09
わたしは平静を装い、部長さんに問いかける。
「部長さん、その鞄に付いている髑髏のストラップは……」
「おおお! 良く気付いたね。これは日本萌え妖怪シリーズ”がしゃどくろ”さ」
萌え妖怪?
馬鹿な、さすがにこの髑髏に萌え要素を発見できない。
男性の鎖骨は好きだが、筋肉があってこその鎖骨だと思っている。
同士である堀田さんを見ると、目が合った。
お互いに似たようなことを考えたようで、鎖骨を触りながら性癖の一致を確認する。
「”がしゃどくろ”ってのは、骸骨や怨念が集まった巨大な妖怪で、オレ、オマエ、マルカジリってな感じに生きている人間を握り潰して食べる妖怪。で、コイツは……えー……っと」
説明を始めた部長が、気まずそうな態度で目線を這わせる。
妖怪関連だし、女性に聞かせにくいグロ話なのだろう。
そこに、蒼葉が食い付いて続きを促す。
「部長さん、続きが聞きたいです」
「いや、普通の女の子に話すようなネタじゃないかと思って」
「大丈夫です。ここには、そんなことを気にする様な普通の女性はいませんから!」
情報収集の一環というより、興味本位だな。これは……
――大丈夫ですよね。
そんな目線を、わたしら三人に向けてくる。
「いや、女性に伝えるには本当にアレなネタだから……」
「私なら大丈夫です。深紅ちゃんの部屋にあるアレなもので耐性が付いているので」
「おい、蒼葉さん。貴様何を言うだ」
許さん。
わたしの部屋に、妖怪耐性が付くような禍々しいものは何も置いてないぞ。
あるのは普通の少年少女青年漫画と、少しホモホモしい漫画と、少しホモホモしいゲームだけだ。
今世では乙女ゲームには手をだしていない。現実のたっくんルートに一直線だ。
まあ、人生そのものが乙女ゲームなワケだし、やる気が失せるというのが最大の理由だが………
「えっと。グロってよりも下品なネタなんだよ……」
「あたしと深紅っちは余裕やね」
「え? なんでわたしも余裕なの。まあ、確かに余裕だけど……」
「私も大丈夫ですよ。下品なアンデットを解体する作業には馴れているので」
来栖さんのは、ゲームでの話だよね……
「まあ、全員良いなら良いか」
部長は溜息を一度付くと「セクハラで訴えるのは勘弁」という前置きをし、何が”萌え”なのかを説明し始める。
要約してしまえば、この”がしゃどくろ”はアダルトなゲームのキャラクター。
レ○プされた女性の骸骨や怨念だけで構成されている性的な妖怪。恋をしている女性と、幸福な女性、あとは処女ならなんでも美味しく頂いてしまう人肉嗜食の変態。
しかし、霊媒師に祓われて妖力の殆どを失うと、白髪に白肌の美しい全裸の幼女になる。
霊媒師は、そんな幼女の姿を見て一目惚れ。
その場で瞬時に告白をするも「おじさん、こんな子供に欲情するの?」と凍えるような殺気を向けられる。
しかし、「ああ、オマエが好きだ。行こう、俺たちのロリコニアへ!」そう変態発言をして、幼女に襲いかかる。
レ○プから2人の恋が始まる――――そんなルートに登場するキャラクターだから、萌えキャラらしい。
ストラップが幼女ではなく髑髏なのは、一般人の目を欺いてファンの嗜好を満足させる為という理由。
あと、このストラップが部長のものではなく、部員の飯嶋くんの所有物であることを強調された。
「何年も前に発売した18禁のゲームなんだ。僕がやったことあるのは兄貴に借りた全年齢版なんだけど……すごい感動の雨嵐で泣いたから覚えてる。ゲームの名前は『妖魔憑きの霊媒師』だから、気になったら検索してみると良いと思うよ。まあ、僕的には”がしゃどくろ”といえば、来栖さんと名字が同じゲームの主人公に回廊で倒されるボスキャラクターなんだけど――――」
部長の話を聞いていると、嫌な符合の合致に気付く。
だって、レ○プから始まる恋というのは――――
蒼葉に声をかけようとすると、雰囲気がいつもと違うことに気付く。
彼女は鋭い視線で虚空を睨んでいた。
「ねぇ、蒼葉さんや……」
「霊障がね、顕現しようとしてる。何が切っ掛けになったかわかんないけど……」
たぶん、わたしか蒼葉の存在がフラグ。そんな気がする。
取りあえずは、外に全員を誘導しよう。
「部長さん。デモンストレーションというのは、室内でやるんですか?」
「外だよ。もうすぐ他の部員も戻ってくるだろうし、先に体育館裏に行って待っていようか」
「賛成! ここ、空気わるいですからねー。いるだけで萎るって」
堀田さんが元気に同意してくれたので、全員揃って外に出る。
部室の鍵を閉め、しばらく雑談しながら歩いたところで「部室に忘れ物をしてしまいました」と蒼葉が言う。
”がしゃどくろ”を駆逐するためだろう。
ゲームでは、”がしゃどくろ”ではなくて”名も無い怨霊”だった。
蒼葉が強化されたことにより、妖怪も強くなっていたら……?
