表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

「ねえ、いつになったら救助が来るの」

 私は焦っていた。

 子供達が閉じ込められてからどれくらい時間が経過したのだろう。

 救助に来る気配が一切感じられない。

 最初は泣き続けていた子供達も、泣くのを止めてしまった。

 呼吸は聞こえているから生きているのは分かるけど、元気なのか分からない。

 ああ、この霊体が恨めしい。

 子供達に声を掛ける事も抱きしめる事も出来ない。

「トンネルが崩落してからまだ6時間ですよ」

 イケメン死神がやる気のなさそうな声で返事する。

 よほど暇なのかスマホでゲームをしている。

 なによ。私の子供が大変な時にこの態度。

「お姉さん、落ち着くんじゃ」

 トンネル崩落に一緒に巻き込まれたお爺さんの霊体が私をなだめる。

「じゃが、救助が遅いのはまずいのう。この辺は夜になると寒くなるのじゃ。幼い子が耐えられると良いのじゃが」

 そうなの!?

 私は霊体になっていて暑さや寒さが感じられなくなっている。

 だけど、閉じ込められている子供は今どんな気持ちなんだろう。

 心が不安で一杯になる。

 太郎、華子、大丈夫なの。

「まま」

 2歳の娘の声が聞こえる。

「さむい」

 5歳の息子の声が聞こえる。

 そして泣き声の合唱が始める。

 

 もう限界だった。

 これ以上黙って見続ける事はなんて出来ない。

 何とかしなくちゃ。

 そんな時に死神の一言。


「そろそろあの世へ行きましょう」


 

 …

 ……

 ………

 …………

 ……………

 ………………ブチッ!!!


 ブチ切れた。

 死神のデリカシーの欠片すらない一言にブチ切れた。

 生きている時ですらブチ切れた事はなかった。

 苦しんでいる子供達を放っておいてあの世へ行くだと。

 ふざけた事を言ってんじゃねぇ!

 自分の都合ばかり考えているんじゃねぇ!

 イケメンだからなんだって許されると思ってんじゃねぇ!


 本能のままにとはまさにこの事だろう。

 私は死神につかみかかり、右膝で腹を思いっ切り蹴った。

 渾身こんしん膝蹴ひざげり。

 死神はうずくまる。 



 沈黙が漂う


 気まずい空気が流れる。


 

「だから早くあの世へ行くべきだったんですよ」

 沈黙を破ったのは死神だった。

 平然としている。

 悔しいけど、私の膝蹴りのダメージは無かったらしい。

「未練が強ければ強い程、霊体はこの世への執着が強くなる。執着が強ければあの世へは行けなくなる。未練がある人は勢いに任せてすぐにあの世へ行くのが一番なんです」

 死神の言っている意味は何となく理解できた。

 知らぬが仏。

 そんなことわざを思い出す。

 確かに死んですぐあの世へ行けば、こんなに不安になる事はなかっただろう。

 未練も薄かっただろう。 

 だけど、それはあとまつり。

 それに私はここに留まり続けた事を後悔していない。

「ねえ」

 私は死神に顔を近づける。すぐにキスが出来るくらいの近さだ。

「き、きれいですね」

 意外にも女性慣れしていない様子だ。

 イケメン死神は動揺している。

 不覚にもちょっとだけこの死神がかわいいと思ってしまった。

 私は死神に抱きつく。

「あわあわあわ」

 衝撃の余り言葉にならない言葉を発する死神。

 私は死神の耳元に優しく息を吹きかけ、ささやく。


「子供達を助けて♡」

 

 霊体の私は何もできない。

 だけど死神なら何か特別な力を持っているのではないだろうか。

 旦那を落とした実績のある恋愛テク。

 それを駆使し、一縷いちるの望みを死神に託す。

 お爺さんからは痛い女と思われるかもしれないけど、それは仕方ない。

 


「腹を蹴った事は謝らないんですね」

 私から距離を取った死神は、一転して冷たい目をする。

「腹を蹴った事は謝るわ」

 私は土下座をする。何度も何度も繰り返した。

「お姉さん、やめるんじゃ」

 お爺さんが止めに入るが、それに振り払う。

「子供達を助ける為ならなんだってするわ」

 土下座をしながら叫ぶ。

 子供達が助かる。

 それが私の望み。


「何でもするんですね」


 どれくらい土下座をしたのだろう。

 今まで聞いた事ないくらい低い死神の声。私の背筋に冷たいものが走る。

 だけど、今はひるんではいられない。

「何だってするわ」

 この身を死神に捧げたって良い。

 地獄に落ちたって構わない。


 私の決意は固い。


「一つだけ方法はあります」

 心の中に希望の光がともる。

「死神の間でも賛否が分かれる方法です。だけど、暴走してしまうよりはマシです。助ける方法を教えましょう」

 死神が神様に見えた。あっ、死神も神か。

 私は死神から説明を受けた。


 やり方、

 出来る事、

 そして代償、


「どうですか、それでも貴方はやりますか」

 死神の問いかけに私はうなづく。

 迷いは一切ない。

 死神は一瞬だけ悲しそうな表情をするが、すぐに真面目な表情に戻る。

「分かりました。それでは、こちらの方を先にあの世へお連れします。後日お会いしましょう」

「お姉さん、頑張るんじゃぞ」

 そう言って、死神とお爺さんは消える。

 あの世へ行ったのだ。

 この場に残されたのは、私、そして息子と娘。


 私は死神に教わったやり方を実行する。



「太郎!華子!」


「ママ!?」 

「まま!?」 

 私の声を聞いて、驚きと喜びが混ざった幼い声が暗闇の中に響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