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三大噺  作者: 村崎羯諦
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洪水 廊下 歯 [落語]

 ある、ちょっとした町の片隅に、齢五十の男性が、えっちらこっちら住んでいた。その男には妻の他、子供が二人いたけれど、彼らはとっくに巣立ちして、結局妻と二人暮らし。それだけ見れば、平凡な、どこにでもいる奴だけど、得てして誰しもそうであるよう、そいつも一つちょっと困った癖があった。それがいったい何かと言うと、まあ、根っからのけちん坊、三度の飯を我慢して、銭をためるのが生きがいってもんなのさ。

 さあて、そんな男に起きた、少しおかしな話をしよう。その発端は、ある日の昼時。その日の昨日はなんとまあ、十年一度の大洪水、男の家も多分に漏れず、床の上まで浸水さ。そんな災難去った後、男は妻と一緒になって、びっしょびしょに濡れ果てた、家の中の掃除をしてた。

 男が一階の廊下に出ると、濡れて湿った床の上に、ぽつんと何か白いものを見つけた。男が寄って見てみると、なんともまあ驚くことに、そいつは立派な人の歯だった。もちろんそれに覚えはない。自分も妻も、かけることなく、立派な歯を持っていた。きっと誰かの歯なのだろう。だけども返す当てもない。少々一人で悩んだ後で、ひょこっと男のケチ癖が、もらってしまえとささやいた。

(確かにそうだ。家に流れてきた以上、こいつは俺の持ち物だ)

 何かの因果かわからぬが、男に歯科医のなじみがあった。男はその歯をポッケに入れて、掃除をしていたことすら忘れ、そいつのところへ飛んでった。そして男は歯科医に言った。こいつをちょいと買いとれ、と。歯科医も男に負けず劣らず、なかなか金にうるさいやつで、その歯を最初は怪訝に見たが、あんまり立派なものだから、結局そいつを買い取った。色々用途があるらしく、こいつは入れ歯に使うらしい。男はお金が手に入り、喜び勇ん、そのままに、鼻歌交じりで帰っていった。

 けれでも話は終わりません。むしろこれから本番です。

 男が翌日廊下へ行くと、なんともまあ驚くことに、またもや歯が落ちていた。それも、さらに、不思議なことに、今度は二本も落ちていた。初めは男も驚くが、次のように考えた。

(もしかして、昨日もそこに落ちていて、うっかり見落としたのかもしれん)

 男はまたもやそれらを拾い、昨日と同じく、再び歯科医へ売りへと行った。

 二度あることは三度ある。三度あったことは何度も続く。奇妙なことに、それから毎日廊下の上に、白くて立派な歯が転がっているんです。それも先ほど述べたよう、毎日数が増えていく。最初は一本、次は二本。その翌日には四本で、翌々日には八本も! 男と妻は腰を抜かすが、それでも男のいやしさの方がすごかった。それがお金になるがゆえ、男は毎日それを拾い、せっせと歯科医へ持ってった。

 そんなこんなで、洪水が起きた六日後、歯が十六本落ちてた翌日。なんともその日は、廊下に歯が落ちていない。気味の悪さが過ぎ去って、ほっと胸を下しはするが、稼ぎのネタがなくなって、男は少し残念がる。けれども事件がすぐさま起きた。男が階段降りてる最中、つるっと足を滑らして、顔から床へとどすんと落ちた。男はすぐさま病院へ、妻と一緒に運ばれた。

 幸い命は助かるが、なんともまあ皮肉なことに、男持ち前の歯たちが、片っ端から折れてしまった。医者はすぐさま再植進めるが、男は首を縦に振らん。その時、事故を聞きつけた、歯科医が見舞いに駆け付けた。男は歯科医を見たとたん、嬉しそうに微笑みかけた。そして、歯科医にこう言った。

「おい、あんた。俺が売った歯で作る、入れ歯を早めに完成させな。再植なんてまっぴらだ。そいつは金がかかりすぎるからな」

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