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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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13/18

12:エビフライ

 人間界の北側に広がる、とある大海。その海底には幻の大陸が存在するという。ダークアトラ。地球にも同じような都市伝説があったと思うけど、こっちの世界のはガチだ。しかも海底ダンジョンも保有しており、そこに挑む冒険者たちの恐怖エネルギーだけで、大陸に居る全魔族の生活を賄っている。

 要するに、独立国家の様相なワケだが……


「魔王様。ダークアトラの王、リヴァイア殿がお見えです」


 部下の中級魔族の言葉に、俺は軽くアゴを撫でる。

 そう。昨日、その幻の大陸の王様が急に使者をよこして、来訪の旨を伝えてきたんだよな。こっちとしても一応は友好関係ではあるから、無下にも出来なくて。まあ急遽の訪問を受け入れる形となった。

 

 もうあまり使わなくなった謁見の間で、クソデカ玉座にふんぞり返りながら、


「ああ、お通ししてくれ」


 入室の許可を出す。扉が開き、巨大な龍のような蛇のような生物が入ってきた。体長は3メートル近くあるだろうか。

 ズルズルと音を立てながら室内を進み、玉座の少し手前で止まった。


「やあ、ルイ殿。ご無沙汰している」


 リヴァイア氏は俺の傘下ではないので、タメ口だ。一定の敬意は払ってくれているが。


「ああ、久しぶりだね。リヴァイア殿」


 こちらもタメ口。まあ年齢で言えば、彼は300歳を超えてるらしいけど、ナメられたら終わりの世界だからね。

 世間話をするような空気でもないので、


「それで……本日はどのようなご用件かな?」


 単刀直入にいかせてもらう。


「ああ。実は折り入って頼みがあってな」


 面倒事の予感。


「ウチの海域、そこにどうも難破船が出たようでな」


「難破船……まさかその処理か? それくらい、そちらでどうとでも出来るのでは?」


「船体や、人間の死骸はな」


 言い方からして、より面倒なことが起きてるっぽい。それ以外となると……


「積み荷か?」


「ご名答。工業油を積んでいたらしくてな。全くロクなモンじゃない」


 なるほど。重油とかよりは全然マシだろうけど、まあ広義で言えば海洋汚染というヤツだな。海底の大陸にまで悪影響が出るほどではないだろうけど、生態系には何かしらあるかもな。


「それをウチの手勢で取り除いてくれということだな?」


 ダークアトラの連中も腕は立つけど、割と多様性は無いからな。魚人みたいなのばっかりだし。その点、ウチは色んな魔族の寄せ集めだから。当然、対処できそうなヤツの心当たりもある。

 リヴァイア氏は小さく頷いて、


「もちろん謝礼はする。30万フィアーでどうだろう?」


「中々の額だな」


 30万というと……上級ダンジョンから採れる1年分くらいだろうか。みんなに寸志くらいは配れそうだ。


「確約は出来ないけど、心当たりと交渉してみる」


「命令は出来ないのか?」


「うーん、ちょっとな」


 曖昧に答えると、リヴァイア氏は瞑目して息を吐いた。龍のようなフナのような顔なのに人間味があるよな。


「では、交渉が成功したなら直接ウチの海域に来てくれ。ダメなら文でも寄越して欲しい。他を当たるからな」


 腹を立てたワケではないだろうが、期待には沿えなかったという感じだな。向こうも、ホームに帰れば王だからな。そう気が長い方じゃないだろう。


 こっちとしても、いやはや本当に厄介事だな。30万は大きい額だし、欲しいのは間違いない。ただそれ以上に、この依頼を断る(ないし失敗する)デメリットが大きいんだよな。解決能力ナシと見なされれば、リヴァイア氏と同じような緩い同盟関係を結んでる連中からの信用を失う。

 仕方ない。もう少し踏み込んで話すか。


「暴食マチルダを起こそうと思ってるんだ」


 暴食マチルダ。岩でも布でも人でも、とにかくなんでも食ってしまう、とんでもない魔族だ。魔王軍四天王の一角を担っているが、今はその性質上、封印してある。それが彼女のためでもあるしな。


「名前くらいは聞いたことがあるか?」


「ああ。確か何でも食べてしまう……ああ、なるほど。油を飲ませるのか」


 1つ頷いて返して。


「封印を解くことになるんだけど……これが結構骨でね」


 四天王ほどの強大な力を持つ魔族を封じるのだから、かなり厳重にしてある。


「更には、解いた後もしんどい。理性はあるけど、食欲の方が遥かに強いからな。本人も止められないんだ」


 ある意味、可哀想なヤツなんだよな。


「コントロールできる確約が難しいから、先程の返事というワケか」


「理解してくれて助かる」


 リヴァイア氏も納得した様子で、さっきまでの「もういいよ。他当たるわ」という雰囲気は消えていた。取り敢えず安心だな。一旦はこっちに任せてくれるだろう。それくらい四天王のネームバリューは強力だ。


