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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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1/10

0:プロローグ

 長かった。本当に長かった。


 5年前に突然死し、異世界転生したは良いけど、転生先はまさかの魔王。しがないサラリーマンだった俺が魔界の長たる重責をいきなり背負わされることとなった。しかも勇者の出現と先代魔王の死去が重なった、混迷極める状況下に放り込まれたワケだから、我ながらよく生き残れたモンだと感心する。

 まあ運が良かったのと、部下に恵まれたよな。


 そんなこんなで、悪戦苦闘の末、魔界に平和をもたらすことが出来たワケだが。途端、ホームシックに襲われた。わけても日本食が強烈に食べたくなってしまった。戦時はそんなこと言ってられないから封印してたけど……ぽっかり時間が空いて好きなことが出来るようになってしまうとね。

 ちなみに転生した時に体が魔族仕様に生まれ変わってたので、実際は食物から栄養を摂らないでも問題なくなってたんだけど。俺はやっぱり意識は日本人だから、美食の喜びというものに焦がれて仕方ないようだ。


「特に、こっちの飯は終わってるからな」


 そもそも魔族の主な栄養源は食物とは別にあるため、調理技術も食材への研究もほぼ存在しない。たまに気まぐれを起こして黒トカゲを焼いて食べてみるとか、そんなレベルだ。

 つい口寂しくなって、食べられそうな素材を齧ってみたことは何度もあるけど、全部マズい。調味料も無いから誤魔化しようもないし。

 

 俺は早々に、この世界での食は諦めた。そして日本へと繋がるゲート魔法の開発に着手した。自分で言うのもアレだけど、流石は魔王。3ヶ月くらいで出来てしまった。ただこの時点で、転生から5年半くらいが経過してしまってる計算で。


「長かった。本当に長かった」


 という感慨が、何度も湧き上がってしまうのだ。


 ただ、その忍耐も今日で終わりだ。

 たった今、俺特製のゲート魔法が完成した。理論上、俺の総魔力の5分の3ほどを1時間で消費してしまうので、かなり限定的な使い方になるだろうが。


「向こうに存在を定着させられれば一番なんだけど」


 そこまで大胆に因果律を捻じ曲げるには、今の魔力量では無理だ。それこそ俺を転生させてくれた女神的な上位存在にまで至らないと。俺は強いけど、この世界の中での話。世界そのものを幾つも管理するような存在に比べればハナクソみたいなモンだからな。


「でも良いんだ」


 1時間あれば、飯が食える。フレンチのコースとかは無理だけど、ファストフード系とかは余裕だ。ファストフード……ハンバーガー食いてえなあ。でも5年ぶりにソースドバドバの濃い味をいきなりブチ込んだら、胃がビックリして痙攣を起こすかも知れない。

 となると、やっぱ優しい和食から慣らしていくか……


「っとと」


 考えるのは、ゲート魔法が成功してからだな。

 俺は魔法陣の中へと足を踏み入れる。冷たい石の床の上に、純潔の乙女の血で描いた五芒星。その中心には魔界杉で彫った日本列島の小型模型。ここに俺の魔力を流し込めば、魔法は発動し日本へのゲートが開く……ハズ。


「……っ!」


 やったった。これで後には引けない。失敗して変な所に出たら? 女神的な上位存在に目を付けられたら? 色んな不安を一気に置き去りにする。リスクは百も承知。それでも俺は、美味い飯が食いたいんだ。


「頼む!」


 目の前に黒鉄の門が現れた。紫のオーラを纏った禍々しい見た目のそれが、ゆっくりと開く。中には虹色の渦が巻いていた。

 目を瞑って飛び込んだ。魔王になろうが、怖いモンは怖いのだ。


 前後左右が曖昧になるような浮遊感と、耳鳴りがするほどの静寂。恐る恐る目を開けると、真っ暗闇だった。

 失敗か? と背筋が冷えたその時。


「っ!?」


 暗闇の中に光の小窓が現れた。きっとアレだ。俺は手繰り寄せるように、あるいは自分から突っ込むように。とにかく、その小窓へと近づいた。すると、そのまま俺の体は光の中へ飛び込んで……


「あ」


 浮遊感が収まり、足は地面を固く踏みしめていた。そして目の前に広がるのは、夢にまで見た日本の光景。どこかのビジネス街だろう。ガラス張りのオフィスに、スーツ姿のサラリーマン。タクシーが目の前を徐行で通り過ぎていく。


「ああ……ああ……」


 意味のある言葉が口から出てこない。

 日本だ。間違いなく日本だ。


「う、けほっ、けほっ」


 排気ガスのニオイ。こんなに臭かったんだな。俺が上位存在となったから嗅覚が鋭敏になったのか、5年ぶりだからかは分からないけど。

 ただそんな悪臭すら、愛おしく思える。やっぱり俺の故郷はここなんだな。


「うう」


 泣きそうだ。ていうか叫び出したい。

 帰って来た。本当に帰って来れた。1時間限定だろうが、なんだろうが。


「…………よし」


 感傷も良いけど、1時間しかないんだから、目的を果たさないと。

 俺は早速、ビジネス街を見渡した。沢山の飲食店が、『ランチ営業中』の幟を出している。

 この選り取り見取りで目移りしてしまう感覚も久しく味わってなかったもの。

 さて、何を食べようか。

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