生死の狭間で
出オチです。
9月2日午後10時。
僕の身体は高層マンションの屋上にあった。
夜景を見るためでも、夜風にあたるためでもない。
―――死ににきたのだ。
別に何が嫌と言うわけではない。
勉強も、
趣味も、
部活も、
面倒になった。
それだけだった。
靴を揃え、フェンスを登った。
多少の未練はあるが、それを無気力が押しつぶしている。
ごめんね。
僕は屋上の縁で軽い助走をとり、跳んだ。
高所恐怖症なのを忘れていたおかげで見事に気絶した僕の体は見事に地面に当たり、僕は死んだ。
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===ポツ、ポツ……ザーー===
雨に気づき目を開けた。
妙に体が軽い。
視覚に異常はないが、そこにあるべき身体が無かった。
周りを囲むのは綿飴のような……綿飴のような雲。
そこまで思考がいたったところで僕の脳はある結論を出した。
……そう。ここははるか上空なのだ。
高所恐怖症の僕はパニックを起こし掴める筈のない雲をつかもうとした。
するとあるはずのない腕が具現化、実体化され重力の影響を受けた僕の腕と意識は雲をつきぬけ落ちていった。
最下層の雲を抜けると視界が開け、寂れた街が見える。
ってか、まじ怖い。やばい。涙出てきた。
前回のように都合よく気絶したりせず、そのまま民家へと垂直落下していった。
残り何メートルだろうか。速度が付きすぎてなんか目が閉められない。
民家に突き刺さる直前で落下が静止。
無風、無音。全てがとまった。
暗転。
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ここはどこだ?
目を開けると洋風の建物の客間のようなところにいた。
といっても相変わらず僕に体はなかった。
状況を把握しようと室内をうろうろしていると、戸が開き、白衣の青年が現れた。
「やあ。……って、初めましてだったかな?」
「あなた誰ですか、何してる人ですか、ここはどこですか」
「私はただの天使だよ。ここは天界の客間だよ。君はお客さん」
「で、その天使様が何のようです?」
「ちょっと頼みがあってね。ねえ、天使のバイトしない?」
「バイト?まあいいですけど、何をすればいいんですか?」
「簡単な仕事だよ。下界を、神様のシナリオ通りに進めるだけ」
「シナリオ?」
「まあ、簡単に言うと『運命』だね」
「なるほど。その仕事、やりたい」
「じゃあ、天使の技についてからだな」
「技?」
「うん。さっき、腕が実体化したでしょ?そういう感じ」
「へー」
「憑依とか、体を透明にしたりとか、壁すり抜けたりとか」
「楽しそうだね」
「でしょ。君には横浜のあたりの管理をしてもらうよ。仕事が入ったら携帯鳴らすから、それ以外のときはてきとーにしたいことしてていいよ。君の姿は天使か、対象者にしか見えないから」
「りょーかいです」
「じゃあ」
そういって彼は目を瞑った。
まばゆい光を放ちながら僕の体は現れた。
彼と同じ白衣を着ている。
「オプションで羽付けれるけど、どうする?」
彼は自分の背中の羽根を見せながら言った。
「タダならほしいです」
「タダに決まってるじゃん」
僕の背中から羽が生えた。
「じゃあ、早速だけどお仕事頑張って」
そう聞こえたころにはもう僕の体は落ちていた。