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【159不思議】除霊同盟

 GWも明けた、いつも通りの学校生活。

 林間学校も伴って、生活感の出てきた教室も一年生にとっては懐かしさが感じられた。

 一年E組。

 授業終了のチャイムが鳴り、小春は机の上を片付け始めた。

 机が真っ新になると、今度は次の授業の準備を進める。

 周囲が息抜きにと友達と談笑するのを耳に入れながら、小春の準備は完了した。

 間を置いて、ふと息を吐く。

 ――……置いてかれたぁ――――!

 顔に一切出さないまま、小春は心の中でしわがれる程叫んだ。

 ――しまった! もう既にクラスの中でグループが出来てる! 林間学校で皆グループになってしまったんだわ! ぼーっとしてたらこんな事に! 別に馴れ合いたい訳ではないけど、この空気の中に一人は流石に厳しい!

 小春はチラッと教室全体を覗く。

 どこもかしかも、たった一ヶ月で友人になったとは思えない程に盛り上がっており、小春の付け入る隙は無かった。

 無論、一人でいる事に抵抗はない。

 それでも一人でいる事を許さない教室の雰囲気は、どこか苦手だった。

 何か打開策は無いかと、小春は頭を悩ます。

 その結果、目の前に来ている人影に気が付かなかった。

「板宮さん……だよね?」

 名前を呼ばれ、小春は顔を上げる。

 黒髪を小さく後ろで二つ結んだそのシルエットは、確かに見覚えがあった。

「えぇ……」

 見覚えはあっても、名前は出てこない。

「同じクラスの箒屋理子だよ」

「……ごめんなさい」

「ううん! 全然!」

 苦悩する小春を見て、理子は自ら名乗り出た。

 ――……ん? 箒屋? どっかで聞いた事あるような……。

 既視感のある名字に、クラス発足当初の自己紹介で聞いたのだろうと、小春は自己解決をした。

 一人で納得する小春に、理子は恐る恐ると口を開く。

「あのぉ……、板宮さんってオカ研だよね?」

「えっ?」

 予想外の質問に、小春は思わず訊き返す。

「そうだけど……」

 小春の返答に確信した理子は、意図の分かっていない小春に勇気を持って切り出した。

「……板宮さんに、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

 そのお願いとは、小春にとって衝撃的なものだった。


●○●○●○●


 授業が全て終了し、放課後がやって来た。

 GW明けの久々の部室は、まるで今までの休日分を取り返すかの様に、より一層騒がしく感じる。

「林間学校どうだった!?」

「はい! すごく楽しかったです!」

「だよねー! はー、私ももう一回林間学校行きたかったなー!」

「留年すればもう一回行けたのにな」

「はっ! そっか!」

「否定しろよ」

 今の話題は一年生の林間学校のようだ。

 賢治を中心に集まる部員達を余所に、もう一人の一年である小春は少し離れたところから眺めていた。

 視線の先は、眼鏡の奥で千尋を嘲る博士である。

 ――まさか箒屋さんが、あの先輩の妹だったとは……。

 どうりで聞き覚えのある名字な訳だ。

 一度聞けば忘れそうのない名字だったが、特に興味のない小春は理子が告白するまで、その事実に気付かなかった。

 小春はその理子からの頼みを思い出しながら、視線の先を博士から変えた。


 ――お兄ちゃんとおかっぱストーカー女を注意して見て欲しい?

 理子の願いを聞いた小春は、そう復唱した。

 ――そう! いるでしょ!? おかっぱ女!

 ――うん……、まぁいるにはいるけど……。

 おかっぱ女と揶揄させる正体は、なんとなく予想がつく。

 更に言えば、その正体こそ小春の宿敵であり、この学校に訪れた理由だ。

 ただ小春が疑問に思ったのは、別の部分だった。

 ――でも、あの悪霊と先輩ってそんな感じだったかしら……?

 理子に聞こえないぐらいの声量で、小春は呟く。

 すると理子は、小春が一瞬目を離した隙に小春の手を取ると、額が衝突する程に顔を近付けた。

 ――お願い! 私文芸部に入ったから、オカ研の事見れないの! お願いできるの板宮さんしかいないんだよ! 私の代わりに、お兄ちゃんを守って!

 並々ならない熱量が、小春を襲う。

 それはこの要望を断るとどうされるか解らない程だった。

 ――……まぁ、見るだけなら。

 ――本当!? ありがと!

 小春の承諾に理子は顔を明るくすると、そのまま他の友達のもとへと帰っていった。


 ――別に箒屋さんが心配するような事は無いと思うんだけど。

 話題の中でも無表情な花子を、小春は傍観していた。

 部室に通うようになって一ヶ月程経過したが、博士と花子が理子の言うような関係になっているところを見た事がない。

 理子の兄想いが捩れた思い過ごしではないかと、小春は片付けていた。

 そんな中、ふと思い立ったように花子がアクションを起こす。

「ハカセ」

「ん?」

 博士の裾を引いた花子は、そのままあっさりと口にした。

「デート行こ」

 ――!?

 あまりにも自然と吐かれたその言葉に、小春は一瞬その意味を忘れた。

 ――えっ!? 今なんて言った!? デート!? えっ!? あの二人って本当にそういう関係なの!?

