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【150不思議】霊媒ガアルは霊感ガナイ

 オカルト研究部、部室。

 放課後になったばかりの部室にはまだ部員の数は少なく、随分とぽっかりとした印象を受ける。

 椅子にちょこんと座るのはツインテールの新一年生。

 名は板宮小春。

 彼女がこの部活に初めて足を踏み入れたのは、つい昨日。

 その夜に出会った怪奇現象がまだ瞼の裏に焼き付いており、表情はどこか恨めしがっているようだ。

 そこにガラッと部室のドアが音を立てる。

「こんちはー」

「こんにちは!」

 入ってきたのは博士と乃良だった。

 部室の中に入ってくる二年に溌剌と挨拶したのは、小春と同じ入部希望者だ。

「おっ、早速来てるじゃんか! 偉い偉い!」

「いえいえ、入部希望してるんですから、来るのは当然です!」

「いやー、当然じゃねぇよ! なんたって、去年はなかなか部室に来ようとしない部員がいたからな」

「えっ?」

 乃良の厭らしい笑顔に、博士はバツの悪そうに目を背ける。

「えーっと、名前は確か……」

「賢治と小春です!」

「あーそうそう! 賢治君に小春ちゃんな!」

 爽やかな笑顔を向ける賢治。

 まだ出会って一日で、名前までは思い浮かばなかったが、賢治のその笑顔に自然と乃良の口角も上がった。

 対する小春は、先輩が来たにも関わらず挨拶の一つも返さずにいる。

「こら春ちゃん、先輩来たんだから挨拶しないと」

「………」

 賢治の声にも、小春はそっぽを向くだけだった。

 呆れて目を逸らすと、またドアの開く音がする。

 博士達の数歩後ろから歩いてきた、残りの二年二人だった。

「だから! 牛丼とか焼きそばは紅ショウガで、カレーは福神漬けなの!」

「おにぎりは?」

「おにぎりはたくあん!」

 今をときめく女子高生は、どういう訳か漬物の話題に夢中である。

 しかし漬物など眼中に無いもう一人の女子高生は、そのうちの一人の女子をずっと待ち望んでいた。

「やっと来ましたね悪霊!」

 椅子を倒す勢いで、小春は立ち上がった。

 突然の大声に、千尋は勿論その場の全員の目は丸くなって小春に釘付けになる。

 ただ一人、花子の目だけ虚ろだった。

「今に見てなさい! 板宮一家の名において、ここで私が成仏してみせます!」

「ダメ!」

 花子に向けて念仏を唱えようとする小春だったが、そこに千尋が大の字になって割って入った。

「ちょっと先輩! そこを退いてください!」

「花子ちゃんは悪霊なんかじゃないよ! 花子ちゃんを成仏なんて、そんなの絶対させない!」

「このままでは、貴女まで天に召してしまいます!」

「えっ、本当? それは嫌!」

 花子を懸けて全力で対峙する小春と千尋。

 それがどうにもバカらしくて、博士は堪らず溜息を吐いた。

「千尋、退いていいぞ」

「ダメだよ! 退いたら花子ちゃんが成仏されちゃう!」

「大丈夫だよ。そいつ霊感ないんだから」

「!」

「あっ、そっか」

 博士の説得に、千尋は納得して花子の前から離れる。

 激突の回避に成功した博士だったが、逆に小春をヒートアップさせる形となってしまった。

「れっ、霊感ありますよ!」

「無ぇだろ。花子が幽霊だって分かんなかったくせに」

「!」

 痛いところを突かれ、小春は何も言い返せなくなった。

「全く、何が霊媒師だ。幽霊なんて不確定なもので金取りやがって。だから気に入らねぇんだよ。やっぱ霊媒師なんて、どいつもこいつもインチキ商売人ばっかじゃねぇか」

「……言わせておけば」

 博士の何気ない一言は、静かに小春の逆鱗に触れた。

「私だけならまだしも家族まで!」

「板宮家は本物ですよ」

 小春を遮って聞こえたのは、しれっとした言葉だった。

 そのしれっとした中には、どこか意志の様なものが見え隠れしている。

 そんな不思議な言葉を、賢治は吐き出した。

「板宮一家は本物の霊媒師一族です。ただ単純に、春ちゃんに霊感が無いだけ」

「ぐっ!」

「板宮の名の下に生まれてくる子供は、全員霊能力を持って生まれてくるそうです。春ちゃんのお母さんも、お爺さんも、その先祖も……。でも何故か、春ちゃんだけ霊能力を持たずに生まれてきてしまった」

