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三大噺  作者: 村崎羯諦
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熊 家畜小屋 葬式 [落語]

 電話の電波も届きにくい、今時珍しある山奥。そんなとこにある小さな集落で、ある老人の葬儀があった。そいつの名前は、畑庄司。集落生まれの集落育ちで、みんなの信頼も厚かった。仕事は畜産一筋で、集落一でっかい家畜小屋を持っていた。その上彼は、集落一狩りが上手かった。趣味程度の戯言と、生前しばしば言ってたが、その腕前は群を抜き、若い衆もが一目置いていた。狩りの中でもとりわけ彼は、春の熊狩りが大好きだった。生涯しとめた獲物の数は、五、六ッ匹では収まらぬ。

 そんな彼の葬式だから、それはたくさん人が来た。めいめい各々涙にくれて、故人のことを語り合う。もちろん彼らの大人数が、熊狩りについて話したってのは言うまでもない。

 そんな葬儀の数日後。彼が持ってた家畜小屋に、ちょいとした事件が起きたのさ。彼の息子が受け継いだ、立派な大きな小屋の中から、まるまる太った一匹の雄々しい雄鶏が姿を消した。消えただけならなんでもない。だけれど、そうではなかったのさ。なんてったって、ケージがめっちゃくちゃに壊されてたからな。

 集落の物好きどもは急いで駆けつけて、誰の仕業と喧々諤々。その中一人の村人が、ものものしい口調でこう言った。


「間違いない。こいつはきっと熊の仕業だ」


 こいつは村の外れにある、さびれた教会の宣教師。みんながこいつの言葉を聞いて、小首をそろってかたむける。


「けどなぁ、あんた。熊とはいっても、こんなとこまで降りてくる、そんな話は一度もないぞ」

「いやいや、あんた。思い出せ。ついこの間、熊狩り庄司が死んだじゃないか。きっと仲間を殺られた熊が、恨みを果たせとやったんだ。今頃寝床で、鳥をおいしく食べてるのだろう」


 正直何の根拠もないが、信心が深い村人は、彼の言葉を本気に取って、くわばらくわばら唱えだす。そしてその数日後、またもや同じ事件が起きた。だけども今度は雄鶏じゃなく、倉庫の藁が盗まれた。再び宣教師が現れて、同じようにこう言った。


「間違いない。こいつはきっと熊の仕業だ」

「けどなぁ、あんた。熊とはいっても、食い物ではなく藁盗む、そんな話は一度もないぞ」

「いやいや、あんた。思い出せ。そろそろ冬がやってくる。きっと寒さに備えるために、寝床を飾れとやったんだ。今頃寝床で、ぬくぬく眠っているのだろう」


 ところで、庄司の一人息子、こいつは少し賢い奴で、この宣教師の説明を、疑り深く聞いていた。だから、またまた数日後、小屋から鍬が盗まれて、いよいよ不思議と息子は思い、宣教師が住む教会へ、抜き打ちよろしく訪れた。

 迎えた宣教師は面食らい、息子はそれを見逃さない。ずかずか中へ入ってみれば、盗られた鍬が置いてある。さらに奥の倉庫をのぞけば、そこには盗られた藁がある。

 息子はそいつを問い詰める。だけれど、そいつは飄として、おかしな言葉を繰り返す。


「俺じゃない。気が付けば、ここにあっただけ」


 もちろんそんな戯言で、息子の怒りは収まらぬ。


「するってえと、なんなんだ。お前が誰かに操られ、うちのもんを盗ったってのか」


 宣教師は真面目な顔してうなづいて、ものものしい口調でこう言った。


「間違いない。こいつはきっとアクマの仕業だ」

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