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【148不思議】僕らはオカルト研究部

 畏まった薄暗い体育館。

 中にはたくさんの新入生が犇めいていて、全員スポットライトのついたステージに興味津々である。

『演劇部の皆さん、ありがとうございました』

 司会席に座る生徒会役員の生徒が、マイクに声を当てる。


『部活動紹介、続いてはオカルト研究部の皆さんです』


 ここから、彼らの地獄は始まった。


●○●○●○●


 遡る事数週間前。

 まだ春休み真っ只中のオカルト研究部部室にまで遡る。

「部活動紹介?」

 説明された言葉に、博士がそう首を傾げた。

「そう」

 百舌はそう返事をしてみせるも、すぐに本に目を落として、博士の疑問に答える素振りはない。

 引っかかる博士に、千尋が代わって答える。

「新入生歓迎会の時に、自分達の部活がどんな部活か、普段どんな活動をしてるかって事を一年生に紹介するんだよ。私達が一年の時にもやってもらったでしょ?」

 千尋の説明に、乃良が淡い記憶を思い出す。

「あーあったなー」

「えっ、そんなのあったっけ?」

 ただ一人、博士だけはその記憶が全く無かった。

「えっ、ハカセ覚えてないの?」

「全く」

「なんとか思い出せよ」

 思い出せよと言われても、記憶に無いので思い出しようがない。

 しかし、案外簡単にそれは蘇った。

「あっ、思い出した。そん時俺時間の無駄だと思って英単語帳に時間費やしてたんだった」

「何やってんだよ!」

「先輩達のちゃんと見てよ!」

 部活動紹介の記憶は無かったが、おかげで英単語はしっかり身についた。

 ただ今回は自分達が紹介する番だと言うので、そう暢気な事も言っていられない。

「去年はどんなのだったんだ?」

 勿論去年の部活動紹介の中に、オカルト研究部も含まれていた筈だ。

「去年は斎藤先輩が一人で部活動について延々と説明してたよ」

「見てないけど目に浮かぶわ」

 一人ステージの上でガクガクに震えながら説明する斎藤の絵が、いとも簡単に頭の中で生み出されていった。

「じゃあ、今年もそんな感じでいいんじゃないか?」

 博士は面倒そうな心情を隠そうともせずに提案する。

「百舌先輩か千尋あたりが一人で説明すれば」

「却下!」

「あ?」

 博士の提案は千尋に問答無用で拒否された。

「何でだよ」

「一人でダラダラ喋ってても聞いてる方は楽しくないでしょ? 去年の先輩の説明全然面白くなかったもん」

「これ先輩聞いたら泣くだろうな」

「別に今年も一緒でいいだろ」

「ダメ! 私がそうはさせない!」

 博士の提案に穴があるような気はしなかったが、千尋は首を縦に振らなかった。

「……じゃあ、何するんだよ」

 嫌な気はしながらも、博士は目を細めて千尋に尋ねる。

 すると千尋は、顔を太陽の様に明るくさせて、それを口にした。

「劇!」

「却下」

「何で!」

 千尋の提案は博士に秒で斬られてしまった。

「劇なんて絶対寒いだろ。嫌だぞ、新入生に早々笑いもんにされるなんて」

「いいじゃん! 大爆笑の渦に巻き込もうよ!」

「とにかく俺は反対だから」

「いいえやります! 副部長の権限でやらせていただきます!」

「独裁者か! なんで副部長のお前が全部決めてんだよ!」

「別にいいんじゃない?」

 当の部長は、フィクションに夢中で部活動紹介などどうでもいいらしい。

 なんとか劇を止めたい博士が次の手を考えるも、千尋の独裁は進む。

「はい、これ台本ね!」

「もう用意してんのかよ!」

 千尋は一人一人に自作の台本を配り始めていた。

「おい! 俺は絶対やらねぇからな!」

「何言ってんの! ハカセも役あるんだからちゃんと台詞覚えてよね!」

「五月蠅ぇ! 誰がやるか!」

「ねぇちひろん。このシーンなんだけど……」

「あぁ、このシーンはね? 今までの悲しい経験を思い出して出た台詞で」

「あー成程」

「千尋、これ何?」

「花子ちゃん、話聞いてた?」

