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【122不思議】人生奪回ゲーム

 オカルト研究部部室。

 そこでは引き続き、愉快痛快な人生ゲームが繰り広げられていた。

「あっ」

 ルーレットを回し、ストップマスに止まった斎藤が、そこに書かれていた文字に声を漏らす。

「結婚だ」

 結婚イベント。

 これも人生のビッグイベントの一つであり、それは勿論、ゲームの中でも重要な役割を担う。

「あっ、斎藤先輩おめでとうございます!」

「えへへ、ありがと」

 斎藤は千尋から差し出された相手役の駒を貰い、それを自分の車に乗せる。

 斎藤の車には、既に乗っていた娘と合計三人が乗車していた。

「……何か斎藤先輩の家、複雑ですね」

「えっ!?」

「今はまだ子供小さいからいいけど、大きくなったら奥さんが『実は私、あなたの本当のお母さんじゃないの』って打ち明けるパターンですよ」

「ドラマでよく見るヤツ!」

 後輩達の妄想が飛び交う中、慌てる斎藤に冷たい視線が刺さる。

「……斎藤君、最低」

「えぇ!?」

「あっ、私も結婚だー」

 背筋の凍る様な西園の声だったが、いつの間にかルーレットを回され、何事も無かったように夫を乗せている。

 一連のやり取りを眺め、博士が溜息を吐くとルーレットを回した。

「あっ、俺も結婚だ」

 絶え間なく続く結婚ラッシュに、博士も妻の駒に手を伸ばそうとする。

 するとすぐ隣の花子がこちらに目を向けた。

「……ハカセ、結婚したの?」

「? ……あぁ」

 突然何を言い出したのか、博士はふと疑問に思う。

「誰と?」

「誰と!?」

 続いて訊かれた質問に、博士は混乱した。

「知らねぇよ! ゲームん中の話だろうが!」

 博士はそう言い退けて、自分の妻を車の中に乗せようとする。

 納得できているのかいないのか、花子は無表情のまま視線を落としている。

「……ハカセと結婚したい」

「はぁ!?」

 突拍子のない言葉に、博士は手が滑って妻の乗車に失敗した。

「何言ってんだお前! これはそういうゲームじゃねぇんだよ! どんなゲームだろうとお前と結婚なんてお断りだけどな!」

「嫌だ。ハカセと結婚したい」

「嫌だじゃねぇよ!」

「良いじゃんハカセ! 花子ちゃんと結婚しちゃいなよ!」

「何でそうなる!」

 花子の突飛な願い事に、何故か千尋も参戦してくる。

 結局千尋の強行で花子の車から駒を毟り取って博士の車へと移動し、晴れて二人は夫婦となった。

「よし! これで結婚完了!」

「勝手に完了するな!」

 大分暴虐な千尋の行動に不服を唱えるも、千尋は聞こえないふりを続けた。

「じゃあ花子ちゃんがハカセと合体したから次は私の番だね! いいなー、私も結婚したい! よーし行くぞー!」

 意気込みもそこまでにして千尋はルーレットを回す。

 出た目まで駒を進めると、残念ながら結婚までは一歩及ばずだった。

「あーダメだったかー! ……ん?」

 止まったマスに書かれていた文字に、千尋は少し引っかかった。

 『結婚詐欺にあい1000万円失う(以後トラウマとなり一生独身を決意する)』。

「何これ!?」

 そこに書かれていたのは、千尋の不運な運命だった。

「えっ!? 私結婚できないの!? 嫌だ! 私も結婚したい! 長身高収入イケメンとゴールインして素敵な人生を歩みたい!」

「理想高っ!」

 千尋の目には涙も薄ら滲んでおり、結婚への姿勢が本気で伝わる。

 そこに一つの怒鳴り声が届いた。

「バカ野郎!」

 千尋は振り返って、その怒鳴り声の主に目を向ける。

