜ?」

「当然だ。この体育館の支配者が誰なのか、とくと味あわせてやるよ」

 お互いの瞳には熱の裏に確かな戦意が感じられ、試合前から白熱する試合展開が予想できた。

「……あれ? 斎藤先輩は試合出ないんですか?」

「僕は補欠だからね。今年は一回も出てないよ」

「えっ……」

 博士が斎藤の発言に驚いているうちに、試合は始まろうとしていた。

 ボールが審判の手から離れ、試合開始のホイッスルが鳴らされた瞬間、一人がボールをしっかりと掴んだ。

 驚くべき跳躍を見せた多々羅である。

 多々羅はそのままボールをつくと目の前の一人を躱し、驚くべき速さのドリブルで敵地の心臓部分へ潜り込んだ。

 そしてそのまま流れる様に跳び、相手ゴールへと一直線。

 多々羅は持っていたボールを直接ゴールに叩きつけ、豪快なダンクを魅せた。

 多々羅が床に着地すると、息を吸うのも忘れて釘付けになっていた観客が一斉に声を上げていく。

「おぉぉぉ! すげぇ! 何だ今のダンク!」

「人間の人体構造軽く無視して飛んでいったぞあいつ!」

「あんなの出来る高校生いるのか!?」

「あの先輩誰!?」

「オカルト研究部の多々羅だって」

「オカ研!? バスケ部じゃないの!?」

 三年生陣側も歓喜の声を上げており、西園も「すごーい!」と言いながら小さく拍手をしている。

 博士はというと、何も出来ずただ口を開けているだけだった。

 同じチームの生徒と一緒に喜びを分かち合う多々羅。

 そうしていたのだが――。

 シュパッ、と空気の裂く音が体育館に響く。

 それまで騒いでいた会場は一斉に静かになり、慌ててコートへと目を向ける。

 そこにはゴールから大分離れた距離にシュートを撃った体勢のまま立っている、金髪の一年の姿があった。

「何喜びに明け暮れちゃってるんですか、先輩」

 何を隠そう乃良である。

「試合はまだ始まったばっかりっすよ?」

 乃良のその言葉を合図に、会場は再び大盛り上がりとなった。

「すげぇ! あいつ、あんなところから撃ったのか!?」

「俺らがあいつのダンクに夢中になってる隙に!?」

「やだあの子カッコいい!」

「誰なの!?」

「オカルト研究部の加藤だって」

「また!? 何でオカ研にそんなすごい人いっぱいいるの!?」

 試合会場から大歓声、三年生達もこのロングシュートには感心せざるを得なかった。

「加藤君すごいね!」

「あんなシュート撃てるなんて」

 おそらく博士に向かって投げかけられた斎藤と西園の声だったが、博士はそれに対して言葉を返す事は無かった。

 それどころか、博士の表情はどこか呆れている様である。

 ――……これ、何の話だ?

 いつの間にかスポーツ小説と変わり果てていた事などつゆ知らず、男子バスケットボール決勝戦は始まった。


●○●○●○●


 決勝戦もいよいよ終盤、残り三分も無いような状況にまでやって来た。

 得点板を見ると、三年チームが若干勝っているようだったが、点取り合戦となるバスケにとって、数点のリードなど無いに等しい。

 コートでは乃良が三年のゴールの下で激しく衝突している。

 乃良は抜け道の出来た一瞬の隙をついて外へ出ると、そのままシュートして、チームに二点をもたらした。

「本当にすげぇよあいつ!」

「あんな体勢で普通シュートなんか撃てるか!?」

「いや、そもそもあんなにプレスされてもボール持ってた事自体すごいって!」

 観客が乃良について評価するも、最早乃良の耳にそんな声は届いていない。

 額からはゲリラ豪雨の様に汗が噴き出しており、まともに考え事をする事でさえ難しくなっている。

その間にも三年チームは得点を重ね、さっきの乃良の得点は無かった事になる。

 乃良はふと時計と得点板に目を向けた。

 残り時間は一分、点差は二点差。

 ここで勝つには、3Pシュートを決める他無かった。

 ――やるしか……、無い!

