ゴミ拾いと蔑まれた俺、神造宝具を量産中
「ルーク、お前は今日で『暁の剣』をクビだ。その薄汚いガラクタの山と一緒に、さっさと俺たちの前から消え失せろ」
王都でも随一の高級宿屋のスイートルーム。
ふかふかの絨毯の上に立ち尽くす荷物持ちの青年ルークを見下ろしながら、Sランクパーティのリーダーである勇者ガイルは、傲慢な笑みを浮かべて言い放った。
「……クビ、ですか。俺が何か失敗でもしましたか?」
ルークは背中に背負った巨大な麻袋を下ろし、首を傾げた。
彼の役割は、パーティがダンジョンで戦っている間、後方で荷物を持ち、ポーションを管理し、そして何より「迷宮内に落ちている壊れた武具を拾い集める」ことだった。
「失敗だと? お前が存在していること自体が俺たちの品格を下げるんだよ」
ガイルは鼻で笑い、腰に提げた金貨袋をじゃらじゃらと鳴らした。
「いいか、俺たちはついに最高峰のSランクに昇格し、国から莫大な報奨金を得た。これからは王都の一流武具工房で、最高級の新品装備を特注して戦うんだ。お前がダンジョンで拾ってきては適当にくっつけたような、貧乏くさいツギハギの武器なんぞ、もう二度と使わん」
「そうよ。あんなヒビだらけで古臭い杖、他のパーティに見られるだけで恥ずかしくて死にそうだったわ」
魔法使いの女が、美しい金髪を揺らしながら嘲笑する。
「俺の盾だってそうだ。お前が拾ってきた鉄クズを貼り合わせただけの重たい盾なんざ、もううんざりだ。明日からはピカピカのミスリル製の大盾を使うからな」
盾役の巨漢も、ルークを忌々しげに睨みつけた。
ルークが持つスキルは【概念復元】。
対象物の壊れた部分を修復するだけの、ありふれた生産系の下位スキルだとパーティの誰もが――そしてルーク本人ですら思い込んでいた。
だからこそルークは、ダンジョンに落ちている「誰かが使い捨てて折れた剣」や「砕けた防具の欠片」を拾い集め、自分のスキルで繋ぎ合わせて、ガイルたちに提供し続けていたのである。
「……そっか。みんな、もう俺の直した武器は必要ないんだな」
ルークは少しだけ寂しそうに目を伏せた。
今まで文句を言いながらも、彼らはルークが渡したツギハギの武器を使ってくれていた。それが不要になったということは、本当に自分は用済みになったのだろう。
「わかった。今まで世話になったな。それじゃあ、俺が拾って直したこの武器たちは、全部俺が引き取って持っていくよ」
「ああ、そんなゴミいくらでも持っていけ。間違っても『暁の剣』の元メンバーだなんて名乗るなよ、ゴミ拾い」
勇者たちの心無い罵倒を背に受けながら、ルークは大量の「ガラクタ」が詰まった麻袋を引きずり、静かに部屋を後にした。
――この時、勇者ガイルたちは誰一人として気づいていなかった。
ルークの持つ【概念復元】というスキルが、ただの接着魔法などではないということに。
それは、壊れた武具が過去に持っていた「最も強力だった神話時代の伝承」にまで遡り、その概念ごと完全に世界へ呼び戻すという、神の御業に等しいチートスキルであった。
見た目こそヒビ割れ、ツギハギだらけのガラクタに見えるが、ルークが直した武器はすべて、山を両断し海を割る【神造宝具】そのものだったのである。
ガイルたちがこれまで、どれほど無茶な力任せの剣撃を放っても武器が折れず、どんな凶悪なボスの魔法を受けても無傷で済んでいたのは、彼ら自身の才能などではなく、ひとえにルークの渡した「ガラクタの絶対的な性能」によるものだった。
その事実を理解せず、見た目だけの「市販の高級品」に持ち替えたSランクパーティが、かつてない凄惨な大敗北を喫することになるのは、わずか数日後の話である。