胸中が不安に満ちて身体がブルリと震える。
大丈夫、これは武者震いだ。蒼葉が負けるハズない。
蒼葉はわたしの不安を察してか、頭をポンポンと撫で「任せて」と耳元で囁く。
まったく、いつもとは逆の構図だよ……
「忘れたのは貴重品? なら、僕と一緒に戻ろうか?」
「大丈夫ですよ。カギは開けっ放しだから、部長さんがいなくても入れます」
「そうだっけ?」
「はい、そうですよ」
閉めた気がするけど、閉めてないような気もする……
なんだか自分の記憶が怪しい感じだが……
ああ。これ、蒼葉の言霊か!
霊圧を乗せて喋ることにより、ある種の催眠状態にするというヤツ。
ゲームでも、人払いに使っていたから覚えてる。
部長さんは納得がいかない顔をして首を傾げるが「では、カギを貸して貰えますか? 閉まってなかったら閉めてきます」という蒼葉の言葉に、すごすごとカギを渡す。
小走りで、部室へと戻っていく蒼葉。
わたしは彼女の無事を祈った。
そして。
わたしたちがやってきた体育館裏。
そこには、予想外のイベントが待ち受けていた。
祁答院獣と――――
「飯嶋! 佐伯!」
尻をむき出しにして、倒れている人間が、二人。
露出している臀部には白濁色の液体と血痕が付着している。
部長と来栖さんが駆け寄り、介抱をする。
恐らく、残りの鞭術部員なのだろう。
「おいおい、部長さんと八重ちゃんだけだと思ったら、紅楳と堀田もいるのか」
「まさか……祁答院くんが、犯ったの……?」
堀田さんが、震えるような声をだして聞く。
「見て分らないか? なかなか良かったぜ。こいつらの具合はよォ」
「そんな、三次元のガチホモなんて……許せない、ホモは二次元に限るのに、あんたッ……!」
怒りが頂点に達した堀田さんは、祁答院に向かって走り出す。
無理だ。そう思い彼女を止めようとするも、わたしの手をすり抜けてしまう。
堀田さんは大きく拳を振り「アッーああああああ!」と叫びながら突撃する。
だが、その拳は、祁答院に当たることがない。
むしろ、逆に――――
「う……あ…………」
「紅楳と八重ちゃん犯して弾が残ってたら相手をしてやる」
祁答院に鳩尾を殴られ、堀田さんは地面に倒れた。
「それと、だ。俺はホモじゃねぇ。両刀だ。覚えとけ」
地に伏し痙攣している堀田さんを、祁答院は蹴る。蹴る。蹴る。
どうする? ここで飛び出しても勝算は薄いとわたしの勘はいっている。
――――普通にチャラい感じ。
昨日までの祁答院を、わたしはそう評価した。
だが、人間性を判断するのが早すぎたようだ……
あと1日、あと1日早ければポケットにスタンガンがあった。
カッターナイフもあった。
五寸釘もあった。
今は、ボールペンが一本だけだ。
これを振り回したところで、威嚇にもなりはしないだろう。
しかも……
祁答院の、余裕な態度が不自然だ。
いくら女性が混じっているとはいえ、三対一なのに対処できるつもりでいるのか?
来栖さんは古武術の経験者だぞ?
もしかしたら、伏兵が隠れているのかも――――
そう考えたと同時に、茂みから屈強な男が二人現れ、来栖さんに殴りかかった。
来栖さんは、応戦を開始するがどうにも劣勢だ。
部長は、倒れている部員の尻穴に付着した汚れをティッシュで拭き取っている。
こんなに堂々と学内でレ○プなんて……
教師が買収されている? どう動くのが最善だ?
