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【001不思議】逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしなオカルト研究部

 時は春、逢魔ヶ刻(おうまがどき)高校(こうこう)――。

 校庭に咲いた桜の花びらが春風に吹かれ舞っている姿は、まるで新入生達を祝福しているかのようだ。

 先日、逢魔ヶ刻高校の入学式が行われ、本日はその日を除いた初めての通学である。

 校舎には新品の制服を着た生徒が多数見られ、これからの高校生活に期待したり、不安になったりと様々な表情が見受けられた。

 ふと教室を覗くと、そこでは新学期恒例の自己紹介大会が開催されていた。

 緊張で声が小さくなる者、爆笑を狙って大恥をかく者、十人十色な自己アピールは終始円満なムードで進んでいた。

 しかし、ある一人の自己紹介を除いて――。

箒屋(ほうきや)博士(ひろし)、十五歳。牛三津(うしみつ)中出身。好きなものは勉強、嫌いなものはオカルトです。これから三年間よろしくお願いします」

 まるでマニュアルに書いてある事を読み上げたかのような自己紹介に、先程まで暖かかった教室は冬に逆戻りしたかのように寒くなっていった。

 この空気を生み出した張本人は眼鏡の奥で深刻そうな顔をしていた。

 ――あぁ、だから嫌なんだよ。こういうの……!

 新しい高校生活、それは博士にとっては憂鬱なものでしかなかった。


●○●○●○●


「よーハカセ! 青春真っ盛りな学園ライフは満喫してるか!」

 本日の日程を終え、窓から夕焼けが漏れる一年B組から、元気な明るい声が聞こえてきた。

 声をかけられた眼鏡の少年――博士は笑顔剥き出しの友人を憎悪の目で出迎えた。

「これが満喫してるように見えるかよ。つーか、ハカセって呼ぶな」

「ハハッ! 全然!」

 博士の皮肉を軽く笑い飛ばした猫目の少年――乃良(のら)は癖っ毛の強い金髪で真面目な雰囲気の博士とは正反対のものだった。

「どーせあれだろ? カッチカチな自己紹介してクラスの皆引かせたとかそんなんだろ?」

「解ってんなら言うな!」

 的を射ぬかれた博士は大声を浴びせるも、乃良は動じずに勝手に話を進める。

「あーあ、クラスが離れちまって残念だなぁ」

「こちとらお前と離れられて万々歳だけどな」

「なっ! ハカセだって本当は淋しいだろ!?」

 博士は「ハイハイ」と適当にあしらい、高校指定の鞄を肩にかける。

「んな事より、さっさと帰ろうぜ」

「はぁ? 何言ってんだよ」

 教室を出ようとする博士を乃良はキョトンとした表情で呼び止める。

「今日から部活動見学だぜ?」

 『部活動見学』、高校生の青春にとって必需品である部活動を決める大事な行事であり、今後の高校生活を左右する行事と言っても過言ではない。

 しかし、博士はその単語を聞いて溜息を吐いた。

「いいよ。俺部活入る気ないし」

「はぁ!? 何で!?」

「何でって……、別に興味ないし、そんな時間あったら勉強したい」

「そんなつまんねー人生で良いのかよ! お前!」

「俺が良いって言ってんだから良いだろ」

 ロボットの様に冷たくそう言って帰ろうとする博士に対し、乃良は駄菓子を強請る子供の様になっていた。

「えー! なー行こうぜー。俺ら親友だろー」

「……ちなみにお前はどこに入るつもりなんだよ」

 少し気になったのか博士は振り返って乃良に訊くと、乃良は端的に答えを述べた。


オカルト研究部(・・・・・・・)


