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【014不思議】美しき姫には棘がある

 正午過ぎ、南に構えた太陽が覗く学校の中庭にはたくさんの生徒達の姿が見られた。

「……お前ら、毎日パンだよな」

 購買のパンを食べている花子と乃良を見ながら、博士はそう言って弁当を口まで運ぶ。

 今日は水曜日でなく、千尋の姿は無かった。

「何だよ。美味いぞパン」

「いや、美味いんだろうけど……」

 食べかけの惣菜パンを掲げる乃良に、博士は口を開いた。

「毎日パンっていうのはあんま良くねぇだろ。たまには弁当食わねぇと栄養偏るぞ」

 そう言って水筒に入っているお茶を飲みだした博士を、乃良はポカンと見つめる。

「……何、心配してくれてんの?」

「違ぇよ!」

 思わず吹き出しそうになったお茶を、博士は何とか抑える。

 そんな博士の事など知らないといったように、乃良が立て続けに話し出した。

「なー、そんなに言うんだったら俺の分も持ってきてくれよー」

「何で俺の母さんがお前の分まで弁当作んなきゃいけねぇんだよ! 自分の親に頼め!」

「えー、ケチー」

「ハカセ、私お母さんいない」

「お前は栄養とか関係無ぇだろうが!」

 まるでコントの様な空気に乃良が笑っていると、ふと何かに気付いてそちらを見つめた。

「……ハカセ、あれ」

「?」

 乃良の言葉に博士も追って目を向けると、思わず目を丸くする。

 その瞳に映ったのは、部活でしか見た事のない西園と男子生徒が談笑しながら、窓越しに廊下を歩いている姿だった。

「西園先輩……だよな?」

「隣にいるのって……」

 口をもぐもぐとさせながら物思いに耽る二人。

 二人共、西園と一緒にいる男子生徒に見覚えがあったのだ。

「……生徒会長?」

 博士の疑問符混じりの言葉に、乃良は視線をバッと博士の方へ向ける。

「そうだ! 生徒会長だ!」

 黒縁眼鏡にピシッと整えられた制服、その姿は集会などで度々見かけた生徒会長そのものであった。

 しかし、男子生徒の正体が解ったところで、また新たな事例が発生する。

「……でも、何で西園先輩が生徒会長と一緒に?」

 乃良と全く同じ疑問を持っていた博士は、再び頭を悩ませた。

 チラリと西園の方へ目をやると、二人は掲示板に何かを張っている様子だった。

「もっ、もしかして、そういう事なんじゃない!?」

「はぁ? そういう事って?」

 いきなりテンションの上がっている乃良に、博士は厳しい視線を向ける。

「そういう事はそういう事だよ!」

「解んねぇよ、ちゃんと言え」

「だーっ! 何で解んねぇんだよ!」

 いつの間にか昼食も中断して騒いでいる二人を眺めながら、花子はコッペパンを口に含ませた。

 しっかりと噛み締めて、今度は西園の方へと目を向ける。

「……知らないの?」

「「え?」」

 突然の花子の声に二人は目を向けると、花子は淡々と答えを口にした。


「美姫、副会長だよ」


●○●○●○●


「えっ……、知らなかったの?」

「全く」

 放課後、部室の畳スペースにて、博士と乃良は西園を前に正座を組んでいた。

 畳スペースで寛いでいた西園に真実を尋ねたところ、事実である事が判明し、どこか申し訳ない感情に突き動かされ、今に至る訳である。

「んー、集会もたまに進行とかしてるし、知ってると思ってたんだけど……。なんか、ちょっと残念」

「「すみません」」

 西園が微笑んで言った言葉に、二人はいよいよ土下座してしまった。

 突然の光景に慌てる事は無く、西園は「良いよ別にー」と無邪気に笑ってみせた。


 西園美姫は学園のマドンナである。

 お人形の世界からやって来た様な美貌、長く艶のある黒髪、雪の様に穢れを知らない白い肌は、その名前を冠するに相応しかった。

