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7 カリンとクマの出会い (7巻発売記念)

7巻、発売記念のSSです。

3巻のカリンとユナの出会いから、クリモニアの街で働くと決めるまでの話になります。

書籍版に合わせているため、web版と少し、違っているかもしれませんがご了承ください。

 今日もパンを焼いて、販売する。

 もうしばらくすると、お店でパンを売ることが出来なくなる。

 よく分からないけど、お父さんが亡くなったことで、このお店から出ていかないといけなくなった。お母さんが、夜に一人で泣いている姿があった。でも、わたしの前では元気に振る舞って「大丈夫」「心配しないでいいよ」と声をかけてくれる。そんなお母さんの気持ちにわたしはなにも言えず。ただ、笑顔で返すことしかできない。


 今日もお母さんと一緒に焼いたパンを売る。国王様の誕生祭のこともあって、人が多く集まり、朝から順調にパンは売れている。そんな中、可愛い格好をした女の子がパンを買いに来た。その格好はクマさんだった。初めて見る姿だったけど、とても可愛らしい。

 クマの女の子は美味しそうな匂いに釣られて買いに来たと言う。その言葉に嬉しくなる。


「それじゃ、美味しかったら、また来るね」

「はい、お待ちしています」


 クマの女の子は小さな女の子を連れて、去っていく。

 王都にはあんな可愛い格好した女の子がいるんだね。それとも、国王様の誕生祭で他の街から来たのかな?


 それから、クマの女の子が買っていってからも、パンは順調に売れていく。お母さんは休むこともなくパンを焼き、わたしは出来上がったパンを並べ、売っていく。うん、いい感じだ。でも、そんな順調が長くは続かなかった。

 お店の中に怖そうな男たちが入ってきた。

 その男たちが並んでいるパンを地面に叩き落す。お客様は驚いて、店の外に出て行ってしまう。


「なにをするんですか!」

「いつまでここにいるつもりだ。早くでていけと言ったはずだぞ」

「約束の日まで、まだあるはずです」


 お母さんの話だと、国王様の誕生祭が終わるまでと聞いている。


「それが変わったんだよ。恨むなら死んだ父親を恨むんだな!」


 男は焼きたてのパンを掴むと握り締める。パンはグニャと潰れる。お母さんが一生懸命に作ったのに。


「こんなふうになりたくないだろう」


 わたしは悔しくて、睨みつける。


「なんだ。その目は」


 男が手をあげようとしたとき、お母さんがやってきて、わたしを庇ってくれる。


「おい、娘に言ったが、早く出て行け」

「約束が」

「娘も母親も約束、約束、うるせよ!」


 男がパンが乗っている台を蹴り飛ばす。パンが飛び跳ね、床に落ちる。


「やめて!」


 お母さんとわたしは叫ぶが男たちはやめようとはしない。楽しそうにパンを床に叩き落とし、パンを踏みつけていく。

 お願い、やめて。

 お母さんが作ったパンが汚い足で踏み潰される。

 誰か助けて。

 でも、誰も助けようとはしてくれない。お店が、パンが、破壊されていく。

 男の手がわたしに伸びてくる。お母さんがわたしを守ろうとして、殴られる

 お母さん!

 お母さんが殴られたと同時に、黒いなにかがお店の中に入って来た。それと同時に男が吹っ飛ぶ。クマの格好した女の子だ。女の子はお店の惨状を見て、凄く怒っている。そして、襲いかかってくる男たちを、倒してしまう。

 目の前で起きているのに何が起きているか分からなかった。

 そして、男たちは逃げるように店を出て行った。


「大丈夫?」


 クマの格好をした女の子が心配そうに声をかけてくる。今日、パンを買ってくれた女の子だ。そのクマの女の子が助けてくれたみたいだ。わたしとお母さんを助けてくれたクマの女の子にお礼をいう。


 そして、あらためてお店の中を見ると酷い有様だった。

 これじゃ、もうお店を開くことができない。できたとしても、また男たちが来る。わたしは悲しくて涙が出そうになる。でも、ここで泣けばお母さんを困らせる。だから、泣くわけにはいかない。わたしは涙をこらえる。

 わたしが泣くのをこらえている間、クマの女の子とお母さんが話している。そして、女の子が次に口にした言葉を聞いて、驚いた。


「それじゃ、わたしのお店で働かない?」


 どうしたらそうな言葉が出てくるか分からないけど。女の子はそんなことを言い出した。

 詳しい話を聞こうとしたが、男たちが戻ってくる可能性もあったので、店から離れることになった。

 簡単にお店を離れる準備をするとクマの女の子についていく。本当はパンを片付けたかったけど、そんな時間はない。それはお母さんも同じ気持ちのようだったけど。今は身の安全が一番大事だ。

