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5 クリフ、王都に向かう。(1億PV & 10万ポイント記念)

クリフが国王陛下の誕生祭のため、王都に向かうお話です。

 数日後には王都で国王陛下の誕生祭が行われる。

 もちろん、俺も行くことになっているが、ある事件のせいで出発することができない。さらに通常の仕事に、王都に行っている間の仕事の指示書も作っておかないといけない。やることが山積みになっている。

 このままでは王都に行くとなると、時間が足らずに馬で強行軍になる。一緒に行くことになっている娘のノアにそんなことをさせるわけにもいかない。だから、クマの格好をした冒険者に頼んで先に王都に行ってもらった。


 俺がクリモニアを出発したのは、娘のノアがクマと一緒に王都に向かってからしばらくしたあとだった。

 クリモニアで大量の仕事を片付け、急いで王都に向かうため、馬車でなく、馬を使い。それもなるべく、急いで王都に向かった。俺は部下とともに馬に乗って駆ける。多少、馬に無理をさせるかもしれないが、急がないといけない。

 大変な移動になるかと思ったが、天候も良く、馬も疲労も抑えられ、順調に来ている。これなら予定より早く着きそうだ。今日も馬を走らせていると、前の方に奇妙な物が見えた。

 あれは……。


「クリフ様、あれは」

「わかっている。あんな物が何個もあって堪るか」


 道から少し離れた場所に見覚えのある家が建っている。俺は馬を道からずらし、その建物に向かう。

 目の前にはふざけた形をした家が建っている。どこかで見たことがあると言えば「イエス」だ。家はクマの形をしている。こんな家を建てる人間は俺は1人しか知らないし、2人いるとは思えない。


「俺が見てくる。お前たちはここで待っていろ」


 俺は馬を止め、馬から降りるとゆっくりとクマの家に近づく。すると、タイミングよく、ドアが開き、俺が想像した人物が家から出てくる。

 クマの格好をした女だ。クマの格好と言ってもクマの毛皮を被っているわけではなく。可愛くしたクマの格好だ。どうして、こんな格好をしているのかは、俺にはわからない。でも、冒険者としての実力は確かなもので、娘のノアも好いている。謎が多い女だ。

 でも、一緒に王都に行ったはずのクマが、どうしてここにいるんだ?

 クマは俺の顔を見ると驚きの表情をする。驚きたいのは俺の方だ。


 理由を聞けば、この付近に魔物が現れたから俺を迎えに来たと言う。でも、それは不要になったから帰ると言う。意味がわからん。なにかを隠しているのは態度を見ればわかる。

 俺がそのことを尋ねるがクマは口を閉じて説明をしようとしない。でも、俺が強く問い詰めると、俺の権力で揉み消したいことがあると言う。俺になにをさせるつもりだ?

 俺が出来ないと答えると「貴族でしょう」と言う。

 このクマは貴族をなんだと思っているんだ。

 俺はとりあえず、理由を尋ねることにする。すると、クマはクマの家の中で話すと言う。俺の部下には聞かれたくないみたいだ。

 俺は部下に休憩の指示を出し、クマの家の中に入る。

 家の中は本当に家だった。テーブルがあり、椅子があり、本当の家みたいだ。こんな家をどうやってここに作ったのか疑問になったが、今はクマが隠していることを聞くことにする。


「…………」

 話を聞いて、俺は開いた口が閉じなかった。

 とてもでないが、信じられない話だった。魔物1万だと。それにワイバーンに巨大なワーム?

 それらを全て倒したから安全になったから、俺を迎えに行くのを止めたと言う。

 しかも、王都ではそれなりに騒ぎになっていると言う。それをこのクマは黙って帰ろうとしたらしい。

 頭を抱えたくなってくる。もし、それが本当のことで、そんな大騒ぎになっていることを黙っているわけにはいかないだろう。それを、このクマは俺の権力で消そうとしたのだ。

 冒険者なら、公表するのが普通だろう。公表すれば有名な冒険者になれる。でも、このクマはそんなのには興味が無いみたいだ。逆に静かに暮らしたいと言う。その姿で言うか?

 でも、目立ちたくないのに、俺のために魔物1万匹と戦ったのが本当なら、怒ることも、注意することもできない。命の恩人になる。俺は仕事や移動で疲れている体にさらに疲労が重なる。


 とりあえず、事実を確認することにする。話はそれからだ。

 なんでも近くの森に、証拠になるゴブリンの死体やオークの首が転がっているらしい。俺は部下に命じて確認に行かせる。その間にワイバーンとワームを見せてもらう。

 結果だけを言えば、嘘だと思いたかったが、事実だという証明が出ただけだった。部下からの報告でもクマの言うとおり、ゴブリンの死体の山だったと言う。頭が痛い。いったいどうすればいいんだ。

 命を救われたのは事実だ。もし、クマが魔物を倒してくれなかったら、俺たちは一万の魔物にワイバーンに襲われていたかもしれない。そのクマが皆に知られたくないと言っている。

