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【117不思議】オカルトドン!

 逢魔ヶ刻高校、オカルト研究部部室。

 いつもはふざけた室内だが、今日の放課後は仁義ない戦場へと生まれ変わっていた。

「問題!」

 司会の西園の威勢のいい第一声が聞こえてくる。

「『一掴みの藁のウィリアム』の意味を持つ、鬼火伝説の一つを」

 ピンポンッ!

「ウィルオウィスプ!」

 ピンポンピンポンピンポーン!と、どこからともなく正解を報せる音楽が響いた。

 御名答の報せに、千尋は力強くガッツポーズをする。

「よっしゃー!」

 観客席の先輩達も、千尋の快進撃に素直に拍手を送っていた。

「いやぁすげぇわ。流石オカルトオタク」

「これは次期副部長は石神さんかもね」

 現部長、副部長である斎藤と多々羅が今後の試合展開を予想して呟いていた。

 しかし納得できない人物が一人。

 いや、人物というのは今更ながら語弊があるかもしれない。

「おいちょっと!」

 それは観客席ではなく、同じ回答席から聞こえた声だった。

 次の問題に備えていた千尋が思わず振り向くと、そこには一言物申したそうな乃良がいた。

「さっきからちひろんとハカセばっか答えてずりぃぞ! 俺や花子だって答えてぇ!」

 乃良は猫耳を天井に突き刺さる程ツンツンに上げて、怒りを露わにする。

 申し立てを聞いた千尋は、呆れて顔を歪めた。

「何言ってんの! 解ったんだからボタン押すのは当たり前でしょ!?」

「知るか! ちひろんばっか得意なジャンルでずりぃんだよ!」

「オカルトに関する問題って言ってたでしょ!? アンタもオカ研なら少しくらい分かんなさい!」

「分かんねぇのは仕方無ぇだろ! なぁ、花子もそう思うよな!?」

 堪らず花子に援軍を要請するも、花子は首を縦にも横にも振らず、真正面に無表情だ。

 理不尽極まりない乃良の不服に、千尋は今にも噛みつきそうである。

 ただそれを聞いていた西園は、顎に手を添えて深く没頭する。

 すると、結論が出たようにポンと手を叩いた。

「よし、じゃあ次の問題は、加藤君と花子ちゃんに回答させてあげよっか」

「!?」

 普通じゃ有り得ない展開に、千尋は首が吹き飛ぶ勢いで振り返る。

 代わって乃良は、心躍って万歳した。

「やったー!」

「ちょっと西園先輩!」

「まぁまぁいいじゃない一問くらい。もう千尋ちゃんもハカセ君も何問も解いてるんだし」

「でも!」

「別にクイズ大会って言っても、結局はお遊びだから。皆で楽しくならないとね。次の問題は加藤君と花子ちゃんが回答するまで待っててあげてね」

 尊敬する先輩からの提案に、千尋は何も言えず黙ってしまう。

 その横顔はまだ不満の残っている顔だった。

 西園は気を取り直して、乃良達へのサービス問題に入っていく。

「じゃあ行くよ」

「よし来い!」

 乃良は準備万端というように、前傾姿勢になって問題に耳を澄ました。

「問題、沈没船からサルベージされた、古代ギリシャ時代に作られたオーパーツを何と言うか」

 部室にシンキングタイムが訪れる。

 考えているうちにただ時は流れ、時計の針の音だけが部室にこだまする。

 花子が問題に真摯に向かっているかどうかは定かでなかったが、乃良は懸命に頭を悩ませているようだ。

 悩んだ結果、ピンポンッ!とボタンを叩いた。

「……パス!」

「いや無いよ!?」

 堂々と吐かれたその言葉に、司会役の西園が思わず素に戻る。

「こんな回答権差し出すサービス問題もうあげないよ!?」

「えぇ!? でも分かんないっすもん!」

「そこは頑張って答えて!」

「えーっと、じゃあ…………あっ! 宝の地図!」

 ブッブー!

「あぁ間違えたぁ!」

「いや宝の地図なんて海の中にあったらぐちゃぐちゃにならない!?」

 心底悔しそうな乃良に、西園はツッコミに右往左往と振り回された。

 もう少し息を整える時間が欲しかったが、そこにまたピンポンッ!と音が鳴る。

 慌てて振り向くと、そこには花子が静かに座っていた。

「………」

 回答権を手に入れたにも関わらず、一向に口を開こうとしない花子。

 西園が代わりに声を出そうとしたその時に、花子がポロッと回答を零した。

「……MacBook」

「いや古代ギリシャ時代だよ!?」

 当然花子の回答には、ブッブー!とブザー音が響いた。

「この時代まだApple社無いから! スティーブ・ジョブス商品プレゼンしてないから! てか花子ちゃんよくMacBook知ってたね!?」

「あぁそれは多分、昨日暇潰しにAppleの商品プレゼン見たからだな」

「暇の潰し方珍しくない!?」

 西園と乃良の不毛なやり取りが続く中、

 ピンポンッ!

