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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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15/22

14:ローストビーフ

 昨日で一仕事終えたので、今日はゆっくりするつもりだったけど。ニュイが日本に遊びに行きたがるので、連れて行くことにした。まあ彼(彼女)なら、トラブルを起こして疲弊させられることもないだろうし。


「手伝ってくれたお礼も兼ねてだね」


 ガランドのヤツは、ブレイナーくん絡みでパンを買ってやったし、まあ良いだろう。というワケでニュイだけ連れて行くことにしたのだ。


「ちょっと……久しぶりの……日本」


 分かりにくいけど、高揚してるみたいだね。

 2人でゲートをくぐる。いつものビジネス街に到着。さてと、


「何を食べたい?」


「日本の料理……分からないから……任せる」

 

 そりゃそうだ。

 うーん、どうしたものかな。

 

「前と同じ……ラーメンでも……良いよ」


 健気なことを言ってくれる。けど折角だから違う物を食べさせてあげたいよね。


「取り敢えず歩いてみるか」


「うん……」


 自然に手を繋いでくるニュイ。

 そのまま通りを歩き始めるが……ちょっと目立つかなあ。ニュイは見た目は中学生くらいの美少女(美少年)で、俺が享年32歳だからな。親子は無理があるし、歳の離れた兄弟(兄妹)に見えてるんかね。


「今日……なんか……赤と白と緑」


 ああ、それは思った。ていうか、そうか。


「クリスマスイブだわ」


 数日前にネカフェで日時を確認したんだけど、そこから計算すると、ちょうど今日だ。

 ビジネス街はそうでもなかったけど、南の繁華街の通りには『クリスマスフェア』やら『クリスマスイブ限定』やらの文字が躍っているが見える。


「クリスマス……イブって……なに?」


「まあ、そうだなあ。恋人同士や、家族で過ごすイベント……かな」


 恋人や家族という概念が、恐らくは魔剣には無いと思うけど。人型フォルムをとれるようになる前、つまり俺と出会う前までも、人間社会は見てきたハズだから。


「なんとなく……分かる……誕生日みたいな感じ」


「ああ、近いかもね」


 家族の誰かの誕生日じゃなくて、彼(彼女)からしたら異界の現人神の誕生日だけど。


「ニュイの……家族……」


 繋がれた手に力がこもる。家族……か。俺も孤児だからな。血の繋がった家族って居ないんだよな。

 しんみりした空気になりかけたところで、ふとある物に目を奪われた。クソデカいクリスマスツリーだ。どこかの店の入り口横に立っているんだけど、コレが目立って仕方ない。ニュイも口を半開きにしていた。


「デカいな。天辺はどこだ」


 繁華街のメインストリートには屋根付きのドーム型アーチが架かっているんだけど……そこまで届けと言わんばかりだ。どうやって運び入れたんだろう。

 俺たちがボンヤリ見ている間にも、女性2人組がキャイキャイはしゃぎながら、ツリーの写真を撮って行った。ただ店に入ろうか検討する素振りもなかったので、集客に繋がってるのかは怪しいところ。


「ルイ……メニューが……出てる」


 ニュイがツリーの下、看板メニューを見つけたみたいだ。オシャレカフェの様相で、ラテアートやらパンケーキやらが並んでる。軽食もあるらしく、パスタやハンバーガーの写真も載っていた。

 その中でも、


「コレ……美味しそう……」


 ニュイが指さしたのは、『SNS映え必至! イブ&クリスマスの2日間限定! 彩りローストビーフサラダ』という文字。うわあ……自分でSNS映えとか書いちゃってるメニューって、なんか共感性羞恥が湧いてしまって苦手なんだよな。味が二の次のことも多いらしいし。


「……色が……キレイ」


 ローストビーフのピンクを軸に、トマトの赤やルッコラの緑、チーズの白が散りばめられている。クリスマスカラーで統一された1皿は確かに悪くなさそうに見えるな。少なくともニュイはかなり気に入ってる様子。女性の方が色彩感覚は豊かとも聞くし……ああ、いや。ニュイは性別不明だった。

