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4話 カラーコード#000000

 嵐のような対面が終わり、夕刻が近づいてきた。


 「だいたい、斉昭はご飯ちゃんと作れるんでしょうね? これからの私たちの胃袋を預けるんだから、不味かったら即刻追い出すわよ!」


 着替えてリビングに現れた彌生が、腕組みをしながら俺に迫る。


 「大丈夫だろう。多分な。こいつは俺の飯を見て学んだんだ」


 父の「多分」という余計な一言が、彌生の不安を煽る。


 「こうなったら勝負よ!料理勝負!私が勝ったら、あんたは下僕として扱い、私が飯を作るわ!」


 「いいじゃないか。ちょうど腹も減ったしな。お題は……和食といこうか」


 父が勝手に審判役を引き受ける。俺の意思は完全に無視だ。


 「えー、今回審判を務めるのは私、城太郎です。制限時間は1時間。審査員は俺と夜露、それともう一人いるはずだが……まぁいいか。レディー、ゴー!」


 あまりにも雑な合図で料理バトルが始まった。俺は台所に立ち、冷蔵庫の中身を確認する。


 「……父さん、誰かアレルギーある人いる?」


 「いないぞ。好きにやれ」


 それを聞いて、俺は献立を決めた。奇をてらう必要はない。基本に忠実なものが、一番心に届くはずだ。


 1時間後。テーブルには二つの料理が並んだ。


 「両者、完成したか?」


 「ええ!私の最高傑作よ!」


 彌生が自信満々に差し出したのは……黒い塊だった。


 「……彌生。これは、何だ? だし巻き卵……だよな?」


 「そうよ! ちょっと火力が強かっただけよ!」


 「ちょっと」のレベルではない。カラーコードで言えば「#000000」の完全なる炭だ。いや、炭よりも黒い。


 「じゃぁ、斉昭のは……ほう、あたりめを使ったイカ飯風炊き込みご飯か」


 「はぁ〜、いい匂い〜。食べていい?」


 いつの間にか、食卓には見知らぬ少女が座っていた。ふわふわとした髪に、眠たげな目。


 「こいつは赤井皐月あかい さつき。趣味は食べること。こいつもお前の同級生だ」


 「同級生、多すぎだろ……」


 「では、いただきます!」


 四人で一斉に箸をつける。俺の作った炊き込みご飯は、あたりめから出た出汁が米の一粒一粒に染み込み、なかなかの出来だった。一方で、彌生のだし巻き卵を口にした瞬間、全員の動きが止まった。


 「……砂漠の味がするのです。」


と夜露が呟く。水分が一切失われ、炭の苦味だけが口腔に広がる。

 

 「あ、斉昭。言い忘れてたけど、彌生は将来料理人を目指してるんだ。だからこれから厳しく教えてやってくれ」


 「はぁ!? このレベルで料理人?」


 俺は目の前の「炭」を見て戦慄した。このままではこの家の食卓から死人が出る。


 「では、投票だ。彌生が勝ったと思う人?」


 シーン……。


 「斉昭が勝ったと思う人? 俺は斉昭に一票」


 「夜露もなのです」


 「は〜い、私もこっち〜」


 満場一致で俺の勝利だった。


 「ううっ、今までで最高の出来だったのに……。でも、確かに斉昭のやつ、美味しいわよ」


 「……サンキュ」


 素直に褒められると、毒気を抜かれる。だが、彼女の料理修行に付き合うことになりそうな予感に、俺は胃のあたりが重くなるのを感じた。

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