「何結婚一つで自棄になってんだ! 俺なんてずっとスタートにいるんだぞ!? もう六回ぐらい連続で十が出てんだよ! 何!? 十の女神俺の事嫌いなの!?」

「いや寧ろ愛され過ぎてんだろ」

 まだ一歩も先へ進めていない多々羅の魂の叫びに、千尋の涙は自然と引っ込んだ。


●○●○●○●


 ゲームも中盤を過ぎ、プレイヤー間の差も段々と明白になってきた。

「一、二、三、四、と」

 出た目だけ駒を進め、斎藤は止まったマスに目を向ける。

 『女の子が生まれる』。

「あっ、女の子が生まれた」

「おめでとうございまーす」

 千尋から女子の駒を受け取り、自分の車に乗せる。

 これで斎藤の車には、合計四人の家族が顔を揃えていた。

「……なんか、更に複雑になったな」

「これは修羅場になるだろうなー」

「やっ、やめて! 変な想像しないで!」

 複雑になる一方の家系図に、一同の斎藤に向ける目は更に冷ややかになった。

「ん?」

 そこで乃良がふととある事に気付く。

「これ何すか?」

 それは現在一位の斎藤よりも遥か先にあるマス。

 他のマスとは異なった、川の上にアーチ状に描かれたマスである。

「あぁ、それは橋だよ」

「橋?」

「そう、この橋を一番最初に渡った人が、これから先橋を通った人からお金を貰えるんだよ」

「へー! そんなんもあるんすね!」

 橋。

 これに関して言えば存在しない人生ゲームもあるだろうが、オーソドックスなイベントの一つだろう。

「よし、じゃあ最初に橋渡れるように頑張ろっかな」

 西園はそう意気込むと、ルーレットを回した。

 順調に進んでいく西園だったが、惜しくも橋の手前で止まってしまった。

 『城を譲り受ける』。

「あー残念」

「「いやちょっと待って!」」

 西園の止まったマスを無視できず、斎藤と博士の声がシンクロする。

「あとちょっとで橋渡れたのになー」

「いや橋よりもずっとすごいの貰ってるから!」

「城譲り受けるって何!? えっ!? 誰かくれたの!? 誰から!?」

 どれだけ声を出してみても、西園にとっては橋を渡れなかった事の方が悔しいらしい。

 ぶれない先輩の姿に博士が気を取り直す。

「まぁいい。んじゃ橋は俺らが渡るか」

 隣の花子にそう言うと、花子はコクリとただ頷く。

 博士がルーレットを回し、出た目だけ駒を進めていく。

 橋を渡り切るかと思われたが、残念ながら駒は橋の上で止まってしまった。

「あー畜生、あと少しだったのに……ん?」

 止まったマスの文字が気になって、博士が目を落とす。

 『橋が崩れ落ちる(川に流され十マス戻り、修繕費1200万円支払う)』。

「はぁ!?」

 書かれていたとんでもない事件に、博士は顎が外れる程口を開ける。

「アハハ! ハカセ残念! はい、1200万!」

「いやちょっと待てよ! 笑い事じゃねぇだろ! 大事故じゃねぇか! 車ごと川に流されて無事じゃすまねぇだろ!」

「まぁいいから、ちゃっちゃと払って十マス戻って」

 何故かドライな千尋の対応に、博士は仕方なく金を払って十マス戻る。

「よーし! じゃあ次私の番ねー!」

 上機嫌な千尋はルーレットを回し、駒を進めていく。

 千尋の止まったマスは橋とは全く関係の無い――、家購入のマスだった。

「あっ、家だ」

 家購入。

 これも人生にとって大事なイベントの一つだが、このゲームでは別に購入を義務付けられてはおらず、買わずとも進行が出来る。

「んー、どうしよっかなー」

「別に無理に買わなくてもいいんじゃねぇか?」

 悩む千尋に博士がアドバイスを投げる。

 しかし千尋がそのアドバイスを素直に受け取る事は無かった。

「いや、ここ買う!」

 千尋が厭らしく笑って断言したそこは、高値のする一軒家だった。

