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魔界が月を照らすとき 後編

 肉片の纏わり付く黒甲冑のサブナールはシャイン・ガイザーを度重なる妨害によって撒き、浄水場へ走っていた。

「魔界の鏡で見たときから目を付けていたのだ。死体からはエネルギーを抽出する事が出来る。後は奴から次の満月まで隠れて傷を癒し、二人がかりであいつを殺す。その後地球へ鍵を指し、エネルギーへ変換する。」

黒い風はなんとなく道行く人間を跳ね殺し目的地を目指す。駐車場を飛び越え、グングンと浄水場へ黒い甲冑が近づく。

「どれくらい回復できるか?」

最早サブナールはシャイン・ガイザーとの戦いの事は過去に去り、どれだけ自分が回復出来るのかのみを考えていた、だがしかし。

「剣士殺しのサブナール。何を笑っている?」

サブナールと浄水場の間に魔剣を片手にシャイン・ガイザーが立ち塞がる。疾走する黒い影はアスファルトを削り立ち止まった。

「回り込んだのか?儂はここに来るまでにどれほどの肉を叩き潰したか数えていないぞ。助けなくてよかったのか?同胞よりも大切なのだろ?言ってみろ!その理由を!」

サブナールの言にシャイン・ガイザーはゆっくりと歩を進め両者の距離を詰める。彼の様子にサブナールは挑むように棍棒を振り上げる。黒い甲冑に残る打撃痕は崩れ中にヒビの入った鍵が覗く。

「生きるために生きるのでは無く。何かをするために、残すために生きる事にした。」

「狂ったな。我々の戦いに意味はある。生き、その過程に価値がある。お前がかつて儂に言った言葉だぞ。」

 シャイン・ガイザーの鎧が更にくすむとひしゃげた右腕が時間を巻き戻すように形状を取り戻し、距離を詰めた。サブナールも戦意を崩さず、すり足で滑るように距離を詰める。猛毒の棍棒がシャイン・ガイザーの胴を狙い横凪に振るわれる。その一撃はシャイン・ガイザーの灰白色の鎧へ命中すれば飴細工のように粉砕するだろう。だがシャイン・ガイザーは咄嗟に魔剣を輝かせた。目を潰されたサブナールが唸る棍棒は軌道が甘くなりシャイン・ガイザーの魔剣によって半月を描き受け流され、跳ね上がる。無防備となったサブナールは大地をつかむように両の足へ力を込め、流された身体が蹌踉めかぬよう踏ん張る。踏ん張るサブナールの右膝を灰白色の具足が強かに蹴りつけ、彼の巨体がうちわで仰がれた雑誌のように傾いた。すかさず再生したシャイン・ガイザーの右拳が、サブナールのひび割れた胸の鍵へ迫る。サブナールは必死に胴捻り拳は体側へ命中した。拳は黒い甲冑の脇板を粉砕し反撃とばかりに振るわれた棍棒はシャイン・ガイザーの頭部を浅く撫で、灰白色の破片が地面を跳ねる。両者はのけぞり、よたよたと後退する。

 シャイン・ガイザーは魔剣を腰へ納めサブナールから2歩さがる。サブナールは棍棒を両手に持ち地面と水平に掲げ構える。シャイン・ガイザーは地を蹴り一足に間合いに入る。サブナールは棍棒を振り下ろすが、棍棒の柄頭をシャイン・ガイザーは蹴り上げ、拳を穴の空いた胴へ砕けた地面を踏みしめ繰り出した。延びる灰白色の小手が白磁を瞬間的に取り戻し、サブナールの胴へ叩き込まれた。鍵が割れ、拳は胴を貫通し黒甲冑の艶は失われた。今まで味わったことの無い脱力感と睡魔に襲われたサブナールは棍棒を取り落とし、灰を突き崩すように巨体は崩れ塵になった。シャイン・ガイザーは急ぎ棍棒を両手に持ちゆっくりと力を込める。灰白色の鎧が更に黒く鼠色に変化すると、黒い棍棒が震え、遂に塵となった。


 家に帰った僕は雑に手を洗いリビングのソファーへ座ってテレビを付けた。テレビでは2局が崩落事件の事を取り上げていた。事件は下水管の老朽化による道路陥没だそうだ。毒に関しては下水道から漏れた異臭によるものということらしい。ソファーのクッションがポップに鳴る。ソファーのクッションをはぐると僕の携帯が転がっていた。そこにあったのか。

