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ジャンルが間違っている予感
『お久しぶりです。
お元気でしょうか。恐らく元気なのだろうと思います。何故なら、私の記憶の中でのあなたはいつも元気だったからです。
さて、私はと言えば、のんべんだらりと日々を過ごしながらも、幸福に生きてゆきたいなあ、と考えております。
しかし幸福とはいったいどういう事なのでしょうか。私にはそれが全く解らないのです。そもそも、解っていたのなら、きっと幸福を望む事は無いでしょう。
無い物ばかりを求めてここまで生きて来ました。この20年間が早かったのか遅かったのかも解りませんが、この先60年は生きるのかも知れないなあ、と思うと辛い気もします。
なので幸福を求めているのです。満足して、飽きて、もういいよ、と言える程になるまでの幸せが欲しいのです。
今までの20年を思い返し、私が出会った人の中で、あなたが一番幸福そうだと思いました。
どうしてそう思ったのかは解りません。解りませんが、そう思いました。
ですので、私に幸福の意味をご教授頂ければ幸いに存じます。』
メールアドレスを交換した事すら忘れていた中学の頃の友人から、連絡が来た。
中二の時に同じクラスになり、前後の席になったのがきっかけで少し喋るようになったのだ。
地に足がついていないような、ふらふらとした奴だったのを覚えている。
自分の事はあまり喋りたがらず、流行にものらず、部活にも入らず、かと言って友人が少ない訳ではなくて、何故か他クラスや他学年にも知り合いがいた。
不思議と人を惹き付ける魅力があったのだろう。
口数は少なかったが、相手の話している内容を自然と広げるのが巧かった。
必ず、誰かの何かを認めていた。
陰口なんてものとは無縁で、裏表が全く無いように思えた。
聖人のような人間。
俺はそれが酷く気に入らなかった。
今思えば、それはひねくれたガキの嫉妬のようなものだったのかも知れない。
そんな事を理由に、彼の気を悪くさせた場面もきっと、多々あったはずだ。
それなのに、どうしてだろうか。
彼には俺が幸福とやらに見えていたのか。
そもそもこのメールの文面はなんだ。
イタズラなのか、イカレてるのか、大真面目なのか。
あの男の事だから、真面目のような気がしなくもない。
仕事が休みの、明日土曜朝11時に駅前の時計塔の前で会おうと返信する。
彼が今どこに住んでいるのかは知らなかったが、こちらが指定する場所に来るだろうと思った。少なくとも、中学時代の彼はそういう奴だった。