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2 クマのキューピット。ゲンツ編(2周年記念)

 俺の名はゲンツ。元冒険者だったが、今は冒険者ギルドで働いている。

 引退するまえに組んでいた2人が結婚したのも理由だが、タイミングよく冒険者ギルドで働かないかと誘われたことも理由だ。

 そして、その結婚した2人の間に生まれた娘が俺の目の前にいる。


「ほら、そこはこうやって切るんだ」

「はい」


 その娘は小さな手でナイフを持ってウルフを解体している。

 娘の名前はフィナ。元のパーティーメンバーだったティルミナと、今は亡きロイの忘れ形見だ。妻であるティルミナは病気に侵され寝込んでいる。医者にも見せたが、薬で抑える以外の方法がないそうだ。

 働けない母親の代わりにフィナが母親や妹の分も働いている。

 俺が出来るのは仕事を斡旋してあげることぐらいだ。前にお金を渡そうとしたら、フィナに断られた。

 なんでも、お返しができないから受け取れないと言う。俺はそんなのは、いらないから受け取るように言ったが、フィナは首を縦には振らなかった。

 だから、俺はフィナに仕事を斡旋し、お金や薬などを渡している。

 でも、子供であるフィナに仕事を毎日斡旋できるわけもなく、仕事がない日も続く。どうにかしてあげたいが、俺は無力だ。ロイの大事な娘を守ることもできない。そして、好意を持っているティルミナを救うこともできない。本当に俺は無力な人間だ。


 そんなとき、フィナがクマの格好した嬢ちゃんと一緒にギルドにやってきた。なんでも、森の奥でウルフに襲われていたところを助けてもらったそうだ。

 俺はフィナを叱る。フィナにもしものことがあったら、俺はロイの墓の前でなんて言えばいいんだ。それに病で臥せっているティルミナに伝えることなんてできない。フィナを救ってくれたクマの嬢ちゃんには感謝する。


 それから、クマの嬢ちゃんは冒険者になり、討伐した魔物を持ってくるようになった。どうやら、見た目と違って優秀な冒険者みたいだ。初めて見たときはふざけた格好した嬢ちゃんだと思ったりしたが、絡まれた冒険者を返り討ちにした。





フィナも気にいっているようだし、あまり格好については言わないことにする。


 そして、今日も討伐した魔物を持ってくる。解体は基本冒険者が行う場合が多い。でも、面倒な冒険者はギルドに持ってくる。嬢ちゃんも後者であり、解体ができないそうだ。そこで、俺は良いことを思いついた。

 俺はクマの嬢ちゃんに解体の仕事をフィナに与えて欲しいと頼んだ。

 もちろん、ギルドの利益は下がるが、俺はフィナが少しでも幸せになってもらえるなら、多少怒られても構わない。

 それに時間が経ては経つほど、嬢ちゃんが優秀なことが知らされる。そうなれば頼むのが難しくなる。

 嬢ちゃんは俺の頼みを聞き入れてくれた。それから、フィナは嬢ちゃんの専属の解体職人となり、解体をするようになった。フィナに会うと嬉しそうに話してくれる。しかも、解体したウルフの肉をもらっているそうだ。

 肉で栄養つけて、お金でパンや野菜を買って食べるように言われたそうだ。

 嬢ちゃんには感謝してもしきれない。

 ただ、後で知ったが、タイガーウルフを討伐するところに、フィナを連れて行ったらしい。

 話を聞いたときは心臓が止まるかと思った。そんな危険な依頼を受けた場所にフィナを連れて行くのは止めてほしい。

 でも、タイガーウルフを二頭討伐するって、嬢ちゃん凄すぎだ。

 フィナはタイガーウルフが解体できたって、喜んでいた。良い経験をさせてもらったみたいだ。


 それから数日後、フィナが俺の家に泣きながらやってきた。

 なんでも、ティルミナの病状が悪化したそうだ。それで、どうしたらよいか分からなく、俺のところに来たらしい。俺を頼ってくれるのは嬉しいが、俺になにが出来るのだろうか。

 俺はティルミナに会いに行くが、ティルミナは苦しみ、話すこともやっとの状況だった。体も痩せ細り、俺に何度も感謝の言葉と謝罪をしてくる。

 俺が欲しい言葉はそんな言葉じゃない。

 俺は見ているのが耐え切れなくなって、家を飛び出す。医者だ。でも、何度も医者には見せている。今日も医者のところに行くが、首を横に振られるだけだ。分かっていたことだ。俺は無力だ。なにもしてあげることができない。

 フィナの家に戻ってくると、フィナの姿はなく、妹のシュリがティルミナに抱きついて泣いている姿があっただけだ。俺が飛び出したあとにフィナも家を出て行ったらしい。


 俺はティルミナに声をかけるが意識がなく朦朧としている。本当になにかできることはないのか!

 俺が血がでるほど唇を噛み締めていると、フィナがクマの嬢ちゃんを連れて戻って来た。

 どうして、クマの嬢ちゃんを?

 フィナが戻ってくると、ティルミナの意識が回復する。

 そして、出てきた言葉は謝罪であり、娘たちを俺に託す言葉だった。涙が止まらない。ここまで病気が悪化するまでに、なにか出来なかったのか。俺は手を尽くしたのか。

 もしかして、現実から逃げていただけなのかもしれない。家族に援助をして、それで助けた気分になっていたかもしれない。

 俺はなにも出来なかった。救うことが出来なかった。後悔だけが溢れでてくる。だが、もう遅い。何もかもが手遅れだ。


 そんなとき、クマの嬢ちゃんが手を叩く。

 そして、訳のわからないことを言って、ティルミナに触れると、嬢ちゃんの手が輝き出す。

 それは噂に聞く、大神官様のような綺麗な輝きだ。その光に包まれたティルミナの表情が和らいでいく。それは信じられない光景だった。そして、なにか魔法らしきものを唱えると、ティルミナが起き上がった。

 奇跡を見た。

 こんなことを、誰が信じる。

 ティルミナの病気は治った。

 俺は涙を流した。そして、心が救われた。


 でも、元気になったティルミナが不安そうに治療費について尋ねる。確かに、こんな治療を受けたら、かなりのお金になるはずだ。

 嬢ちゃんはフィナとシュリの目の前で話したくないのか、2人を買い物に行かせて、俺たちだけを残す。

 なにを言われるかと思っていたら、一緒に暮らせと言い出した。

 俺とティルミナは開いた口が塞がらなかった。

 確かに俺はティルミナのことを好いている。だが、これとこれは別の話だ。

 でも、俺はクマの嬢ちゃんの言葉に追い込まれていく。

 フィナたちのことを言われ、これからの家族を誰が支えるのか、俺が好意を持っていることも暴露される。

「好きなんでしょう」

 たしかに好きだ。それに一緒になれば近くで見守ることができる。俺はロイに悪いと思ったが、ティルミナに告白していた。

「…………」

 部屋に短い沈黙が流れる。ティルミナは頬を赤くしている。

 俺は息を吸うことも忘れて、ティルミナの言葉を待つ。

 ティルミナはお礼を言う、ニッコリと微笑むと俺の言葉を受け入れてくれた。

今日は最高の気分だ


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