◆ ◆ ◆
Sランクパーティを追い出されたルークは、王都の最下層、貧民街に近い裏路地へとやってきていた。
手持ちの資金はほとんどないが、どうにか雨風をしのげる廃屋を借り抜き、手作りの看板を掲げた。
『中古武具店・ルークの廃品屋』
店先に敷いたボロボロの布の上に、彼がダンジョンで拾い集め、【概念復元】で直した武具を無造作に並べていく。
刃こぼれだらけに見える黒錆びた剣。持ち手が歪んだ古びた槍。表面が削れきった灰色の盾。
「まあ、見た目は悪いけど頑丈さには自信があるからな。駆け出しの冒険者なんかが、安く買ってくれたら嬉しいんだけど」
ルークはエプロンを身につけ、店先の丸椅子に腰掛けてのんびりとあくびをした。
パーティにいた頃は、毎日ダンジョンに潜っては重い荷物を背負わされ、命の危険と隣り合わせの過酷な労働を強いられていた。それに比べれば、こうしてのんびりと店番をしている時間は、ルークにとって天国のようなスローライフだった。
とはいえ、裏路地の奥深くにある汚い廃品屋に、そう簡単に客が寄り付くはずもない。
開店から三日間、ルークの店には野良猫が一匹通りかかっただけだった。
――四日目の、昼下がりのことである。
「……ふぅ。非番の日くらい、王宮の喧騒から離れて静かに過ごしたいものだが」
深いフードを目深に被り、王都の裏路地をお忍びで歩いていた一人の女性がいた。
彼女の名は、セリア。
若くして王家直属の筆頭近衛騎士を務め、王都最強の剣士と謳われる傑物である。
彼女は、日々の激務と貴族たちの派閥争いに辟易しており、こうして時折、誰も自分を知らない下町を散策して息抜きをしていた。
「ん……? こんな路地裏に武具屋などあったか?」
セリアの鋭い視線が、ルークの手作り看板を捉えた。
どう見ても素人が開いた胡散臭い店だ。地面に直接敷かれた布の上には、ゴミ捨て場から拾ってきたような鉄クズが並べられている。
(ふふ、随分と可愛らしい店だな。冷やかしに少し覗いてみるか)
セリアは軽い気持ちで、店先に陳列された「ガラクタ」に近づき――次の瞬間、全身の産毛が逆立つほどの恐ろしい戦慄に襲われた。
「な……っ!?」
セリアは生来、武具に宿る魔力や歴史の深さを視認できる【心眼】という特殊な才能を持っていた。
その彼女の目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。
無造作に転がっている黒錆びた剣。その内部には、星の核が爆発しているかのような、途方もない灼熱の魔力が超高密度で圧縮されていた。
隣に置かれた持ち手の歪んだ槍。それを見た瞬間、セリアの脳内に「天を貫き、神を殺す雷光」のヴィジョンが直接叩き込まれた。
(ば、馬鹿なっ……! なんだこれは!? これほどの圧倒的な神気、王家の宝物庫の奥底に眠る国宝すら児戯に等しいぞ……!)
セリアの足はガクガクと震え、呼吸すら忘れてその場に釘付けになった。
伝説のお伽話にしか登場しないような、神々が鍛え上げた【神造宝具】。それが、なぜこんな薄汚れた路地裏の地面に、無造作に転がっているというのか。
「いらっしゃい。見ない顔だね、冒険者かい?」
のんびりとした声にハッと顔を上げると、店主らしき純朴そうな青年が、丸椅子に座って微笑んでいた。
「あ……貴方が、この……これほどの代物を、ここに……?」
「ああ、俺がダンジョンで拾って直したやつだよ。見た目はちょっと悪いけど、絶対に折れないし、すっごく頑丈だからおすすめだよ」
ルークの屈託のない笑顔に、セリアは愕然とした。
(拾って直した!? 神話の武具を!? この青年は一体、何者なんだ……!)