「!」

 乃良の答えを聞いて、博士は一瞬宇宙に放り出されたかと錯覚する程に混乱した。

 そして、体を震わせながらも何とか乃良に確認をする。

「お前……、俺がオカルト嫌いな事知ってるよな……?」

「勿論」

「知ってて誘ってんのか……?」

 どこか青ざめた表情の博士に向かって乃良は満面の笑みで答えた。

「面白そうだろ?」

「全く!」

 博士は心の底からそう叫ぶと、逃げるかの様に乃良に背中を向けた。

「とにかく! 俺はそんな部活に行かないから! じゃあな!」

「待てよ!」

 家に向かって一目散に走り出した博士だったが、乃良に左腕を掴まれてしまった。

「なー、別に見学くらい良いじゃねぇかよー」

「嫌だ! 放せ!」

 腕を振り払おうとするも、力は博士よりも乃良の方が上で払える筈は無い。

「んじゃ、行っくぞー!」

「おい待て! 行かねぇって言ってんだろバカ!」

 博士の必死の訴えも乃良の耳には届いておらず、乃良はそのままオカルト研究部の部室へと博士を連れて走り出した。

 廊下からは博士の無情な叫びが聞こえてきた。


●○●○●○●


 結局、博士は乃良に連れられるがままにオカルト研究部の部室前までやってきた。

 博士が手を膝につけて息を乱す隣で、乃良は平気な様子で博士に声をかけた。

「ほら、着いたぞ」

 乃良がそう言うと博士も俯いていた顔を前に向ける。

 そこには『オカルト研究部』と書かれた看板が飾ってある扉があった。

 扉の奥からはまだ逢魔時なのにも関わらず明るい光は感じられず、逆に暗い何かが漏れ出しているように感じた。

「……何か禍々しくねぇか?」

「そうか? まぁ、オカルト研究部なんだし、こんなもんだろ」

「オカルト研究(・・)部だからな」

 乃良のあっけらかんとした言葉に抜け目なくツッコミを入れる博士だが、乃良の耳には届いていない様子。

 乃良は扉に手をかけると、猫目を更に細くして振り返る。

「逃げんなよ」

 ギクッと心の中で音を鳴り響かせると、博士は観念したかのように溜息を吐いた。

「逃げねぇよ」

 その言葉に乃良は口の端を尖らせると、ゆっくりと扉を開けた。

「失礼しまー……!」

 中へと入っていくと、二人は思わず体を硬直させた。

 部室は完全なる闇に覆われており、電灯は愚か、日光も黒いカーテンで遮るという徹底ぶりであった。

 暗い部屋の中、辛うじて見えるのは左右に座る生徒らしき影、そして、奥に見える人影であった。

 すると、奥に見えた人影が静かに口を開いた。

「……ようこそ、我が城へ」

「いや、ここ部室ですよね?」

「我はこの城の主、タイターラ・ボッチ」

 博士の冷静なツッコミを盛大に無視しつつ、自称城の主は優雅に話を続ける。

「我が城に入ったが最後、貴様等はもうここから出る事は出来ない……」

 そして、フィナーレと言わんばかりに今までの静かな声とは一転して、大きな声を出した。

「貴様等は一生ここで我の傀儡として我の下で働くの」

「何やってるの?」

 突然、城の主の声を塞ぐ形で電灯が点き、博士達の背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこには優しそうな雰囲気をした制服姿の男女二人が佇んでいる。