 乃良の手元にボールが回ってきて、乃良はバウンドさせながらゆっくり歩いていく。

「!」

 しかし、乃良の行く手に多々羅が立ち塞がった。

 多々羅も同じく汗が湧き出ていたが、どこか余裕な表情で笑っている。

 意外にも、オカ研部員による直接対決はこれが初めてだった。

「……ちょっとどいてくんねーかな?」

「そんな事言ってどくと思ってんのか?」

 勿論どくなど毛頭思っておらず、乃良は呼吸を整えると勝負をしかけた。

 ゴールへ向かってくる乃良に多々羅は冷静に判断して合わせるも、そこで多々羅は目を疑う。

 乃良はそこで人間業とは思えないような切り返しをし、見事多々羅にフェイントをお見舞いしてみせたのだ。

 ――やべっ、しまった……!

 そう思った時にはすでに乃良はシュート体勢に入っており、発射まですぐそこだった。

 多々羅は焦ってボールに手を伸ばすも、どんだけ頑張っても届きそうにない。

 ――届け……、届け……!

 多々羅がそう思った、その時である。


 多々羅の伸ばした右腕は急に巨大化し、乃良の持っていたボールを奪い取っていた。


 ――あ。

 そう思ったのは、多々羅と乃良を含めたその場にいたオカ研員全員であった。

 会場も突然の怪奇現象に今までの盛り上がりがどこかへ消えたかのように静まり返っている。

 多々羅の右腕は瞬く間にもとに戻っており、気付けば多々羅の元にはボールがあった。

 多々羅はそのままボールを相手リングに撃ち、見事ホールインワンさせる。

 その瞬間、試合終了を合図するホイッスルが響き渡った。

 しかし、会場が盛り上がる事は無く、静寂が体育館を支配している。

 そんな空気の中、口を開いたのは多々羅だった。

「……い、いぇーい!」

「いぇーいじゃねぇよ!」

 そう多々羅に声を荒げたのは乃良である。

 乃良は多々羅の元へ駆け寄ると、声を潜めるも怒鳴った口調で多々羅に罵声を浴びせた。

「何で急に巨人化使ってんだよ! 普通の生徒には秘密っていう話だったろ!?」

「いっ、いやー、そう言われても……。なんか、無意識に」

「見ろよ! 観客ドン引いてんぞ!」

 そう言われて多々羅は辺りを見回すと、確かに生徒達は多々羅を見てヒソヒソ噂をしていた。

「ねぇ……、今あいつ……」

「うん、なんかデカくなったな」

「どういう事?」

「そういえば、あの人ってオカ研なんだよね……?」

 多々羅を見る目はまるで化け物に対して向ける様な目であり、そこには明らかな恐怖があった。

 そんな現実を前に多々羅は少し黙ると、体育館中に響くように声を上げる。

「えっ、何? どうしたの皆? 何か変なものでも見たの?」

 多々羅の声はどこかとぼけており、それを聞いた生徒達も拍子抜けする。

「まぁ確かに、俺も皆もテンション上がってたしなー。その上熱気で気温もちょっと上がってきたし、一斉に幻覚なんか見ても不思議じゃないんじゃね?」

 『幻覚』。

 そんな二文字が多々羅から発せられ、同時に生徒達の頭に突き刺さる。

 そうして時間が経つと、会場は波打っていくかの様に声が溢れ返っていった。

「そっかー! 幻覚か!」

「皆テンション上がってたし、有り得るかもな!」

「いや、でも……」

「絶対そうだって! だって急に腕がデカくなるとか有り得ねぇじゃんか!」

 再び騒がしくなった会場を見渡して、多々羅は安堵の溜息を吐いてそう呟いた。

「……セーフ」

「んな訳あるかぁ!」

 今まで黙っていた博士が耐え切れずにそう叫ぶも、そんな叫び声すら会場の熱気に呑まれて沈んでいった。


●○●○●○●


 体育館の外に出ると、空はオレンジがかっており、気温も大分下がっていた。

「いやー、にしてもさっきの試合すごかったな!」

「最後なんて本当にデカくなったみたいだったもんな!」

「ハカセも見たか!? あの幻覚!」

「あぁ……、まぁ」

 ハカセはそう適当に返すと、罰の悪そうな顔を見せる。

 男子バスケットボール決勝戦終了後、博士はチームメイトと合流し、一緒にグラウンドを歩いていた。

 グラウンドにはまだ試合をしている女子達がおり、男子達とは試合時間が異なっているようだ。

「……あっ! あれ俺らのクラスじゃね!?」