 博士の発言は、たくさんの声の中に埋もれていく。

 それを肌で感じた博士は、もう一度口を開いた。

「俺はやんねぇからな!?」

 しかし全員舞台に向けて必死だった。

「絶対やんねぇからな!?」

 博士が再三そう念押ししたが、その言葉が届いたかどうかは言うまでもなかった。


●○●○●○●


 そうして、現在に至る。

 一年生達の視線が一斉に集まるステージの上は、もぬけの殻だった。

 静かな体育館の中で、どこからか声が聞こえる。

『時は20××、今よりも少し未来の様な、少し過去の様な、そんな……時代――』

 ――どんな時代だよ。

 謎の天の声に、観客席は徐々にどよめいていった。

 そこに、ようやくステージの上に一人の少女が現れる。

「私の名前は零野花子。逢魔ヶ刻高校に通う、今をときめく女子高生」

 花子は無表情で自己紹介すると、ステージをキョロキョロと見回した。

「それにしても、夜の学校って怖いなー。どうしよう。怖いなー」

 ――えっ、なにこれ?

 ――誰?

 ――何部だっけこれ?

 ――てか演技下手くそだなこの人。

「早く帰りたいなー」

 ――帰れよ。

 感情なんて一切ない真っ新な演技に、観客席は口を閉ざしながらも心の中で批評の雨あられが降り続いた。

 そこに新たな姿が参上する。

「ハッハッハッハ! そこを待ちなお嬢さん!」

 登場したのは金髪に化け物染みた布を身に纏った乃良である。

「誰?」

「俺の名前はユーレイダー! この学校に住む幽霊だ!」

 ――ネーミングセンス。

「なぁ、お嬢さん。ちょっとこっちにおいでよ」

 乃良はそう言って、花子に一歩ずつ近寄る。

 それと対照的に花子は一歩ずつ後ずさるが、そこに恐怖の色は一切見えなかった。

「嫌だ、来ないで」

 ――あの人カンペ見てない?

「食べちゃうぞぉ」

 ――食べるの?

「嫌だ、来ないで」

「こっち来なお嬢さん」

 ――これ何見せられてるの?

 ステージの上で繰り広げられる寸劇に、観客達は目を逸らし出した。

「ちょっ、ちょっと待ったー!」

 そこに威勢のいい声が飛んできた。

 ステージの上ではヒーロー物のコスプレをした声の正体が、花子を乃良から庇うように立ち塞がっている。

「おっ、俺の名前はゴーストバスター! ユーレイダー! おっ、お前は俺が倒す!」

 ――またなんか出てきた。

 ――なんだあの変なコスプレ。

 ――ゴーストバスターとか言ってたけど。

 ――お兄ちゃん!?

 観客達が呆気に取られる中、一人だけ感情が剥き出しになった。

「箒屋さん、どうしたの?」

「えっ? いっ、いや、なんでもない……」

 隣の席の生徒にそう心配されるも、理子にはあれが自分の兄だと打ち明ける勇気が無かった。

 その間にも舞台は進行していく。

「ハカセ」

 ――おい今あの人全然違う名前言ったぞ。

 観客席の声がステージまで届くのを感じながら、博士達は演技に集中する。

「ゴーストバスター……、お前に俺が倒せるかな?」

「やっ、やってやるんだよ!」

 博士はそう言って戦闘態勢に入る。

「うおおおおおおおおおおお!」

 幽霊を討つべく、全身全霊を体に集めていく。

 しかしそこに、颯爽とステージを駆ける少女が突然現れ、

「てぇい!」

「ごふぁっ!」

 少女はゴーストバスターの顔面に右フックを入れた。

 ――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 息する暇を与えない急展開に、観客席は思わず一斉に目を見開いた。

 殴られた博士は、為す術無くステージの上に転がっている。

 全員の視線を攫う少女はポニーテールに謎の仮面と、どこか魅惑的な体つきをしていた。

「私の名前はゴーストマスター!」

 ――誰!?

 ――ゴーストバス……、えっ、ゴーストマスター!?

「ゴーストを愛し、ゴーストに愛された女!」

 ――知らねぇよ!

 ――つーかなんでさっきから全員自己紹介してんの!?

 ――流行ってんのか自己紹介!