「はぁ? こんな高いところ住む必要ないだろ」

「最高の人生に住むには最高の家に住むしかないんだよ! ワッハッハ! これで人生勝ち組!」

「未婚フリーターが何言ってんだ」

 高笑う千尋に、博士が冷静に指摘した。

 次の相手は乃良である。

「よっしゃー! 橋渡り切るぞー!」

「いや無理だろ。お前めちゃくちゃ離れてんじゃねぇか」

 威勢だけはある乃良だったが、博士の言葉通り乃良は先頭集団から随分遅れており、橋を渡るには無理があった。

 しかしその勢いが収まる事はない。

「行っけぇ――!」

 乃良は壊れる程にルーレットを回し、出た目だけ駒を進める。

 ただ人生ゲームは現実と同じで、そう簡単に一発逆転のドラマなど起きなかった。

「ほら無理だろうが」

「いや」

 博士の声を乃良が止めると、乃良はそこに書かれた文字を見せる。

 『街歩き大会に参加(三十マス進む)』。

「「「「なっ!?」」」」

 乃良は書かれていた文字に添って、駒を進めていく。

 三十マスという長い道中で橋も渡り、乃良が止まったそこは橋の対岸にあった。

 ふと乃良の顔を見ると、下卑た笑顔が目に焼き付く。

「嘘だろおい!」

「そんな事ってある!?」

「やめろその顔腹立つ!」

 現実は一発逆転ドラマなど簡単に起きないが、このゲームではさほど珍しくないようだ。


●○●○●○●


 ゲームも終盤、先を行く先頭集団の目にはそう遠くないゴール地点が見えてきていた。

 ルーレットを回すのは百舌。

 出た目だけ駒を進めていき、そのマスに従った行動を取る。

 『高級鯉を購入(200万円支払う)』。

 百舌はそのマスに異論を上げる事なく、黙々と服従していた。

「……いや、百舌先輩何も言わずに200万払ってるけど実際有り得ない事っすよ?」

「うん……、鯉に200万ってね……」

 百舌の代わりに博士と斎藤が口を開き、ゲーム自体にツッコミを入れる。

 次の相手は多々羅。

 多々羅は何やら真剣な形相でルーレットと対峙している。

 出た数字は――、六。

「いやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっと十から解放されたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その数字を見た瞬間、多々羅は立ち上がり感情のままガッツポーズをした。

 そこからは今までの苦労が感じ取れるようだ。

「やっと! これでやっと俺もゲームを楽しめる!」

「もう終盤だけどな」

「先輩、そのマス1000万円支払ってもらわないといけないんですけど……」

「借金だ! でもそれでいい!」

 今の多々羅に約束手形などただの紙切れに等しかった。

 雄叫びを上げる多々羅に疲れながら、次の相手の斎藤がルーレットを回して駒を進めた。

 『隠し子が発覚する』。

「「「「隠し子!?」」」」

 更に続く衝撃展開に思わず一同の声が揃ってしまう。

「斎藤先輩隠し子までいたんすか!」

「どこまでクズなんすか先輩!」

「いや僕が一番ビックリしてるから!」

「なんか先輩、石田純一みたいになってきたな……」

 斎藤の車には五人家族が集結しており、一種の地獄絵図の様にも見えてきた。

 次にルーレットを回すのは西園。

 出た目に従って駒を進めていくと、

 『高須院長にバッタリ出会い、2億貰う』。

「いやもうおかしいだろ!」

 ツッコミの追いつかなくなってきた人生ゲームに、博士が力を振り絞って立ち向かう。

「何で高須院長出てくんだよ! 高須院長とバッタリ出会うって何!? 何で高須院長、石油王の二倍お金くれてんの!? 終盤になってこのゲーム無茶苦茶になってきてねぇか!?」