「おい優介(ゆうすけ)! 何すんだよ! もう少しでこいつらを泣いてちびらせそうだったのに!」

「「いいや、全く」」

 さっきまでの雰囲気とは打って変わった城の主は、やってきた銀髪の青年を指差した。

 しかし、青年はそれに見向きもせず、女子に至っては部屋を覆っていた黒いカーテンを剥がし始めている。

 青年は状況を理解できてない博士達に気付き、優しい口調で声をかけた。

「あっ、もしかして、入部希望者?」

「いえ、断じて違い」

「はい! そうです!」

 博士の否定の言葉を防いで乃良が強く肯定すると、青年は笑顔を見せた。

「そっかー、僕は部長の斎藤(さいとう)優介。よろしくね」

「俺は加藤(かとう)乃良です! こっちは箒屋博士、博士って書いてヒロシって読むんでハカセって呼んであげて下さい!」

「おい! 勝手に話進めんな! ……ん?」

 乃良に声を荒げていると、不意に疑問が浮かんだ博士は思わず声を漏らす。

「あれ? 部長ってあの人じゃないんですか?」

 博士はそう言うと、先程まで城の主と名乗っていた青年の方へ目を向けた。

 明かりが点いた事で青年の容姿はハッキリと見え、耳にピアスの穴が開いていたりと随分と派手な格好をしているのが解った。

 青年は目を見開いて博士達をじーっと見つめている。

「彼は多々羅(たたら)剛臣(たけおみ)。この部活の副部長だよ」

「副部長!? アンタさっき『城の主』とか言ってなかった!?」

 博士が大声でそう言うと、斎藤は続けざまに人物紹介を続ける。

「さっき僕と一緒に来た彼女は三年の西園(にしぞの)美姫(みき)さん。そこに座っているのは二年の百舌(もず)林太郎(りんたろう)君。そして、彼女は……」

 斎藤は百舌の向かいの席に座っているポニーテールの少女を見て青ざめる。

「……誰?」

「「!」」

 斎藤の言葉に博士達もつられて硬直すると、少女は慌てた様子で口を開いた。

「一年の石神(いしがみ)千尋(ちひろ)です! その人達と一緒で部活動見学に来ました」

「あー一年生? よろしくね」

 少女の正体が解ると斎藤は安堵の表情を見せて、コロッと話題を変更させた。

「それじゃあ、早速なんだけど、今日の夜って暇?」

「? 私は全然大丈夫ですけど……」

「俺も暇っすよ」

「俺は勉強するんで暇じゃな」

「こいつも暇ですって!」

 博士の言葉を乃良は裸絞めで塞ぎ込み、屈託の無い笑顔を斎藤に向ける。

「そっか、じゃあ、来てくれるかな?」

「良いっすけど、どこにっすか?」

「おい……、俺は行かねぇぞ……!」

 辛うじて声となった博士の声は最早誰にも届いておらず、乃良の疑問に蚊帳の外となっていた多々羅が嬉しそうに笑顔を見せて答えた。


逢魔ヶ刻高校(ここ)だよ」


●○●○●○●


 春の陽気は綺麗さっぱり片付けられ、夜となった学校には冬を彷彿させる寒さが漂っている。

 正門は開いており、付近では制服姿のオカルト研究部員達が屯している。

 乃良がその集団に近付く人影に気付くと、そちらに向かって手を振った。

「おーい、ハカセー! 遅ぇぞー!」

 甲高い乃良の声に、博士は苛立ちながらも集団の方へと近付いていった。

 ――くそっ、何で俺がこんな事……!

 無論、博士は来るつもりなど毛頭無かったのだが、乃良からの着信音が警鐘の様に鳴り響き、勉強どころでは無かったので仕方なく来る事にした。

 博士が来た事を確認すると、斎藤はニッコリと笑って出発の合図を出した。

「それじゃ、全員集まったし、行こっか」


●○●○●○●


 校舎の電灯は点いておらず、斎藤の持つ懐中電灯を頼りに進んでいくオカルト研究部員達。

 音も博士達の足音しか聞こえなかったが、その沈黙を破るように博士が質問をした。

「というか、これ不法侵入じゃないですか?」

「大丈夫だよ。学校側から許可は出てるから」

 斎藤の優しい返答に博士がどこか悔しそうな表情を見せると、今度は千尋が疑問を投げかけた。

「私達はこれから何するんですか?」

「んーとね……」

 当然の質問に斎藤が何故か頭を悩ませていると、サポートするかの様に西園が口を開いた。

逢魔ヶ刻高校(・・・・・・)()七不思議(・・・・)って知ってる?」

「勿論!」

「何それ」

 勢いよく肯定する千尋とは逆に適当に言葉を返した博士を、千尋は女子高生とはかけ離れた形相で見つめた。

「アンタ、七不思議知らないの!?」

「おっ、おぅ、知らないけど……、何? 知ってるの?」

「知ってるってもんじゃないわよ!」

 千尋はそう断言すると、自分の知っているありったけの知識をベラベラと語り始めた。

「逢魔ヶ刻高校の七不思議ってのは、その名の通り逢魔ヶ刻高校で語られる七つの怪奇現象の事! 誰もいない音楽室で流れるピアノの伴奏、プールに棲んでいる半魚人、真夜中に人知れず動く理科室の人体模型、裏庭の飼育小屋を食い荒らされた謎の事件、体育館から覗きこまれた巨大な目、一階の女子トイレに暮らす幽霊の少女、そして、全ての怪奇現象を知った者の前に現れるという謎の禍……。これら七つの怪奇現象をまとめて逢魔ヶ刻高校の七不思議って言うの! そうですよね!」

