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【012不思議】Wonderland

 不思議な世界観を演出する造形物、スピーカーから流れてくるポップなBGM、目を凝らして探してみるとマスコットがお客様サービスを実施している。

 ここは『ワンダーランド』――、所謂遊園地。

 GWという事もあって園内は人で埋め尽くされており、迷子を捜すには一苦労しそうである。

 そんな遊園地の入口に立ち尽くした四人は、目の前の景色に圧倒されていた。

「「遊園地キタ――!」」

 乃良と千尋が万歳と共に雄叫びを上げ、園内へと駆け出していく。

「ほら何してるの! 花子ちゃんも早く行こ!」

 千尋がそう花子に声をかけると、憧憬に釘づけだった花子の目は千尋へと向き、せっせと走っていった。

 花子に続いて、未だ景色に夢中な博士も歩き始める。

 ――……遊園地なんて何年振りだろ。

 幼い頃から捻くれた性格をしていた博士にとって、遊園地はそこまで特別な場所では無かった。

 それは今でも変わらないのだが、こうして久しぶりに来るとやはり圧倒されてしまうものである。

「ハカセー! ここ行こうよー!」

 博士を呼ぶ千尋の声が聞こえ、博士は千尋達が入っていった建物へと入っていく。

 建物はお土産屋のようで、お菓子やぬいぐるみなどの土産品が揃えられていた。

 店内で先に入った千尋達を探すと、楽しそうに騒いでいるのですぐに見つける事ができた。

「何やってんだ……よ……」

 言葉の途中で千尋が博士の頭をいじり始める。

 博士は訳が解らなかったが、千尋は頭をいじり終えて数歩下がっていく。

 博士の頭には、遊園地のマスコットをモチーフに作られたネコミミカチューシャがつけられていた。

「アハハハハハ! ハカセ似合ってるー!」

「ハカセ、ヤバイ……、アハハハハハ!」

 乃良と千尋が大笑いするも博士は未だ状況を呑み込めないでいたが、近くにあった鏡で自分の姿を見て理解する。

 よく見れば、乃良達もネコミミとなっていた。

「お前らなー!」

「まぁいいじゃんか! 今日はこれで回ろうよ!」

「嫌だよ! 何で俺がネコミミなんかしなくちゃいけねぇんだよ!」

「でも似合ってるよ?」

「似合う訳ねぇだろうが!」

 乃良の説得も博士の心には響かず、選手交代で同じくネコミミをつけた花子が口を開く。

「ねー、つけよーよ」

「嫌だっつってんだろ!」

 しかし、博士は頑なにつけようとはせず、花子の説得を突っぱねてしまった。

 花子は傷ついたのか、顔を俯かせる。

「……つけてくれなきゃ」

 少し声を震わせて話す花子に、博士は花子を警戒する態勢に入る。

「祟るよ」

「その脅し止めろよ! 解ったよつけりゃいいんだろ!?」

 博士は少し顔を青くして、そう声を荒げた。


●○●○●○●


 結局四人全員がネコミミカチューシャをお買い上げし、四人揃って仲良くネコミミとなっていた。

「花子ちゃん、何乗りたい?」

 千尋が花子に微笑んでそう尋ねると、花子は辺りをキョロキョロと見回し、とある場所を指差す。

「あれ」

 花子の指差したものへ目を向けると、それは町からも見えていたこの遊園地最恐の絶叫コースターだった。

 現在乗っている乗客からは、絶対に歓喜の色ではない絶叫が鳴り響いている。

 それを見た三人は少し顔を青ざめさせる。

「……花子ちゃん、あれ大丈夫? 怖くない?」

 恐る恐ると口を開いた千尋に、花子は無表情で首を傾げた。

「……何で?」

 ――スゴい! 流石一回死線を越えてきただけはある!

