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降り立つ魔剣士 後編

 授業は短縮され、何と午前中で終わってしまった。チャイムがカンカンとなり僕はランドセルを背負いキョロキョロと鈴木くんを探して教室を眺めていると肩に手が置かれる。馴れ馴れしい鈴木君だ。

「よし、帰ろうぜ。」

軽く頷くと鈴木くんは僕を追い抜かし教室から振り返りもせず走り出した。僕は必死に上履きを打ち鳴らして彼を追う。見る見るうちに遠くなる彼の背へ、

「鈴木君、君の家の場所を知らないんだ、だから先に行かないでくれよ。」

息を切らし僕は語りかけたがより一層彼は速く走った。廊下を駆け抜け階段を一段飛ばしで駆け下り昇降口へたどり着く。下駄箱先の石畳に鈴木くんは立っており、こちらをジッと待っているようだ。大急ぎで靴を履き替えた僕は鈴木くんへ駆け寄ると。

「鈴木君。焦ったよ、君の家を知らないから置いていかないで欲しいよ。」

「まあまあ、折角早く帰れるから気がせいてしまって。もう走らないよ。お前はへばっているみたいだし。」

鈴木くんの言に「助かるよ。」と息も絶え絶えに答えた僕は彼の背につき、彼の家を目指した。彼の家は商店街を抜けた一画にあり、庭にはパンジーやチューリップそれから琵琶の木が植わり華やかだった。

「綺麗な庭だね。」

鈴木くんの背に語りかけると、彼は憮然とした表情で僕に振り返ると。

「そこかよ、商店街の通りを見ただろう?床のレンガが所々小さく砕けて俺の家を通り過ぎていたんだ。」


そうだったの。

きょとんと辺りを見渡した僕へ呆れた彼は乱暴に玄関を開けると僕を招き入れた。

「お入り。二階に俺の部屋がある。とっておきを見せてやるよ。」

招かれるままに家に入ると薔薇の香りが漂う。お邪魔しますと立派な上がりかまちを踏んで長細い廊下を歩く。こっちだと靴下を放り投げた鈴木くんが僕を先導して廊下をずんずん進むと階段が見えてくる。階段には手すりが無くやたらと長い。ぐらつく身体を抑え二階へ辿り着くとようやく彼の部屋の扉が見えてくる。


緑のプレートに黒く友也と書かれている。引き戸を引くと中には地図が貼り付けられた大きなコルクボードと雑誌のスクラップや胡散臭い本がギッシリと詰まった大きな本棚と勉強机にベッドが部屋に置かれていた。机の側には小さな電気ケトルが置かれ彼がこの部屋で過ごす時間の長さを物語っているようだ。

鈴木くんは「先ずはこれを見てくれ。」と言い机の上に立つデスクトップのスリープを手慣れた指で解除し今朝みた画像の動画を再生した。


動画の内容は黒い大柄な怪物がコンビニへ飛び込むとことから始まる。ブックラックを突き崩し即席麺の棚を叩き割り倒れる。起き上がると片腕がぶれ周囲の店員や客が倒れ伏し怪物は外へ出た。動画は以上になる。


「興味深いね。何で彼らは倒れたんだろう?」

手のひらを柏手のように打った鈴木くんは画面を再生する。画像は最後の怪物が店を出る瞬間で止まる。

「毒だろ?そんなことより見てくれ。このコンビニは崩落が起きた地点から3ブロック離れた所にある。そして此奴は。」

鈴木くんの指が怪物の顔を指す。

「崩落現場を見ている。関係が無いとは言えない。こっちのボードを見てくれ。」

彼はコルクボードを指差すとボード上の地図に赤色と青色ピンが幾つも刺さっている。

「この赤いピンは警察がテープを貼っていた場所でこの沢山有る青色のピンは砕けた地面だ。警察の現場検証で入れなかったけど。これらは何処かへ向かっている。そして毒、この道。」

「浄水場に毒を?ただ、この途切れ方だとなんとも言えないね。どっちも途切れている。化学工場もあるよ?」

彼は鼻を啜りパタパタとデスクトップパソコンへ駆け寄るとブログのスクリーンショットを僕へ見せた。スクリーンショットには白い怪物が目の前に現れて直ぐに消えたと書かれていた。