「時に……氏は美食家だと聞くが」


 話を変える。もう一押し。折角だから接待もしておこう。


「え? ああ。といっても我が海域で採れる物くらいしか食えないがな」


「魚介類か」


「然り」


「なら……この世の物とは思えない、いやまさに異世界のシーフード料理などは、興味無いだろうか」


 長いヒゲがピクリと動いた。目の色も変わる。美食家の噂は本当みたいだな。


「俺の居た世界、日本というんだが……とんでもない美食の国でな」


 喉がゴクリと鳴る音もした。


「見たことも無い料理を食べられると思うぞ」


「な、なるほど。やぶさかではないな」


 やぶさかとか、そんなレベルじゃないくらい、体は前のめりになってるけどな。


「1つだけ……人間の姿になってもらう必要があるが」


「む。余が人間ごときに化けねばならぬと?」


 やっぱりプライドを刺激してしまったみたいだ。


「まあ、そう言ってくれるな。俺も元は人間だし、そういう魔族も沢山居るだろう」


「それは……そうだが」


「それに恐らく氏が考えるような人間とはかなり違うぞ。教養があり、民度が高い。高度な技術を扱い、ウチの四天王たちも絶賛するほどに発展した社会を築いている」


「なんと、四天王が」


 ここでもネームバリューが効いたな。加えて、その四天王も人の姿を模したという事実が、かなり彼の心理的抵抗を取り除いたようだ。

 ていうか、新米の魔王より、古参の四天王連中の方が外の魔族たちに影響力あるの辛い。

 ……まあそれは今は置いておこう。


「それじゃあ、俺の世界にご招待するよ」


 というワケで、取引先の社長さんを自室へ連れ、ゲートを跨いだ。彼は最後まで人間への擬態を渋ったけど、なんとかやってくれた。青い瞳に青い髪をした青年の姿なので、ちょっと目立つけど。まあ観光客だと思って誰も気にしないだろう。


 そしていつものビジネス街へと降り立った。時刻の方は、12時40分。ランチ2周目の客たちが食ってる最中くらいかな。3周目に入りたいところだが。


「……リヴァイア殿?」


「あ、ああ……圧倒されていた」


 口をポカンと開けながらも、目は忙しなく動いている。


「余の世界の人間たちは、土人だったのだな」


「まあこっちも、大昔は土人だったんだけどな。そこから科学技術を発展させて、このような文明を築いたんだ」


「なるほど。これほどの街を作れる知能のある人間たちならば……ルイ殿の言うように、凄まじい飯を作りそうだな」


 今や、完全に人間への蔑視は影を潜め、逆に期待を勝ち得ているようだ。

 俺は首肯して、


「リヴァイア殿は何が食べたい気分だ?」


 と、問うと。


「もちろん魚介だが……磯の香りが遠い。本当に食えるのか?」


「ああ、大丈夫だ。鮮度もバッチリだしな」


 本当かと疑わしげに眉を寄せながらも、


「……では、エビを。余はエビが最も好きなのだ」


「了解した。それなら……近くに洋食の有名店があるな」


 グルメサイト独自のアワードも獲っている。この時間でも並ぶかも知れんが……まあ行ってみよう。


「ついて来てくれ」


 テクテクと歩いて5分ほど。お、ラッキー。外待ちはナシだ。

 店の木扉を開ける。エプロン姿の女性店員がすぐに気付いて、笑顔を向けてくれた。


「いらっしゃいませ。2名様ですか?」


「はい」


「カウンターでも大丈夫ですか?」


「あ、良いですよ」


 むしろ、2人掛けテーブルでガッツリ向き合うパターンより良いかも。そんなに気安い間柄ではないからな。

 並んでカウンターに座る。物珍しそうにキョロキョロするリヴァイア氏に、


「俺のお任せで良いか?」


「構わないが……やはり魚のニオイなど、ほとんどしないぞ? 本当にこの店で合ってるのか?」


 怪訝そうに眉根を寄せるが、俺は肩をすくめるだけ。まあ、見てなって。


「すいません。有頭エビフライ定食を2つ」


「はい。エビフライ2つですね」


 カウンター越しに店員さんが復唱。すぐに調理担当らしき男性が準備を始める。白い粉にまみれた大エビだ。

 それを見て、リヴァイア氏が目の色を変える。


「もしかして、アレがエビか!? ウチの海域に住んでる物とは大きさが違うぞ!」


 ちょっとうるさい。

 まあ仕方ないか。ダークアトラの海は水温が低いから、富山の白エビみたいなのが多いと聞いた覚えがある。あそこまで育ったのは初めて見るんだろう。


 リヴァイア氏はギラギラした瞳で、フライヤーに投じられたエビを見つめている。フライヤーの横では、店主が手際よくサラダなどを皿に盛り付けていた。


 ――ピピピピ


 電子音が響いた。揚げ終わったか? と思ったら、少し待っている。基本の秒数の後の、恐らく長年の経験が成せる微調整だろうな。エビの大きさや、その日の気温などで変えてるんだと思う。