 博士の怒涛のツッコミに、西園はただ美しく微笑むだけだった。

 どっと疲れが押し寄せてきて、博士の背は丸くなる。

「あぁ、なんか疲れた。花子、代わりにルーレット回してくれ」

 花子はコクリと頷くとルーレットに手を伸ばす。

 弱い力でクルクル回し、止まった数字まで駒を進めていく。

 『おたふく風邪で1回休み』。

「ここでおたふく風邪!」

 疲れ果てた博士に代わってそうツッコんだのは乃良である。

「ここまで来ておたふく風邪て! 急にイベントのクオリティ下がったな! こんな人生の終盤におたふく風邪ってなかなか無いだろ!」

「ハカセの看病は私がするね」

「かかったの俺かよ!」

 花子が博士にそう声をかけ、博士が余った力で応える。

「さて! そろそろこのゲームも終わらせるよ! 私が億万長者になるんだー!」

 そう言って千尋がルーレットを勢いよく回す。

 勿論突然ゴールに行く筈もなく、数マス進んで停車する。

 『家が全焼する』。

「えぇぇぇ!?」

 突然降りかかった悲劇に、千尋は受け入れられずに悲鳴を上げた。

「家がぁ! 私がなけなしのお金で買った家がぁぁぁぁ! なんか保険とか効かないの!?」

「ちひろん別にいらないとか言って火災保険入らなかったじゃん」

「家も失ってただのホームレスじゃねぇか」

「そんなぁぁぁぁ!」

 千尋に襲い掛かる厳しい現実に、他の人々の対応も塩辛だった。

「おし、んじゃ本当に終わらせに行くぞ!」

 現在トップの乃良がそう意気込みを語る。

 ルーレットを回して駒を進めると、ゴール直前最後の一大イベントに止まった。

「よし、決算日だ!」

 決算日。

 このゲーム最後のイベントであり、人生の総復習の様なイベントだ。

 このイベントの最大の特徴は、何と行っても『人生最大の賭け』である。

 どれだけの財を売っても返済できない借金を所持する者へ与えられる、最後の救済。

 このゲームにはこう書かれている。

 『ルーレットの一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、その他にそれぞれベットし、数字を当てるとその百倍の金が返ってくる』。

「その他って何だよ!」

 まさに人生最後の賭けである。

「乃良、どうすんだよ。別にお前借金溜まってないだろ?」

 この賭けは借金所持者でなくても賭けられるが、乃良に縋る理由は無い。

 ただこの男は、ここで退くような男じゃなかった。

「やるに決まってんだろうが!」

 乃良は自分の手元にある全財産を机に叩きつけ、そう張り上げた。

「一に全額ベットだ! これで俺は億万長者になる!」

「マジかお前!」

「あぁ!」

 何とも賢明な判断とは言えない行動だったが、乃良の目に迷いは一切ない。

 乃良は自分の運全てを注ぎ込んで、ルーレットに手を付ける。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 そして乃良はルーレットを回した。

 ルーレットはいつも以上にぐるぐると回り、遠心力でどこか吹っ飛んでしまいそうだ。

 針もガリガリと音を立て、ルーレットをすり減らしていく。

 すると――。

 バキッ!

「え?」

 妙な音が聞こえ、乃良のハイになったテンションが一旦落ち着く。

 ルーレットに目を落としてみると、そこにはすっかり遅くなっていたルーレットと、先端(・・)()紛失(・・)して(・・)どこ(・・)()差してる(・・・・)()()分からなく(・・・・・)なった(・・・)()があった。

 ――その他……!

 有り得ないと思っていた選択肢が舞い降りた奇跡に、一同一斉に心の中で叫んだ。

 これによって乃良の全財産は全て没収。

 乃良は人生の負け組が集う地、開拓地へと連行されるも、乃良の口からは生気が漏れていた。

 しかし針が無くてはどうにも先に進められない。

「……えーっと」

「どうします?」

 一同の中で『中止』の二文字が浮かび上がってきた頃。

「いや! 俺はまだ続けるぞ! やっと先に進めれたのにこんなんで終わらせて堪るか!」

 未だゲーム序盤に腰を下ろす多々羅がそう叫び出した。

 多々羅はルーレットに手を伸ばし、自慢の筋肉に力を入れる。

「行くぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

 そのまま多々羅はルーレットを回した。

 ルーレットは空でも飛びそうなくらい回っており、また壊れてしまいそうだ。

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そこで多々羅はルーレットに人差し指を突き差した。

 針が無くなったのなら、自分の指で指し示せばいいと、そういう考えであろう。

 ルーレットはピタリと止まり、多々羅が止めた数字がハッキリと見える。

 その数字は――、四。

 『スタートに戻る』。

「「「「「「「………」」」」」」」

 こうしてオカ研人生ゲーム大会は中止となり、二度と行われる事は無かった。

人生は甘くない。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事で波乱万丈の人生ゲーム編でした!

二話構成にしてもボリューミーとなったこの人生ゲーム編ですが、本当は他にも色々と書きたい事あったんです。

しかし文字数が洪水状態になり、敢えなく三話構成になりそうだったので、なくなくカットしてこの二話になりました。

にしても多いので展開が駆け足になっておりますが、寧ろ読みやすくなったかなと思います。


特に今回は僕の趣味嗜好の詰まった回になったかと思います。

数あるネタから僕がどうしても入れたいネタ(オチとか)を厳選して詰め込んだので、個人的には満足です!

この回を気に入ってくださったなら、きっとアナタは僕と同じ嗜好の持ち主の筈!w


そういえば高校生時代、昼休みに自作の人生ゲームで遊んだ事を思い出しました。

この人生ゲームも作ってみるかな……。

……いやこれ絶対にフィクションだから活きるゲームだからやめておこうww

でもまたみんなで人生ゲームやりたいなーと思う今日この頃でした。


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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