 わたしはこれからのことを考えると不安になる。でも、そんなわたしにお母さんが手を握ってくれる。お母さんと一緒になら、大丈夫だ。


 そして、クマの女の子のお家に行くまでに自己紹介をする。

 クマの女の子の名前はユナさん。一緒にいた小さな女の子はフィナちゃんだと紹介された。

 ユナさんの家にやってきた。中級地区から上級地区近くにある場所に来たわたしたちは一軒の家の前に立つ。そこは周囲の建物には似合わない建物が建っていた。


「クマ?」


 目の前にはクマの家があった。

 ここがユナさんの家?

 ユナさんは中に入るように言う。中は普通? ここでの普通はなんだが分からないけど、家の中にはクマはなかった。

 わたしとお母さんは椅子に座ってこれからのことを考える。

 もう、店には戻れない。それに男たちは怒っていた。この王都にいられないかもしれない。

 そうなると、ユナさんが言っていたユナさんのお店で働かせてもらうしかない。

 わたしとお母さんはお店の話を聞くことになった。

 ユナさんはカップに入ったプリンとパン生地に乗ったピザと言う食べ物を出す。これをお店で出したいと言う。もちろん、パンを作りながらだと言う。

 わたしは手に取って食べる。凄く美味しいかった。プリンには卵を使っていることを聞いたときは驚いた。そして、ピザって食べ物も凄く美味しかった。こんな料理もあるんだね。

 そして、話し合った結果。わたしとお母さんはユナさんのお店で働かせてもらうことになった。


 もう、お店には戻れないので、ユナさんがクリモニアまで出発するまで、部屋を貸してくれることになり、ユナさんのクマの家にお世話になることになった。


「お母さん、これからどうなるのかな?」

「ユナちゃんのことを信じるしかないわね。わたしたちを助けてくれたのはユナちゃん。行く先がないわたしたちを働かせてくれると言うなら、今はそれにすがるしかないわ」

「うん、そうだよね」

「それに悪い子には見えないしね」


 翌日、今後の細かい話をすることになった。

 クリモニアまでの馬車代はユナさんが払う。クリモニアの泊まり先もユナさんが用意する。お給金の件は決められないので保留になった。クリモニアにお世話になっている人がいるから、その人と相談するらしい。孤児院の子供も一緒に働くことになるとも聞いた。

 それから、いろいろとお店の話しをしていると、外が騒がしくなる。


「ドアをぶっ壊すぞ!」

「クマ、出てこい!」


 昨日の男たちだ。この家を見つけたんだ。フィナちゃんが心配そうにユナさんを見るが、ユナさんは一人で外に行くと言い出す。

 止めようとするが冒険者だから大丈夫だと言う。たしかに、強かったけど、お店を開くとか冒険者とか、訳が分からなくなってくる。

 わたしたちはユナさんを止めることもできず、ユナさんは一人で、外に行ってしまう。わたしたちは窓から様子を見る。

 男たちがたくさんいる。そんな中、ユナさんが一人で歩いていく。わたしたちのせいで、こんなことに。ユナさんは男たちに怒らせるような言葉を投げつける。

 ここからでも、男たちは凄く怒っているのが分かる。ユナさん。どうして、相手を怒らせるようなことをするの?

 ユナさんは最後には口が臭いから、開くなとまで言う。十人以上の男たちに囲まれているのに、ユナさんは平然としている。男たちが怒り出して、ユナさんに襲いかかろうとするが、男たちが消える。


「穴です」


 フィナちゃんが言う通り、男たちがいた場所に穴が空いている。もしかして、ユナさん魔法が使えるの?

 太った男が怒り出す。そんなとき誰かがやってきた。

 よく、聞き取れなかったけど、冒険者のギルドマスターって聞こえた。

 さらに別の男の人が現れる。どこかで見覚えがある顔だ。国王って言葉が聞こえたけど、まさかだよね。でも、前に見たことがある国王様に似ている。

 そして、太った男や他の男はギルドマスターって名乗った女性に簡単に捕らえられ、国王様が家の中に入ってくる。わたしとお母さんは状況が飲み込めない。フィナちゃんの方を見ても分からなそうにしている。

 そして、フィナちゃんは純粋無垢の顔でユナちゃんに尋ねてしまう。


「そのおじさん誰?」


 わたしは血の気が引く。

 でも、ユナさんはフィナちゃんの無邪気な言葉に「国王様だよ」と平然と答える。もう、訳がわからない。どうして、そんなに親しく国王様と話しているの? どうして、国王様がユナさんの家にやってくるの?