「これがくせ者だよ。黒いのと白いのが何をしていたのか。解っていることは黒いのには毒ガスかそれに近い猛毒の武器があることだよ。他は想像で補うしかない。」

「何で毒ガスだと?」

僕の疑問に画面は先程の動画を写し店員達が苦しみ始めた所で止まる。彼らは手をばたつかせたり喉を押さえたりしている。倒れる前には唇を触っている人も居たが、皆一様に口を鯉のようにヒクつかせて必死に呼吸をしているようだ。

「溺れている?」

「多分だけど刺激性のガスだ、まぜるな危険ってやつだ。そんなものを大量に出せたら?それもドアが開いた店内で人を瞬殺できるレベルのものだったら?」

「目標は決まってた?」

「どうかな?他に目的はあったのかも。崩落現場は浄水場からかなり遠いし、崩落があった道路から1 km地点で約148人の大量虐殺が起きたらしいし。此処から毒殺轢殺何でもござれの殺戮が始まった。俺たちが商店街に入った5ブロック離れた大通りから大体200 m先でね。」

鈴木くんはまたコルクボードの赤いピンを両手の人差し指で差す。2本の指はそれぞれ大通りと商店街を抜け浄水場へ向かい先に商店街から抜けた指が辿り着く。

「きっと時系列はこうだ。黒い化け物が崩落地点から何かに飛ばされる。黒い化け物は大通りを真っ直ぐ殺人的な速さで浄水場へ向かって移動し、白い化け物か他にいた何かは商店街を通り抜け。先に浄水場へ向かって後からついた。黒い化け物を待ち伏せして。」

2本の指が踊りだらんと垂れる。鈴木くんが僕を見る。

「二体あるいはそれ以上の怪物は消えた。黒い化け物は殺害されたのかも。この結論に至ったから俺は商店街から続く跡を追うのを止めた。死にたくないからな。」

僕はシャイン・ガイザーと彼が戦った相手の冷酷さを恐れたが、あの鎧に付いた傷跡を思い出し納得もした。シャイン・ガイザーもこの怪物も命がけで戦っていたんだ。


僕は自分の役目が解った。僕はシャイン・ガイザーを助けて、この恐ろしい悲劇を抑えるんだ。世界だけじゃ無い、こんなに苦しんで殺される事があってたまるか。シャイン・ガイザーが世界を救うのであれば、僕はシャイン・ガイザーを含めた皆を救おう。

「鈴木くん、ありがとう。楽しかったよ。」

「えーもう行くのかよ。まあいいや、楽しかったよ。何も出さなくてごめん、今度はジュースを出すよ。」

片手をあげて僕は彼の部屋を後にした。


 剣鋭き魔剣士サオロスは一人荒野を歩き、ひときわ大きく聳え立つ岩壁を辿り切り立った峡谷へ進む。具足の乾いた音は峡谷をこだまし斜陽の魔界を寂しく揺らす。足跡を幾分か地へ残すと彼は己のすみかへたどり着いた。辺りには魔界で作られた磨き上げられた見事な盾、宝石のような緑色の大弓、銀に輝き青色の美しい線が水面のように胸回りを飾る胴鎧等が転がる。

「魔界一の武具作りの達人バロムよ、これらに並ぶ武具はどこにもあるまい。」

美しい武具に感嘆しサオロスは思わず言葉をこぼすと、次々身につけていたくすんだ大地色の鎧を外す。中からは赤い皮膚を持った内蔵じみた人体がさらけ出される。その肩には顎の無い頭部が乗る。外された鎧は地へ無造作に転がされた。サオロスは銀に輝く鎧、縁の厚い丸盾、黄金の首飾りを身につけるとサオロスは輝き腰の魔剣を引き抜いた。菖蒲の葉のような刀身は銀に光り、剣のガードには青色の見事な装飾が施され、握りはサオロスの拳に合わせて彫り込まれ彼の腕と一体化していた。鎧を纏い、抜き身の魔剣を持つサオロスは膨大なエネルギーを纏いその力の奔流は魔界の天上に上る。


