降り立つ魔剣士 中編
バスケットのおにぎりはすっかり冷めていて蓋を開けても特に匂いはしなかった。僕は一番形の良いおにぎりをシャイン・ガイザーへ渡し、自分へは形の悪い僕が握った物を手に取った。小さく頂きますと言っておにぎりを持ちあげ、
「ササキ・セイヤ君。君は何故私に会う?何を求めている?」
おにぎりを頬張ろうと口を開けた僕へシャイン・ガイザーは問いかけた。わからない。はっきりと言葉に表すことが出来ない。ただ・・・、
「シャイン・ガイザーが何故か輝いて見えた。前も今も。それに・・・君は普通じゃ無い、特別な何かなんだ。」
おにぎりを頬張る。口いっぱいに米のほくほくした食感と塩の味が冷えた身体を温める。シャイン・ガイザーは身じろぎをし、形の良いおにぎりを見つめていた。
「君にとって普通とは何かな?」
「それはもちろん学校の生活や周りの人たちだったり、道行を歩いている近所人の事だったりだよ。それから、見慣れていて、建物みたいに代わり映えのないものかな。」
僕は即答した。シャイン・ガイザーは小さくうなずくと手のおにぎりが塵になって彼へ流れ込む。驚く僕をさておくと。
「なるほど、君にとって君は特別なのか。君が私に興味を抱く理由もわかった。」
何も言えない。自分が特別ではないと自分で定義づけた事に気がついた。誤魔化すようにおにぎりを一口頬張る。口に広がるお米と海苔の味が僕を現実に戻す。おにぎりは美味しくなかった。こっちを見ろとシャイン・ガイザーが僕の膝へ指の甲で触れる。僕の目に欠けた頭のシャイン・ガイザーが寸分違わず座り込んでいる。
「私は君が今、何を求めているのかはわからない。だが今、君は君にとって特別な私と向かい合って話す唯一の人間だ。他の二人は関係無く、これを特別と言わずなんとする。」
自信満々なシャイン・ガイザーを見て、僕は僕の望んでいることがわかった。
「僕は特別に成りたいって、いつも僕はそう望んでいた。」
シャイン・ガイザーはバスケットからおかわりのおにぎりを取り、宝石の鑑定のようにしげしげと眺める。更におにぎりを頬張る。ブチブチと湿った海苔が千切れ、舌がようやく具にたどり着き、しょっぱい鮭の味がする。
「私はシャイン・ガイザーで君にとっての特別だ。君はササキ・セイヤで、君の替わりはいない。少なくともあの二人にとって君は特別だ。」
「そう言うことじゃない。僕の理想は違う。僕は僕を特別だと胸を張って思いたい!」
おにぎりを握り締めたまま立ちあがり思わず叫ぶ。ひしゃげた兜が力なく僕を見上げ、小首をかしげた。
「どうしたら君は特別になれるのかよくわからないな。終わりはあるのか?」
言い淀む。これを言っても良いのか不安になる。シャイン・ガイザーは黙々とおにぎりを塵に変え身体へ取り込んでいる。ここまで内心を言った相手は初めてだ。だから言ってしまおう。
「僕は君に成りたい。」
僕たちの間に風が吹く。僕はまた視線を地面へ向ける。シャイン・ガイザーの軋む音が聞こえ、彼の爪先が視界へ入った。
「私になることは出来ない。ササキ・セイヤ。」
視線を上げるとシャイン・ガイザーが立ち上がりその背を太陽が照らしていた。降り注ぐ眩しい太陽の光は大きな彼の背に遮られ、そびえ立つ彼の雄々しい姿はより一層僕の憧れを強めた。見あげる僕へ彼の手が差し出された。
「だが、私と共に魔界と戦おう。無理の無い時間で良いからまた食事を持ってきて私のエネルギー補給を助けて欲しい。共に地球を救って特別になるんだ。」
おにぎりを急いで口にかっこみ、頬袋をパンパンに膨らませてその手を取るとギュッと手を握られベンチから立たされる。
「ササキ・セイヤよ、エネルギーの件頼むぞ。」
「もちろんシャイン・ガイザー。一緒に戦おう。」
