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【016不思議】汗かき恥かき球技大会

「はーい、席に着いてー」

 一年B組にてLHRが始まり、担任がそう呼びかけると、生徒達は自分の席へと座っていった。

 担任はそれを確認し、生徒達に背を向けて黒板に字を書きだした。

 大々的に書かれていくその文字に、博士は目を凝らす。

「えー、今日は……」


●○●○●○●


「球技大会?」

 放課後、部室にて博士はLHRで聞いたその単語を先輩達に切り出した。

「そう、毎年この時期になると開催するんだよ。男子は体育館でバスケ、女子はグラウンドでバレーで、それぞれ学年関係無しのトーナメント形式。生徒は全員出場で、優勝チームのクラスは担任の先生が焼肉を奢るっていうのが恒例になってるんだ」

 事細かく説明してくれた斎藤だったが、博士は顔を歪ませる。

「うわー、何ですかそれ。高校生なんだから勉強しないとダメでしょ。何です? この学校はこういうお祭り事が好きなんですか? 進学校なのに? 勉強以上に何かやらないといけない事があるんですか?」

「そんな事言われても……、恒例行事だからさ」

「クラスの親睦を深める為だろ?」

 多々羅はそう言って話を割って入ってくると、博士を見て悪戯に笑いながら口を開いた。

「ハカセ、運動神経悪そうだもんなー!」

「はぁ!?」

「だって、ガリ勉君は勉強は出来ても運動は出来ないってのが鉄板だろ? 缶ケリは普通に出来てたけど、球技はどうかなー?」

 多々羅が悪い笑みを浮かべながらそう言うと、乃良もにやついて参戦する。

「いやー実際、スゲーんすよこれが……」

「ほうほう、詳しく聞かせて貰おうかな」

「聞かせる訳無ぇだろうが! 乃良も黙ってろ!」

 悪巧みする二人に、博士は血管が浮かびそうな程に腹を立てて声を荒げる。

 その怒りで八つ当たりするかの様に、博士は斎藤に向かって質問をした。

「大体! この学校行事多くないですか!?」

「えっ!?」

 博士の物騒な態度に斎藤は委縮してしまい、代わりに後ろにいた西園がひょっと顔を出す。

「一年は林間学校もあるからねぇ」

 西園のあっけらかんとした答えに博士はそれ以上言葉が発せなくなり、黙ってしまう。

 そんな博士の裾を誰かが引っ張った。

 博士はなんとなく相手を想像しながらそちらへ目を向けると、そこには案の定花子が立ち尽くしていた。

「ハカセも出るの?」

「……まぁ、全員参加らしいからな。ほんとは出たくないけど」

 最後にボソッとそう付け足すも、花子から返事が返ってくる事は無い。

 このやり取りももう一回や二回では無いので、博士は何も言わずそのままにしていると、花子の口を開いた。

「……ハカセと同じチームが良い」

「お前話聞いてたか?」

 博士の少し冷たい言葉に花子は無表情のままぼーっとしていると、博士は苛立ちながらに説明する。

「男子はバスケ、女子はバレーで競技が違ぇの! だから同じチームは無理! つーかそもそも今日のLHR(ロング)でチーム分けしただろうが!」

 息を荒げる程にそう言った博士だったが、花子はただじっと博士を見つめるだけである。

「ハカセは男子だから同じチームになれないの?」

「そう!」

「じゃあ、ハカセ女子になって」

「何言ってやがんだテメェ!」

 花子の衝撃発言に博士は思わず暴言を吐き散らした。

 いつも通りの常識外れな花子に博士は溜息を零すと、落ち着いたのか静かな口調で花子に話しかけた。

「つーか、良い機会だろ」

 主語の抜けた博士の言葉に、花子は首を傾げる。

「お前、俺が近くにいないと他のクラスの奴らと話したりしないだろ。これだったら嫌でも話さなくちゃいけねぇだろうし、これを機にお前、他の奴らと話せ」

 博士の真剣な表情に花子が返事をする事は無く、代わりにコクリと頷いた。

 それを傍から見ていた多々羅達は、小声で会議を始める。

「えっ……、あいつらってもうそんな感じなの?」