 花子に対しての印象を千尋が心の中で少し変えていると、乃良の声が聞こえてくる。

「どうする? 正直俺は全然乗れるけど」

「私も。絶叫系大好きだし」

 乃良と千尋が顔を見合わせて喋っていると、まるでロボットの様に同時に首を博士の方へ向けた。

「あっ……、もしかしてハカセ、こういうの苦手?」

「良いんだよ無理しなくて。あっ、じゃあ代わりにポップコーン買ってきてくれる?」

 完全にバカにする態度でそう博士に話しかけた乃良と千尋の顔は醜く笑っていた。

 そんな二人の顔を見て、博士は顔を歪ませた。

「……は?」


●○●○●○●


「危険ですので、安全バーを下ろしてください!」

 張りのある係員の声が、ジェットコースターの乗客にこれからの旅の危険さを促した。

 長らく待った行列を終え、いよいよ博士達の番である。

 最前列に乃良と千尋、その後ろに博士と花子という、ジェットコースターの中でも最も恐ろしいところでの布陣となった。

 ガコンッという音が鈍く響き、ジェットコースターがゆっくりと稼働し始める。

「いやー、楽しみだなー!」

「ちょっと私、怖くなってきちゃった」

「マジ? あまりの恐怖に俺に飛びついたりしないでよ?」

「私諸共死んでしまうわ!」

 前ではしゃぐ二人を余所に、博士の心臓は静かに鼓動を早めていった。

 ――俺もちょっと緊張してきたな……。

 ジェットコースターはゆっくりと動いていき、徐々に、そして確実に最も高いところへと昇っていく。

 博士はチラリと隣にいる花子の方へと目を向ける。

 こんな状況でも花子は変わらない無表情で、じっくりと前を見つめていた。

「……大丈夫か?」

「……何が?」

「………」

 いらない心配をしたなと博士は反省し、前へと向き直る。

「来たぞー!」

 同時に乃良の叫びが耳を劈き、目を凝らすと現在最高峰のところにいる事が解った。

 しかし、解った瞬間に体はグンと下を向き、そのまま地面へ向かって真っ逆さまに落ちていく。

「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「キャァァァァァァァァァァァァ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「………」

