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【147不思議】The advent of a new age

 朝の歌声が聞こえてくる。

 窓越しに耳を傾けながら、博士はまだ眠気眼な目を、眼鏡を避けながら擦っていた。

 階段を下りると、いつものリビングに見慣れない景色が映る。

「あっ、お兄ちゃんおはよ!」

 理子が気付いてこちらに声をかけてくる。

「……おはよ」

 博士は適当に返しながら、違和感に納得した。

 見慣れた理子が見慣れた学校の制服を身に纏っているだけというのに、それだけでこうも印象が変わってくるものだろうか。

「お前入学式昼からだろ? なんで今から着てんだよ」

 本日の日程は午前に始業式、午後に新入生の入学式だ。

 まだ午後まで随分時間はあるが、理子は今すぐにでも出て行く準備は万全のようだ。

「べっ、別にいいでしょ!?」

 この調子では、昨日もろくに寝られていないのだろう。

 博士は呆れながら朝食の前に移っていく。

「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

 会話は終わったと思ったが、理子の声に博士が振り向く。

「……どう?」

 理子はそう言って、博士に自分の姿を見せた。

 つい先日まで中学生だった理子が、気付けば自分と同じ制服に袖を通している。

 しかし簡単に返答できるのが、博士ではなかった。

「……どうって言われても」

「いいから!」

 正直理子も、ただ誰かに見て欲しいだけだった。

 博士は面倒臭く思いながらも、流し目で理子を観察していく。

「……まぁ、いいんじゃねぇか?」

 取ってつけたような感想。

 しかしいつもの博士を思い出せば、良く出来た感想ではないだろうか。

 すぐに朝食に手を伸ばした博士に、理子は呆れながらも、フッと口元を緩ませる。

「……合格!」

「何に受かったんだよ」


●○●○●○●


 朝食も簡単に済ませ、博士は学校へと向かった。

 天気は入学式日和の快晴で、桜も新入生を祝う様に散りついている。

 ただ博士がそんな景色を拝む訳もなく、目を瞑って大きな欠伸を垂らしながら歩いていた。

「あっ! ハカセー!」

 校門付近まで来ると、そんな声が飛んでくる。

 目を凝らすと、千尋がポニーテールと右手、おまけに胸を揺らしてこちらに駆け寄っていた。

「おはよ」

「おぅ」

 二人は肩を並べて、目的地へと歩いていく。

「ハカセ寝不足?」

「まぁな」

「どうせ夜遅くまで予習復習でもしてたんでしょ」

「よく分かったな」

「やっぱり」

「そういうお前は春休みの課題諦めて朝までぐっすりか?」

「よく分かったね」

「もうちょっと頑張れよ」

 他愛ない会話をしながら、校門を潜って昇降口を目指す。

「……もう、あれから一年経ったんだね」

「……あぁ」

 この学校に入って、一年。

 オカルト研究部に入れられて、千尋や他の部員と知り合って、花子に告白されて、もう一年だ。

 早かったような、長かったような、そう簡単に言える感覚ではなかった。

「今年は同じクラスだといいね」

「嫌だ」

「えぇ!?」

 突然裏切られて、千尋は声を上げる。

「なんで!? ハカセは同じクラスになりたくないの!?」

「当然だろ。なんで教室までお前らに振り回されなきゃなんねぇんだよ」

「一緒がいいでしょー!?」

「部活でどうせ会えるだろ」

 千尋の抗議を垂れ流していると、昇降口の目の前までやってきた。

 そこには既に人だかりが出来ており、ちらほらと見知った顔が確認できる。

「おーい! ハカセー! ちひろーん!」

 聞き覚えのある声が飛んできて、博士は目を向ける。

 群衆の中でも、金髪の乃良とおかっぱ頭の花子は、すぐに見つかった。

「おはよ!」

「おぅ」

「ねぇ聞いてよ花子ちゃーん!」

「おはよう」

 春休み明けの学校だったが、この四人は春休み期間もよく会っていたので特に新鮮味はない。

 すると乃良が、博士にひっそりと耳打ちする。

「ほら、クラス分けもう発表されてるぜ」

 乃良の声に、博士は顔を上げる。

 人が有象無象に集まっているその中心地には、何やら数枚の紙が張り出されているのが分かる。

 どうやらこの人だかりは、それを確認する為に出来たもののようだ。

 博士も中に混じって、その紙を確認する。

 瞬間、博士の顔が引きつった。


「やったー! 花子ちゃんと同じクラスだ! 乃良も、ハカセも! 全員同じクラスじゃん! そんな事ある!? きっと運命だよこれは!」


 後方で確認した千尋が盛り上がっているのが聞こえる。

 そう、千尋の言った通り、オカ研四人衆が全員同じ二年A組に配属されていた。

 博士の願いは全て裏目に出てしまった。

 しかし博士は運命のイタズラと恨む筈もなく、隣の乃良を睨みつける。

「……お前、なんかやったろ?」

 そう言われ、乃良は目を見開いた。

「……別に?」

 しらを切って見ようと思ったが、博士の眼力が衰える様子はない。

 乃良はあっけらかんとした態度のまま、事の顛末を白状する事にした。

「ただ……」


●○●○●○●


「なー校長先生ー、俺達オカ研の二年生全員同じクラスにしてくれよー」

「なっ、なんでそんな事しなくちゃいけないんだ! そんな事出来る訳ないだろ!」

「あぁ? 何だその態度は」

「ひぃ!」

「こちとらタタラから全部訊いてんだぞ? 校長先生が生徒だった時のあんな事やこんな事……」

「解った! 解ったから! なんなんだお前達は!」


●○●○●○●


「なんか聞いた事あんなこんな展開」

