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降り立つ魔剣士 前編

 ベッドへ寝転んだ僕の耳へ玄関の扉がガチャンと閉まる音が聞こえた。天井を見上げてフウと息を吐くと少し気持ちが落ち着いた。こみ上げてくる気持ちが冷たい部屋へ溢れ出る。僕は無力だ。死にたくなくて僕は食い下がらなかった、お母さんが行くと言って安心してしまった。拳を力一杯握り締め眼前へ掲げる。振り上げた拳が電灯を遮り黒い影を僕の顔へ落とした。真っ黒な震える拳は小さく次第にぼやける。唇の震えが止まらず、唇の隙間から噛み合わされた白い歯が覗きカリカリと音を立てた。

「情けない。僕は、弱い。」

僕の心に巣くう弱さは小さな身体をベッドへ縛りつける。起き上がることすら出来ない。振り上げた拳もポサリと力無く垂れ、歯を噛み合わせる力も弱まる。舌の上から鼻腔に掛けて血のにおいがふわりと立ち起こる。簡単に破れる皮膚と流血がより一層、僕の弱さを思い知らせるようだった。ベッドで目を瞑り静に泣く。

「特別だ、僕は特別なんだ。僕は世界に一人しか居ないじゃ無いか。」

必死に自分へ言い聞かせるがピクリとも足は動かなかった。瞼もだんだんと下がっていき・・・。

 目が覚めるとお父さんが心配そうに僕の顔を見下ろしていた。ゴツゴツした手には紺色のタオルが握られ、僕の胸にそっと置かれる。

「ただいま。夕飯だから降りておいで。」

それだけ言うとお父さんは部屋を出て行った。扉は開きっぱなしで冷たい風が入って来る。

僕は荒々しく目元をタオルで拭うとベッドから降りて、ヒリヒリする目元を触りながら踊り場へ向かう。驚くほど身体は軽く階下からは魚の焼けた匂いが漂ってくる。吸い込まれるように階段を下りリビングへ入ると暖かい風が僕を包み二人がいつものようにご飯を並べていた。


 崩落事故の翌日、学校は休校になった。お父さん曰く、路上に散乱する死体のためだそうだ。まだ回収が終わっていないらしい。そして僕は今、二人と一緒におにぎりを握らされていた。

「シャイン・ガイザーさんはどうやって食べるのかな?」

昨日事情を聞かされたお父さんが疑問を呈する。僕と一緒におにぎりをシャイン・ガイザーの元へ持って行きたいそうだ。食べ方に関しては僕も気になる。

「さすがに外すでしょあの兜。血で張り付いてとれないかもだけど。」

「そんなに酷いの?」

手を止めたお母さんへ僕が聞いた。髪の毛を揺らして肯定し、

「本当にひどくて、皮膚は剥げ散らかって鎧も潰れたみたいにボロボロだったし、靖弥が言うような色じゃなかった。」

と言った。そんな事になっていたのか。

「激戦だったみたいだね。何でそこまで・・・。」

「本人に聞いてみたら。一日経って、彼の頭も整理されているはずだよ。」

僕のつぶやきをお父さんが拾う。それもそうだ、シャイン・ガイザーへ聞こう、戦う理由と勇気の出し方を。


 シャイン・ガイザーは吹き荒ぶ寒冷な風をものともせず、丘に立ち、街を眺めていた。兜の中の目玉はギョロギョロと蠢き慌ただしい人々を追い、鋭敏な聴覚は嘆く声を捉えていた。彼は胸に手を添えると鎧が動き、胸がぽっかりと開く。中には光る鍵が納められておりボロボロの小手が胸へ入り込み鍵を撫でる。鍵の凹凸を感じ取ったシャイン・ガイザーは手を抜き胸の鎧が閉じる。小手の先には僅かなサビが浮く。

「・・・。」

しげしげとサビを観察したシャイン・ガイザーは親指をこすりサビを散らすと空を仰ぐ。満月は過ぎ去ったばかりだ。

だが、一ヶ月後には再び地球と彼への刺客が魔界から送り込まれるのだ。シャイン・ガイザーの闘志は燃え立った。そこへ、彼の耳に街で聞いた車の音が近づいてくる。


 僕たちが公園に着くとシャイン・ガイザーはこちらを見ていた。正確には僕たちの持つバスケットにだが。シャイン・ガイザーは僕たちへ歩み寄ると、

「おはよう。ササキくん。貴方もササキくんなのかな?」

彼らしい変なことを言い始めた。お父さんはやたらと丁寧に挨拶をして名刺を渡した。名刺を受け取ったシャイン・ガイザーは興味深く眺めるとカシャンと脇の下を広げ、その中へ名刺を入れた。