「いや、そんな感じではないと思うけど……」

「ていうか、そんな感じっていうより保護者と娘みたいじゃない?」

「「あー」」

「五月蠅ぇな聞こえてんだよ! なんだそんな感じって!」

 博士はそう大声を上げ、こっそり開催されていた会議は止む無く中断となった。


●○●○●○●


 そして、球技大会当日。

 天候は球技大会日和と呼ぶに相応しい日本晴れで、気温も暑すぎず、こまめに水分補給をしていれば熱中症の心配は無さそうだ。

 体育館、グラウンドでは既に試合が行われており、白熱な展開を見せている。

「よーハカセ! 今日は頼むぞ!」

「ハカセ! 頼りにしてるぞー!」

「ハカセ―!」

「五月蠅ぇな! ハカセって呼ぶなっつってんだろ!」

 いつの間にかクラスでも浸透していたハカセ呼びに博士は頭を悩ませる。

 体育館では二コートで同時に試合が開催されており、博士の所属する一年B組C班は試合時間まで待っている、所謂待機時間を過ごしていた。

 博士のチームメイトはいつの間にかどこかへと行き、博士は一人で試合の状況を見守る。

「ハカセ―!」

 突如聞こえてきた聞き覚えのある声に博士は顔を顰めて目を向けると、こちらに向かって歩いてくる千尋と花子の姿があった。

「何用だ」

「何よ! もし試合してたら応援してあげようと思って来たのに!」

「余計なお世話だ。つーかお前ら、こっちに来ていいのかよ」

「待機時間はどこに行っても自由なの」

 千尋はふと試合コートの方へ目を向けて、試合の様子を眺め始める。

「今誰が試合してるの?」

「乃良」

 博士がそう言った瞬間、試合を眺めていた千尋の目に乃良の姿が映った。

 乃良は味方からボールを受け取ると、リズムよくドリブルし、そのまま綺麗なレイアップシュートを決めてみせた。

 仲間達から歓声の声が湧きあがる乃良だったが、千尋は目を細める。

「なんか……、気持ち悪い」

「あいつ運動神経は飛び抜けていいからな」

 そんな事を話していると試合は終了、結果は乃良の活躍もあって三年相手に圧倒的勝利となっていた。

 乃良は博士達に気付いた様で、汗を掻きながら眩しいくらいの笑顔を向けてくる。

「……あっ、次試合俺らだ」

「えっ!? あっ、頑張って!」

 何の盛り上がりも無く試合コートへと歩き出した博士に千尋は慌てて言葉を投げかけた。

「……ハカセ」

 そんなか弱い声に博士は立ち止まると、振り返って花子の顔を見つめる。

「頑張って」

「………」

 博士はその言葉に対して返事をする事は無く、向き直って再び歩き出した。

「おっ、これからハカセかー!」

 試合を終えたばかりで汗をタオルで拭っている乃良が、花子と千尋に近付いてそう話しかけた。

「しかも……、これは注目の試合だな」

「えっ?」

 乃良の言葉に千尋が声を漏らすと、乃良はとある方向へ指を差す。

 その指の先には、博士と同じコートに立つ長身で長い前髪の目立つ生徒が佇んでいた。

「百舌先輩! てかやっぱりデカッ!」

「今大会初のオカ研対決って訳だ」

 口角を上げて楽しそうに笑う乃良に、千尋もわくわくして思わず顔を明るくさせていた。

「それではこれより一年B組C班と二年F組B班の試合を行います。礼!」

 審判を務める生徒がそう言うと、一同は礼をし、熱い握手を交わした。

 博士は百舌と握手をし、(百舌は前髪で隠れて見えないが)じっと見つめ合う。

「良い試合にしましょう」

「そうしよう」

 試合開始に向けてそれぞれがポジションを取り、会場は試合効果とでも言うのかピリついた空気となっていた。

 試合はジャンプボールから始まり、二年からはやはり背の高い百舌が代表として選出されている。

 そして、いよいよボールが審判の手から離れ、高く舞い上がった。

 ボールを取ろうと百舌と一年はほぼ同時に飛び上がり、ボールに向かって手を伸ばしていく。

 ボールに触れたのは、やはり身長的に有利である百舌であった。

 ……が、しかし。

 バタンッ!