鏡の間で待機していたファオウルは立ち上る闘気を見ると思わず腕組みを止め立ち尽くす。

「あれを待っていた。あれこそ魔剣士サオロス。輝く闘気の刀身は天を上り必ずや愚か者の首を跳ね飛ばすであろう。」

蹄の音と共に鏡の間へ入って来たヴァザーゴの言に、気が気では無かったファオウルは顔を向けた。ファオウルはヴァザーゴの後方から来る魔人達へ目をやると。

「皆揃ったか。我らの魔界も限界と見える。」

ファオウルは目に見えて縮む魔界へ恐怖する。鏡の間には6人の魔人が佇み闘気の主を待つと、岩場を乗り越え魔剣士サオロスが身を乗り出し一同の目に姿を現す。ヴァザーゴは諸手を挙げサオロスへ語りかけた。

「輝く魔剣コントラ・ブレードの担い手、魔剣士サオロスよ、鋭い鎧を纏ったお主はシャイン・ガイザーの鎧を断ち切り、臓物を地へ撒き散らすだろう。」

魔剣を鞘へ収めたサオロスがヴァザーゴをひと睨みし、その視線は光を失ったザラガスが入り込んだ世界への道へ向けられた。

「道は歪む、あの星のエネルギーは既に魔界に入り込んできている。直に地球への道は開ける。」

蹄を鳴らすアルトラリスが答えると道に光が灯り、ザラガスが悠々と具足を鳴らし鏡の間へ戻る。背後の道は立ち消え塵一つとして残らなかった。黄金を纏うザラガスは銀青に輝くサオロスを見上げて驚愕する。

「魔剣士サオロスの鋭さを思い知った。これならばお前が地球に行くことに異を申し立てることも無い。」

立ち上る闘気を纏うサオロスは岩場を飛び降りると地を揺らめかせ、沈黙し鏡をにらみつけた。サオロスの身体がゆったりと光り地球への閉ざされた道へ引っ張り込まれ、その身体は光に溶けていった。彼を見送ったヴァザーゴは光を失った地球への道までの歩むと一同へ振り返る。

「あの道は満月の直前、2時間程度前に到着するように作った。」

刃渡り70 cm程度の直剣と丸盾を携え、空色の鎧を纏った魔人がいきり立つと、

「ヴァザーゴ殿、血迷ったか。これでは魔剣士サオロスを騙したことになる。」

ヴァザーゴへ詰め寄る。

「落ち着くのだ。盾固き戦士フロセスよ、そもそも次の満月に一人も降りられないことなど無い。その時には駿足のアルトラリス、お主に向かってもらいたい。その卓越した弓術と速さで魔剣士サオロスと共にシャイン・ガイザーを葬るのだ。」

ヴァザーゴの言にフロセスはにらみを効かせた言葉を重ねる。

「では、サオロスを騙したのだな?ヴァザーゴ殿、答えろ。」

ぶら下げた剣帯が鳴る。ザラガスはヴァザーゴとフロセスを間に入り込み、両者をなだめる。

「盾固きフロセスよ、お前の言はもっともだ。ヴァザーゴ殿、何か考えがあったのだろう。聞かせてくれないか?」

フロセスは一歩下がりヴァザーゴの言葉を待つ。ヴァザーゴは小さく頷き、

「確かに説明が必要だったな。魔剣士サオロスは以前からあれらの武具を出し惜しみしているようだった。全ては勝つため。あれらを纏ったあの者は本当の意味で魔剣士サオロスとなるのだ。そこにアルトラリスの駿足と遠距離攻撃で切り結ぶ背を狙い撃ちにするのだ。」

ヴァザーゴは鏡へ向き直り白い手を鏡へ掲げ更に言葉を続けた。

「満月が楽しみだ。魔剣士サオロスが地球へ降り立ち、バロムとサブナールの仇を討てるだろう。」

ヴァザーゴの言葉に納得した一同は鏡を眺めた。

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