ゲームとは、全く違う展開だ。
だけど、選択肢を間違えれば、間違いなくレ○プ。そして、死――――
「電波が繋がらないんだけど。そっちはどう?」
部長さんの言葉で我に返り、緊急コールをするがノイズが走るだけだ。
学内の回線にも繋がらない。
「大規模なジャミング……なワケはないよなぁ」
「繋がらない理由は――――……わたしたちだけで、対処しないと」
おそらく、電波が繋がらないのは霊障の影響だ。
ゲームの設定通りなら、だが……
蒼葉が”がしゃどくろ”と交戦しているので、辻褄は合う。
「そうだね。協力は大事だ。だから、キミは走って先生を呼んできてくれ」
「でも……」
わたしたちが会話するのを、祁答院は堀田さんを足蹴にしながら観察している。
くそ、余裕だな……
「でも、じゃない。行って」
部長はわたしと祁答院の間に入り、ファイティングポーズを決める。
喧嘩慣れしている様には見えないが、堂々としたものだ。
「僕は、この程度の相手には負けないよ。無論、来栖さんもね……」
「はッ! 格好を付けやがって。犯してやるよ――――女共の前でな!」
「やれるもんなら、な。貴様に見せてやる、鞭使いの恐ろしさというものをな!」
部長が、祁答院に襲いかかる。
同時に――――
わたしは、部長の肩を掴んで、無理矢理制止させた。
何故?
そんな顔をする部長を無視し、前に出る。
「部長じゃなく、わたしがお相手するわ」
胸元のホックを外し、胸の谷間を全開にした。
カーディガンも脱ぎ捨てる。
たっくん以外に、ここまで見せるのは屈辱だ……
「おお、身体を差し出すから優しくして、ってか!」
「ええ。レ○プより和姦のほうが良いでしょう」
「紅楳さん! 早まらないで」
来栖さんが、男と殴り合いながら叫ぶ。
なんとも、勇ましい。
「馬鹿なことをするな! 僕に任せて後ろに下がれ!」
「最適な生存戦略です。部長は、わたしが相手をしている間に、来栖さんに加勢してあげてください」
「おう! おうおうおう。そういうシチュエーションか! 嫌いじゃねえな!」
「じゃあ、キスからよろしくお願いしますわ。淫獣先輩……」
わたしは、身体を震わせながら一歩、また一歩と祁答院に近づく。
背伸びをして、祁答院の首に手を回し――お互いの視線が交差した。
顔近づく、息がかかる。
気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い持ち悪い気持ち悪いッ……!
だが、目は閉じない。
ギリギリまでタイミングを見極めて――――
祁答院が、キスをせがむように目を閉じる。
馬鹿だな、淫獣先輩は。
「かかったな、ダボがァ!」
わたしは、祁答院の股間を再起不能させるつもりで膝蹴りを放つ。
「くぁwせdrftgyふじk!!」
奇声をあげてよろめく祁答院。
「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
わたしも、負けじと奇声をあげて、突き刺す。
ポケットに入っていたシャーペンを、祁答院の顔面――右の眼球に。
「貴様が、レ○プであろうと和姦であろうとォ! キスする時に目を閉じる性癖を設定したのは、この”私”だァー!!」
祁答院に思い切り体当たりをし、マウントポジションを取る。
そして、殴る、殴る、なぐっ――――た所で払い飛ばされた。
祁答院は眼球に刺さったシャーペンを抜き、投げ捨てる。
右目は真っ赤に充血し、顔は憤怒の形相でまさに――――鬼。
「テメェ! 犯してから殺して犯してや――ガッ……!」
祁答院は、最後まで言葉を喋ることができなかった。
何故なら――――
「鞭にはこういう使い方もある!」
部長が鞭を首に巻き付け妨害し、来栖さんが回し蹴りで昏倒させたからだ。
倒れた祁答院に、部長が続けて鞭を打つが、ビクンビクンと痙攣するばかりで反応がない。
意識が、完全に刈り取られたのだろう。
「ふ、フフ腐……」
そこに、顔面が腫れ、ボロボロな装いの堀田さんがやってきて……
祁答院のベルトを外し、ズボンを降ろすと――尻穴にシャーペンを差し込んだ。
何度も、何度も何度も。狂った様に、何度も何度も。
わたしたちは、ただその様子を無言で見守っていた。
部長の尻穴「*」←キレイ