シャイン・ガイザーから沸き立つ闘志が僕たちの間へ流れ込む風を弾く。
この後戻ってきたお父さんも含め3人でおにぎりを食べた。お父さんはシャイン・ガイザーの食べ方に仰天していたがそういうものとして納得していた。僕たちが帰る頃にはお昼を大分過ぎていた。朝食のつもりだったがお昼になってしまった。
帰りの車内ではずっと静かにしていたが、お父さんが口火を切った。
「どうだった。聞きたいことは聞けた?」
「いいや、聞いてない。聞くよりも彼を見て理解してみる。」
揺れる車で僕お父さんを覗う。隣のお父さんはハンドルを握り、真剣にフロントガラスの向こうを見つめている。赤信号で車が止まった時を見計らい、
「ありがとう。」
とお父さんへ伝えると「どういたしまして」とお父さんは照れくさそうに笑っていた。
シャイン・ガイザーへおにぎりを持って行った翌日、学校は再開した。もたもたと寝ぼけ眼をこすり登校していた僕は校門で突っ立つ鈴木くんを見つけると、彼も気がついたようで「あっ!!」とぼくを指差し駆け寄ってくる。
「何でメッセージくれなかったんだよ。俺は何度も送ったぜ?」
僕に詰めようや否や呆れたように訴えてくる。僕は平身低頭に誤り手のひらをこすり合わせた。
「本当に申し訳ない。寝てしまいました。」
まあいいやと髪をかき分けた彼は僕と肩を組み下駄箱まで引っ張っていく。
「ちょっと。待って。」
つんのめりながら訴えるも、鈴木くんは聞く耳を持たず僕は引きずられる。下駄箱の隅まで行くと鈴木くんは隠し持っていた携帯をパカリと開き、興奮しながら僕へ見せた。鼻息が鬱陶しい。携帯にはコンビニ内部のスクリーンショットが写っていた。内容はコンビニで立ちあがる黒い怪物とその周囲には大人たちが立っているものだ。
「凄いぞ、これは。放課後家に来てくれよ。そこでこれの動画を見せるから。化け物が動いて人が倒れるんだ。動画自体は匿名掲示板に載せられていてもう削除されている。」
鼻に髪の毛が入った。もう勘弁して欲しい。
「わかったよ、鈴木君。君の家に行くよ。そのダウンロードしたやつを見せてよ。」
ようやく彼は離れ、満面の笑みで靴を履き替え、廊下を走っていった。確かに、シャイン・ガイザーが戦う相手のことをもっと知っておきたいし、どんな目で皆から見られているのかは気になっていた。
教室に入ると意外とその話で皆は盛り上がっていた。本当に怪物がいたのかどうかで盛りあがる事もあれば、目撃談を自分が見たように話す事もある、あるいは道路の跡と行政の怠慢に関する話・・・これはニュースの話をスピーカーのように話しているだけかな。
「おはよう佐々木君。この前は大変だったね。」
何とかさんだ。名前がわからない。4年生にもなると誰も名札は付けなくなり本当に困る。
「ああ、おはよう。確かに大変だった。所によればまだ通行止めがあるらしいね。」
下駄箱までの間に聞いたネタだ。何とかさんは何かを待っているようにまだ僕の前にいる。その最中、前田くんが教室に入って来た。
「おはよう。前田くん。この間のことでお話をしよう。」
前田くんは首を振り席に座ると寝始めた。当てが外れた僕は鈴木くんを探すが黒板の前で確か赤尾くんと談笑している。
「ひょっとして。私の名前忘れた?」
振り返った僕を何とかさんは目を細め見つめる。忘れるも何も覚えていない。「君は一体誰なんだ!」と言えたらどんなに楽か。シャイン・ガイザーなら言いそうではあるけど。
「御免なさい。忘れました。」
「柿沼優美だよ。忘れないでね。」
白状した僕へ彼女は満面の笑みでそう言うと席に戻って行った。柿沼さんね、覚えておかないと。こんなやり取りはあまりやりたくない。




