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その3

 

            

        (5)




 ボクの親友谷口くんの彼女は変わっている。

 谷口くんの彼女に誘われて、夏のバーゲンに行った日のことだ。

 オシャレに興味のないボクは少し離れた所で見ていただけなのだけど、アレは凄い迫力だ。

 ワゴンに盛られた衣類を中心に戦場が出来上がっていた。その中で一際雄々しく光輝いていたのが谷口くんの彼女だ。ジェームズ・キャメロン監督がこの場にいたら、『アバター2』のラスト四十分に多大な影響を与える事になるだろう。


「なんて闘気なの……! 大地が震えているわ!」 

 

 いつの間にかボクの隣に立っていた店員さんが、恐れを滲ませながら呟いた。

 いや、大地が震えているのは、ショップの建築上の問題だと思うんですけどね。

 戦利品をパツンパツンに詰めた紙袋をいくつも提げて歩く谷口くんの彼女は誇らしげで、凱旋門をくぐるコンスタンティヌスかナポレオンのようだった。

 この後はとりあえず谷口くんの彼女の家で、お昼ごはんを御馳走になりながら、『24』を鑑賞する予定だった。

 谷口くんの彼女が作った特製麺つゆver.2.3はとても美味しい。すでに谷口家オリジナル(ver.1.0)を上回る美味しさだ。どれくらい美味しいかと言うと、悪魔的と表現しても良いくらいだ。

 と、


「ごめん。ちょっと持ってて」


 いきなり紙袋を押しつけられた。

 戸惑うボクを尻目に、谷口くんの彼女が獲物を見つけた女豹のようなしなやかさで駆けていく。

 谷口くんの彼女が向う先には、お散歩中の幼稚園児の一団が。年少組さんなのか、保母さんが押すワゴンの中に五、六人が可愛らしく収まっている。


「こんにちは」


 谷口くんの彼女がにこやかに挨拶をすると、ワゴンの中の園児たちも声をそろえて「こにちは!」と返してきた。

 のどかな風景に、保母さんも相好を崩す。

 と、谷口くんの彼女は保母さんに笑顔のままに聞いた。


「おいくらですか?」


「は、はい?」


 保母さんが通報するより早く、追いついたボクの手が谷口くんの彼女を捕まえた。

 危うく、のどかなお昼の住宅地を人身売買の現場にしてしまうところだった。

 

             

        (6)



 ボクの親友谷口くんの彼女は変わっている。

 谷口くんの彼女の家でお昼ごはん(今日は冷麦だ)をごちそうになっていると、


「ねえねえ。質問があるんだけど」


 向かい合わせで箸を伸ばしていた谷口くんの彼女が挙手をした。

 ボクは冷麦を一口すすり込むと、


「はい。質問を許可します」


「男女間の友情は成立すると思いますか?」


 うーん、とボクは考えた。その間も箸が止まる事はなかったのだけれど。


「時と場合と人によるとボクは思います」


「つまり天地人という事ね」


 地の利はどこに行ってしまったのだろう。そう思っていると、谷口くんの彼女がため息混じりに言った。


「まだまだ油断できないって事かあ……」


 どういう意味だろう。

 やっぱり、ボクの親友谷口くんの彼女は変わっている。





 ■■■ おわり ■■■

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