 やがて箸で摘んでパッと取り出した。油切りをして、皿に盛り付ける。4本。俺たちの分だ。期せずライブキッチンのようになったおかけで、リヴァイア氏は目をキラキラさせながら見つめている。


「はい。エビフライ2」


 店主が小さく言うと、ホールのお姉さんが両手に持って、キッチンを出る。そして俺たちの下へ。


「お待たせしました。有頭エビフライ定食です」


 コトンコトンと置いてくれる。


「ライスとスープ、すぐお持ちしますね」


 という声も、海王の耳には届いていないだろう。目が釘付けだ。

 かぶりつきそうなのを制して、ライスとスープの到着を待つ。そして。


「いただきます」


 俺は頭と尻尾は食べない派なので、ナイフとフォークで切り離す。それでも十分なサイズだ。更に身の部分を切り分けて、1口。

 衣がシャクッと鳴る小気味よい歯応え。そしてその後にプリッと弾けるエビの身と、特有の甘み。そこに僅かな塩気も混じって……メッチャ美味い。次の1口はタルタルもつける。自家製のようで、卵の白身がゴロゴロ。タマネギの粒々感も良い感じだ。


「……」


 氏もナイフとフォークを扱い、エビフライを半分に切った。そして尻尾のついている方を丸々いった。


「っ!?」


 途端、彼は目を見開いた。驚きに固まった瞳が、零れ落ちそうなくらいだ。相当な衝撃を受けているらしい。言葉が出てこない。ただ咀嚼を続け、嚥下。そのままフォークでご飯をガバッといった。

 威厳に満ちた海王の姿はどこにもなく。もはやリスのように頬をパンパンにして食べている。それも飲み込むと、続いてタルタルソースをたっぷりつけて、頭の方もガブッといった。


「~~~!」


 目を閉じて、悶絶し始める。タルタルが効いたか、エビ味噌が美味かったか。

 たっぷり咀嚼して飲み込んだ。

 続いて彼は少しだけ千切りキャベツを食べ……物足りなかったのか、それにもタルタルをつけてモシャモシャいく。


「あまりそこで使いすぎると、エビフライ用のが無くなるぞ」


 助言してやると、ピタリと止めた。素直すぎて少し笑ってしまう。リヴァイア氏はスープをズズズと飲んで、もう1本のエビフライに取り掛かった。次は5等分くらいにしているのが可笑しい。


「な、なんだ」


 少し赤い顔で睨んでくるので、「別に」と返しておく。まあ気持ちは分かる。最後の1本はチビチビ味わって食いたいもんな。

 それから俺たちは黙々と食事を進め、無事に完食した。リヴァイア氏はラスト1口を相当渋りながら食べてたけどな。


 会計をして外へ出ると、行列が出来ていた。俺たちはタイミングが良かったみたいだな。

 リヴァイア氏は、数歩歩き出して、ようやく口を開いた。


「とんでもなかった」


 ポツンと言った後、


「あんなにデカいエビが居るとは。そしてそれを粉? で揚げた料理があんなに美味いとは。プリッと弾けてジュワッと汁が出てきて。あのソースは何だ? 誰が考えたんだ? ウチの参謀に引き入れたい。いや、そうだ。あの店の料理人をスカウトしてこよう。毎日、あのエビフライを」


 怒涛の賞賛。までは良いけど、本当に店に戻ろうとするので慌てて腕を掴んだ。


「落ち着け。無理に決まってるだろ」


「しかし」


 言いかけて、自分が無理難題を言っている自覚が生まれたのか、首を横に振った。落ち着いてくれたみたいだな。

 半ば彼を引きずるようにしてゲートをくぐり、魔王城の私室へと帰還。


「ああ、しょうもない景色に戻ってしまった」


「人の部屋になんてこと言うんだ」


 まあ日本から比べれば殺風景なのは否めないけど。


「……ルイ殿」


「なんだ」


「例の件だが、期限は2週間ほど延ばしても良い」


 変わりようヤバいな。半ギレで「ダメそうなら他を当たる」と言っていたのは何だったのか。

 ……日本食接待、使えるな。

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