 フィナちゃんも国王って聞いて驚いている。


 そんなわたしたちに関係なく。ユナさんと国王が話を始める。

 昨日食べたプリンを国王様の誕生祭の晩餐会の料理に出して欲しいと頼みに来たみたいだ。

 もう、駄目だ。思考がついていけない。それはお母さんも一緒みたいだ。

 どうして、一国の王が直に頼みに来るの?

 ユナさんは何者なの?

 もう、訳がわからない。

 そして、国王様はユナさんにプリンを頼むと帰って行った。



 そして、ユナさんはわたしたちにとんでもないことを言いだす。

 なんでも、プリンの作り方を教えるついでに国王様の晩餐会に出すプリンを作ろうって言う。わたしが作った料理が国王様の口の中に入ると思うと、作れない。

 それはお母さんもフィナちゃんも一緒みたいで、断っていた。

 国王様の晩餐会の料理を作るなんて恐ろしい。何かあったら、死刑は間違いない。絶対に作ることなんてできない。


 全員が断ると、ユナさんが目を細めて恨めしそうにわたしたち見ながら、一人で大量のプリンを作り始めた。

 そんな目で見ないで。さすがに国王様の晩餐会の料理は作れないよ。

 でも、ユナさんはプリン作りを手伝わないわたしたちに、優しく作り方を教えてくれる。

 ユナさんは手に嵌めているクマさんから大量の卵を取り出し、プリンを作っていく。こうやって作るんだ。それにしても手際がいい。


「ユナさんはお店はやらないの?」

「わたし冒険者だから」


 さっきもそんなことを言っていた。でも、わたしたちを助けてくれたときや、魔法を使った姿を見れば、冒険者だと納得がいく。でも、可愛いクマの格好を見ていると、そんなふうには見えない。

 ユナさんはどんどん作って、国王様と約束したプリンを一人で全部作ってしまった。


「覚えた?」


 何度も、何度も繰り返されるユナさんの作り方を見て、覚えることができた。思ったよりも簡単に作り上げました。この料理とパンを一緒に作ることになる。

 昨日まで不安だったのが嘘にように、楽しさが込みあがってくる。

 クリモニアに行くのが楽しみだ。


 翌日、警備隊の人がユナさんの家にやってきた。

 なんでも、お父さんを騙した商人が捕まったそうだ。いろいろと悪さをし、国王様の前で国王の名を使い悪さをしたことで重犯罪者として処刑が決まった。

 それにともない、お父さんのお店もお母さんに戻ることになった。ユナさんは凄く喜んでくれた。

 でも、それだとクリモニアの街に行くことはできない。


 わたしとお母さんはお店に向かう。

 当たり前だけど、店の中は男たちに襲われたままになっていた。パンが散乱し、踏まれたパンもある。わたしとお母さんはお店の掃除を始める。


「お母さん。ユナさん、優しかったね」

「そうね」

「プリン美味しかったね」

「そうね」

「国王様の晩餐会に出す料理を教わっちゃったけど。よかったのかな?」


 あればユナさんのお店で働く約束をして教えてもらった。でも、ユナさんはなにも言わずに、わたしたちを送り出してくれた。

 ユナさんは店で暴れている男たちから、助けてくれた。家にやってきた商人と男たちを追い払ってくれた。国王様が直に頼みにくるプリンの作り方を教わった。どこにも行く当てがないわたしとお母さんを家に泊めてくれた。そんなユナさんにもらってばかりで、なにも返していない。


「カリンはどうしたい? このままこのお店で働く? それともユナちゃんのところに行きたい?」

「……わからない」


 昨日まで、ユナさんのお店で働くつもりでいた。国王様とも知り合い。なによりもわたしとお母さんを助けてくれた優しい女の子。


「恩は返さないと駄目よね」

「お母さん……そうだよね。恩は返さないとだめだよね」


 わたしとお母さんはお店を綺麗に掃除をして、ユナさんのお店で働かせてもらうようにお願いすることにした。




たまに書こうと思っていたら、4ヵ月も開いてしまったw

近いうちに400話記念も書きたいけど、先になりそうです。


※出版社さまがクマのPV動画を作ってくれました。詳しいことは活動報告に書いてありますので、良かったら、見てください。

これからもクマをよろしくお願いします。

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