「ん? そうだっけ?」

 既視感ならぬ既聴感のある、脅迫まがいの交渉。

 やはりクラス替えに乃良の陰謀が隠れていた事を確信しながら、一同は新しい教室にやってきた。

 ここから一年通う、二年A組。

 間取りは昨年と全く同じ筈だが、教室からは新鮮さが漂っていた。

 黒板に張り出された出席番号順の席を確認し、博士は自分の席に腰を下ろす。

 早速荷物を整理しようとしたその時、博士に声が投げられた。

「おーいハカセー!」

 博士は声のした方へ顔を向ける。

「また同じクラスだな! 一年間よろしく!」

 旧知の仲の様に気さくに話しかけてくる男子生徒。

 しかし博士には、一つ疑問があった。

「……誰?」

「えぇ!?」

 博士の率直な疑問に、男子は相当ショックを受けたようで身を仰け反らせた。

「おいおい正気か!? 一年間同じクラスだっただろ!?」

「ごめん、全然覚えてない」

「嘘だろ!? 俺だよ俺俺!」

 詐欺の様な文面を並べた後、男子は自分の名前を口にする。

櫻井(さくらい)だよ!」

「誰だよ」

 名前を名乗られ、博士は更に分からなくなった。

「本気で言ってるのか!? 第八話の林間学校で一緒にスタンプラリーしたり、第五十八話の文化祭でお前に料理の盛り付け方怒ってたあの櫻井だよ!」

「簡単なあらすじ紹介ありがとう」

 あらすじと揶揄されてしまったが、櫻井は必死に思い出を熱弁していた。

 その甲斐あってか、薄らだが博士も櫻井の影を思い出していた。

 そこに新たな声がかかる。

「おっ、ハカセじゃーん!」

 振り返ってみると、やはり知らない顔である。

「誰だよ」

「えー分かんない? ひっどいなー」

 本当に傷ついているのか分からない気ままな態度で、男子は自分を紹介していく。

「第九十六話で鬼塚にスマホ没収された坂崎(さかざき)だよ!」

「違うクラスじゃねぇか。分かる訳ねぇだろ。ていうかお前はなんで俺の事知ってんだよ」

「えっ、だって有名人だし?」

「おっ! 坂崎じゃーん!」

「おっ、乃良! また同じクラスだな!」

「よろしく頼むぜー!」

 乃良に気付いた坂崎は、そのまま乃良のもとへ移動して何やら楽しそうに立ち話をしている。

 ようやく静かになったと博士は荷物の整理に戻ろうとした。

「よっすハカセー!」

「もうなんなんだよ次から次に!」

「えぇ!?」

 引っ切り無しに湧いて出てくる登場人物に、博士の堪忍袋の緒がプッツリと切れた。

「誰なんだよもう!」

「何言ってんだよ! 俺だよ俺!」

「だから知らねぇって言ってんだろ!」

 名前を聞かなくとも、その存在が自分の頭にない事は明白である。

高見沢(たかみざわ)だよ!」

「THE ALFEEかお前ら!」

 聞いた事のある三人の名前の羅列に、博士はそう叫ばざるを得なかった。

 高見沢と名乗った男子は、そのまま博士との思い出を語っていく。

「覚えてねぇのか!? 第十七話の球技大会で同じチームだったり、第三十二話で一緒に移動教室まで行ったり、第九十九話で宿題見せてくれって頼んだり、第百三十二話でバレンタインチョコ貰えずに嘆いてたり、あと第百三十」

「お前結構出てんな!?」

 どうやら彼は、この作品の準レギュラーだったのかもしれない。

 しかしどうにもしっくり思い出せはしなかった。

「まっ、これからまた一年間よろしくな!」

「うっ!」

 そう言って高見沢は博士の背中を思いっきり叩く。

 その衝撃で、背負った不安が吹き飛んでくれれば楽だったのだが、どうもそう簡単にいかないらしい。

「……大丈夫かこのクラス」

 溜息交じりに独り言が漏れる。

 どうやら今年も静かに勉強という夢は叶いそうにない。

 一つ夢を打ち砕かれて項垂れる博士に、一人の視線が突き刺さる。

 離れた席で見守っていた花子。

 ――………。

 今年も博士と同じクラス。

 そう想像したからか、不意に花子の頬が緩んだような気がした。

 しかし誰の視線に捕まる事なく、頬は固く引き締まる。

 博士、花子、乃良、千尋、ついでに櫻井、坂崎、高見沢。

 オカルト研究部の勢揃いになった新しい教室に一体何が待ち受けているのか、この時は誰も分からなかった。

 ただ、楽しい未来を想像するばかりである。

二年生になりました。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回から新学期!

ということでハカセ達も二年生に進級となり、マガオカ新シリーズスタートといった感じですかね!


今回は始業式ということで、クラス替えに重点を置いた回になりました。

二年生が全員同じクラスになるというのは、案外早い時点で決めていた事です。

勿論偶然ではなく、多々羅譲りの交渉術でww

と、折角の新クラスなので他のモブ達も同じクラスにしようと、今まで燻っていたモブ達が一斉に名乗りを上げる事になりました。

これは全員同じクラスよりは後に決まった事なので、モブ達の設定は後付けですww


クラス替えはどの時も緊張するものでしたね。

高校生は二年生から文系・理系に分かれたのである程度予想できましたが、それでも仲の良い友達と同じクラスになれるか、いつもドキドキでした。

ちなみにマガ高はクラス分けで文理を区分する学校ではないという設定です。

というか、そこまで頭回らなかったww


さて、新たな学年となったハカセ達!

クラスだけでなく、オカ研も新たな展開を迎えますよ!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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