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第1話

はじめてのxxx企画参加作品です。


注意:この作品には、性描写、ドラッグなどの薬物描写などの表現が含まれるため、18歳未満の方、及びそれらの表現が苦手な方はお戻りください。また、万が一だとは思いますが、当作品の影響でドラッグなどで問題を起こしてしまったという方がいても、作者、企画主催者は一切の責任を負いませんので、そういった行為には必ず手を出さないようにお願いします。特に麻薬などの薬物は、法的に違反という他に、身体に多大な悪影響を及ぼしますので、必ずお止めください。

 その日、僕の高校生活は晴れて終わりを告げ、卒業式を迎えた。そしてその夜、中学校以来からつるんでいた親友の家へ、打ち上げ会という事で泊まりに行ったのだが、学校生活の思い出も語り尽くし、ちょうど話が途切れたその時。その親友であるケイスケが、こんなことを言った。

「しかし、東京に行って一人暮らしするなんて、お前凄えな」

 え?と思った。一体どこが、どれほど凄いのだろう。僕は、何故彼が僕に対して感銘の念を抱いているのかが分からなかった。

 僕は、四月から東京のとある大学への入学が決まっていて、それにちなんで都内で一人暮らしをする事になっていた。とはいえ、それほど胸を張れるレベルの大学でもない。それにそもそも僕が進学する理由は、高校卒業したらやりたい仕事などがこれといって無かったため、とりあえず自分の学力でも無難に入れる大学にでも行こうかという、極めて安易で考え無しで情けない理由だった。

 なので、誰かから『凄え』などと言われるほど、立派な事をしている覚えは無かったのだ。

 むしろ、親の稼業のとんかつ定食屋を受け継ぐと決意し、今までもちょくちょくその仕事を手伝ったりしていて、そしてなにより、これから社会人としての道を進んで行くであろう彼、ケイスケの方が、僕からすれば何十倍も『凄え』と思う。

 まったくもって不思議だ。東京という響きが新鮮だったのだろうか。それとも、一人暮らしをする事の方か?

 お前の方が、断然凄いし立派だぞ。

 そう言おうかと思ったが、なんとなくやめておいた。彼の言葉に何も返さず、僕はただフッと笑みを浮かべた。

 正直に言うと、彼に対して安っぽく『凄い』だの『立派』だのとは言いたくなかった。なぜなら、そんなふうに彼を尊敬すればするほど、自分の未熟さや青っぽさを痛感してしまう。

 そしてさらに、もしかしたら実は彼もそう思っているのでは。という疑念が、ふと頭の中をよぎった。いや、思ってはいないにしろ、無意識では感じているんじゃないだろうか。つまり、さっき僕に対して言った『凄え』は建前で、本音では『お前とは立場が違う』とか『一緒にするな』とか、そういう感覚を、彼が抱いているような気がした。

 だって、もし彼と僕との立場が逆で、同じ言葉を僕が彼に言ったとする。そして、その言葉に対して彼が『お前の方が立派だよ』だの返してきたとしたら。その時は、きっとムカッとすると思う。当たり前だろ、とか思ってしまうかもしれない。

 だから、僕は何も返さなかった。チラッとした疑念ではあるが、この要点が僕の口をつぐませたのだった。

 まあ、つまりは彼に対する僕のちょっとしたコンプレックスであって、そもそもこんな事を考えたりしているのも、そのコンプレックスのせいだというわけ。まったくもって、自分という人間は女々しいものだ。

 しかし、こんな僕でも、自分について自慢する様な事は特に無いが、自信を持っている事はある。

 生涯に一度も、犯罪らしき犯罪に手を出さなかった事だ。

 僕が中学生だった頃に、学校でやけに万引きが流行った時期があったが(当時、どの店で、どんなものを盗めたのか。というのが一種のステータスになっていた時期があったのだ。なんと、同学年の生徒の半数以上がやっていた!)、一度もしたことも無いし、考えもしなかった。隣にいるケイスケから誘われた事もあったが、僕はそれをきっぱりと断った。

 他に、電話ボックスの中で千円札を見つけた時も、僕はそれを警察まで届けに行ったし、垢抜けた友人たちが次々とマイセンだとかマルボロだとか言い出し、喫煙者に流れていった時も、僕は流されなかった。

 周りから見れば本当にささやかな、小さな事かもしれないが、それでも僕はそんな自分を少し誇りに思っている。自分は『クリーン』なんだと意識する事で、犯罪や不正だと思う事に対して、きっちりと線引きをできる。そういったものに対して、『黒』だと見極める事ができる。そんな気がした。

「それじゃあ、リョウタの東京行きを祝って、乾杯」

 ケイスケはそう言って、オレンジジュースがまだ少し残った僕のコップへとビールを注いできた。酒など飲んだ事の無かった僕は、あわててコップを引っ込める。

「おい、酒なんて飲めねえよ」

 僕がそう言うと、すっかり酔っ払っていた彼は眉をひそめ、呂律の回らない口調で食ってかかってきた。

「何言ってんだよ、もう卒業したんだぜ。普通免許も持ってんだぜ。酒飲もうが煙草吸おうが自由じゃねえか」

「いやいや、まだ未成年だから。禁止されてるっつーの」

 その言葉を無視して、僕の首に腕を絡ませ、強引に揺さぶってくる彼。酔ってるので力加減ができないのか、かなりの勢いで絡んでくる。苦しいので声を出すことができなかった。

 すると、それを無視されたのかと勘違いをしたのか、彼は泣きそうな表情をしてしょぼくれた。

「なんだよ……、おれの酒が飲めねえってのかよ……」

 僕の肩から手を放し、彼はそう言うと瓶ビールをそのままラッパ飲みした。もう、完璧に悪酔いだ。しつこそうなので、僕は仕方なく折れる事にした。

「わかったよ、一口だけだからな」

 ビールの注がれたコップを手に持ち、僕はまるで啜るように、ちびちびと口を付けながら飲んだ。

「てめ、ふざけんな。そんなの飲んだうちに入らねえだろ。女が腐ったみたいな飲み方しやがって、男ならグイっといけよ」

 僕の飲み方を気に入らなかったケイスケが、興奮して言った。それにしても言いすぎだ。女が腐ったみたいはないだろう。そんな言われ方したものだから、僕までむきになってしまい、思いきってビールを一気に喉へと流し込んだ。

 舌で感じるアルコール特有の辛みに、思わず吹き出しそうになったが、意地になった僕は嫌がる舌根を無理やり収縮させ、とりあえず飲み込む事だけに専念した。目に涙が溜まっていくのが分かる。

 ようやく一杯すべてを飲み干し、僕は空のコップをテーブルに置く。そして、『どうだ』とでも言うように、ケイスケの顔を見て反応をうかがった。 

 彼は最初、呆然とするような表情をしていたが、やがて嬉しそうにニマっと笑い、

「リョウタの初ビールに、カンパイ」と言って、またビールを飲み始めた。


 初めて飲んだビールの味はとても苦く、飲めたもんじゃねえやこんなの、と思った。僕は小さなゲップをすると、空のコップに再びオレンジジュースを注いだ。


  

執筆ペースは大体週に一度くらいの予定です(^_^;)

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