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【120不思議】馨しき事件簿

 午後四時四十四分、オカルト研究部部室。

 いつもなら賑やかな喧騒に包まれた部室だったが、今日はそうも言っていられなかった。

 部室にピンッと張る、異様な空気。

「……お前ら、分かってるな」

 誕生日席に座った多々羅が、事の重さを知らしめる様に鈍く口を開く。

 部員達も多々羅の言葉に、緊張感を走らせた。

「俺達は明かさなくてはならない。たった今訪れたこの事件の謎を……。そう」

 多々羅は全員の耳にこびり付く様な、そんな声でそう言った。


「一体誰が、おならをしたのかを……」


「……は?」

 ただ一人、部室の空気に呑まれていない博士が惚けた口を開ける。

 重苦しい空気に一人ポツンと浮いた博士だったが、それだけではこの空気は簡単に砕けない。

 誰も事の顛末を打ち明けてくれず、博士は右に左に首を振る。

「えぇっと……、いやっ、何て?」

「お前も聞いただろ!」

 狼狽える博士に多々羅が一喝すると、博士は委縮して固まってしまう。

「この部屋に突如として響いた、あのチープな音を」

「いや、あんま気にしてなかったから分かんねぇっすけど」

「俺達は今、一体誰がおならをしたのかと疑心暗鬼だ。いち早く犯人を捜し出し、自分の疑いを晴らさなくてはならない!」

「そんな槍玉に上げるような事すんなよ」

 博士の宥めすかしも、火の付いた多々羅には通用しない。

「乃良! 事件の詳細を!」

「はい!」

「刑事ドラマか。てかもうアンタその詳細知ってんだろ」

 乃良は何やらメモ帳の様なものを取り出し、それを読み上げるように伝えていく。

「事件発生はほんの数分前。現場はここオカルト研究部部室。当時この部室にいたのは、ここにいる六名だけです」

「つまり! この中に犯人がいるって事だ!」

 乃良の詳細を聞き終えた多々羅は、全員に疑惑の目で視線を送った。

 加藤乃良。

 石神千尋。

 百舌林太郎。

 箒屋博士。

 零野花子。

 そして、多々羅剛臣。

 この中に犯人がいる事は、ただの小学一年生でも明白だった。

 多々羅は机を大きく叩いて立ち上がり、全員に懇願する。

「さぁ! 心当たりのある奴は自ら名乗り出てくれ! そうすれば全て終わるんだ! 頼む!」

 机に額をぶつけた音が部室に広がる。

 しかし多々羅が顔を上げても、手を挙げている人間は誰もいなかった。

 こうなる事は想定済みだった多々羅は、やり切れない気持ちを溜息にする。

「あのぅ……」

 耳元に聞こえてきた声に、多々羅は振り向く。

 そこにはそーっと右手を挙げていく千尋の姿があった。

「何だ!? 名乗り出てくれるのか!?」

「違います! そうじゃなくて!」

 全面否定に少し落ち込む多々羅だったが、千尋は言い難そうに口をもごつかせる。

「そのぅ……、単純な疑問なんだけど……」

 そう前置いて、千尋は恐る恐ると手を挙げた理由を口にした。

「花子ちゃんっておならするのかなー……って」

 一同、花子へと一斉に視線を向ける。

 花子は一気に向けられた視線に、ただ首を傾げるだけだ。

 突飛に思えた千尋の疑問だったが、よくよく考えれば確かに疑問だった。

「だって花子ちゃんは幽霊でしょ!? 幽霊っておならするのかなって……」

 千尋の言い分は、どうも納得できた。

 幽霊の花子はおならをするのかどうか。

 確かに幽霊である花子は、容疑者リストから除外してもいいのかもしれない。

「確かに……」

「それに……」

 一同が納得しているところで、千尋は更なる追撃を入れる。


「花子ちゃんは、可愛い女の子だよ!?」


 犯人捜しに懸命になっていた空気が、急激に冷え出す。

 その状況に、まだ千尋は気付けていないようだ。

「こんな可愛い女の子が、おならなんてする訳ない。女の子がそんな事する訳ないんですよ!」

 静寂の中、千尋はそう力説した。

「よって! 花子ちゃんと私はおならなんてしてない!」

「ちょっと待て!」

 茫然から素に戻った乃良が、目の前の千尋の暴走を止めにかかる。

「いや何でちひろんもそこの話に入ってきた!? 今花子の話だったろ!? ちひろんただ自分が疑われたくないだけだろうが!」

「なに!? 乃良は私が犯人だって言うの!?」

「それはまだ分かんねぇけど!」

 乃良の異議有りに、千尋が必死に対論していく。

 自分の名誉のかかった少女の姿というのは、あまりにも不恰好だった。

 そこに一つの手がまた伸びる。

「おい」

「「ん?」」

 その挙がった手は、博士の左手だった。

「まだこいつが屁をしないかどうかは決まってないぜ」

 そう言って、博士は挙げた左手の親指を花子に突き差す。

 突然そう言われても、千尋にはどういう根拠の元なのかサッパリ分からなかった。

「どういう事?」

「こいつは食べ物は美味そうに食うが、排泄物は出さない。汗はかかないが、疲れるという概念はあるらしい。というように、こいつには生と死の両側面があると言ってもいい。言うならば『半分生きてて、半分死んでる状態』、意志を持つシュレディンガーの猫みたいな状態だ。よって、完全死体とも言えないこいつが屁をしている可能性は十分ある。何なら説明不可能な食後のエネルギーを放屁により放出している可能性まである」

 ここまで根拠の説明をした博士だが、千尋の頭にはクエスチョンマークが踊る。

「また女性が屁をしないなんて事は一切有り得ない」

「ぐっ!」

 どうやらここの部分だけは、痛いくらい意味が分かったらしい。

「この事から」

 と博士は眼鏡をクイッと上げると、堂々と自分の証明付けた結論を述べる。

「花子が放屁する可能性は、大いにある」

「五月蠅い!」

 聞き慣れない言葉を散々聞いてパンクしそうだった千尋の頭が、いよいよ爆発した。

「何を長々と頭良さそうな事言った後に『花子ちゃんはおなら出来る』みたいな事言ってんの!? バカなの!? カッコつけてるみたいだけどめちゃくちゃカッコ悪いよ!? じゃあ何! ハカセは花子ちゃんがおならした犯人だって言うの!?」