 突然耳を震わせたその音に、一同は会話を中断させて振り向く。

 そこには、じっと無言で回答権を待っていた千尋の鋭い眼光が見えた。

「アンティキティラ島の機械」

 ピンポンピンポンピンポーン!

「ちひろん本当すげぇな!」

 あまりの圧倒的脅威に、最早乃良は何の文句の一つも言えなくなってしまった。


●○●○●○●


 それからも副部長の座を懸けたクイズ大会は続いた。

「問題! ミシェル・ゴークリンによる占星生物学的主張を何と」

 ピンポンッ!

「火星効果!」

 ピンポンピンポンピンポーン!


「薬理作用に基づかない薬物の治癒効果、いわゆる暗示作用の心理効果を」

 ピンポンッ!

「催眠術!」

 ブッブー!

 ピンポンッ!

「プラシーボ効果」

 ピンポンピンポンピンポーン!


「問題! 今、何問目?」

「タイムショックか」

 ピンポンッ!

「二十三問目」

 ピンポンピンポンピンポーン!

「分かんのかい」


「問題! 1996年に」

 ピンポンッ!

「越後製菓!」

 ブッブー!

「はぁ!? 何でだよ! 越後製菓って答えたら何でも正解になるのがクイズのルールだろ!?」

「何だその意味不明なルール」


●○●○●○●


 クイズ大会開催から、しばらく時間が流れた。

「それではただいまの結果を確認してみましょー」

 司会の西園がマイペースにチェックしていた得点表を読み上げていく。

「千尋ちゃん、15ポイント。ハカセ君、14ポイント。加藤君、花子ちゃん、0ポイント」

 これまで一位の座を確保していた千尋は、全力の結果ゼーハーと息を荒げている。

 対する博士は余裕というか、無関心な様子だ。

 乃良は悔しそうに歯軋りしており、花子は完全なる無表情をお送りしている。

「ここで、いよいよ最終問題です!」

「よし来たぁー!」

 ラストスパートに向けて、千尋が更にギアを上げていく。


「最終問題を正解した方には……何と! 3000000ポイント差し上げます!」


 上がったギアが急速に落下するように、千尋は新喜劇の様に崩れ落ちた。

 西園はというと、いつも通り楽しそうな微笑である。

「何ですかその昭和のバラエティみたいな展開は! 思わずベタな反応しちゃったじゃないですか! 良いんですよそんな事しなくたって! 今までのポイント全部意味無くなっちゃうでしょ!?」

「大丈夫、正解すればいいんだよ」

「無茶苦茶か!」

 千尋の必死な訴えにも、お気楽な西園が折れる事は無さそうだ。

 力抜けていく千尋に、博士は他人事の様に溜息を吐く。

 千尋も静かになったところで、西園は今までより更に高らかに最終問題を口にした。

「それでは、問題!」


「百舌君の好きな食べ物は?」


「「何でだよ!」」

 今までとは全く毛色の変わった問題に、千尋のみならず博士まで気付けば叫んでいた。

「何で!? 何で百舌先輩の好きな食べ物!? オカルト全然関係無いじゃないですか!」

「百舌君は次期オカルト研究部部長だよ? 関係無くは無いし、次期副部長だったら部長の好物くらい知っておかないと」

「んな事言ったって知らないし興味無ぇっすよ! 大体あの人のプロフィールほとんど知らないっすもん!」

 本人を前にして、二人が激しく最終問題に難癖を付けている間、

 ピンポンッ!

 一人の回答者が、いち早く回答権を手に入れた。

 目を向けてみると、その猫耳は笑っている様に立っている。

「全く、なに文句ごねてんだよ。俺からしたら今までで一番簡単な問題だぜ? 意味分かんねぇ言葉なんて無ぇんだからな」

 乃良は一人気にそう口付くと、自信満々と回答を張り上げた。

「もずっち先輩の好物は……、辛子明太子!」

 部屋中が乃良の自信に満ち溢れた回答に静まり返る。

 返ってきた音楽は――。

 ブッブー!

「あぁダメかぁー!」

 どうやらただのイチかバチかだったらしく、乃良は最後の望みの綱も切れて項垂れた。

 そんな乃良を見て、博士は何だか馬鹿らしく思えてきた。

 ――あーあほくさ。俺何やってんだ。さっさと終わらせて帰ろ。

 ピンポンッ!と博士が気怠げに回答ボタンを押す。

 答えは何でも良かったが、取り敢えず思いついた食べ物をそのまま口にした。

「ユリ根」

 ブッブー!

