起
どうやら私は死んでしまったらしい。
こんなことなら、実家へ帰省するんじゃなかったな。
旦那が出張で出かけたから、たまには実母に孫の顔でも見せてやろう。そんな仏心を出したのが運の尽きだった
出掛ける前から息子は「行きたくない」って泣いていたし、娘は「いやいや」と言ってチャイルドシートに座ろうとしなかった。
実家へ行ったら行ったらでお母さんと口喧嘩の応酬。
終いには塩をまかれて追い出された。
散々な帰省だった。
そして山奥の実家から、街中の自宅まで車で運転して帰る途中の事だった。
10万キロ以上走ってがたが来たけど使い慣れた私の軽自動車、県道のトンネルを走行中、対向車線からやってきたライトバンとすれ違った、その瞬間だった。
突然大地震が発生。トンネルは崩落し、私は土砂やコンクリートの残骸に押しつぶされ、死んでしまった。
享年2X歳。
白馬に乗った王子様とまではいかないけど、合格点ギリギリの旦那と結婚したし、子供も二人産まれたし、悪くない人生だったかな。
さて、回想終わり。
そろそろ現実を見るとしよう。
霊体となった私の目の前では二人の子供が泣いている。
真っ暗なので姿は見えないが、私の子供だから分かる。
息子の太郎5歳と娘の華子2歳だ。
二人は幸運にも土砂の隙間に入って生き残れたらしい。
霊体になった私は、二人を抱きしめる事もできない。だけど二人が生きている事に安堵している。
きっとレスキュー隊の人達が助け出してくれるだろう。
その後は旦那が頑張って育ててくれるだろう。仕事はそこそこ出来るレベルだが、家事もそこそこできる出来るレベルだから万能型だ。
喧嘩した後だから嫌だけど、実家のお母さんにも任せよう。さすがに助けてくれると思う。
よし!後事に心配はない!!
「お子様達も生きていて安心しましたよね。だから早く行きませんか。ねっ、早く行きましょう」
うざい。
さっきから私にしつこく話しかけてくる男性。
外見は超イケメン。
生きている時に出会っていたら目がハートになっていたのは間違いない。
だけど、この人は死神。死んだ私の魂をあの世へ連れていく為にやって来たのだ。
「せめてこの子達が救助されるまで待っていてよ。そんなに急いであの世へ行く必要があるの」
「いや、四十九日までは残っていても良いんですが、最近死神も人手不足で忙しいので」
このやり取りの繰り返し、要するに自分が忙しいから早く仕事を片付けたいだけなのだ。
「それにこちらの方もだいぶお待たせしていますし……」
「わしは別に構わんよ。そこのお姉さんの気が済むまで待っていてええ」
イケメン死神の言葉をお爺さんが否定する。
お爺さんは対向車のライトバンを運転していた人だ。
私と同様トンネルの崩落に巻き込まれて死んでしまったそうだ。
「そんな……」
死神は悲しそうな顔をする。
悪いね。未練をたくさん残してこの世を去るんだ。せめて、子供達の安全が確保されるまでは見守っていたいよ。
「大丈夫じゃよ。日本の救助体制は世界一じゃ。すぐに助け出される事じゃろうて」
お爺さんが死神を慰めていた
そうよね。私も長い時間ここにいるつもりはなかった。
子供達が救出されたらすぐにあの世へ行くつもりだった。
楽観していた。
その時は。