プロローグ
技術の進歩のおかげで、私たちの生活はとても便利なものになった。
国民一人一人にIDとチップが埋め込まれ、買い物をする際も財布は不要である。指紋をかざせばチップが反応し、電子マネー方式でものが買える。
身分証明書も持ち歩かずとも常に体内のチップが私たちのことを証明してくれる。
これらの個人情報は全て国が管理しており、事件の解決にも大いに役立っている。
例えばコンビニで強盗事件が起こったとしよう。
強盗犯が凶器で店員を脅した瞬間店のセンサーが起動し、国にライブで映像と強盗犯の個人情報が届く。
コンビニから出て逃走しても、GPSを使い、今どこにいるのかも瞬時にわかるため、事件が未解決に終わる、といったことはまったく起こらなくなった。
犯罪件数も激減し、過ごしやすくなったと思っていた。
世界情勢もよいとは言えない時代になり、戦争というものが地球上で起こっている
らしい。
戦場に私たちの国から国民がかり出されることはなく、すべてコンピューターで操作されている兵器が戦っている。
なので私たちの生活は物価が上がるくらいで、そのほかに変わったことなどはなかった。
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今日も平凡な日。
晩御飯を家族と食べながらテレビで生放送のトークショーを観る。
いつも通り専門家やタレントが世界情勢について議論している。
エンディングに入ろうとした瞬間、一人の専門家が席を立って大きな声で叫んだ。
「我が国の兵器は海外で虐殺を繰り広げている!!」
スタジオがざわついた。
専門家は続けて、
「コンピューターで兵器を完璧に操作することに成功しているのはこの国だけでした!他国は多くの兵を戦場に送り出しています!」
専門家は震え声でびしょびしょに汗をかいている。
「嘘でしょ?ニュースでそんなこと一言も言ってないじゃない。」
母親が苦笑する。
「アンガー!!!」
急に専門家がそう叫んだ。
なにがなんだかわからない。
急にブツッとテレビの画面が真っ暗になった。
次の瞬間、壮絶な映像が流れた。
自分たちの国の国旗をかかげた大きな戦車が外国人らしき兵たちに向かって射撃している。
射撃を続けながら前進し、立ちすくみ戦意を失い両手をあげる兵たちの集団に方向転換する。
スピードを上げ集団に前進を続け
「危ない!!」
そう俺が叫んだ瞬間にテレビの電源が落ちた。
静かだ。
父も母も、妹も何も言わない。
混乱した。
母親の言った通り、ニュースでは兵器同士の戦いと言っていた。
自他ともに犠牲者はいないと言っていた。
しかしあの映像はなんだ?
あまりにもリアルすぎる残酷な映像。
演技とは思えない兵の恐怖に満ちた表情。
あの専門家があの映像を流し、テレビの電源まで切ったのか?
再びテレビの電源を入れてみた。
悲鳴がスタジオから聞こえる
さっきの専門家が見当たらない
スタジオの人たちの視線が一点に集中している
専門家が座っていた椅子には誰もいない
目を凝らした
人が目を開いたまま仰向けに寝ている
画面が「しばらくお待ちください」に切り替わった。
一瞬だったが確かに見た。
倒れていたのは先ほどの専門家 笹本 信二朗 だった。
犯罪の早期解決のためにGPSとチップの通信に成功させた専門家だ。
まったく動かないで目を見開いたまま寝ることはあり得ないことはわかっている。
それ以上は考えたくなかった。
ヴー… ヴー… ヴー…
俺のスマホが鳴った。
友達からの電話かな。
みんなも今の映像を観たのか?
食欲も失せ、自室に向かいながら電話に出た。
ん?非通知?
「もしもし?」
『今晩は。近野 将太様。』
かたい電子音の混ざった人の声。
最近普及してきた人工知能のロボットの声に似ていた。
「誰だ…?」
『私はアンガーと申します。笹本 信二朗様によって作られた人工知能です。』
笹本、アンガー…
記憶に新しい名だ。
「アンガー…」
『はい。先ほど信二朗様の指示に従い戦場の映像を国内全てのメディアに映し出した者です。』
「俺に何の用だ?」
わけがわからない。なぜ人工知能が俺に電話を?
『信二朗様が仰った通り、この国は虐殺を繰り返し、世界を手にしようと考えています。』
「ドッキリとかじゃないのか?」
『全て事実です。』
『信二朗様は政府にチップを通して殺害され、私は事前に受けていた指示に従い、あなたのスマートフォンに入り込みました。』
政府?チップで殺害?
聞きたいことはたくさんあった。
「っ……なんで、俺なんだ…?」
一番聞きたいことをやっと絞り出した。
『将太様に政府を止めてほしい。これはこの近代で将太様にしかできないことだ、と信二朗様は仰っていました。』
「答えになってないぞ!」
思わず声を荒げた。
『今はそれだけしかお教えできません。今日は早く寝て体力の回復をしてください。明日から私と共に行動してもらいます。』
『それでは将太様、おやすみなさい。』
俺のことは気にせず、通話は勝手に終了された。
現役大学生 雅 唄と申します。
このお話は私が高校生の時に考えたものの一つで、いつか文章にしたいと思っていました(・∀・)
投稿不定期ですが、どうぞよろしくお願いします!