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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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12/14

11:肉野菜炒め

 日本への飯遠征も10日目を過ぎたということで、食べたい物リストを整理する。クリアを示す『×』がついているのが……現状で10個。シュトーレンは選外だったけど、トンカツ屋で味噌汁を飲めた(海鮮丼についていた赤出汁も)ので『味噌汁』にも『×』をつけられた。


「仲間も何人か連れて行くようになったし……複数人で食べるのが向いてる食べ物は後回しだな」


 鍋とか、ピザとか。


「今日はソロの予定だし、孤食に向いてる料理をチョイスするか」


 蕎麦か牛丼か。ハンバーガーあたりも……いや、違うな。野菜が足りてない気がする。ここまで、ほとんど肉か魚か麺、あるいはパン。やっぱ、摂れてないな。


「野菜炒め、行っとくか」


 となると中華屋か。昨日も麻婆豆腐だったけど……まあいっか。全然別物だもんな。ていうか、完全に野菜炒めの口になっちゃってるし。


「よし、それじゃあ行きますか」


 ゲートを発動し、飛び込む。ビジネス街へと降り立った。目星はつけている。既に地図で確認済みの中華チェーン店。何度か近くも通ってるし、迷うこともないだろう。

 だが、その前に。とある目的のため、ネカフェへと入った。2回目の来店だ。以前と同じく、受付に催眠魔法を使わせてもらって不正入店を果たし、個室へ。


「ふう」


 PCを立ち上げ、『突然現れるマネキン』とか『マネキン撥ねた』とか色々な単語で検索してみるが……関係の無い記事やゲームの敵キャラなどが出てくるのみ。

 うん、アレから2日経って広まってないのなら大丈夫だろう。


「ルーマーコンダクターが噂の芽を感知したって言ってたけど」


 どうやら芽は育たなかったということで。このまま風化コースだな。

 

