甘い花唇
『甘い花唇』
私は花を求めて惑星から惑星を巡る養蜂業者である。
言わば蜂を飼ってその蜂の集めた蜂蜜を売る事を生業としている者である。
蜂蜜と言っても只の蜂蜜ではない。私の集めるのは、知性を持った植物、植物人間
の咲かせた花の蜂蜜であり、その美味さは普通の蜂蜜ではない。知性を持ってる植物
達が出すせいなのか何のせいなのか、比類のない美味さを誇っていて、不老の秘薬と
か言われて、高価に取引されている。
尤も、その噂の大半はこれに目をつけた私が広めたものだが、実際結構な薬効もあ
るらしく万病に効くとか尾鰭もついて同じ重さの金より高価に取引されているので私
の商売もなりたってる訳だ。
まぁ、この商売は商売で細かいノウハウがあって惑星毎に咲く時期の異なる花の回
り順とか、幾ら超空間航法で距離や時間にそれほど差がないとは言え、一番利潤が上
がるコースを制定したり、と。この独占取引をまとめた私でなければ判らない苦労も
ある訳だ。独占商品という事で売り方優先取引ができるのがメリットだ。
私もこの王侯の中の王侯の味、インペリアル・ハイブリット・ローヤル・ハニーを
愛用している薬効のお陰でこんな苦労の多い仕事でも病気一つ無しでやっている。
私が今回周った惑星の植物人間達も丁度この時期が百花繚乱・言わば交配の季節で
植物人間達がその思いのたけをこめて咲かせる花は様々で目を奪われる。
なんと言っても花は彼らの顔であり、生殖器であり、彼らの美しさのシンボルであ
る。その美しさを進化の中で個性とともに発達させてきた訳だ。
そんなせいか彼らは性に対して非常におおらかで私が寄る時期が彼らの生殖の時期
でもあるせいか私の蜂達が彼らの生殖を手伝う事もあろうが寄った私に対してもたい
がいエロスの集いに来るように誘いがかかる。
尤も、エロスの集いと言っても小学校の性教育の雄蘂と雌蘂が…てもんだろうと私
は行ったことはないが。
それでも今回はそそられてしまった。彼らの言葉は身振りと歯を振るわせて出る音
の様な物と、感情情念の伝達−エンパシーのようなものか−の複合物である。
それでこんな女っ気のない生活を送っていれば誘惑にも弱くなるってもんだからつ
い私が誘われてしまったとしてもしょうがないだろう。
何か新機軸で映像と彼らの言葉でエロスを表現する試みがあると言うのも面白そう
だ。
そしてそれは始まった。映像は昔私がここに養蜂を行う事を紹介する為に置いて行
ったビデオだった。「やっぱり小学校の性教育か…。雄蘂と雌蘂が…って。」
しかし、それは彼らの言葉とともに私の心にしみ込んできた。
『…その固く熱い物が入ってきた時、そこはもう蜜を溢れ出していた。
花唇を舐め回すようなその技巧にそこは濡れそぼり、大きく開いて蜜を与えた…』
それは延々と情熱的に煽情的に私を刺激して私も張り裂けんばかりになっていった。
しかし、花達の動きが一斉に私に向かってきた。な、なんだ…。
『吸って…、私の蜜を。奪って…、私の花粉を…』
彼らはその性の形として最後に彼ら以外の動物に蜜を与え、花粉を交配して貰うの
が性行動だったのだ。
そして、ここには確かに私しか動物はいなかった。彼らは私に蜜を与え続け、私は
それから三日三晩下痢と腹痛に悩まされた。
それからも私はなんとか養蜂を続けている。例え、花の匂いを嗅いだだけで花粉症
と性的興奮をしようと、私の仕事はこれ以外に思いつかなかったから。
私は今日も花粉症予防の為、宇宙服を着たままで蜜を集めている。
そして決して二度と彼らの性についてはこれ以上知りたいと思わなかった。