 小春の傷が抉られている事にも気付かず、賢治は顔を上げる。

「だから、板宮家は本物です。それは、幼馴染の僕が保証します」

 真っ直ぐと見つめる瞳。

 その瞳に、疑う余地などどこにも見つからなかった。

「……あのぉ」

 ただ一つ、全く別の部分が気になって、千尋が口を開く。

「はい」

「いやっ、あのっ、私は霊媒師の事信じてるし、話は全然変わってくるんだけど……」

 千尋は恐る恐るといった口調で、満を持してその部分に切り込んだ。


「二人って……、どういう関係?」


 しばしの静寂。

 質問の内容に、当の本人達はあまりピンと来ていないようだ。

「どういうって……、幼馴染って言いましたよね?」

「ただの幼馴染?」

「極めて仲良しの幼馴染です」

「あーごめん、そういうんじゃなくて」

 受け答えしていく中でも、賢治は千尋の言っている意味が分かっていないようだ。

 一足先に把握した小春が、どうしようもなく息を吐く。

「別にただの幼馴染ですわ。それ以上でもなんでもない。寧ろ家族って言った方が近いかもしれませんわね」

 小春は子供の頃の思い出を追憶する。

「物心がついた時からずっと一緒にいました。何をするにも、ずっと。貴女、兄弟や姉妹はいらっしゃいますか?」

「うん、弟が一人」

「ではその弟さんと、禁断の恋に溺れるところなんて想像できますか?」

「いいえ全く」

 弟の顔を思い浮かべた姉の千尋は、吹き飛びそうな程首を振った。

「そういう事です」

 分かり易く伝わったようで、小春はどこか満足気だ。

 一方の千尋は、のっぺりと机に上半身を預ける。

「なんだー、違うのかー。残念ー」

「残念ってなんだ。人の恋愛事情で遊ぶなよ」

 後輩達の色恋沙汰を望んでいたのか、悔しそうな表情が隠せていなかった。

 しかし黙って聞いていた賢治の表情も、決して良好ではなかった。

「それはちょっと納得いかないなー」

「えっ?」

 賢治の不服に、全く関係ない千尋の鼓動が逸る。

「なんで春ちゃんがお姉さんみたいになってるの? 春ちゃんのが妹だと思うんだけど」

「そっちかー」

 勝手に一喜一憂する千尋を置いて、二人は論争を勃発させる。

「はぁ? 私が姉に決まってるでしょ? アンタが弟よ」

「いいや、僕がお兄さんだ」

「いっつも私が手を引いて連れてってあげたじゃない!」

「いっつも間違ったとこ連れてくからその度僕が正しい道教えてたでしょ? 寧ろ僕が面倒見てたっていうか」

「誕生日私のが早いでしょ!?」

「それはそうだけど」

 決定的な真実を叩きつけ、小春は勝利を確信する。

 そんな余裕の小春に、賢治は子供の頃の思い出を突きつける事にした。

「でも春ちゃん」


●○●○●○●


 それは十年程前の小学生の頃。

 まだランドセルの似合っていた賢治の後ろから、甲高い声が届いてきた。

「賢ちゃーん」

 どうしたのかと後ろを振り向くと、そこにはアスファルトにべったりと腰を下ろすツインテールの姿があった。

「おんぶして」

 小春の我が儘はこの頃から健在だったらしい。

「なんで?」

「いいからおんぶして!」

 何を問い詰めても、それ以外何も言おうとしない。

 仕方なく賢治は溜息を吐いて、ランドセルを腹側に回すと、顔をパッと明るくした小春のもとへ歩み寄った。


●○●○●○●


「みたいな感じで、おんぶしてあげたじゃん」

「何の話!?」

 衝撃の暴露をする賢治に、小春は目が飛び出る程見開いた。

「やめてよ! 何言い出すの!?」

「『れーのーりょく使いすぎて歩けない』とか言って、よく春ちゃんをおんぶしたまま帰って」

「あーあーあーあー!」

 どうやら賢治に、幼少期の羞恥心など無いらしい。

「なんでそういう事言うの!?」

「だって、春ちゃんが僕よりお姉さんだって言うから」

「何もそんな恥ずかしい事言わなくてもいいでしょ!? そんなんだったらほら! アンタがピーマンの肉詰め食べれないから、私が代わりに食べてあげた事あったよね!?」

「あれ別に僕が食べれなかったんじゃなくて、春ちゃんが食べたいから勝手に食べてただけでしょ?」

「もうやめなさいよ!」

 暴走する賢治を止めようとする小春だったが、逆に石炭を積んでしまう形となった。