「いやそこまでは分かんねぇけど」

 情緒が不安定な状態の千尋に、博士は汗を垂らしながらも冷静に答える。

 感情のぶつけどころが分からず、千尋は項垂れてしまった。

「もうどうしたらいいの! もう嫌! さっさとこんな話終わってしまえ!」

「まぁまぁ」

 泣き喚く千尋に、乃良が元気づけようと声をかける。

 しかし千尋の機嫌が戻る事は無く、今度は乃良に睨む視線が送られた。

「もう! アンタ猫なんだから、どこから臭いしたのか分かんないの!?」

「分かんないよ。別に鼻良くないから」

 か細い頼みの綱も切れてしまい、千尋は再び蹲る。

 どうしようも出来ず、乃良は必死で頭を動かそうと後頭部を掻き毟る。


「耳ならまだ良いんだけど……」


「……それだ」

「え?」

 突如聞こえてきた博士の声に、乃良が首を傾げる。

 すると博士は少し身を乗り出して、浮かんだ名案を乃良に伝えた。

「それだよ! 耳! 音がどこからしたとか、そういうの分かんないのか!?」

「そうだ!」

「えっ、何!? 犯人解ったの!?」

 事件の進展に盛り上がる二人に、千尋も釣られて顔を上げる。

「えーっと、ちょっと待てよ。確か南じゃなくて、北側から聞こえた筈だからぁ……、て事はぁ……」

 乃良は数分前の記憶を引っ張り出して、頭を悩ませる。

 その苦労の末、何とか音の探知に成功して、顔を明るく染めた。

「よし! 音がした場所にいたのはタタラ、ちひろん、俺の三人! これで容疑者を半分に絞り込めた!」

「お前も入んのかよ!」

 満面の笑みで容疑者宣言する乃良に、思わず博士がツッコむ。

「ちょっと待ってよ! 私まだ犯人かも知れないって事!?」

 まだ容疑者リストに名を残す事に苛立つ千尋。

 千尋は自分の疑いを晴らすべく、必死になって自身の弁護に務めた。

「私は犯人じゃない! 第一今のだって、こいつの嘘っていう可能性だってあるじゃん! ……まっ、まぁ、私も確かにこっちの方から聞こえたと思ったけど」

「聞こえてんじゃねぇか」

「でも、私は犯人じゃないの!」

「お前自分に疑いかけられると思って黙ってたんだろ」

 千尋の弁明も、結局は墓穴を掘っただけに終わった。

 自分の拙い日本語力を呪うばかりで、悔しそうに歯を食い縛っている。

 事の行く末を静かに見守っていた多々羅が、見計らって口を零す。

「くっ……、ここからどうやって犯人を見つけ当てるか……」

 容疑者を半分に絞り込めたものの、これから一人に絞る手は見つからない。

 良案をなかなか見出せず、万事休す――と思われたが、


「いや、大体犯人解ったでしょ」


「「「!?」」」

 博士のなんて事ない一言で、事件の本軸が揺れた様な気がした。

「どっ、どういう事!?」

「ハカセ、犯人解ったの!?」

「解ったっていうか……、何となく」

「何で!? 何で解ったの!?」

 ひっくり返った様な急展開に、一同は何とかして付いていこうと博士にしがみつく。

 絶え間なく迫る質問を鬱陶しく感じながらも、博士は真摯に質問に答えた。

「仮定法だよ」

「仮定法?」

 どこかで聞いた様な言葉に、一同首を傾げる。

 ただ一人、千尋だけは本当に聞いた事無いように首を傾げていたが。

「数学でやっただろ? まず一つの事柄を仮定して、そこから謎解いていく証明方法」

