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その2


             

        (3)



 ボクの親友谷口くんの彼女は変わっている。

 谷口くんの彼女は子供が好きだ。

 カバンの中にいつでも子供にあげる用の飴を常備しておくくらいの子供好きだ。

 そんな谷口くんの彼女は、近所の子供たちから「アメのおねーちゃん」と恐れられている。

 特に幼稚園児がどストライクゾーンの絶好球のようで、幼稚園の前を通った時など大変だ。放っておくと携帯のカメラ機能でいたいけな子供たちの撮影を始めてしまう。

 あの時も大変だった。

 ボクは毎日谷口くんの彼女を家まで送り迎えしているのだが、ある朝大学へ向かう途中の赤信号で、幼稚園バスの後ろに止まった。

 助手席に座った谷口くんの彼女がにこやかに手を振ると、バスの後ろに座った園児も気づいたようで、小さな手を元気一杯に振り返してきた。

 ああ。可愛いなあ。思わずボクの眼尻が下がる。


「やっぱり子供は可愛いよねえ」


 うんうん、と谷口くんの彼女にボクも同意。平和な朝の風景に心を温めていると、


「ねえねえ。大学行くのやめて、あのバスをバスジャックしてみんなで遊園地に行ったら楽しそうじゃない?」


 温まったばかりの心がいきなり凍りついた。

 恐る恐る助手席を見ると、本気の目をした犯罪者予備軍がそこにいた。


「マジと書いて本気と読むよ」


「誤用ではないよね。一応」


 大切な親友の大切な彼女を犯罪に走らせる訳にはいかず、ボクは必死に説得した。

 結局、その日は大学をサボって二人で遊園地に行った。

 すごく楽しかった。


             

        (4)



 ボクの親友谷口くんの彼女は変わっている。

 ある日のこと、谷口くんの彼女の家で『LOST』を見ていると、谷口くんの彼女が唐突に言った。


「あー。温泉とか行きたいねえ」


「そうだね」


「近場で良いんだけどなあ。そうだ。今週末一緒に行こうよ」


「良いよ」


 週末は予定が無かったので、ボクはすぐに返事をした。


「そうだ。こないだ、良さげな温泉を雑誌で見つけたんだけどね」


 言いながら谷口くんの彼女は、無料のタウン情報誌を取り出した。

 ページをめくって温泉宿の紹介を探すと、机の上に広げて見せた。


「ここなんだけどね」


「へえ。近いしキレイな宿だね」


 車で小一時間と言ったところ。ボクは略地図を眺めて道順を確認した。

 うん。大丈夫。近くまでなら行った事がある。

 麦茶を一口飲んだ所で、


「一緒に入ったらきっと楽しいよ」


 咳き込んだ。


「え、え?」


「絶対楽しいよ」


 無邪気な笑顔の谷口くんの彼女。

 谷口くんの彼女はスタイルが良い。たまにボクでもドキッとするくらいだ。


「あ、混浴も有るんだって。私混浴って初めてかも」


「絶対イヤだよ!」


 それは断固拒否したい。


「要水着着用って書いてあるから大丈夫だよ」


「それでもイヤだ!」


 結局、谷口くんの彼女が夕方頃に「今すぐ温泉行きたいよう」と駄々をこねたので、もっと近場のスーパー銭湯に行く事になった。

 湯上りに二人で飲んだコーヒー牛乳はとても美味しかった。

 

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