 幼馴染の喧嘩を傍から眺める部員達。

「……あれは賢治君のがお兄さんかな?」

「……そうだな」

 どちらが上かはともかく、二人の喧嘩は痴話喧嘩ではなく、確かに兄弟喧嘩に見えた。

 すると、ふと小春が我に返ってこちらに顔を向ける。

「あっ、そうだ。すみません、この部活の部長ってどなたですか?」

「あー百舌先輩だよ。ほらあそこの」

 千尋はそう言って、百舌のいる席を指差す。

 いつも通り椅子に座って、本のページをヒラリと捲る長髪の少年。

 そんな部長に、小春の顔が紛れもなく歪んだ。

「……あれが部長?」

 オブラートに包む事などなく、小春はハッキリとそう言った。

「あれ!?」

「ちょっと春ちゃん!」

「信じらんない! なんであんなモサッとした人が部長なんですか!? 嫌です! 部長変えてください!」

「嫌って言われても……」

「三年生一人しかいねぇからなぁ……」

 散々な言われようの百舌だったが、顔をフィクションから上げる素振りは見られない。

 それを良い事に、小春も反省の色は無かった。

「春ちゃん! 先輩にその言い方はないでしょ! 謝って!」

「ふんっ」

 賢治に諭されても、小春は腕を組んだまま。

 小春はふと鞄を漁り出して、自分の名前の書かれた入部届を賢治に差し出した。

「これ、出してきて」

「春ちゃん!」

「いいから!」

「………」

 頑なに自分の意見を曲げる気のない小春に、仕方なく賢治は受け取った。

 しばらくそれと睨み合う。

 すると賢治はそれを百舌のもとへ届ける事無く、小春にそっと話を持ちかけた。

「……いいの? 修学旅行にペットの柴犬連れてこうとした話して」

「!?」

 脅迫とも言える賢治の声色に、小春の心臓は飛び跳ねた。

「いいの? 小学校の修学旅行中、ペットの狛彦と離れるのが寂しくて、『しおりに柴犬を連れてきてはいけませんなんて書いてない!』とか言って、本気で修学旅行に連れてこうとしてたの、言っていいの!?」

「ちょっと! ダメに決まってるでしょ!?」

「自分で持ってかないと、全部言っちゃうよ!?」

「いやこれもう全部言ってないか?」

「言って欲しくないなら、自分で先輩のとこに持ってって!」

「くっ!」

 エピソードの全貌が既に明かされているような気もしたが、小春には十分だったようだ。

 結局小春は自分の手で百舌のもとに入部届を提出した。

 顔半分を隠す長い前髪で、百舌の表情は一切読めなかったが、百舌は黙って届け出を受け取る。

 これで二人は、晴れてオカルト研究部に入部できるだろう。

 入部前から破天荒な生き様を見せつける二人に、博士は今から不安しか残らなかった。

新入部員№001、板宮小春。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回は新入部員紹介回!

二人の新入部員のうちの一人、女の子の板宮小春の紹介回となりました!

まぁ紹介回というのは名目で、書いてみれば新入部員二人の間柄がメインになってしまったのですが、根本は前回書いたのでよしとしましょう。


この子がどういう経緯で生まれたのかあまり覚えてないのですが、『新入部員は霊媒師、しかも霊感なし』というのは何故か決まっていました。

前回の花子とのやり取りが最初に浮かんで、そこを基礎に小春を生み出した感じですかね。

ツインテールやツッケンドンなどギャルゲーみたいな要素を付加していった結果、書いてて既視感あるなと思ったら「そういやアリスに似てんな」と今更ながら気付いてしまいました。

まぁ彼女のメインは霊感のない霊媒師なので、そこを軸にこれからネタが作れたらなって思ってます。


そして、今回でマガオカ150話達成でしたね!

200話は超えるとして、まだまだ通過点なので小春達と一緒に頑張っていきますよ!


幼馴染の賢治は兄弟みたいなものと言っていましたが、これからどうなるのか?

オカ研メンバーとはどんな絡みを見せてくれるのか?

僕自身、とても楽しみです!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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