「正解。よく知ってるね」

 千尋の七不思議の演説を聞き終えると、西園は柔らかい口調でそう答えた。

「これからその七不思議の一つに会いに行くの」

「本当ですか!」

 西園の言葉に千尋はまるで玩具を眺める子供の様に目を輝かせた。

 そんな千尋を横目に、博士は千尋を鼻であしらう。

「何が七不思議だ。バカバカしい」

「むっ、アンタ今何て言った」

 独り言じみた言葉だったが、千尋はその言葉を捕まえると博士に問い質した。

「七不思議なんてバカバカしいって言ったんだよ。世の中の物事は全て学問で証明する事が出来る。裏を返せば、学問で証明できない物事は実在しないって事だ。七不思議? 怪奇現象? そんなのは人間が勝手に創った机上の空論で、笑い話のタネでしかないんだよ」

 長々と自分の意見を並べ立てた博士に千尋は呆気にとられていた。

 そんな中、斎藤は博士に対して小さな疑問を口にした。

「……ハカセ君、何でうちに来たの?」

「俺は最初から入りたくないって言ってるんですけどね」

 冷静に答える博士を軽く無視し、千尋は話題を元に戻そうとした。

「で、どの七不思議に会いに行くんですか?」

「体育館の巨人」

「!」

 千尋の質問に答えたのは今まで沈黙を極めていた多々羅であった。

「体育館の巨人……?」

 博士が繰り返しそう呟くと、千尋がポニーテールを靡かせながら勢いよくハカセの方へ振り向いた。

「アンタ、何にも知らないのね!?」

 千尋はそう言うとまるで授業を始める先生の様に体育館の巨人の怪談について語りだした。

「いい? 体育館の巨人って言うのはね……」


●○●○●○●


体育館の巨人


 これはとある高校教師が実際に体験した物語の記録である。

 学校には有名な不良集団が存在し、体育館の鍵を盗んでは夜な夜なバスケットボールで遊び呆けたという。

 体育教師であった彼はそんな彼らに困りつつも、新米な為かどこか強く叱る事に一線を引いていた。

 しかし、今日は日直。

 今日こそは不良集団を叱咤すると心に決め、体育館へと足を運んだ。

 ……しかし。

 聞こえてきたのはボールをバウンドする音では無く、不良集団による悲鳴の大合唱であった。

 教師は恐怖で足が竦みそうになるも、勇気を振り絞って一歩を踏み出す。

 辿り着くと格子は閉まっているものの扉は開いており、中の様子を確認する事が出来た。

 教師は喉を鳴らし、恐る恐る中を覗いた。

 すると、そこに見えたのは――。


 こちらをじーっと見つめる、視界を埋め尽くす程の巨大な瞳だった。


 教師は理性を忘れてその場から一目散に逃げだし、職務を放棄したまま自宅へと転がり込んだ。

 翌日、教師は体育館へ訪れるも、そこには蠅一匹として飛んでいる気配は無かった。

 不良集団はその日以来、行方不明。

 粗暴な性格だった事から家出したのであろうと、学校、家族までもがそれで結論づけ、その事件は日が経つ毎に人々の記憶から消えていった。

 しかし、教師だけは知っている。

 あの日、体育館から聞こえた不良集団の阿鼻叫喚を。

 忘れようもない、大きな大きな巨人の瞳を。


●○●○●○●


 千尋が体育館の巨人にまつわる怪談を話し終えるも、博士は興味の無い様な顔で窓の外を眺めていた。

 千尋もそれに関して腹を立てる様子はなく、逆に笑顔で多々羅に声をかけている。

「その体育館の巨人に会えるんですか!?」

「そーそー」

 多々羅はニヤリと笑いながらそう言うと、話が終わったのを見計らったかの様に斎藤が口を開いた。