セリアは震える手を伸ばし、恐怖すら覚えながら、その中の一本――雷光のヴィジョンを見せた古びた槍を指差した。
「こ、この槍は……いくらだ……? すまないが、私は今、非番で……白金貨数枚しか持ち合わせがないのだが……っ!」
国庫を傾けても買えるかどうか分からない代物だ。セリアは半ば絶望しながら値段を尋ねた。
「え? 白金貨? 何言ってるんだよ、そんな大金もらえるわけないだろ。それは二層で持ち手が折れてたやつをくっつけただけだから……うーん、銅貨三枚でいいよ」
「…………ど、銅貨、三枚?」
王都最強の騎士の思考回路が、完全にショートした瞬間であった。
「ま、待て待て待てっ!!」
セリアは慌ててルークの言葉を遮った。
これ以上彼に値段を下げさせれば、天上の神々から天罰が下りかねない。彼女は震える手で懐から銀貨を数枚取り出し、ルークの手に半ば強引に握らせた。
「これで買う! 釣りは絶対に、絶対にいらないからな! むしろこれでも足りないくらいだが、今はこれしか持ち合わせがなくて……っ!」
「えっ、銀貨三枚!? いやいや、もらいすぎだよ!」
「いいから! ……あ、ありがたく使わせてもらう」
セリアは神槍を抱きかかえるようにして受け取ると、畏敬の念を込めて深く一礼し、逃げるように路地裏を去っていった。
「変わったお客さんだったな……。まあ、初日に売上が出てよかった」
ルークは銀貨を見つめながら、のんびりと微笑んだ。
この日を境に、お忍びの最強騎士セリアが「身分を隠してこの廃品屋に通いつめ、破格で神話級の武具を買い集める(そしてルークの店を裏から全力で護衛する)」という奇妙な常連客となるのだが、ルークがそれに気づくのはもう少し先の話である。
◆ ◆ ◆
一方その頃。
王都の目抜き通りにある、国営の最高級武具工房。
ルークを「ゴミ拾い」と蔑んで追放したSランクパーティ『暁の剣』の面々は、ずらりと並んだ新品の武具を前に、下品な笑い声を上げていた。
「素晴らしい……。見ろよこの剣の輝き。純度百パーセントのミスリル鋼で打たれた、王都最高峰の業物だ」
勇者ガイルは、白銀に輝く真新しい大剣を手に取り、恍惚とした表情を浮かべた。
「ええ、本当に素敵。あの薄汚いゴミ拾いが持ってきた、カビ臭いツギハギの杖なんて、思い出すだけで吐き気がするわ。この『星屑の魔杖』こそ、天才の私にふさわしいわね」
「俺の大盾も完璧だ。あの重たくて灰色のガラクタ盾とは大違いだぜ。これだけ軽くてピカピカなら、どんな攻撃でも弾き返せる」
魔法使いの女も、盾役の大男も、それぞれ新品の高級装備を身につけ、得意げにポーズを取った。
彼らは国から支給された莫大な報奨金をすべてつぎ込み、これらの一級品を買い揃えたのだ。
「よし。装備も完璧になったことだし、さっそく最難関のSランクダンジョン『黒竜の塒』へ向かうぞ。俺たちの真の実力と、この最高級装備があれば、あんなトカゲの化け物など瞬殺できるはずだ」
ガイルの号令に、パーティのメンバーたちは自信満々に頷いた。
彼らは完全に勘違いしていた。
これまで彼らが無双できていたのは、ルークが【概念復元】で直した武具のおかげである。
魔法使いが使っていた「カビ臭い杖」は、消費魔力をゼロにして威力を万倍にする【神話級:無限の叡智】であり、盾役が使っていた「灰色のガラクタ盾」は、あらゆる物理・魔法攻撃のダメージを完全に無効化する【神話級:絶対防壁】だった。
そして何より、ガイルが適当に振り回していた「刃こぼれだらけの剣」は、どんなに力任せに叩きつけても絶対に折れない【神話級:不壊】と【神話級:絶対切断】が付与された神造宝具だったのである。
そんな異常な恩恵に浸りきっていた彼らが、ただの「少し高価なだけの普通の武具」を手にした時、一体何が起こるのか。
その残酷な現実を、彼らはすぐに身をもって知ることとなる。
◆ ◆ ◆
Sランクダンジョン『黒竜の塒』最深部。
灼熱の溶岩が煮えたぎる広大な空洞で、ガイルたちは巨大な漆黒の竜と対峙していた。
全身を分厚い鋼のような鱗で覆い、口からは山を灰にするほどの業火を漏らす、災厄の化身。
「グルルルルォォォォッ!!」
「フン、図体がでかいだけのトカゲが。俺たちの新しい力の前にひれ伏すがいい!」
黒竜の咆哮を前にしても、ガイルは余裕の笑みを崩さなかった。
彼は新品のミスリル大剣を上段に構えると、ルークの剣を使っていた頃と全く同じように――いや、新しい武器を手にした興奮から、それ以上に力任せの、何の技術もない力みきった剣撃を放った。
「喰らえ! 俺の全力の一撃をォォッ!!」
ガイルは一直線に黒竜に突進し、その分厚い鱗に向かってミスリルの大剣を渾身の力で叩きつけた。
ガキィィィィィンッ!!!!