 パカリと携帯を開くと鈴木くんからメッセージが届いていた。僕は彼と連絡先を交換した記憶はとうに失せていたが、とにかく彼のメッセージでは「怪物が人を殺すやばい映像が手に入った」とのことだった。

「靖弥、お父さんが半休取って帰ってくるからその迎えに行って来るね。」

お母さんはそう言うと早足で歩き、僕の頭を一撫でして後ろを抜けていった。直ぐに車のエンジン音が鳴り、テールランプが窓を横切る。僕は時計を見上げ5分待った。コートを羽織った僕は玄関から出るとしゃがみ込んだ誰かがいた。お母さんだった。

「どこに行くのかな。」

「すぐ戻るよ。」

僕は驚き後退る。これではシャイン・ガイザーへ会いに行けない。目を泳がせる僕の肩へ手が置かれる。何を言われるのかと思わず僕は眉をしかめた。

「ダメ。質問に答えなさい。」

僕は観念するしかなく、事のあらましを伝えた。シャイン・ガイザーの名前が出る度にお母さんは吹き出しそうになっており終止笑みを浮かべていた。話が終わるとお母さんは立ち上がり僕を真剣に見据えた。

「お母さんがそのシャイン・ガイザー?さんに会いに行くからね。その人は人間の生き死に興味なさそうだからきっと大丈夫だとは思うけど。」

言いようの無い悔しさが水層へ撒いた金魚の餌のように胸の内に広がる。いてもたってもいられず階段を駆け上がり、自室へ飛び込んだ。


 少し日が陰り始める頃佐々木靖弥の母、佐々木美咲は息子の言っていた公園へ自転車を乗り付けた。美咲はまだ半信半疑であったが、柵からちょこんと見える灰色の鎧を見て息を呑んだ。丘にある閑散とした公園からは街が一望出来る、シャイン・ガイザーはその光景を眺め座り込んでいた。

様子を覗う美咲が瞬きをする間にシャイン・ガイザーは、いつの間にか立っており彼女を見ていた。目を見開いた彼女は恐る恐る近寄り深呼吸の後、声を掛けた。

「あのー。シャイン・ガイザーさん?息子がお世話になっております。」

「こんにちは。ササキ・セイヤの母。」

シャイン・ガイザーそう答えると鎧を軋ませ美咲へ近寄る。徐々に見えるシャイン・ガイザーの姿に美咲は後退る。角張った頭部は削れ、胴鎧は胸が欠け表面は溶けたようにざらつき、鎧の隙間から見える赤い皮膚は所々剥げ黄色い液体が滴る。

「治りますかねその傷、救急車呼びましょうか?」

美咲はそのあんまりな姿を見て咄嗟に言ってしまった。シャイン・ガイザーは灰色の小手をあげ制止する。

「お気遣い感謝するが、それでは治らない。次の満月に傷の大半は治る。」

シャイン・ガイザーは体中から軋むような異音を発し地面へ何とか座ると美咲へ答えた。

「そうですか。では一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」

美咲へシャイン・ガイザーは頷くと、美咲は最も彼に聞きたかった事を口にした。

「あなたは何故息子を助けたのですか?息子から貴方の戦い理由を聞きましたが、人間を助ける理由にはならないはずです。」

「助けた。自転車を直したことかな?」

シャイン・ガイザーは美咲へ白を切る。美咲はいらつき腕を腰に当てとぼける彼へ1歩近づいた。

「林が燃えた時、気を失った息子を引っ張り出したのは貴方でしょう?」

美咲の言葉にシャイン・ガイザーは視線を逸らし沈黙する。痺れを切らした彼女は口を開き掛けたが。

「肉で覆われた身体は表情が豊かだ。背を見るだけで、怯えていることがわかった。明確な目的は特になかった。」

シャイン・ガイザーは考え込みながら答えると美咲はうなずき、

「息子を助けていただき、ありがとうございます。」

と言って深々と頭を下げた。シャイン・ガイザーはどうしたら良いかわからずキョロキョロと意味も無く辺りを見渡す。顔をあげた美咲は座り込む戦士へ提案する。

「良ければ、何かお手伝い出来ることはありますか?」

「では、少しで良いので皆さんの食べ物を分けていただけないか?非常に効率は悪いがエネルギーに変換し次の戦いへ備えたい。」

シャイン・ガイザーの答えに美咲は微笑む。

「喜んで。何か食べられない物は?」

「特には無い。」

快諾した美咲はシャイン・ガイザーへ別れを告げると踵を返し公園を後にする。シャイン・ガイザーも振り返り街を眺めると、怪しげな満月は煙のように消えていた。 

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