 それぞれがそれぞれの絶叫を上げるも、ジェットコースターはそんな事も知らずに暴走し続ける。

 一回転したり、逆さまに走ったりとしたが、恐ろしい時間はあっという間に過ぎていき、気が付けば終着地へと辿り着いていた。

 ジェットコースターを降りる足は皆フラフラで、まるで酔っ払いの様だった。

「……何か、……想像以上だったな」

「うん……」

「でも、楽しかったなー!」

「お前、どんな三半規管してんだよ……」

 博士と千尋が顔色を悪くしているのに対し、乃良はピンピンとした様子で笑顔を見せている。

「あっ、写真あるぜ!」

 乃良は大きな画面に映し出されている、ジェットコースター乗車時に撮られた写真を見つけた。

 最前線にいた博士達はとても目立っており、顔もくっきりと写っている。

「お前、楽しそうだな」

「へへー! そうだろー!」

 乃良は輝かしい程の笑顔で万歳をしており、千尋は口をこれでもかと開けて悲鳴を上げ、博士は顔を引きつらせていた。

 しかし、注目するべき存在は花子である。

「……花子、お前」

 写真に写っていた花子の表情は、いつもと全く変わらない鉄仮面の様な無表情だった。

「怖くなかったのか?」

「全然」

「じゃあ、楽しくなかったのか?」

「楽しかったよ」

 花子はそう言うが、写真に写る表情からはとてもそんな風には見えない。

「……そうか」

 博士は苦い表情でそう言ったが、当の本人は意味が解らず首を傾げていた。


●○●○●○●


 それからたくさんのアトラクションに乗り、気付けば空も暗くなりかけていた。

 一行はトイレ休憩となって千尋がトイレに行き、残りの三人は千尋の帰りを待っていた。

 博士はふと花子に目をやると、花子はどこかをじーっと見つめている。

 そちらへと目を向けると、そこには小さな子供達に風船を配っているマスコットの姿があった。

「……欲しいの?」

 博士の声に花子が静かに頷くと、博士はマスコットの方へと歩き出す。

 そして、マスコットから風船を貰うと、帰ってきて花子にその風船を手渡した。

「……ありがと」

「別に」

 花子は風船の糸をギュッと握りしめると、ゆっくりと口を開いた。

「……ハカセ」

「?」

「楽しい?」

 それはいつまで経っても無表情な花子にこそ訊きたい事だったが、博士は静かに答えを返した。

「……まぁ、それなりにな」

「……そっか」

「お待たせー!」

 トイレから帰ってきた千尋がこちらに手を振って歩いて、花子の元でピタリと止まる。

「さて、時間も時間だし、花子ちゃん最後に行きたいところある?」

 千尋の質問に花子は辺りを見渡すと、とある場所を指差しで示した。

 看板には『GHOST CASTLE』と書かれている。

「あそこ」

「冷やかしに行きてぇのか」

 名前から解る通り、花子の指差した場所はお化け屋敷であり、本物のお化けが行くのはどうかと思われるが、花子はそんな事はサラサラ気にしていないようだ。

「行こ」

「あっ、ちょっ、花子待て!」

 博士の声も届かず、花子は風船を握る手とは逆の手で博士の袖を掴んで、お化け屋敷へと歩き出した。

「……今日何か違和感あるなーって思ってたんだけどさ」

 花子の後に続こうとした千尋を止める様に口を開いた乃良は、そのまま言葉を紡いでいく。

「今日ハカセ、花子ちゃんの事名前で呼んでるよね?」

「……あ」

 乃良に言われて気付いた千尋はそう言葉を漏らした。

 乃良はしばらく固まっていると、いつも通りの笑顔に変えて歩き出した。

「じゃ、俺達も行こっか!」

「えっ? あぁ、うん!」

 釣られるように千尋も歩き出し、四人は本日最後の目的地であるお化け屋敷へと向かっていく。


●○●○●○●


 お化け屋敷は洋館をモチーフに作られており、要所要所に小さなネタが仕込まれていて、四人は楽しみながら進んでいった。

 お化け屋敷もいよいよ終盤、仕掛けも少しずつ大がかりになっていく。

「いやー、結構怖いねーこれ」

「何だよお前。人の事ビビリって言う癖にお前の方がビビリじゃねぇか」

「バッカねー。私は怖がりながら楽しんでんの!」

「あっ、出口見えたみたいだよ」

 乃良の声に皆は正面を向くと、そこには確かに三十メートル程先に出口と書かれた扉があった。

「あっ、もうすぐだ」

「さっさと終わって帰ろうぜ」

 完全に油断した様子で四人は出口に歩いていくと、後ろから大きな足音がするのを感じた。

「……あれ? 私達の後ろに他のお客さんなんていたっけ?」

「バカ、俺らが最後だったろうが」

「じゃあ、この足音誰の?」

 千尋の疑問に皆がゆっくりと後ろを振り返る。

 そこにはこの洋館の主と思われる、体中傷だらけ血塗れの男がこちらをじーっと見つめていた。

 そして、人間とは思えない怒号を放ちながら、こちらへと走ってきた。

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」

 四人は一斉に駆け出して、急いで出口の扉を開ける。

 扉の先は洋館の外で、一同は安心して息を整え始めた。

「……最後のは本気でビックリした」

「俺もちょっと焦った」

「花子ちゃんも大丈夫だった?」

 そこまで驚いていないのか、一人だけ息を整えていない花子は千尋の心配に言葉を返す。

「うん、楽しかった。最後の二人(・・)が一気に走ってくるのはちょっとビックリした」

「……二人?」

 花子の言葉に違和感を覚えた博士は、その違和感を確かめる為に花子を問い詰める。

「最後に走ってきたの一人しかいなかったよな?」

「えっ、二人いたよ? ……あっ、そういう事か。ごめん、気にしないで」

 花子は一人で納得したようで、博士達にそう言ってすっきりした表情を見せた。

 博士達は全く意味が解らなかったが、花子(幽霊)にしか見えなかったと理解すると、取り戻しつつあった顔の明るさを再び寒色に染め上げた。

 不思議の国以上に不思議な花子を積んだ遊園地は終園時間を迎え、楽しかった休日の終了を残酷に告げていた。

遊園地……、懐かしいなぁ。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事でGW編、ハカセ達が遊園地に遊びに行く回でした!

遊園地に行く皆を書きたかったんです!

ジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に行ったりと遊園地を満喫してて、僕も満足です。

最後のオチは解りづらいかなー、まぁ解る人だけ解るという事で。


ちなみに言うと僕はジェットコースターが大嫌いです。

あんな拷問マシンにキャーキャー言いながら乗る人の気がしれません。

観覧車とかお化け屋敷とかは好きなんですが。


重ねてちなみに前回と今回の頭文字を合わせるとGWになったりします。

次回からはやっと普段の日常生活に戻りますやったね!


それでは最後にもう一度! ここまで読んで下さり有難うございました!

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