凄まじい金属音が洞窟に響き渡る。
ガイルは勝ち誇った笑みを浮かべた。これまでは、どんな強固な魔物の装甲も、この一撃でバターのように両断できていたのだ。
――しかし。
「…………え?」
ガイルの手から、ふっと重さが消えた。
彼の握っているミスリルの大剣は、黒竜の鱗に傷一つ、いや、浅い擦り傷すらつけることなく、根本からガラス細工のように無惨に粉砕されていたのだ。
砕け散った白銀の破片が、スローモーションのように宙を舞う。
「な、剣が……王都最高峰の、ミスリル鋼の剣が……折れた……!?」
ガイルは愕然と目を見開いた。
ミスリルは確かに硬い。しかし、彼のようなデタラメな力任せの素人剣術で、Sランク魔物の装甲に真正面から叩きつければ、反発力に耐えきれずに砕け散るのは物理法則として当然のことであった。
彼が今まで剣を折らずに済んでいたのは、ルークの渡した「ガラクタ(=神造宝具)」が持つ【不壊】の概念に守られていただけなのだ。
「ガイル! 何やってんのよ! 下がって、私の最強魔法で焼き尽くすわ!」
後ろに控えていた魔法使いの女が、新品の『星屑の魔杖』を高く掲げた。
彼女もまた、ルークの杖を使っていた頃の感覚で、自身の魔力を一切制御することなく、ダムを決壊させるかのような無茶苦茶な勢いで杖に魔力を流し込んだ。
「滅びなさい! 【極大殲滅の――っ!?】」
バヂィィィィンッ!!!!
呪文を詠唱し終える前に、彼女の手の中で新品の高級杖が耐えきれずに大爆発を起こした。
ルークの【無限の叡智】による魔力制御の恩恵を失った彼女のデタラメな魔力流出に、市販品の杖の強度が耐えられるはずがなかったのである。
「きゃあああああっ!?」
「お、おい! 嘘だろ!? なんだよこの欠陥品どもは!!」
杖が爆発し、黒焦げになって吹き飛ぶ魔法使いを見て、盾役の大男が狼狽した声を上げる。
その混乱を突くように、苛立った黒竜の巨大な尻尾が、盾役に向かって薙ぎ払われた。
「くそっ、俺のミスリルの大盾で――ゴブァッ!?」
大盾を構えた巨漢だったが、竜の一撃を受けた瞬間、その新品の盾は紙屑のようにぐしゃりとひしゃげ、彼自身も防具ごと軽々と吹き飛ばされて岩壁に激突した。
絶対防壁の加護を持たない盾など、黒竜の圧倒的な質量の前では木の葉のようなものでしかなかった。
「あ、ああ……」
開始わずか十秒。
新品の高級装備はすべてゴミ屑と化し、パーティは完全に崩壊した。
折れた柄だけを握りしめ、ガイルは腰を抜かしてへたり込んだ。目の前では、怒り狂った黒竜が、その巨大な顎を開いて灼熱の業火を溜め始めている。
「な、なぜだ……っ! 俺たちは無敵のSランクパーティのはずだぞ! なぜ、こんなにあっさりと……っ!」
真の絶望が、彼らを飲み込もうとしていた。
自分たちが「ゴミ拾い」と嘲笑し、切り捨てた青年こそが、彼らを無敵の存在に押し上げていた「唯一の神」であったという絶望的な現実に、彼らが気づくのはもう手遅れになってからのことである。
◆ ◆ ◆
王都の路地裏に、三つの人影が泥水にまみれて転がり出た。
「ガハッ……! ゲホッ、ゴホォッ!」
それは、勇者ガイルと、彼のパーティメンバーの無惨な姿であった。
黒竜の業火に焼かれる寸前、ガイルは全財産をはたいて買っていた【緊急帰還の魔石】を砕き、命からがら逃げ帰ってきたのだ。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
魔法使いの女は自らの杖の爆発で全身に重度の火傷を負い、意識を失っている。盾役の大男は両腕の骨を粉砕され、白目を剥いて泡を吹いていた。
ガイル自身も、自慢の金髪は半分焼け焦げ、新品のミスリル鎧はひしゃげて使い物にならなくなっていた。
「ああ……あああ……っ! 俺の、俺たちの栄光が……っ!」
ガイルは泥にまみれた地面を叩き、血の混じった涙を流した。
たった一度の敗北。しかし、それは彼らの冒険者としてのプライドも、全財産をつぎ込んだ装備も、すべてを失う完全な崩壊だった。
そして同時に、彼らは確信してしまった。
自分たちが今までSランクとして君臨できていたのは、ただ一人、あの「ゴミ拾い」と蔑んで追い出したルークのおかげだったのだと。
「……ルーク。そうだ、ルークのところへ行こう……!」
ガイルは虚ろな目で立ち上がり、ふらつく足取りで路地裏を歩き出した。
