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最終回です。

「お子さん達は元気ですよ」

 そう言って、救助隊のおじさんは私の亡骸に両手を合わせた。

 分かっているわよ。さっきまで一緒にいたんだから。

 そんな私の声が相手に聞こえる訳もなく、私の亡骸を掘り出していく。

 死んでいるからもっと乱暴に掘られるかと思ったけど、こっちが申し訳ない気持ちになるほど、亡骸にこれ以上傷がつかないよう、丁寧に丁寧に掘り出してくれている。

 こういう所が日本の良い所なんだろうな。


「これで思い残すことはないですよね」


 後ろから声がしたので振り向くと、そこにはイケメン死神がいた。


「せめて、あの子達が元気になるまで見守っていたいわ」

 私がそう言うと死神は首を横に振る。

「欲望は切りがありません。きっとお子様達が元気になれば、せめて学校を卒業するまで、せめて就職するまで、せめて結婚するまで、せめて孫の顔を見るまで、せめて死ぬまで、そう願って際限なく引き伸びてしまいます。もっともそこまで理性が保てないと思いますが」

 これ以上は厳しいか。

 仕方ない、こうなる事は承知していたのだから。


 私が子供達を助けるために残された最後の手段、




 それは悪霊になる事だった。

 



 怪談とかを思い出してほしい。

 不条理に殺されて恨みを抱いた幽霊が悪霊となって、殺した当人を呪い殺す。

 そんな話を聞いた事があるだろう。

 人は死んで霊になると、見たり聞いたりは出来ても、この世に干渉することは出来なくなる。

 ところが悪霊になると、この世に干渉できるのだ。

 それも人魂を出したり、念力を出したり、水脈を呼び寄せたり、超人的な特殊能力を手に入れられる。

 今回は使わなかったけど人を呪い殺すことも出来る。

 

 私は死神から悪霊になる方法を教えてもらい、そして悪霊になった。

 だから様々な特殊能力を使って子供達を一週間生き延びさせる事が出来た。

 私が悪霊になっていなかったら、間違いなく子供達は死んでいたわね。

 断言できる。


 だけど、悪霊になるには代償がある。

 まず、あの世へ行けなくなってしまうのだ。

 悪霊が近づくとこの世とあの世をつなぐ冥界の門が閉じてしまうらしい。

 結果、行く宛を失い、この世を彷徨さまようしかない。

 だけど、この世に留まりつづければ、理性を失ってしまう。

 普通の霊体であれば四十九日までは理性を保てるらしい。だけど、悪霊は短い期間しか理性を保てない。

 その期間は普通の霊体の七分の一の七日。

 つまり今日までしか理性を保てないのだ。

 ギリギリだったわね。  

 

 死神の話だと、理性を失った私は、地縛霊となって命ある人を恨むようになり、怨念おんねんおもむくまま、この道を通る人を次々と呪い殺していくだろうと予測していた。

 こうなれば死神も放置できないし、人に迷惑を掛けるのは私も本望ではない。

 それならばどうやって解決するのか。

 答えは簡単。


 

 私の魂を消すのだ。



 文字通り消える。

 無になる。

 本来あるべき輪廻転生りんねてんせい、すなわち魂が新しい命に生まれ変わる機会は永久に訪れない。

 この魂がどれだけの生を繰り返して来たのか分からないけど、魂の長旅が今ここで終わる。

 寂しいとは思う。

 だけど、私は自身の決断を後悔していない。

 

 子供達は助かった。

 

 それだけでハッピーエンドだ。



「それでは良いですか」

 死神は悲しそうな表情で鎌を構える。

 この鎌で斬られた瞬間、私は消えるのだろう。

「良いわよ。だけど、最後にお願い」

 そう言って私は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「なんですか?」

「笑顔で私を斬って欲しいの。あなたは笑顔が似合いそうなイケメンなんだもん。少しでも楽しい気分で消えたわ」

「最後まで変わった方でしたね。もっとも、そんな貴方の事が好きでしたが」

「あら、愛の告白かしら」

「そういう事にしておきます」

 そう言って死神は笑みを浮かべる。引きった笑顔だけど仕方ないか。

 あまりの滑稽こっけいさに私は大笑いした。

「ごめんなさい」

 死神は鎌を振り下ろす。




 太郎と華子。私の分まで長生きしてね。兄妹仲良く力を合わせていくのよ。


 旦那。後の事よろしくね。愛しているわ。


 お母さん。親孝行もせず、会うたびに喧嘩してごめんね。旦那と子供達を助けてください。お願いします。


 みんな。ありがとう。私は幸せでした。


 みんな。ありがとう。幸せになってね。






 そして  私は消滅した。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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