 続いて、近辺の美味い店をチェック。グルメサイトの評判の良い店や、SNSで話題になっている店(バエ重視っぽいのは除く)の中からいくつかリストアップした。

 手持ちの地図に赤ペンで書き込んでいく。マジでアナログだよなあ。スマホ欲しい。


「お、ちょうど良い時間か」


 PCの画面右下、12時51分と出ている。12時30分に来て、調べもので20分ほど。ちょうどランチタイムの終わりを狙えるという寸法だ。


「相変わらず、ちょっと勿体ないけど」


 1時間料金を払うからね。

 まあケチケチせずとも400万円あるからな。意気揚々とネカフェを後にして、駅前にある『餃子の王朝』に向かう。

 だが……そこには行列が出来ていた。


「え……マジか」


 13時回るぞ。みんな会社は良いのか。まあ全員が勤め人って感じではないし、そもそも昼休憩がシフト制の所もあるけども。


「凄い人だよなあ」

「テレビの力って、なんだかんだまだまだ強いんだな」


 行列に近寄って行くと、最後尾の2人組がそんな話をしていた。20代後半くらいの、優しそうな兄ちゃんたち。ちょっと勇気を持って話し掛けてみるか。


「……凄い混んでますね」


「え?」


 一瞬、虚を突かれた感じの2人組。やっぱマズったか。変な空気になって、「いや、分かんないっすね」みたいに冷たくあしらわれたら……


「ああ、ですよねえ」

「俺らもビックリしてて」


 良かった。メッチャ、ホッとする。勇者の手勢から防衛ラインを死守したと報告が上がった時くらいホッとしてる。


「なんかね、ここの王朝、美味しいんですよ」

「ランチ激戦区だから、有名チェーンでも手抜いたらイカれるんで」


 なるほど。道理だ。感心して頷くと、


「で、チェーンなのに味が違うってSNSでバズりだして」

「それをテレビが取り上げたらしくって」


「ああ、それで……」


 よくあるパターンだな。


「まあそのうち収まりますけどね」

「一過性っすから」


「あはは。でもその間、常連さんは堪らないですよね」


「本当それっす!」

「時間ズラして休憩取ったのに意味なくなりました」


 会話が弾む。行列という共通の敵が居るのも、大きいんだろうな。

 ……なんか良いなあ。ちゃんと日本の常識が通じる人との会話も5年ぶりだもんな。


「俺ら、別の所行こうかなって」

「うん。ここの油淋鶏が食いたかったけど、まあ別でも美味い所あるし」


 流石はランチ激戦区。そしてこの近辺に勤めてるサラリーマンは、色んな店をご存知で。

 ……ん、待てよ。だったら。


「そうなんですねえ。僕、出張で来ただけなんで、ここら辺は疎くて」


 出張(魔界から)。


「取り敢えず外れないだろうチェーンに来たんですが……」


「あはは」

「ツイてないですね」


 笑ってくれる。


「野菜炒めが急に食いたくなったんですけどねえ」


 チラッ。


「へえ。野菜炒めだったら、あそこだよな」

「うん。佐竹飯店だろ」


 やった。やっぱり知ってたか、美味い店。


「お、美味しいんですか?」


「はい。生姜と背脂がガツンと効いてるんです」

「結構ここからも近いっすよ」


 言いながら、お兄さんAがスマホで地図を出してくれる。うん、メッチャ親切。あったかい気持ちになった。

 

「今がここですから……」


「あ、本当ですね。西にちょっと進んだ所か」


 全然、徒歩圏内だ。こっそり瞬間記憶魔法を使って、脳内フィルムに収めておく。


「汚い街中華ですけど、味は良いですよ」


「ありがとうございます」


 お兄さんたちは違う店の油淋鶏に当たりをつけてるらしく、その場で別れたけど。土地勘の無い俺が1人で行けるか、最後まで心配してくれてた。本当、メッチャ良い人たちだったな。心がピョンピョンする。


 足取りも軽く、目的地へと移動する。迷わずに到着した。

 褪せた赤色の暖簾が掛かった古い木造建築。暖簾には『佐竹飯店』と書いてある。うん、間違いなさそうだな。待ちは居ないようなので、そのまま引き戸を開けて入る。建付けが悪くなってるのか、少し引っ掛かるような感じがあった。

 中もだいぶ古そうだな。床はネチャネチャと靴裏を引っ張ってくるし、テーブルの上の辣油ビンも透明感が無く濁ってる。


「いらっしゃいませー」


 おばちゃん、いやお婆ちゃんと言った方が良さそうな年頃の店員さんがやって来た。カウンターの奥、大将の方は何も言わない。ああ、これは……愛想の良い奥さんと、頑固な親父の夫婦二人三脚パターンか。これもありがちというか、昭和の古き良き感じ。


「お好きな席どうぞー」


 とは言われても。カウンターは全然片付いてないし、テーブルも何個かは食べ終わった食器が置かれっぱなしだ。ランチの激戦の跡だな。まあ繁盛してるようで何よりだけど、座る所が無いな。


「ああ、すいません。すぐ片付けますね」


 お婆ちゃんが2人掛けテーブルの上の食器を下げてくれた。布巾でキレイにして、やっと着席。テーブルも若干ネチャッとしてんなあ。

 テーブルの脇に小さなスタンドと、ラミネート紙1枚のメニュー。手に取ると、文字列だけが並ぶ。写真もナシの無骨なヤツだ。


「ええっと」


 ラーメンが650円に、ヤキメシ600円……全体的にヤバいくらい安い。

 目で追っていくと、中段くらいに『肉野菜炒め定食:650円』の文字が。やっぱ安いなあ。色々と大丈夫なのか。

 まあコレを食いに来たんだから、頼むけども。


「すいませーん」


「はーい」


「肉野菜炒め定食を」


「肉野菜ですね。肉野菜一丁」


「……聞こえてるよ」


 なんとも気の抜ける夫婦の会話。大将も思ったより堅物ではないのかも知れない。

 早速、調理が始まる。カット済みの野菜を中華鍋に放り込むのが遠目にも見えた。


 ――ガコン、ガコン


 中華鍋を振るう、あの独特の音が響く。その間にも、先に食ってた客たちが会計をして帰って行く。世間話もなく、「ご馳走さん」とだけ。うん、まさにオッサンのオアシスだな。