 その笑顔は幾人もの男子のハートを撃ち抜き、彼女が高校に入ってから告白されて回数は数知れない。

 その上成績もよく、逢魔ヶ刻高校生徒会副会長を務める程の器量もあった。

 異性同性両方から愛される、正に理想の女子高生像である。

 ちなみに、今彼女には恋人がいないだとか、その真実は彼女のみぞ知る――。


「ていうかミキティ先輩」

「ミキティ!?」

 突如放たれた西園のあだ名に博士は慌てて隣を振り向くが、呼ばれた本人は全く気にしてないようだ。

 いつの間にか胡坐に足を直していた乃良は、博士を気にする事無く質問を口にする。

「ミキティ先輩って何でこの部活に入ったんすか?」

「あっ、それは俺も思ってた」

 乃良の質問に、博士が後に続く。

「いや、斎藤先輩からは聞いたんですけど、西園先輩は何でかなって。西園先輩、そんなオカルト好きって感じでも無さそうだし……」

 確かに学園のマドンナである西園にオカルト好きという印象は無く、むしろそういうのとは離れたところにいるという印象だった。

 西園はしばらく考え込んでいると、眉を吊り上げて、口元に人差し指を添えた。

「……皆には内緒にしてね」

「いや、普通に皆いますけど」

 慎重に話す西園だったが、博士は皆のいるテーブルの方を確認してそう言った。

「部活の皆は良いの」

 博士の冷静な態度に負けず、西園は慎重な声のまま話を続ける。

「私……」

 掠れそうな程小さな声で、しかしはっきりと西園はそれを口にした。


「宇宙人なの……」


 刹那、三人の間に必然に静寂が訪れた。

 博士と乃良の引きつった顔とは真逆に、西園は真剣な表情で二人を見つめている。

「……に、西園先」

「あっ、一応言うけどこの前多々羅君が言ってたみたいな事じゃないからね? ちゃんと宇宙船に乗って来たから。地球から約三億光年くらい離れたところにある小さな星なんだけどね。名前はアマノガワンダーシティって言」

「西園先輩!」

 ベラベラと語り出した西園を、博士は無理矢理現実に引き戻した。

「何ですかその謎設定!」

「何か変なとこ妙に凝ってるし!」

「えへっ、面白いでしょ」

 そう言って笑う西園に、二人は思わず溜息を吐く。

「地球に来た理由は資源調達の為。今アマノガワンダーシティは資源不足に陥っていて滅亡の危機なの。復興の為には別の星から資源を調達するしかない。そこで王国直属の宇宙調査団『キューティーオトヒメ』である私が資源を取りに来た」

「ちょっと待って続けるの!?」

 まるで暴走機関車の様に再び暴れ出した西園の設定に、博士は何とか止めようとする。

「だって、二人にちゃんと真実を伝えないと……」

「あっ、まだバレてないと思ってるんすか!?」

「バレバレだから! 最初からバレバレだから!」

 怒涛の勢いでツッコむ博士と乃良に、とうとう西園の暴走機関車は停止した。

 しかし、西園の顔を見て、二人は揃って目を疑う。

 さっきまで笑顔だった西園の目からは、一縷の涙が頬を伝っていた。

「やっぱり……、貴方達も信じてくれないのね……」

 ――え―――。

 突然の出来事に二人はどうしていいのか解らず、二人はただじっと西園を見つめる。

「多々羅君や花子ちゃんは信じるのに……、何で私は信じてくれないの?」

「いや、別にあいつらも信じてないんだけど……」

 西園の今にも消えそうな声に、博士は困った表情でそう言い返した。

 すると、博士は隣にいる乃良の様子が変化するのに気が付いた。

「……すみません、信じてやれなくて」

 ――えっ、お前そっちに行くの!? 勘弁してくれよ!

 西園に釣られてどこか悲しんでいる表情をしている乃良に、博士は心の底で反響する程に叫ぶ。

「良いよ、別に」

「いや、間違ってたのは俺らなんすよ。考えてみれば、幽霊や巨人がいるのに、宇宙人がいないなんて有り得ないですもんね」

 ――幽霊も巨人も宇宙人も全部有り得ねぇんだよ!

