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【013不思議】オカルト嫌いのオカルト研究部員

 SHR終わりの放課後は、連休明けだからかどこか懐かしく感じられた。

 教室をそそくさと出てそれぞれの目的地へ歩き出す生徒達、当然博士もその中に紛れ込んでいた。

 そんな博士を見つけると、廊下で待っていた乃良が鼻を鳴らす。

「へっへー、今日も部室に来てもらうぜ、ハカセ……って、あれ?」

 どこかのゲームのライバルかの様に放った乃良の台詞を、博士は目を合わせようともせずに躱した。

 博士はそのまま乃良の隣を通り過ぎて歩いていく。

「……おーいハカセー。そっちは部室だぞー」

 そんな乃良の言葉も届いていないのか、博士が振り返る事は無かった。


 博士が進んでいった先には、背中を壁につけてどこか格好をつけている様子の多々羅の姿が見えた。

「ふっ、久しぶりだなハカセ。さぁ、久しぶりの部活といこ」

 多々羅の台詞を皆まで聞かずに、博士は多々羅の隣を通り過ぎていく。

「おい! 本当に久しぶりなんだぞ! 登場するの六話ぶりなんだぞ!」

「何言ってんの?」

 博士の背中に向かってそう熱弁する多々羅を、後ろからやって来た乃良が奇怪なものを見る目で眺めている。

 しかし、そんなやり取りも博士は目もくれずに歩いていった。


 そのまま博士は心地の良い音を立てながらオカルト研究部のドアを開けると、椅子に堂々と腰を下ろした。

 部室は異様な静けさに包まれており、博士は訝しげな目で辺りを見回す。

「……何だよ」

 先に部室の中にいた部員達は博士を物珍しく眺めており、一種の鑑賞の様な状態になっていた。

「お前、どうしたんだよ。普通に部活来て」

 博士の後に続いてやって来た乃良がドアの向こうからそう言うと、博士は不機嫌そうに言葉を返す。

「あぁ? ダメなのかよ」

「いや、んな事言ってねぇだろ」

 乃良の返答に博士は居心地の悪そうな顔をすると、渋々と口を開いた。

「……俺はオカルトなんて認めやしない。この世界の物事は全て学問で証明する事が出来る。オカルトとかの学問で証明できないものはこの世に存在しない」

「まーたバカな事言って」

「だから俺が証明する事にしたんだ」

「?」

 一同は訳が解らず、部室に再び静寂が襲いかかった。

「花子とか、そこの巨人とか、この学校の七不思議の意味の解んねぇオカルト連中を俺が証明してやる事にしたんだよ。その為には七不思議に一番身近なこの部活に身を置いといた方が何かと都合が良いだろ? だから部活に通う事にしたんだよ。悪いか」

 思考の停止している部員達の事など知らず、博士はそう言い尽くした。

「……ハカセってさ」

 辛うじて声の出た千尋が、隣にいる乃良に対して尋ねる。

「実はツンデレ?」

「あっ、気付いた?」

「誰がツンデレだ!」

 二人の話し声に博士が大声を上げると、静かに聞いていた斎藤が柔和な笑みを浮かべる。

「そっか、それじゃあこれからもよろしくね」

「……うっす」

「つーか誰がそこの巨人だ! ちゃんと多々羅先輩って呼べ!」

「はいはい、多々羅先輩(笑)」

「(笑)付けんなゴルァ!」

 いつもの様に騒がしくなってきた部室に、西園から博士に向かって質問を投げかけられた。

「でもハカセ君、どうしてそんなにオカルトが嫌いなの?」

「はい? だからオカルトは学問で証明できないから」

「でも、学問で証明できないものが少しくらいあった方が面白いと思わない?」

 予想外の質問に、博士は言葉に詰まってしまう。

「そーだそーだ! バーカバーカ!」

「五月蠅い黙れ!」

 ここぞとばかりに身を乗り出した千尋を博士は軽くあしらうと、西園が変わった切り口から博士に質問した。

「じゃあ、オカルト話はどこまでなら信じる?」

 西園の質問に周りの部員達は、「おっ! 良い質問だ!」「どうなんだー!」とヤジを飛ばし、まるでスポーツ観戦をするかの様に盛り上がっている。

 一方の博士は、かなり悩んでいた。

「んー……」

「例えばぁ……、幽霊とかは?」

「有り得ません」

「!」

 博士がそう即答すると、花子の傍にいた千尋が過敏に反応した。

 当の幽霊はというと、いつも通りの心ここにあらずといった表情である。

「ちょっとハカセ! もうちょっと言葉考えなさいよ!」

「知るかよそんなの! 何が何だろうと俺は幽霊なんか信じねぇんだよ!」

 博士は千尋にそう言い切ると、続けざまに幽霊に関する持論を口にする。

「大体死後の世界なんてある筈無いだろうが。天国も地獄も、死後の世界を恐れた昔の人間達が勝手に想像して作った仮想の世界だ。幽霊なんてもっての外。生前の未練なんかで幽霊なんかになられて堪るかよ」

