ご当地キャラ
#ご当地キャラ
那津子と祐樹の二人は、部室に備え付けられているブラウン管のテレビを見ていた。レトロなものを観察しよう、というワケではない。地デジチューナーが付いているとか、そういう事にして欲しい。
テレビが映し出しているのは、可愛らしいデザインをしたマスコットキャラの着ぐるみだった。バックダンサーよろしく機敏に激しく踊る姿は、いつ見ても元気いっぱいな印象を受ける。
「このご当地キャラってさ」
パイプ椅子に座っていた那津子が、机に頬杖をついて足を組んだ体勢で、唐突に口にした。
「変なもんよね」
心中で祐樹は同意した。彼も日頃から疑問に思っていたことがあるからだ。
「そうですね、確かに梨っぽくはないですよね」
「いやそうじゃなくて。っていうか本当の色合いで本物の表面みたいにブツブツがあったらホラーより不気味でしょ、それ。そうじゃなくてさ、彼らって地元をPRするのが目的なワケでしょ? けど地元に留まったままじゃ広告活動なんてできない。けど有名になって、色んなトコで活動して有名になってもさ、有名になるのはキャラだけでさ、大多数の人は、それが何処のキャラなのか~なんて気にしないじゃない? 可愛ければいい、グッズが出れば買う。近くに来れば話の種に見に行く。もう地元関係ないじゃない」
水を差すような那津子の揚げ足を取るように、祐樹は口を挟む。
「でもどっかのご当地キャラは経済効果1000億円って言われてるくらいじゃないですか。実際、キャラクターを見て、それが何処のキャラなのか調べる人もいるでしょうし。結果として地元のPRになってるんなら、それで問題ないでしょう」
「うーん、そりゃそうだけどさぁ……」
那津子は口を『へ』の字にした。
「そのキャラにしてもさ、キャラクターと土地の関係がさ、乖離してると思わない? 熊本にクマって生息してるの?」
「難しい言葉使って誤魔化そうとしないでくださいよ。っていうか熊本だからクマなんでしょう。分りやすいのが一番です」
「熊毛のクマかもしれないじゃない」
「熊毛県なんてありましたっけ?」
「県じゃないわよ、山口県の熊毛郡」
それは県じゃなくて郡でしょう、と言いたくなったが止めておいた。さっきから画面の中で、背中から食物を摂取しているキャラクターも、県ではなく市のご当地キャラだったはずだ。市と郡の正確な違いなんて、彼には分らない。
「ってかさ、客観的な視点の話なんてさ、私はしてないの。そんなの批評家だかネラーだか、とにかく他の人たちが言われなくてもしてくれるじゃない。私が言いたいのは、ご当地キャラを知ってる人の中で、そのキャラがどれだけ土地と繋がってるかってこと。ぶっちゃけた話、私、テレビに映ってるソイツが何処のキャラかなんて知らないわよ。ドッキリで爆発から逃げてるとこ見ただけだし。あと飴の袋」
深く椅子に座りなおして天井を仰ぐ那津子に、祐樹は件のキャラクターの出身地を言う。
「船橋市ですよ」
「何県?」
「えーと……たしか千葉です」
「そんくらいの印象でしょ? で、アンタはその市の梨を買いたいと思うわけ?」
「まぁ、わざわざとは言いませんけど、あったら買いたいなぁ、くらいは思うんじゃないですか?」
思うわね。それがダメなのよ。那津子が椅子に座りなおす。
「見てる人間はね、キャラが可愛いのであって、土地に興味はないのよ。メディアはどこそこの出身だって言うけどさ、視聴者はそんなのどうでもいいのよ。視聴者は作った人間にとっての目的じゃなくて、その手段の方に目を向ける。可愛いからとか珍しいからとかね。キャラの物珍しさとか特異なデザインに惹かれて、実際にキャラの行くトコに足も運ぶでしょう。でも結局一時的な話題になるだけ、いずれ忘れる。つまり見てる側の人間の話の良いネタになるだけ。そのキャラを知って、その土地についてもっと知りたいって思う人間がどれだけいるのかしらね」
哀れなものだ、と那津子は思っているのだろう。熱意は必ずしも望む形で報われるものではないのだと。
けれど祐樹は、一言いってみることにした。
「でも、それこそ一人でもそう思ってくれる人がいたら、満足なんじゃないですか?」
那津子の表情が、微かに固まる。
「さぁね。そんなの画面に訊きなさいよ」
不機嫌そうに、那津子が笑った。
言うの忘れてました。基本は1話簡潔のつもりです。不定期テキトー連載。