 博士は前置くと、この事件のロジックを解いていく。

「まず乃良を犯人だと仮定する。もし乃良が犯人だとすれば、もっと違う方から音がしたと嘘を吐いて、即刻容疑者リストから脱出できた筈だ。よって乃良は容疑者から外れる。なら千尋は? 千尋を犯人だと仮定するなら、そもそも『音なんてしなかった』って言うんじゃねぇか? あんだけ疑われるのを嫌がってたんだ。自分が屁をしたってのも、認めそうにねぇだろ。よって千尋も違う。となると」

 ダンッ!

 と、博士の推理ショーの最中に、そんな物音が聞こえてきた。

 何の音かと全員が目を向ける。

 するとそこには、物憂げな雰囲気で立ち竦んでいる多々羅の姿があった。

「……もう、やめないか?」

「「「「「!」」」」」

 その一言に、全員が震撼する。

 あまりの衝撃に言葉を失くす中、多々羅が一人滑々と言葉を並べ立てていく。

「今考えれば、どうかしてたんだ。おならした奴を探し出して、そいつを見つけようなんて……、そんなの間違ってる! だって! おならは、皆する事じゃねぇか!」

 ポツポツと多々羅の前の机には雫が落ちてきた。

 涸れ始めた多々羅の声に、一同が静かに耳を傾ける。

「やめよう! もう犯人を捜すのは! 俺達は、かけがえのない仲間だろ!」

 張り叫んだその言葉が、皆の心を撃つ。

 すると今まで座っていた乃良と千尋が、立ち上がって多々羅の胸へと駆け寄った。

「!」

「すまない! 俺達が悪かった!」

「そうだよ! 犯人を捜すなんてよくない! だって! 私達は仲間だから!」

「おならなんて無かった! それでいいじゃねぇか!」

 二人の目尻にも、僅かながら涙が滲んでいる。

「お前ら……」

 自分の体を掴んでいる二人を、多々羅が力強く抱き寄せる。

 一つになった三人は、固く熱い友情と化していた。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 三人の泣き叫ぶ声が部室にこだまする。

 おならなんてなかった、犯人なんていなかった。

 そう空へと訴える様な、そんな泣き声だった。

 ――……上手く誤魔化したな。

 オカルト研究部に突如として舞い込んだ事件は、迷宮入りとなって幕を下ろした。

後世に残る駄作ですww

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


いやー今回本当にすみませんww

いつも通り部室での日常回を考えていたんですけど、ふと『おならをした犯人探し』という案が頭に浮かんでしまったんです。

普通なら即却下するところですが、どんどんとストーリーが展開していきまして。

気付けば書き上げてましたww 後悔はありませんww


基本マガオカはそういうお下品なネタは却下し、クリーンなコメディを目指しています。

このような回は後にも先にもこれが最後でしょう。

というかこれで最後と誓います。

なので今回は許して下さいww

これからもクリーンなマガオカをよろしくお願いします!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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