 小春の頭上を、いくつもの疑問符が飛び交う。

「バカ、行く訳ねぇだろ」

 一方の博士は、特に慌てた様子もなく慣れた手つきで処理していた。

「いいじゃん! 最近皆でしか行ってなかったし、今度二人で行ってきなよ!」

「誰が行くか」

「なに!? 彼女が行きたいって言ってるのに、行ってあげない訳!?」

「彼女じゃねぇよ」

 割って入ってきた千尋に、博士が冷静に対処していく。

 その言い合いを聞くに、どうやら二人が付き合っているという訳では無さそうだ。

 ――なんだ。あの悪霊の一方通行か。もうびっくりしたじゃないですか。

 安堵した小春は、ホッと息を漏らした。

「大体デートなら前行っただろ」

 ――行ったの!?

 落ち着いた筈の心拍が加速する小春は、思わず耳を疑った。

「行ったってクリスマスの時でしょ! もう随分前じゃん!」

「行った事には変わりねぇだろ。あの時だって半分罰ゲームみたいな感じで行ったんだし」

「デートを罰ゲームって言うな!」

「ハカセ、デート」

「行かねぇって言ってんだろ!」

 白熱する言い争いも、今の小春の耳には入ってこなかった。

 ――デートなんて、恋人のする事じゃないの! やっぱりあの二人ってそういう……、でもあの女は幽霊よ!? 幽霊と人間のカップルなんて、そんなの……!

 混乱する小春を余所に、言い争いは止まらない。

「良いじゃん! 二人が林間学校行ってる時だって、花子ちゃんに壁ドンしてたじゃん!」

「お前らが無理矢理させたんだろ!」

 ――この人達私達が林間学校行ってる時に何してたの!?

 これ以上言い合いを聞いても、謎が深まるばかりだ。

 話題が随分前からすり替わっていた渦中で、マイペースな乃良は当時の頃に想いを馳せていた。

「いやー懐かしいなー林間学校! 楽しかったなー。俺、ハカセとスタンプラリーのレクリエーションで勝負したの覚えてるわ!」

「お前が一方的にけしかけてきただけだろ」

 一年前の記憶を掘り起こして、博士が非難する。

「私は班の皆と一緒にカレー作ったのが一番覚えてるかな! あの時のカレー美味しかったなー!」

「分かる! あーいう時に食うカレーってめちゃくちゃ美味いよな!」

「僕も美味しかったです!」

 千尋の記憶に、乃良と賢治も同意見だと同調する。

 口の中にあの日のカレーの味を思い出しながら、千尋は花子に振り返った。

「花子ちゃんは何が一番記憶に残ってる!?」

 千尋の質問を、花子は無表情で受け止める。

 その虚ろな目には、確かに一年前のあの景色が蘇っていた。

 どれも眩しいくらい輝いていたが、特段眩く光っていたのは間違いなく一つだった。

「……夜、ハカセの部屋に遊びに行った事」

「はぁ!?」

 ――はぁ!?

 博士の唸りは、図らずも小春の心の唸りと重なった。

 未だ唖然としている小春を置いて、話は目まぐるしく展開していく。

「えっ、何!? 花子ちゃんハカセの部屋に遊びに行ったの!?」

「そうだった! そういや花子、夜深くにハカセの部屋にこっそり侵入して、皆が寝てる間に、二人きりであんな事やこんな事してたんだよ!」

「紛らわしい言い方するな!」

 乃良の妄想の膨らむような言い回しに、博士が喝を入れる。

 ただ小春は、それどころではなかった。

「はっ……、はっ、はっ……」

 心の中で制御していた感情は遂に溢れ、小春は椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「破廉恥な!」

「「「「「「!?」」」」」」

 突然声を荒げた小春に、全員が小春に目を向ける。

「こっ、小春ちゃん?」

「何が善良な幽霊ですか! 交際関係に発展していない男の部屋に夜忍び込んで寝込みを襲おうなんて! とんだ悪霊じゃないですか!」

「いやまぁそうなんだけど……」

「やはり彼女は早急に除霊しなくてはいけませんね! 覚悟しろこの淫乱悪霊!」

「ちょっ、ちょっと!」

 止めようとする部員達の声も捨てて、小春は除霊の準備を進める。

 小春が長袖を捲ると、中から両腕に大量に付けられた数珠が姿を現した。

「今日こそはこの数珠の力で、貴女を追い祓う!」

「ありゃいいってもんじゃねぇだろ!」

「観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空! はぁ!」

 自身の持てる全ての力を絞っても、花子は消えない。

 小春の装備した大量の数珠は、ただ小春の両腕を重くしただけだった。

 正式に悪霊判定されてしまった花子は、やはりよく分かっていないようで、いつも通りに首を傾げた。


●○●○●○●


 後日、一年E組。

「やはりあの女はとんだ悪霊だったわ。安心して。私が貴女のお兄さんを守ってみせる」

「あっ、悪霊?」

「必ずや、あの女を追い祓うわ」

「うっ、うん! なんかよく解んないけどお願い! 私も出来る限り協力するから!」

「ありがと、箒屋さん」

 こうして博士の知らないところで、実妹と後輩による花子撃退同盟は結成された。

「理子でいいよ! 私も小春ちゃんって呼んでいい!?」

「うん、……理子」

 そして、二人の心の距離もちょっと近付いたのだった。

新コンビ誕生。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


GWも終わったところで、久々に一年生達を書きたいという事で、今回は一年生にスポットを当ててみました。

そこで登場したのが、ハカセの妹・理子。

折角理子もマガ高に入学したので、是非登場させてあげようと小春と同じクラスになりました。

花子を討つという同じ志のもと、とても仲良くなりそうなコンビになって良かったです。

まぁ、当の本人は気付いておりませんがww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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