「いやユリ根は無ぇだろ!」

 博士の回答を聞いて、項垂れていた乃良が顔を上げてくる。

「いや別に何でも良かったし」

「今頃ユリ根好き好んで食ってる高校生なんていねぇんだよ!」

「いや俺結構好きだぞ」

「好きじゃねぇか」

 観客席からのまさかの百舌の言葉では、博士の回答は案外悪くなかったらしい。

 すると今まで考え込んでいたらしい千尋が、徐に呟きだした。

「……そうだよね。もう今更迷ってたりしても意味無いよね」

 千尋は心の中で決意を固めていく。

 ――ここまで頑張ってきたじゃん! 私なら行ける! 百舌先輩の好物が分かる! 副部長になるのは、私だ!

 ピンポンッ!

「ざるそば!」

 ブッブー!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 聞こえてきた不正解を告げる音楽に、千尋は頭を抱え込んだ。

 最早副部長になる方法は、千尋の手に残っていない。

 心の底から悔しがっている様子の千尋を置いて、乃良は状況を把握しようとする。

「あと回答権残ってるのって……」

 その声に、全員が同じ場所に目を向ける。

 黒髪のおかっぱヘアーに逢魔ヶ刻高校の制服、そしてブレる事無い無表情。

 次期副部長の行方は彼女に託された。

 ――……えっ、あいつが副部長になるの?

 残された可能性を考えて、一同の頭に不安が過る。

 どれだけマシに予想したところで、花子が副部長に就任した未来は、どれも最悪なものばかりだった。

 それでも、今更変えられない。

 ピンポンッ!

「「「「「「「!」」」」」」」

 耳に入ってきた回答ボタンの音に、全員の肩が弾かれる。

 ボタンを押したにも関わらず、花子が答える素振りは無い。

 この何とも言えない時間が、部員達に居心地の悪い感情を提供した。

 そして、花子は答えた。

「……海老フライ」

 ……静寂。

 何も音の無い、真っ新な世界。

 どうしていいのか分からず、ただただ花子に目を向ける事しか出来なかった。

 数時間にも感じ取れた数秒の間、部員達は正解発表を、異常な心拍の中で待ち続ける。

 聞こえてきたのは――。

 ブッブー!

「はぁ!」

 耐えられず、一同は息を声に出して吐いていた。

 極度の緊張状態にいたせいか、皆息を整えるのに必死になっている。

 ただ一人司会の西園だけ、部室の空気感にあっていない上機嫌な声で進行を進める。

「残念! 最終問題の正解者は居らず! 気になる正解は!?」

 西園は掌を向けて、百舌に正解発表を示唆した。

「魚肉ソーセージ」

「でした!」

「「「分かるかぁ!」」」

 百舌の正解発表に、三人は声を揃えて感情的に言い退けた。

 ふと乃良が肝心な事を思い出す。

「あれ、結局優勝は?」

「あぁ!」

 他の部員達も思い出して、何とか頭を回そうとする。

「えーっと……、どうなるんだ?」

「最終問題は誰も正解者がいないからぁ」

「つまり……」

 酸素が足りていない脳では簡単な思考も複雑になり、優勝者探しは難航する。

 いち早く優勝者を弾き出した斎藤が、不安混じりに呟いた。

「……石神さん?」

 全員の視線が一斉に千尋に注がれる。

「……えっ、私?」

 突然の注目に千尋は委縮するも、その現実について考える。

 現実らしき言葉をじっくり咀嚼して味わっていると、体に熱がジワジワと馴染んでいく。

 完全に意味を把握すると、千尋は意気揚々と雄叫びを上げていた。

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 千尋の叫び声は耳を塞ぎたくなる程で、部員達がそれぞれ見守る中、博士は眉を顰めている。

 そんな事は知らないと、千尋の雄叫びは喉が枯れるまで続いた。

 こうして、逢魔ヶ刻高校のオカルト研究部、次期副部長は石神千尋に決定した。

次期副部長は千尋になりました。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


前回に引き続いてのクイズ大会、今回はクイズメインの回になりました!

クイズ回で一番大事なのは勿論クイズ。

オカルト関係は僕も大して詳しくないので、色々と調べました。

調べてみるとやっぱり色々と面白いもので、オカルトは信じないハカセタイプの僕も結構楽しく調べてました。

そのおかげで良い感じのクイズが出来たんじゃないでしょうか。


最終問題の展開も何となく考えていたのですが、最後まで悩んだのが優勝者です。

千尋とハカセでずっと悩んでて、それはこの話を書いている間もずーっと悩んでいました。

結局は千尋になったのですが、話の盛り上がり的にもこれで良かったと思います。

これからはそんな副部長の千尋にも注目していただきたいのですが、それはまだちょっと先の話ですね。


さて、クイズ大会も終わったところで次回こそは通常回!

それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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