 博士はそう叫びたかったが、そんな雰囲気でもなく、その感情は心の隅に仕舞われる。

 すると、耐え切れなくなった様に西園がプッと息を吐いた。

「まぁ、冗談なんだけどね」

「ですよねー」

「何だったんだよ今の!」

 さっきまでのシリアスな空気は風に飛ばされ、二人の顔にいつもの笑顔が舞い戻ってきた。

「でもなかなか良かったでしょ? 私の宇宙人設定」

「良くないですよ! 何ですか『アマノガワンダーシティ』って! 星なのにシティって!」

「宇宙調査団『キューティーオトヒメ』もなかなかっすよ! 何で宇宙調査団そんなにキャピキャピしてんすか! 俺だったら『アストロドッグス』とか」

「何でお前はアドバイスしてんだよ!」

 二人が西園の設定を正面から否定していくと、西園はあからさまにショックそうな態度を見せる。

「えー……、授業中一生懸命考えたのに……」

「アンタ授業中に何考えてんだ!」

 西園の衝撃発言に、博士はそう叫ぶと呆れて溜息を吐いた。

「こんな人が生徒会副会長なんて……、この学校大丈夫かよ」

「あ、そういう事言っちゃうんだー」

 博士の皮肉混じりの言葉に、西園は少し頬を膨らませる。

「あっ、そういえばこんなのがあるよ」

 西園はそう言うと自分の鞄をまさぐり始め、一枚の写真を取り出した。

 何の写真なのかと、二人は前のめりになってそれを覗く。

「ハカセ君と花子ちゃんの、林間学校の帰りのバスのしゃし」

 みなまで言う前に博士はその写真を取り上げ、クシャッと握りしめてしまった。

 皺のたくさんできた写真には、花子が博士の肩でぐっすりと眠っているバスでの光景が鮮明に映されていた。

「わっ! ちょっと俺まだ見てないんだけど!」

「何でアンタこんなの持ってんすか!」

 乃良の訴えなど気にもしない様子で慌てて声を張り上げる博士に、西園は笑顔のままマイペースに答える。

「何でって、生徒会だから?」

「生徒会だからって普通こんなの持ってないでしょ!」

「いやー、ベストショットだったから花子ちゃんにあげようと思って」

「あげなくていい!」

「なー、だから俺まだ見てないんだって」

「見なくていい!」

 西園と乃良に向かって、博士は嫌な汗を感じながら大声を上げる。

 そんな焦っている博士に西園は清楚に笑うと、いつの間にか逸れていた本題へと話を戻した。

「まぁそういう訳で、私は普通にオカルトが好きでこの部活に入ったんだよ」

 笑顔でそう答える西園に、博士はまだ納得がいっていない様子で不服そうな顔をしている。

「……前から思ってたんすけど」

 乃良はそう前置きをすると、笑顔に少しの呆れを混ぜて言葉を零す。

「ミキティ先輩って不思議ちゃん?」

「それでいてかなりのサド」

「もーやめてよー」

 後輩二人からの容赦無い指摘に西園は特に怒る様子もなく、逆にどこか照れたような笑顔を見せた。

 すると西園はコロッと表情を変えて口を開く。

「あっ、じゃあもう一個聞いてもらおうかなー」

「「?」」

 あまりにも突飛な西園の発言に二人は首を傾げると、西園は既視感を覚える慎重な声でそう言った。

「実は私……、天使なの」

「「もういいよ!」」

 西園の全てを聞く素振りも見せず、二人の揃った叫び声が部室の壁を振動させた。

 学園のマドンナこと西園は、そんな二人を見て相も変わらずに誰もが心奪われる笑顔を見せていた。

学園のマドンナは、オカルト好きのドS不思議ちゃんでした。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


林間学校編、GW編と一年生がメインの話が多く、先輩達の紹介ができていなかったので、西園さんの紹介回となりました。

西園は学園のマドンナと謳われる程の存在なのに、ドSで不思議ちゃんという少女漫画には決して向かないようなキャラです。

作者である僕にも彼女の真意が解りませんww

一体彼女は何を考えているのか……、作中でそれが明らかになるのか、する予定もありませんがww、これからもサディスティックな西園さんにご注目ください!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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