あいつが拾い集めた、あの「ガラクタ」。あれさえあれば、自分は再び無敵の勇者に戻れる。ルークに頭を下げて、少し金でも握らせてやれば、あの気弱な青年は喜んで俺たちの元へ戻ってくるはずだ。
そんな浅ましい希望にしがみつきながら、ガイルはルークが店を開いたという貧民街の最奥へと向かった。
◆ ◆ ◆
しかし、ガイルが辿り着いた『ルークの廃品屋』の周囲は、彼の想像を絶する異様な光景に包まれていた。
貧民街の汚い路地裏に、王家お抱えの近衛騎士団が隙間なく並び、完璧な警護陣形を敷いている。さらに、その奥には大貴族の馬車が何台も停まり、国を代表するような英雄たちが、ボロ屋の前に恭しく列を作っていたのだ。
「な、なんだこれは……!? おい、通せ! 俺は勇者のガイルだぞ! その店に用があるんだ!!」
ガイルは半狂乱になって騎士たちの列に突っ込もうとした。
だが、その首筋に、冷たく光る鋭い刃が突きつけられた。
「――騒ぐな、下賤の徒が。ここを『神造宝具』を生み出す至高の工房と知っての狼藉か?」
凛とした冷たい声。
見上げると、そこには王都最強の近衛騎士、セリアが立っていた。
彼女の手に握られているのは、見覚えのある古びた槍。かつてルークが「二層で拾った」と言っていた、刃こぼれだらけのガラクタの槍だ。
しかし今、その槍からは、天を貫くほどの凄まじい神気と雷光が溢れ出していた。
「そ、それは……ルークのガラクタ……! いや、ルークは俺の専属の荷物持ちだ! そいつを返せ、あいつを連れてこい!!」
ガイルの悲痛な叫喚に、セリアは心底蔑むような目を向けた。
「貴様が、ルーク殿を『ゴミ拾い』と呼んで追放した愚か者か。……自らの足元に転がっていた神の奇跡に気づかず、泥を塗った大馬鹿者が、どの面を下げてここへ来た?」
「な……っ!?」
「ルーク殿の生み出す宝具は、すでに我が王国の国宝として認定された。貴様のような薄汚い詐欺師が、二度と近づいていい御方ではない」
セリアから放たれる圧倒的な殺気に、ガイルは腰を抜かして地面にへたり込んだ。
その時、廃品屋の扉がのんびりと開いた。
「ん? セリアさん、外が騒がしいけどどうかした?」
エプロン姿のルークが、不思議そうに顔を出した。
ガイルは弾かれたように顔を上げ、地を這うようにしてルークに向かって手を伸ばした。
「ル、ルーク! 俺だ、ガイルだ! 悪かった、俺が間違っていた! お前の武器がないと、俺たちはもう……! だから、あの剣を、お前の直した剣をもう一度俺に……っ!」
なりふり構わず涙と鼻水を垂らしながら命乞いをする勇者。
しかし、ルークはその惨めな姿を見下ろし、困ったように眉を下げた。
「えっと……ガイル、だっけ? ごめん、お前が置いていったあのガラクタの剣、さっきそこのおじいさんに銅貨三枚で売っちゃったんだよね」
「…………は?」
「ほら、うちって廃品屋だから。一度捨てられたものは、次のお客さんに売るのが普通でしょ?」
ルークが指差した先では、王国最強と謳われる歴戦の老将軍が、ガイルがかつて使っていたあの『刃こぼれだらけの剣』を抱きしめ、感涙にむせんでいた。
「あ、あああ……っ! 俺の、俺の神話級があぁぁぁっ!!」
ガイルは絶望の底に突き落とされ、頭を抱えて慟哭した。
最大の宝を自ら手放し、絶対的な強者たちにそのすべてを奪われたのだ。もはや彼が冒険者として返り咲く道は、永遠に絶たれた。
ガイルは騎士たちによって引きずられるように路地裏から追放され、多額の借金と治療費を抱え、惨めな人生の残りを泥水の中で這いずるように生きていくこととなる。
◆ ◆ ◆
数ヶ月後。
「ルーク殿! 今日も素晴らしい武具をありがとうございます! これで我が国の防衛は盤石です!」
「いやあ、ただの廃品回収なんだけどね。喜んでもらえてよかったよ」
ルークの廃品屋は、今日も国中のVIPたちで大繁盛していた。
彼らが大金貨を積んで買い求めるのは、相変わらずルークが「適当にくっつけた」と思い込んでいる神造宝具の数々である。
最強の近衛騎士や老将軍たちに裏から絶対の庇護を受けながら、ルークは今日も、危険なダンジョン探索とは無縁の、のんびりとした廃品屋ライフを満喫している。
「さて、今日の分のガラクタも直し終わったし、夕飯にしようかな」
自分が生み出しているものが世界を凌駕する神の御業であることに、彼が気づく日は――おそらく、一生来ないだろう。