 どうにかしてやらないといけない。だからと言って、これだけの問題を黙っているわけにもいかない。まずはこちらに向かっている冒険者をどうにかしないといけない。

 冒険者ギルドのギルマスか副マスが居れば、相談することも出来る。

 ある程度の考えを決め、俺たちは王都に向けて出発をする。


 王都に向かって進んでいると、運よくこちらに向かっている冒険者に合流することができた。さらに幸運なことにギルドマスターのサーニャに会うことができた。

 サーニャは知らない相手ではない。俺はサーニャには本当のことを話し、クマのことは知られないように頼む。

 もちろん、初めは信じられなそうにしたが、最終的には信じてもらえることができた。


 俺は内密に処理するために、サーニャといろいろと話し合った。

 国王陛下にどう説明するか、冒険者たちにはどう説明するか、騎士団にはどう説明するか、クマのことを説明しない方法を考えた。

 クマが誰にも知られたくないとか、我がままを言うから、手間になる。でも、よくよく考えると、あんな変な格好したクマの少女が魔物を1万、さらにワイバーンを倒したと言って、誰が信じるんだ。

 もし、俺が言ったら、変な目で見られるのは間違いない。さらに、クマが否定すれば俺が変人扱いだ。

 クマが1万倒したことにするよりは、謎のAランク冒険者が倒したと言った方が、よっぽど信憑性がある。

 そのことにはついてはサーニャも頷いていた。それは見事に成功した。Aランク冒険者のことはすぐに広まって、冒険者たちの顔に安堵の表情が浮かんだ。

 もし、クマが倒したって言っても、誰も信じなかっただろう。俺だって、クリモニアで(おこな)った数々の出来事や、ワームやワイバーンを見ていなければ、信じはしなかっただろう。


 無事に誤魔化すことが出来るとクマはノアに俺が無事のことを伝えるために先に王都に戻る。俺は冒険者たちと一緒に王都に向かう。

 サーニャも急いで王都に戻りたいが、現場を確認してから、戻ると言う。

 俺は無事に王都に到着する。王都は騒ぎになっていたが、クマの後を追いかけるように先に向かった、冒険者ギルドの職員が報告したおかげで、思ったよりは騒ぎになっていない。

 そして、やっとのことで王都にある家に到着した。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっている。

 家に入ると娘のノアが嬉しそうに出迎えてくれる。


「お父様」

「心配をかけたな」


 ノアも元気そうで良かった。頭を撫でてやると嬉しそうにする。


「クリフ、無事でよかったわ」

「ユナのおかげだ」


 妻のエレローラも微笑みかけてくれる。

 それから学園から帰って来たシアとも会い、久しぶりの家族が集まった。無事に家族と再会出来たのもクマのおかげだ。そして、久しぶりの家族との食事となる。


「それで、ユナさん、とっても強いんですよ」

「くまさんたちも可愛いです」

「ふふ、そうね」


 家族が集まったと言うのに、なんでクマの話しをしているんだろうか?

 普通はお互いの家族の話をするものではないだろうか?

 でも、楽しそうに話す娘たちを邪魔をするつもりはない。


 その日の夜、俺は疲れた体を休ませるために、早く就寝しようと部屋に戻る。

 明日も早い。早く寝よう。

 俺は布団に潜り込む。

 俺が夢の中に入ろうとすると、それを邪魔をする者が部屋に入ってくる。


「あなた、なに寝ようとしているの?」

「俺は疲れている。だから寝る」


 俺はエレローラに背中を向ける。本当に疲れている。頼むから寝かせてくれ。


「駄目よ。寝るなら全て話してからにして」

「なんのことだ?」

「魔物1万の件で黙っていることがあるでしょう」

「……なんのことだ?」

「わたしが知らないとでも、思っているの。お城に早馬で魔物1万の魔物がAランク冒険者によって討伐されたと連絡があったけど。ありえない」


 エレローラが俺とサーニャが考えたことを否定する。


「Aランク冒険者はいない」


 エレローラは同じ言葉を繰り返す。


「だから、偶然通りかかったんだろう」

「ユナちゃん」


 クマの名を聞いた瞬間、俺の体がピクンと動く。


「クマさん」


 また、体がピクンと動く。


「体は正直ね」


 エレローラが俺の背中を触る。


「ユナちゃんが魔物を倒したのね」

「俺は知らん」


 話すわけにはいかない。それがクマとの約束だ。命を救ってくれたのは間違いなく、あのクマだ。俺のために魔物1万と戦い、ワイバーンまで倒した。

 そんなクマとの約束を破るわけにはいかない。


「そんな嘘が、わたしに通じると思っているの?」


 エレローラが俺の上にのし掛かってくる。


「あなたが魔物1万の事を話すとき、嘘を吐いていたわ。それにユナちゃんに感謝していたし。それはなぜかしら」

「おまえの勘違いだろう」


 俺は抵抗した。

 エレローラがどんなに誘惑しようが、甘い囁きをしようが、俺は口を開かなかった。

 だが、時間が経つにつれ、疲労と睡眠には勝てなかった。

 ユナ、すまない。

 俺は眠りたかったんだ。

 俺はエレローラに全てを話すとクマの格好した少女に謝りながら夢の中に落ちていった。


ありがとうございます。

本編、1億pv記念と、総合評価10万突破記念です。

本当は別々に書きたかったのですが、時間がないので、2つの記念で1本となりました。

これからもよろしくお願いします。

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