 最後の客と入れ替わりで2人連れが入ってきた。この調子だと、常にノーゲスにはならないんだろうな。

 と、そこで。俺の料理があがったみたいで、お婆ちゃん店員が持って来てくれる。


 お盆から、ご飯と中華スープ、野菜炒めがサーブされた。おお、野菜炒めは思った以上のボリュームだな。豚コマ肉がゴロゴロ入ってるし、野菜もこんもりだ。


「いただきます」


「はい、どうぞ」


 返事があるとは思わず、少し驚いたけど。お婆ちゃんの優しい笑顔を見て、ホッコリした。

 割り箸を割って、まずは中華スープを混ぜる。1口飲むと、鶏ガラの効いた濃いめの味付け。昨日の中華料理屋で飲んだのよりパンチがある。まあ、あっちは麻婆豆腐が強烈だったから、スープは逆に優しくしてるんだろうけど。


「さてと」


 メインの野菜炒めに箸を突っ込む。黒っぽいソースなので、恐らくは醤油ベースなんだろうけど。

 キャベツと薄切りニンジンを一緒に摘まんで口の中へ。


「ん」


 醤油のガツンとした味に、少し生姜の香りが効いている。更に、このコクは……こっちにも鶏ガラスープを使ってるのか? これは美味い。単純な味ではなく、ラーメンのスープみもある。

 肉をいただく。よく染みてる。醤油と生姜、野菜のエキスも移ってるね。深い。


「っ」


 堪らず白米。こちらは、ふんわり加減で炊かれてる。よく合うな。米から出る甘みも加わって、口の中に複雑な旨味が広がり続ける。

 

「こっちは……」


 皿の端の方に、軽く盛られているのは……おろしニンニクかと思ったら、背脂だ。箸で1摘まみ。ソースに溶かしてみる。そしてモヤシと一緒にいただく。おお、ラーメンじゃん、これ。ソースにまろやかさが増し、脂のモッタリ感が口中に残る。それをモヤシの水分とシャキシャキ感で中和しながら嚥下すると……美味え。こりゃ良いな。


 ただの野菜炒め。されど凝れば、道か。あの大将の長年の試行錯誤の末の、1皿なんだろう。ソースの配分も、そして背脂を混ぜて味変させるアイデアも。

 正直、侮ってたわ。安いから人気なのかと、一瞬でも疑ったのが申し訳なくなる。安くて美味いんだ。

 ……流石は近隣サラリーマンのオススメ。外さんなあ。


「すいません。ヤキメシと餃子」

「私はチャンポンとチューリップで」


 後から入って来ていたオッサン2人組もオーダーが決まったみたいだけど、見事にバラバラ。

 初来店という感じじゃないし……それでこのバラけよう。多分、メニュー全部それなり以上に美味いんだろうな。俺もここら辺に勤めてるなら、通いたいレベルだ。


 その後、7分ほどで肉野菜炒めを平らげた。美味かった。味変の背脂に、卓上の酢なんかも使いながら、全く飽きないままの完食だった。腹一杯だ。


「すいません、お会計」


 言いながら、財布から100円玉を7枚取り出す。


「はい。650円ですね」


 お婆ちゃん店員に手渡す。チャリチャリと確認して、50円のおつりをくれる。


「お腹一杯になりましたか?」


「え? あ、はい。美味しかったし、量も凄かったです」


 そう答えると、お婆ちゃんはクシャッと笑った。

 このご時世に、この値段で頑張ってる。間違いなく、原動力は「お客さんに美味いものを安く食べさせてあげたい」という善意だろうな。

 気付けば、


「また来ます」


 そんなことを言っていた。

 お婆ちゃんは笑みを濃くしてくれた。


 外に出ると、白い息を吐いた。寒いけど、心はポカポカだ。人の繋がりが希薄になったと言われる日本だけど。まだまだ息づいている所はあるな。

 優しいサラリーマン然り。この人情街中華然り。


 俺も改めて周囲に優しくするよう、心がけたいな。サーシャ以外。

 そんなことを思いながら、ゲートを起動した。

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