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三大噺  作者: 村崎羯諦
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野菜 門 守衛 [落語]

 昔昔、でもどれくらい昔かって言われたら答えに困ってしまいます。まあ、元号とかはさておいといて、まだでっかい町に、通行を規制するための門が残っていたくらいの昔です。

 ある町に、身の程知らずの立派な門が、でーんと入口に立っていて、そこで毎日、入ってくるもの出てくもの、あるいは見慣れぬかぶき者、そういうやつらを隅から隅まで全員トッ捕まえていたそうです。治安維持という大義名分だから、まあ、大きな声で非難はできないが、それでもみんな家に帰れば、いの一番にそこの守衛の悪口を、ひそひそ声で言い合ったものでした。

 そんな悪評判の守衛の中でも、それはそれはもう最悪な守衛がいたんです。そいつの何が悪いって、性格云々もあるけれど、なにより門を通る人間に、必ず何か賄賂を要求してやがるんです。運悪くそいつが当直の日に町に着いた奴は、否応なしにそいつへ賄賂を贈らにゃならん。なんたって、賄賂をやらなきゃ門を通してくれないばかりか、最悪不審者として豚箱にぶちこまれちまいますからね。

 そんなある日、町に近くの農民が野菜を売るためやってきた。けれども、まあ察しの通り、その日はその賄賂守衛の当直日ときたもんだ。多分に漏れず、農民も、もちろん賄賂を要求された。されども農民が手にしてるものと言えば、畑で取れた野菜だけ。一応、そいつを渡してみるが、守衛は顔をしかめて受け取らん。それでも農民が必死に頼み込むうちに、なんとまあ守衛の怒りを買ってしまい、ここは通さんとつっぱねられた。

 さあさあ、これは困ったぞ。何日もかけてここに来たんだ、手ぶらで家には帰れまい。だから困った農民はちょいと芝居を打ってみた。


「お情けくだせぇ、守衛さん。うちには病気の妹が、あっしの帰りを待っている」


 そう言い、袖を目元にあてがい、おいおい声を漏らして見せた。けれども、守衛が一枚上手、ひょいと相手の顔のぞき、すぐさまうそなき見破った。守衛は呆れた顔をして、その農民にこう言った。


「おいおい、情をひくのなら、もうちょい上手く芝居をせんか」

「いえいえ、そんな守衛さん。それはちっと酷ですよ」


 何が酷かと尋ねてみれば、相手はにやりと微笑み返す。


「だってあっしは野菜売り。承知の通り、大根役者なもんでして」


 豆鉄砲をくらったような、間抜けでふぬけた顔をして、守衛は何も言えなくなった。けれでもすぐさま、気を取り直し、全部が全部馬鹿らしく、思ったどうかはわからぬが、結局農民を通してやった。その後悪徳守衛どのが、このことをどんな風に思い返したのかはわかりません。けれども、怒ってはいたのでしょう。なんたって、交代の同輩が、顔をトマトみたいに真っ赤にさせた守衛を見ているそうでありますからね。

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