「止めて! 彼女のHPはもう0よ!」

 千尋は花子の耳を自分の両手で塞いで、そう博士に訴えかけた。

 しかし、花子のHPが削られている様子は無く、現在の状況を呑み込めていないようだ。

「ハカセ君、言い過ぎよ」

「いや、元はと言えばアンタが言わせたんでしょうが」

 博士のツッコミに西園が反応する事は無く、西園は次の質問へと移っていった。

「じゃあ宇宙人は?」

「いる訳ないじゃないですか」

 博士は迷う事無くそう言い切り、今度は宇宙人に関する持論を並べ立てていった。

「良いですか? 僕らが今いる地球というのはたくさんの奇跡の上に存在しているんです。太陽、水、空気、それらの恩恵の下、僕ら生命体はこうして生きているんです。そんな奇跡、宇宙がどんなに広くったって、そうそうあるもんじゃないっすよ。例えいたとしても、それは遥か何光年先。僕らの目の前に現れるなんて有り得ません」

 長々と博士がそう演説をすると、多々羅がニヤリと笑ってみせる。

「フン、甘いな」

「あぁ? 何が」

 博士が不機嫌な顔で多々羅を睨むと、多々羅はそんな事気にせずに堂々と口を開いた。

「俺は宇宙人に会った事がある!」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!」

 突然のカミングアウトに千尋が多々羅に身を寄せた。

「本当ですかそれ!」

「あぁ! 本当だとも!」

 多々羅はそう言い切ると、空気をピリつかせる様な表情に変え、真剣な声色になる。

「その宇宙人は……」

 多々羅は腕を徐々に上げていくと、目の前のとある人物に向かってビシッと指を差した。

「お前だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 指を差された博士は、間の抜けた表情で溜息を吐く。

「はぁ、どうせそんな事だろうと思っ」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「何でお前は信じてんだよ!」

 心底驚いている様子の千尋に博士がそうツッコむと、千尋はボロボロと言葉を漏らしていく。

「だっ、だって、ハカセ変だし、宇宙人だって言われてもおかしくないかなって……」

 未だ余韻が残っているのか少し震えている千尋に、博士は怒りが溜まっていき、違う意味で震えだしていた。

「まっ、ハカセが宇宙人っていうのは、俺らも結局宇宙に住む宇宙人なんだぜっていう意味な」

「んなこた解ってんだよ!」

 博士はそう声を荒げるも、多々羅はあっけらかんとした様子で口を開く。

「でもハカセ、宇宙人も信じねぇんだとしたら、UFOはどうすんだよ」

「あぁ? そんなの無いに決まってるじゃないですか」

 博士の迷いの無い言葉に、千尋が再び声を上げた。

「えー!? アンタUFOも信じないの!? 何で!?」

「当たり前だろ! あんな宇宙を高速で移動する乗り物なんて無いに決まってんだろ! 大体、誰が操縦してんだよ!」

「宇宙人だよ!」

「だから、宇宙人はいねぇって言ってんだよ!」

 二人の言い争いは止まる事を知らず、千尋が負けじと博士に叫び声を浴びせる。

「UFOは映像とか写真にいっぱい写ってるの! それはどう説明するの!?」

「映像やら写真に色んな細工が出来るご時世だ。そんなのガセに決まってんだろ!」

 言い争いの中、今まで静かにしていた斎藤が思い出したように口を開く。

「あっ、そういや僕UFO見た事あるよ」

「「えっ!?」」

 斎藤の言葉に二人は口論を止め、揃って斎藤の方へ首を向けた。

「中学生の時にね、下校中にふと空を見たら、真っ暗な中に何か光っているものがスーッと移動しててね……」

「それ飛行機」

「僕、怖くなっちゃってさ。逃げようとしたら自転車置き場にぶつかっちゃって全部倒しちゃって」

「ビビリ過ぎだろ!」

 中学時代の斎藤を想像しながら博士がそう声を荒げると、多々羅は腹を抱えて笑い出した。

「ハハハハッ! バカだなー優介。んなもん常識的に考えて飛行機に決まってんだろ!」

「アンタが常識を語んな!」

 非常識な巨人のその言葉に博士が苛立ちを覚えていると、今度は西園が口を開く。

「で、大分話が脱線してきちゃったけど、ハカセ君はどこまでなら信じるの?」

「………」

 博士はそこで黙り込み、その議題について考え込んだ。

 博士の表情は真剣で、必死にその答えを導き出している事が容易に解る。

 やがて博士はポツリと答えを漏らした。

「……マジック?」

「「「「オカルトじゃねぇじゃねぇか!」」」」

 博士の回答に、オカ研部員達が荒れる波の様な勢いで博士に流れ込んでいった。

「手品じゃねぇか! ただの手品じゃねぇか!」

「オカルトじゃないよ!? 芸だよ!?」

「種も仕掛けもありありだよ!」

「そりゃ信じるわ! やろうと思えば誰でも出来るっての!」

「あぁもう五月蠅ぇな!」

 博士は一斉に浴びせられる暴言達に耳を塞ぎつつ、それを押さえつけるように叫ぶ。

「とにかく! 俺はオカルトなんか信じねぇんだよ!」

「そんなんで証明なんて出来るか!」

「五月蠅ぇ! やるって言ったらやるんだよ!」

 静寂から始まった久しぶりの部活はいつの間にかどんちゃん騒ぎになっており、部室は叫び声やら笑い声やらで溢れ返っていた。

ハカセはオカルトが血を吐く程に大嫌いなんです

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


林間学校、GWを経て久しぶりの日常回になりました。

林間学校でハカセが部活に行く事を決めてから、初めてハカセが部活に行く回だったので、それをメインに書いた話です。


僕もオカルトは嫌いというか信じないタイプなので、ハカセの意見は割と自分の意見も入っています。

フィクションとしては大好きなんですけど。

信じられるのは宇宙人だけなので、オカルト真っ向否定のハカセとは少し毛色が違います。

UFOを信じないのは一緒なんですけどね。


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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