「着いたよ」

 全員が目を向けると、目の前には頑丈そうな体育館の扉が待ち構えていた。

 多々羅はその重そうな扉に両手をかけると、ゆっくりと扉を開いた。

 その先は博士達にとってはまだ数度しか踏み入れた事のない体育館が広がっており、さっきまでとのギャップで眩しいと感じる程に明るくなっていた。

 千尋が体育館のあちこちに目を凝らすも、巨人どころか自分達以外の人っ子一人としていない。

「……先輩、巨人なんてどこにも」

「これから現れるんだよ」

 多々羅は笑顔を見せながら、話の相手を千尋から別の相手へとすり替える。

「ところでハカセ」

「!」

「世の中の物事は全て学問で証明できる……、とか何とか言ってたよな?」

「あぁ、それが何……?」

 返答の最中、博士はある違和感に気付いた。

 最初は違和感の正体が解らなかったが、それは次第に大きくなり、博士の目の前にハッキリと現実を叩きつけた。

「んじゃ、これも……」

 博士達一年生は目の前の光景にただただ茫然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 それも無理ないだろう。

 何故なら――。


 さっきまで同じ背丈ぐらいだった多々羅が、体育館の天井に頭をぶつけそうな程の巨人(・・)に変わっていたのだから。


「お前の好きな学問で証明できるってのか?」

 一年生達の表情を上から楽しそうに眺める多々羅。

 さっきまであんなにテンションの高かった千尋は、今や念仏を唱えているかの様にブツブツと何かを呟いている。

 そんな中、口を開いたのは博士であった。

「アンタ……、何者だ……!」

「何って、ご覧の通り巨人だよ」

「そんなの居る訳ねぇだろ!」

「あれ? これ見てもまだ信じねぇの? 頑固だなぁ」

 顔を青くさせながらも声を荒げる博士を見下げながら、多々羅は自由気ままに話し始めた。

「ガリ勉君なら知ってんだろ? 旧約聖書にてダヴィデがゴリアテと呼ばれる巨人を討伐し、王になったって話」

 遥か頭上にある多々羅の顔を、博士は眼鏡の奥の目を鋭くさせて見上げる。

「……つまり、アンタはそのゴリアテの一族、とでも言いてぇのか?」

「いや違うけど」

「じゃあ、何でその話したんだよ!」

 博士の反応がお気に召したのか多々羅はゲラゲラと笑い出した。

「ハハハッ! 俺が言いてぇのは巨人はいるかもしれねぇって話さ。俺は生まれも育ちも日本だよ」

 多々羅はそう言うと、そのまま自分の正体について語りだした。

「遠い山奥に巨人の集落ってのがあってな、俺はそこの退屈な日常が嫌で飛び出してきたんだよ。幸い巨人には体の伸縮能力があったから、山を下りても目立つ事は無かった。つっても、山を下りたからといってやる事がある訳でも無く、その辺をブラブラしてた時に辿り着いたのが、まだ創立ホヤホヤだったここって訳よ」

 俄かには信じられない話に戸惑いつつも、博士に小さな疑問が思い浮かんだ。

「ん? ここって確か創立って明治じゃ……」

「おぅ! よく知ってんな!」

「アンタ何歳だ」

 大分非現実に慣れたのか、次に口を開いたのは千尋だった。

「じゃああれは? 体育館の巨人の怪談は!?」

「あれか? あんなのはデタラメだぜ?」

 千尋の期待とは裏腹に、多々羅は呆れ半分に笑って答えた。

「ただ一緒にバスケしたくてこの姿で出たら、悪餓鬼共が皆絶叫して逃げちまってさ。探そうと外見たら先生がいたから挨拶したんだけど、その先生もどっか行っちまったっていうだけの話だ」