 突如大きな音が体育館に鳴り響き、目を向けると大きく飛び上がったさっきの百舌が床に倒れていた。

 病気か何かが原因かとも考えられたが、周囲の反応などの色んな状況から考えると、ただの運動不足による転倒のようである。

「えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 会場がどよめく中、乃良は耐え切れずに腹の底からそう声を出していた。

「えっ、倒れた!? ダッサ! 試合開始直後のジャンプボールで転倒とかどんだけ運動神経悪いんだよ! そんなんならジャンプボールに出すなっての!」

「乃良、先輩なんだからあんまり言っちゃあダメだよ」

 先生達は慌てた様子で百舌の元へと駆けていき、巨体を担架に乗せて保健室へと運んでいった。

 そんな光景を前に、コート上にいる博士も呆れた表情を見せている。

 不穏な空気で始まった試合に審判も最初は茫然としていたが、すぐに我に返って一年ボールから試合を再開させた。

 審判の笛が高らかに鳴り響き、今度こそ試合が開始される。

 一年達は息の合ったパス回しで相手陣内へと確実に近づいていき、シュートの射程圏内へと向かう。

 博士も相手陣内に入って、パスが回ってくるのを待っていた。

 ――最初はどうなる事かと思ったが……、相手の壁が一枚削がれたと思えばいいだけの話だ。

 百舌についてそう考えていると、今度は昨日の多々羅の言葉が蘇ってくる。

『ハカセ、運動神経悪そうだもんなー!』

 ――ったく、好き勝手言いやがって。

 そうは言うものの、博士は運動は得意では無かった。

 しかし、他人からバカにされるのはやはり腹が立つし、そこまで悪いとは思っていない。

 いつの間にか博士をマークしていた相手がどこかへと向かっていき、博士は完全なノーマークとなった。

 ボールを持っている味方はそれを見逃さず、博士へと鋭いパスを渡す。

「ハカセ!」

 ――俺がただのガリ勉じゃねぇって事。見せつけてやるよ!

 博士は心の中でそう叫ぶと、味方からのキラーパスを受け取った。

 と、思われたのだが。

 ドッと鈍い音が響き、博士目がけて飛んできたボールは見事博士の顔面に命中し、そのまま床に数回バウンドして転がっただけだった。

 会場は再び困惑した空気となり、チームメイト達が博士の元へ駆け寄って来る。

「ハカセ! 大丈夫か!?」

「うん」

「眼鏡割れてない?」

「うん」

「うわっ! めっちゃ血ぃ出てるじゃんか!」

「うん」

「先生! ハカセ保健室運んでー!」

 チームメイトの言葉が聞こえていないのか、博士は何の言葉にも「うん」としか返さず、そのまま先生の首に腕を回して、担がれるように退場していった。

 会場は今試合二人目の退場者に人々の囁く声が響き、既視感を覚えるこの光景に呆れているかのようだった。

 それは乃良と千尋も同じである。

「……行っちゃった」

「てか、試合時間五分も経たずにオカ研部員いなくなったんだけど」

 乃良と千尋はそれぞれそう言葉を漏らし、花子はというと博士の運ばれた方向をじっと見つめていた。

「……ハカセ」

 そんな花子の小さな呟きは、試合再開の高らかなホイッスルの音で掻き消された。

球技大会なんてただの恥さらしだ。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


さて、今回は五月という事で球技大会の回となりました!

こういう学校行事の回は書いてて楽しいです!

といっても内容は運動音痴二人が全校生徒の前で恥をさらすだけの話なんですけどねww


僕も運動神経は全然良くないので球技大会とか全く活躍できません。

それでも球技自体は好きなので楽しくやってます。

下手の横好きってやつですね!


球技大会の行方は一体……、次回に続きます!

それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!


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