03
死亡フラグを折るためには、生存戦略が必要だ。
生存戦略、つまりはセッ○スだ。風紀の乱れが必要なのだ。
物語のヒロインは処女でなくてはならない。
――――それが、運命の人と出会う前に散らされていたらどうだろうか?
そう。
フラグが完全に折れるフラグである。
攻略対象であるハイスペックなイケメン達が好き好んで中古ヒロインに恋をするだろうか?
答えは否。
男性というのは、”美人の中古”よりも”愛嬌がある新品”を選ぶものなのだ。
『妖怪憑きと王子様』においても、ルート確定後は微逆ハー状態を構築していたハーレム要員たちが寄りつかなくなる。
要するに、だ。
蒼葉が攻略対象のイケメンズに出会う前に彼氏を作り、ズッコンバッコンすることにより全てのフラグが潰えるという話。
これならわたしは死なない。
何故なら物語が始まりすらしないと思うから。
問題は、物語開始前(中学生)の蒼葉を抱こうとするような糞男の存在をわたしが許容できないこと。
親友に悪い虫が付く前に殺――払うのはわたしの役目だし! 絶対に許さない、絶対にだ。
……うん。
駄目じゃんコレ。
良い案だと思ったけど、そんなことはなかった。
しかし、キス……、キスならどうだろうか?
女性的には、元彼にキスされていても今彼には「ファーストキスだよぉ」と言ってしまう程度の価値しかない。
現実とはそういった悲しいものだが、物語の世界というのならアウトだろう。
「駄菓子菓子」
物語開始前(中学生)の蒼葉にキスをするような糞男の存在をわたしが許容できない。
親友に悪い虫が付く前に払うのはわたしの役目だし! 絶対に許さない、絶対にだ。
まあ、
「私、大きくなったら深紅ちゃんと結婚するから!」
「はいはい。女同士で結婚はできませ――――」
チュ。チュ。ペロペロ。
「私、深紅ちゃんのこと大好きだから」
「お、おう……」
「ファーストキッスなんだよ」
「う、うん。わたしも……」
「本当!? 嬉しい!」
――――というような残念イベントは小学校3年生の頃にこなしている。
蒼葉のファーストキッスはわたしのものなんだよ。
残念だったら、未来の彼氏よ。ククク……
わたしのファーストキッスは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。
しかし、これだけでフラグが折れてるとは到底思えない。
生存戦略は無理だし、他に良い案は……
「あ、そうか」
ゲームの舞台になった高校に行かなければ良いんだ。
なんという単純なことなのだろう。
わたしの父親が理事長を務める高校であるため、
「親の七光りで見られたくないの」
「もっとレベルが高い高校で学びたいの」
「海外に留学したいの」
あたりの理由をぶつければ両親は納得してくれるだろう。
ベッドの床頭台に置いてあるスマホを手に取り、アドレス帳から『ダディ・クール』と登録してある人物をタッチする。
今は仕事の時間だけど、留守電にメッセージを吹き込んでおくにこしたことはない。
何にせよ、行動は早いほうが良いのだ。
「父さん、私は頭を打って悟りを開きました。もっと勉学に励みましょう、と。つきましては、進学予定の高校について相談がしたいです。お暇な時で良いので、折り返しの通話をお願いします。病院の入浴時間が20時頃なので、そのあたりだけは避けて下さいね。では、お電話お待ちしています。娘より、愛する父上様へ」
ガチャン。ツー、ツー、ツー――――っと。通話を終了。
少し媚びを売りすぎた気もするけど、まあオッケー。うん。
前世の記憶が混じったせいで行動の節々に打算的な要素が生まれてしまうのはどうしようもないさ。
ひとまず、わたしの進路はコレで良い。
あとは、蒼葉も一緒の高校に進学するように説得だな。
目を離した隙に攻略対象とカップリングが成立し、妖怪バトルが開始なんてしたら非常に困る。
ゲームだと蒼葉は様々な妖怪と契約をして使役するけど、その中での一番強いのがわたし。
覚醒して炎髪を纏った紅蓮の乙女こそが最初のパートナーにして最強なのだ。
最強の手札が手元にない状態となると、蒼葉が物語序盤で死ぬ。
序盤を乗り切っても終盤で死ぬ。
要は、わたしが死なないと蒼葉が死ぬってことだ。
「難儀なゲーム設定」
まったく、誰だよ考えたのは。
深紅「最悪、わたしが偶然を装って蒼葉の初めてを奪うしかないか」(ゲス顔)