 とにかく。


「じゃあコレにするか?」


「うん……!」


 決まりか。

 店は外から見る感じ、客入り5割~6割といったところ。シュトーレンの時のような、女性客に囲まれて食べるという羞恥プレイにもならなさそうだし。気軽にドアをくぐれる。


「いらっしゃいませ。2名ですか?」


 ちょっとダウナーな女性店員。淡々とテーブル席に通された。路面からは見えにくい場所なので落ち着けそうだ。

 

「ご注文、QRコードからお願いします」


 い!? コレはマズい。いつかそんな日が来るとは思ってたけど。


「あ、あの!」


「はい?」


「ちょっと今、スマホを修理に出してて……」


「は、はあ」


 一瞬、店員は対面のニュイを見た。オマエが修理出してても、そっちの子にオーダーしてもらえば良いだろう。そんな心の声が聞こえてきそうだ。何かツッコまれる前に、


「注文も決まってるんで……口頭でも良いですか?」


「あ、はい」


「それじゃあ、ローストビーフサラダを2つ」


「ローストビーフですね。単品でよろしいですか?」


 俺は慌ててラミネートされた紙メニューを取る。セットは……丸パンとコーンポタージュみたいだ。完全に私事だけど、コンポタも食べたい物リストに入ってるから、一石二鳥。それに、パンくらい食べないと飯食った気にならないだろうし……


「じゃあ、どっちもセットで」


「はい、ローストビーフセット2つですね」


 繰り返して去って行く。

 終始、機械のような調子で一度も笑わない店員だった。もしかして微妙に流行ってない原因は、接客にあるのかも知れない。まあ俺はそこまで愛想は求めない派だけど、冷たそうな印象は受けたし。


「2200えん? 高い……の?」


「いや、全然余裕だよ」


 ローストビーフが乗ってるとはいえ、サラダに2000円オーバーは高いなあというのが正直なところだけど。


「良かった……」


 小さく笑うニュイ。心配してくれてたみたいだ。やっぱ良い子だなあ。

 安心した彼女(彼)は、今度は店内をキョロキョロと見回す。メインストリートから見えるガラス張りと、ガラスが途切れて奥まった場所にある一画(俺たちが座ってるのもそこだ)、少ないながらカウンター席と、その向こうに広い調理場。ツリーだけじゃなく、店自体もかなりデカいようだ。


「ラーメン屋より……人間が……居ない」


「そうだね」


 映えメニューとかクリスマスツリーとか頑張ってる割には微妙すぎる客入りだ。クリスマスイブとはいえ、平日だし、社会人は来れないもんな。休みまで取ってガチクリスマスデートするなら、もう少し違う店をチョイスしそうな気もするし。かといって学生が来るには敷居が高い。

 なんというか、中途半端なんだろうな。


「前の店の方が良い?」


「……ルイが居るなら……どっちでも良い」


 嬉しいことを言ってくれる。兄性愛みたいなのをくすぐられるよね。


「あの人たちも……家族……?」


 言われて、店内に居る他の客の様子を見る。女子会が圧倒的に多いな。男性客は……俺以外は1人でハンバーガー食ってるサラリーマンのみ。いや、凄いな、あの人。左右を女子会に囲まれながら、4人掛けのテーブル席で黙々とハンバーガー食いながらノートPC弄ってる。


「女性の集団は……違うな。友達同士だ。多分」


 答えながら、更に見回すと……離れた場所のテーブル席に1組だけ家族連れが居た。若い夫婦と、2歳くらいの赤ちゃん。


「あそこは家族だね」


「クリスマスを……祝ってる?」


「うん」


 直接インタビューしたワケじゃないけど、まあ普通に休みを合わせてここに来てるんだろう。多分、幼児オーケーな店等々の条件面でチョイスしたんだろうな。


「お待たせしました。ローストビーフセットになります」


 声に振り向くと、いつの間にやら店員が料理を持って立っていた。そっとサーブされる。やっぱり淡々としてるなあ。

 