それにしても。

「本当に手ひどくやられたね。」

「油断ならない相手だった。だが、倒せた。」

僕たち二人へ交互に視線をやりながら、朗らかに胸を張って彼は答えた。英雄然とした彼の姿は曇りなのに、傷ついた姿なのに僕の目には輝いて見えた。

「そこのベンチに座っておにぎり食べましょうか。」

見とれる僕はお父さんの声に押され、何時ぞや寝転んでいたベンチへ座るがシャイン・ガイザーは地面へ座りこむ。

「ベンチへ座らずにどうされました?やはり具合が悪いのですか?」

お父さんの問へシャイン・ガイザーはかぶりを振りベンチを指差す。

「私の体重はかなり重くベンチが壊れてしまう故、ここで結構。ササキ・ヨシムネくんもそこのベンチへどうぞ。」

彼の勧めへ、にこやかに笑ったお父さんはベンチへバスケットを置くと、

「私はちょっと飲み物と毛布を取ってきます。おにぎり美味しいのでお先に食べ始めて下さい。」

砂利を踏み鳴ら素足が遠ざかるが、そうだと声が聞こえ僕が振り返るとお父さんは僕を見つめて、

「靖弥、お話しをしておきなさい。」

と言い残して車へ走っていった。


 暗黒に包まれた魔界では大鏡が空中へ浮き魔剣士サオロスが腕を組み街の様子を見ていた。その背へ黄金色の鎧を纏う戦士ザガラスが具足をガラリと鳴らし、歩み寄る。

「戦いに焦がれているのか。魔剣士サオロスよ。」

響く問いにサオロスは振り返らず沈黙を貫く。ザガラスが槍と共に一歩踏み出すと、

「魔剣士サオロス、何を見ておる。勝利の方策が立ったか?」

ザラガスを牽制するように闇に声が轟いた。闇の奥から藍色の丸盾を携え、半弓を片手に提げた半馬のアルトラリスが蹄を鳴らし、油断なく魔剣士と黄金の戦士を睨みつける。

「このまま一ヶ月、阿呆のように待ち呆ければ勝敗は解らない。だが、満月が掲げられる前であれば奴は魔剣の力を発揮出来ず、簡単に縊り殺せる。私は程々に緊張感を味わいたいのだ。更に、今は必勝が求められている。」

サオロスは一同へ振り返ると、堂々と述べた。アルトラリスはザラガスへチラリと目のみを向け半弓を握り締める。ザラガスは更にサオロスへ歩みを進めると興味深そうに魔剣士へ尋ねた。

「そのように言うのだから、何か根拠があるのだろう?ヴァザーゴ殿が知らぬ事をお前が知るとは考えにくい。」

すると彼らの元へ二人分の具足の音が響いて来る。艶の無い白い鎧のヴァザーゴが風を纏うファオウルを伴い彼らの間へ割って入る。ヴァザーゴの白い手にはハンドボール程度の銀色の球体が乗る。

「おお、それはまさか。」

ザラガスは驚きヴァザーゴへ問う。ヴァザーゴは銀の球体をサオロスへ放ると説明を始めた。それらを見たファオウルは端へ行き、彼らをよそにそそり立つ岩へ寄りかかると鏡を見つめる。

「サオロスからの話を聞いたようだな。あの球体は先日何とか見つけた世界だ。」

ヴァザーゴは身を翻して片手をサラオスへ掲げる。

「そこで、お主にはそこへ行ってもらう。即日、鍵をさせれば満月の前までにはエネルギーを回収することが出来る。回収したエネルギーを持ってすれば、強引に一人くらいは地球へ送れる。欠点としては次の満月に地球に行くことが出来なくなくなる事だな。」

サオロスは球体を掲げた。掲げられた球体はふわりと浮くと弾け、1本の輝く幻想的な道が出来上がる。道を見据えたザラガスは黄金の軌跡を残し、槍を片手に軽快に光へ向かって走り出した。

「吉報を待つ。黄金を纏う戦士ザラガスよ。」

激励したヴァザーゴでサオロスは剣帯を鳴らして歩み寄ると。

「ではこのサオロスは地球へ。そうですな?」

歩み寄る彼はヴァザーゴの面を見つめ粘着質な声色で催促をすると、ヴァザーゴは鬱陶しそうに背をサオロスへ向けた。その様子を見たアルトラリスは呆れたように首を振りその場を立ち去った。

「好きにしろ。だがこれはお主の我儘だ、魔剣士サオロス。これで我々は地球に縛りつけられたのだ。お主が次に魔界の地を踏むにはシャイン・ガイザーの抹殺しかない。時間は常に敵だ。慎重になるな、立ち回りは大胆に行うのだ。」

滲み出たヴァザーゴの言葉が魔界を響き、サオロスは魔剣を打ち鳴らし戦意をたぎらせる。

「問題なし、更なる秘策が有る。」

魔剣士は肩で風を切り鏡の間を抜け、その様子をファオウルは見送った。

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