 一人の男子がそう言って指を差すと、皆が一斉にそちらに目を向ける。

 そこでは確かによく顔の知れたクラスメイトが懸命にバレーをしている姿が見えた。

「本当だ!」

「応援に行こうぜ!」

 試合コートへと歩き出していくチームメイトであったが、博士だけはその場でじっとその試合コートを見ていた。

 ――あいつ……。

 そのコートには、花子の姿も見えたのだ。

「おい! 何ぼーっとしてんだ! 行くぞ!」

「おっ、おぅ……」

 博士はそれだけ言うと、皆の後に続いて歩き出した。


●○●○●○●


 女子のバレーの試合会場は男子のバスケの会場よりも白熱しておらず、どこかママさんバレーの様な空気を出していた。

 しかし、女子達は試合を楽しみながらも本気で勝利をもぎ取ろうとしている様子である。

「おーい! 応援に来たぞー!」

 一人がそう言って到着を知らせると、女子達は博士達に視線を向けた。

「おー! 来てくれたんだ!」

「ありがとう!」

「応援するんだから負けんじゃねぇぞー!」

「五月蠅い! 黙って見とけ!」

「えっ!? 応援は!?」

 そんな会話をする中、花子も博士に気が付いたようで博士の方をじっと見つめる。

「ハカセ……」

 ――……こういう時って、何か言った方が良いのか?

 博士の頭にそんな考えが過るも、何も言う事は無くただ時間だけが過ぎた。

 しかし、ふと花子に目を向けた時の花子の純粋な瞳を見て、博士はいつの間にか自然に声を出していた。

「頑張れ」

 それは本当に小さな声だった。

 けれども花子の耳には届いたようで、花子はずっと博士の方を見つめている。

「花子ちゃん!」

 突如として叫ばれた花子の名前に花子は振り向くと、その顔面に相手のサーブが飛び込んできた。

「!」

 ボールはそのまま地面に着き、同時に花子も膝をつく。

 そんな花子を見かけてコートにいたチームメイト達が集まってきた。

 コートの外にいる男子も心配して口を開きだす。

「おいおい零野さん大丈夫か?」

「顔に思いっきり当たってたけど……」

「ハカセ、どう思う?」

「………」

 博士は引きつった顔で現場を見ており、心配など欠片もしていないような顔をしていた。

 だが、そんな博士の目が大きく見開かれる。

「花子ちゃん大丈夫?」

「ケガしてない?」

「うん、大丈夫」

「試合中によそ見しちゃダメだよ?」

「ハカセがいたから」

「おのれ敵めぇ、可愛いうちの姫の顔を汚しおって!」

「花子ちゃん、姫なんだ」

 それは花子が博士のいないところで他のクラスメイトと喋っている光景であった。

 傍から見れば普通の事なのだが、今まで博士のいないところでしか他のクラスメイトと喋らなかった花子を考えれば、それは明らかな成長であった。

 そんな花子を見て、博士は口元を歪ませる。

「……大丈夫だよ」

 隣にいた男子がどういう訳かと博士の顔を覗くと、博士は花子を見ながらそう口にした。

「あいつなら、大丈夫だ」

 いまいち理解できない言葉だったが、男子はそれ以上口を開くのを止める。

 その後試合は再開し、バレーに奮闘する花子を博士は静かに眺めていた。

男子バスケットボール大会、優勝は三年A組A班!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事で球技大会編でございました!

球技大会では『ハカセと百舌の運動音痴』、『多々羅と乃良の決勝戦』、そして『花子ちゃんの友好関係』について書こうと思っていました。

自分の好きなように書けたので、個人的には結構満足した内容となっています。


前半でハカセと百舌のカッコ悪いところを書いたおかげで、後半は多々羅と乃良のカッコいいところが全面にでてましたね!

ほんとなんの小説だっていうww

それに球技大会なのに活躍するのがバスケ部じゃなく、運動系部活でもなく、まさかのオカ研……

バスケ部も出てきてないところでちゃんと活躍してると思うので、どうかあしからず!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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