 有無を言わせない展開に、観客席のどよめきも大きくなる。

 そんなのはお構いなしで、千尋は台本通りの物語を演じていった。

「ユーレイダーさん。あなた本当は、この子とお友達になりたかっただけなんじゃないの?」

「!」

 千尋の言葉に、乃良は胸を撃たれる。

「……そっ、そうだ。俺はその子と友達になりたくて」

 ――いや食べちゃうぞとか言ってなかったか?

 乃良が正直に告白すると、千尋は薄ら微笑んだ。

「幽霊だからって、怖がる必要はない。幽霊だってたくさんいる。悪い幽霊もいれば、優しい幽霊だっている。それは、人間も一緒。だから私達は、幽霊とだって友達になれるんだ!」

 千尋が乃良と花子の真ん中に立つ。

 乃良は花子に、ゆっくりと手を差し伸ばした。

 花子はじっと見つめたままだったが、しばらくして乃良の手を取る。

 二人の手は、千尋の前に重なった。

「全ての人間と幽霊が友達になる! それが私の夢なんだ!」

 高らかに叫ばれた千尋の夢は、体育館中に響いた。

 それまでざわめいていた観客席も、ただ単純に千尋に目を奪われてしまう。

 そこに、ステージの脇からひっそりと人影が出てきた。

 ――?

 長身長髪という如何にも無視できないその人影は、とある立ち位置まで来ると、マイク片手に口を開いた。

『えー、我々オカルト研究部は、この学校に関わる怪奇について研究しています。先輩後輩関係無く仲が良く、アットホームな部活で』

 ――ここにきて部活動紹介!?

 百舌の口から出てきたのは、典型的な部活動紹介文だった。

 ――えっ、結局なんなの!?

 ――さっきまでの茶番必要だったの!?

 ――何だったんだこの部活!

 前座の劇のおかげで、百舌の説明が全く耳に入ってこない。

 それよりもステージの中心に残る千尋、乃良、花子、そして寝転ぶ博士の方に注目がいった。

 一年生達に動揺を残したまま、オカルト研究部の紹介は幕を下ろした。


●○●○●○●


「だから嫌って言ったんだ!」

 その日の放課後、部室からは大きな怒号が轟いた。

「感じたか!? あの凍り付いた視線! 予想通りに、いや予想以上にスベってたじゃねぇか!」

「うん……、ごめん」

「第一印象最悪じゃねぇか! どうしてくれんだよ!」

「まぁ楽しかったからいいじゃねぇか」

「楽しくなかったよ!」

 余程鬱憤が溜まっているようで、博士の怒号が収まる気配はない。

 ただ一同流石に心に傷を負ったようで、博士を止める人間は誰一人いなかった。

「こんなんじゃ新入部員一人も来ねぇぞ!? 来たとしてもそれは余程のオカルトマニアか、もしくは相当の変人しか」

「頼もう!」

「「「「「!?」」」」」

 博士の怒号を遮って聞こえてきたドアを開け放つ音に、一同は一斉に振り返った。

 開けっ放しになったドア。

 その先には、二人の影が見えた。

「こちらがオカルト研究部の部室で間違いないですか?」

 明るい髪色をしたツインテールの少女。

 奥には前髪をパッツンと切った黒髪の少年が、こちらに微笑みかけている。

「えーっと……、そうだけど」

 部員を代表して、千尋がそう答える。

 ここがオカルト研究部の部室と確信すると、少女はこちらにへりくだる様子もなく宣言した。


「私達、入部希望者ですけど」


 時代は移り変わる。

 この二人は余程のオカルトマニアなのか、それとも相当の変人なのか。

 いずれにせよ、オカルト研究部に新たな風が吹き始めた事は間違いなかった。

新入部員登場!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


新学期になったという事で、部活物で外せないのはやはり部活動紹介だと。

という事で、今回は部活動紹介の話になりました!


さて、オカ研はどんな紹介をしようと考えまして、割と早い段階で寸劇に決まりました。

寸劇は作りやすいし、書いてて楽しいんですww

そこからキャストを割り当てていって、後はキャストが自由に動いてもらえれば寸劇の完成です。

ハカセも演者に回ってもらったので、ツッコミは観客に任せてもらおうというのも、今回のテーマの一つみたいなものでした。

結果いい感じに意味不明になって、僕は大満足です!

心残りがあるとすれば、ついこの前寸劇みたいな回をして、テーマが被ってしまった事でしょうか。


そして、最後に現れた新キャラ!

その正体は、次回明らかになる事でしょう!

これは目が離せない!ww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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