「ごゆっくりどうぞ」


 去って行く。と、その途中で。例の家族連れの客、そのテーブルから子供用スプーンが滑り落ちた。お父さんが取ろうと手を伸ばす、それよりも速く。店員が拾い上げて、


「新しい物、お持ちしますね」


 と。やっぱり抑揚のない声で告げていた。

 けど、あの機敏な動きからは、両親に負担を掛けないようにという優しさが見て取れた。

 ……淡々と表情を変えないせいで、不愛想に見られてしまう。

 思えば、昔はニュイもあんな感じだった気がする。


「なに……?」


「いや、なんでもない。食べよう」


 折角の出来立てだからな。

 改めて皿を見ると、ローストビーフサラダは本当に色合いを工夫しているなというのが分かる。赤、緑、白の調和がとても良い。下敷きにトマトソースも落ちているし、味が薄いってこともなさそうだ。


「まずはスープだな」


「うん……」


 俺が口をつけると、ニュイも倣う。ラーメンの時もそうだったけど、本当に雛鳥みたいだ。

 ああ、久しぶりに飲んだらコーンポタージュもやっぱ美味いな。甘くトロッとしたスープはとてもクリーミーで、喉越しも滑らか。体があったまるな。クルトンもサクサクとシットリの間くらい。このスープをちょっと吸ってるくらいの塩梅が好きなんだよな。


「甘い……あったかい……」


 ニュイも悪くないみたいだ。

 

「これにパンを浸して」


 言いながら、トプッと浸ける。そして頬張ると、うん、美味い。パンの断面からは小麦の香りがして、口中にはさっきのクルトンよりヒタヒタの食感。コーンの甘み、クリームの甘みが合わさり、完璧だ。

 ニュイも倣って、スープにディップしたパンを頬張る。少し嬉しそうに目を細めた。昼間のニュイは妖艶さより愛らしさが勝つね。


「さてと。いよいよ、ローストビーフか」


 カトラリーの中を探って、割り箸を取る。こういう店ではフォークを使うのがベターなのかも知れないけど、食いにくいからな。特に葉っぱ類は。

 遠慮なく箸でローストビーフを1枚キャッチする。ニュイも同じ動きをした。


「……あむ」


 同時に口に含む。噛むとスモークの香りと、肉の旨味が弾ける。そこにペッパーの塩辛さが混じった。内側の肉は柔らかく、外周はやや歯応えがある二層構造。噛めば噛むほど旨味が滲み出てくる。うーん、これは上質な肉を使ってそうだ。

 ……2200円だからな。


「美味しいか?」


「うん……パサパサかと思ったら……ジューシー」


 だよね。見た目は乾燥肉みたいだもんな。けど噛むと驚くほど肉感がする。美味いよね、ローストビーフ。

 続いては、チーズを乗せて、ルッコラも一緒に。


「うん」


 これもまた良きだ。チーズの酸味と、乳臭さ。それが口の中の温度で溶けて、ローストビーフに違った味わいとまろやかさを与えてくれる。ルッコラもシャキシャキで、香草のニオイがビーフとマッチする。


「これも……美味しい」


 パンも追加で口の中へ。旨味洪水中のところへ一緒に咀嚼する。当然、美味いよね。

 次の1口はトマトソースも絡めて。コレはチーズとルッコラに合うなあ。ピザっぽさもある。


「美味しいね……ロースト……ビーフ」


 頬を緩めて笑うニュイ。ご満足いただけたようだ。

 その後、俺たちはパンのおかわり(無料だった)も貰って、ペロリと平らげた。

 会計をして外へ出る。


「……ご馳走様……連れて来てくれて……ありがとう」


 欠かさずこういうこと言ってくれるの、マジで女子力高すぎるんだよなあ。

 

「美味しかった……美味しかった」


 繰り返すのが可愛らしい。

 

「ガランドとか……マチルダとか……一応サーシャとか……みんなにも食べさせてあげたかったな……」


 家族、と表現して良いのかは分からないけど。あの激闘を共に戦い抜いた絆は、確かにまだ続いているからな。

 ……ずっと1人ぼっちだったニュイ。俺も孤児だし、似たようなもの。


「来年は、みんなでクリスマスパーティーするか」


「パーティー……うん……それなら寂しくないね」


 そう言って、ニュイは今日もまた俺の腕にしがみついてくる。食事した後の帰りはこの形が定着しそうで嬉しいような、恥ずかしいような。

 まあなんにせよ、今年は温かいクリスマスになったな。

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