「実話じゃねぇか!」

 博士が声を張り上げてそう言うと、多々羅はその巨大な身体を縮小させていった。

「それよりハカセ」

「?」

 体を完全に元の身長に戻すと、さっきまでとは違った悪戯の籠った笑顔をキョトンとしている博士に見せた。

「これで七不思議の事、認めてくれるよな?」

「!」

 博士はそこでようやく気付いた。

 多々羅だけでなく、他のオカルト研究部員達も博士のその答えを待ち望んでいるという事を。

 博士は問われたその答えを導く為、混乱している頭の整理を試みる。

 ――七不思議は実在する? そんな筈無い! 世の中の物事は全て学問で証明できる! しかし、目の前の巨人は何者だ? どう説明する? 怪奇現象は本当に実在するのか? だがしかし!

「……ハカセー?」

 乃良が博士に声をかけても、博士の頭の中で様々な言葉が渦巻いており、乃良の声が入る余地などどこにも無かった。

 数秒が経過したのち、博士の中で一つの答えが導かれ、博士は堂々とその言葉を口にした。

「……帰る!」

「「「「「「「は?」」」」」」」

 博士はそう言うと、体育館の外に向かって早足で歩き出した。

 突然の博士の行動に驚きつつも、何とか捕まえようと乃良が博士の右腕を掴む。

「おい! どこ行くんだよ!」

「帰るって言ってんだろ! 巨人なんていない! 七不思議なんて存在しない! 俺は家に帰って寝て今日の事を綺麗さっぱり忘れるんだ!」

「現実逃避か!」

 放課後の時よりも妙に力が強く、乃良が博士を止めるのに苦労していると、それを見越したかのように多々羅が大声を出した。

「そういやー、言い忘れてたが!」

 わざとらしく声を上げて言った多々羅に博士と乃良は目を向ける。

「七不思議ってのはオカルト研究部の機密事項で、この事を外に漏らす訳にはいかねぇんだよ。この意味、ガリ勉君なら解るよな?」

 数秒の時間をおいてその言葉の真意を理解した博士は顔を真っ青にし、嫌な汗をタラタラと流し始めた。

 そんな博士の表情を見て、多々羅は悪意の満ちた、正しく満面の笑みでそう言った。

「これからよろしくな、ハカセ」

 刹那、逢魔ヶ刻高校の体育館に怪奇現象じみた断末魔が鳴り響いた。


 これからの高校生活に絶望し、膝をついてワナワナと震えているハカセを余所に、千尋は多々羅に疑問を投げかけていた。

「じゃあ、今日はこれで解散ですか?」

「ん? いや、今日はもう一人と会ってもらう」

「えっ!? 誰ですか!?」

 千尋は両目を宝石の様に輝かせながら、多々羅の言葉を待ち望んだ。

 多々羅は楽しそうに口角を上げると、自慢げにこれから会う少女の名を口にした。


「トイレの花子(はなこ)さんだ!」


 時は春、逢魔ヶ刻高校――。

 新一年生を含めたオカしなオカルト研究部の不思議な夜はまだまだ明ける様子が無い――。

はじめまして! そして、ここまで読んで下さり有難うございます!

作者の越谷さんと申します!


今回、小説を誰かに読んでいただきたいと思い、満を持して投稿する事を決めました!

小説を書くのは元々趣味でしていたんですが、ネットに投稿するのはかれこれ三年振りくらいです。


今回の小説は学校の七不思議を題材としたラブコメディです。

僕はちょっとファンタジーの入ったぐだぐだ日常系が大好物で、「あっ、七不思議とかいいんじゃね?」とか思って始まったのがこの物語です。

まだ恋愛要素なんて欠片も出てきてないし、説明回みたいになってしまいましたが、これからどんどん面白くなっていく予定です!

もし面白いと感じて続きを読みたいと思ってくれた方、あんまり面白くねぇなつまんねーぞと思った方も、これからの『逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議』を読んで下されば幸いです!


毎週土曜十八時投稿予定です!

次回からはちょっと短くなりますが、よかったら是非読んでください!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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