表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/29

魔界、最期の時 後編

 シャイン・ガイザーから受け取った写真を持ち帰った僕は、埃まみれの写真立てを綺麗に洗い自室の机に折り目を伸ばした写真を飾る。次に、くずかごの写真二枚を取り出して部屋の隅に転がされたリュックへ入れた。一階に降りると、お母さんが買い物袋からせっせと冷蔵庫へ物を移している所だった。

「お帰り。手伝うよ。」

そう言って牛乳や肉類を納めていると、

「明日は行くの?」

お母さんの問へ僕は頷き親指を立て、お母さんへ頬を立ててにやりと笑う。そうしていると、開けっ放しの冷蔵庫からアラームが鳴ったため、僕は慌てて扉を閉めた。今日はお父さんが仕事で家に居らず、お昼はお母さんと食べた。食事中は無言で僕は卵かけご飯と炙ったウィンナーソーセージをかき込むように食べる。向かいに座るお母さんはお茶漬けへ梅を入れてちまちま匙で食べる。

「靖弥。何かあったの?」

「あったけど、もう良いんだ。皆で頑張った結果だから受け入れて最善に向かって進むしか無い。そのことがよくわかったよ。」

「本当に何があったの?話せるなら話してみなさい。」

「ファオウルが、たまに庭でゴソゴソしていた魔人だけど、彼が戦いで死んだ。」

お母さんは手を止め、目を伏せる。

「テレビではシャイン・ガイザーが倒した事になっているけれど、ファオウルも命をかけて一緒に戦っていたんだ。」

箸置きへ箸を戻しじっとりと汗ばんだ手のひらをズボンで拭う。

「誰もファオウルを覚えちゃいない。ネットじゃ化け物が死んだなんて言われて。」

「でもお母さんはその人が頑張ったことがわかったよ。お父さんにも話しとく。これなら少なくとも四人はファオウルさんの活躍を覚えていることになるね。それで良いじゃないの。」

顔をあげるとお母さんが僕を見つめていた。目が熱くなる。唇の端を噛んで涙を必死に堪え、

「此処で・・・畜生。やりたいことって何だったんだよ。教えてくれよぅ。」

涙が流れて止まらなくなる。顔は火のように熱かったが、頭は何処か冷静でまるで別人が僕を見下ろしているようだった。顔は石のように固まり泣き顔すら作れなかった。震える口を開き残ったご飯を詰め込むが、鼻が塩辛く味は全くわからない。

「畜生、何で俺には魔人の力が無い。」

僕はうめくように机へ呟くと、口の端から米粒が机へ数粒こぼれた。するとお母さんのティッシュを摘まんだ手が肩口から伸びて米を拭き取る。

「魔人の方々と何度か話したけど、二人とも靖弥のことを仲間だと言っていたよ。」

俯く僕をお母さんが覗き込む。

「だから、靖弥には力が有るよ。きっと魔人に負けないくらい強い。」

溜まらずひび割れた声が漏れ、机が濡れる。しゃくりあげる僕をお母さんが抱きしめるように腕を回し、震える肩が暖まる。僕はようやくファオウルの死を受け入れられた。


 「本当に久し振りだな、こういった君とのやりとりや煎餅は。なかなか良いものだ。」

僕はファオウルの死を受け入れてシャイン・ガイザーと共に連日公園に集まり、木陰に並んで座って昼食を摂っていた。時折、シャイン・ガイザーは感慨深く呟く。子気味良い煎餅の割れる音が青空へ響き、僕は水筒の氷水を飲んだ。カラコロと軽い音が水筒から鳴り、シャイン・ガイザーは軽く頷くと僕へ語りかけた。

「ササキ・セイヤよ、次の敵は恐ろしい武器を持っている。魔人、ヴァザーゴの持つ融合剣は鞘から抜き放たれると高温を生じ、稲妻が走る。奴が練り歩くだけで凄まじい被害が出るだろう。そのため、この地では長く戦わず奴を魔界へ連れて行くつもりだ。だからこそ言わせて欲しい。」

シャイン・ガイザーが灰色の身体を傾けて僕を正面に見る。

「本当に助かった。君と出会えたことは、私にとって大きな収穫だ。最後までよろしく頼む。」

シャイン・ガイザーの小手が僕へ伸びる。僕は飛び起きてその手を握って、

「僕も同じだ。シャイン・ガイザーに会えて良かった。君が魔人や人間から何と言われようと、君は僕のヒーローだ。」

そう言うとシャイン・ガイザーの小手が少し強く僕の手を握り締める。兜に収まる光の無い右目は動かなかったが青い瞳が揺れ、シャイン・ガイザーはそっと僕の手を離した。シャイン・ガイザーは向きを変えて、再び僕たちは並んで座った。小さな雲が青空をゆっくりと漂い、日常が一瞬で消え去ることを知った僕には何だかその様子が無情に感じた。

「写真は良い写りだった。」

「それは良かったよ。」

シャイン・ガイザーの呟きへ答え、暫く無言で僕たちは座ってボーッとする。写真は既にシャイン・ガイザーへ渡しており、気に入った彼は時折眺めているそうだ。

「さて、そろそろだろう。」

動揺する僕を余所にシャイン・ガイザーは木陰から歩み出て陽光を浴びる。すると、魔界の光による満月が引き上がり魔界の光が街へ降り注ぎ、極光が海岸へ繋がる大通りへ落ちた。魔界の光を浴びたシャイン・ガイザーの鎧は白磁に染まり、全身に刻まれた細かな傷が消える。街では既に火災が生じたのか通りが一際オレンジ色に輝いている。

「魔剣を抜いたか。あの辺りへ君が近づけば身体が溶けてしまう。十分に気を付けろ。」

白磁の拳を握り締めたシャイン・ガイザーはそう言い残し、足を輝かせると灼熱の街へ飛び込んでいった。僕は急いで両親知人へ通りから離れるようにメッセージを送り、戦いの場から離れるため、自転車へまたがった。


 シャイン・ガイザーが車を踏み割って、通りへ着く頃には目の前の通りは地獄絵図だった。魔剣は雷を放ち、辺りの建物は炭化して、人々の肉体は欠片も残らない。風が起こり、水が燃え上がる。ヴァザーゴは魔剣を片手にただ佇みシャイン・ガイザーを待ち受けていた。潰れた車から歩き出たシャイン・ガイザーは腰の魔剣へ手をかけ、

「デモン・セイバー。」

鞘が扇状に開き刀身の無い魔剣が姿を現す。シャイン・ガイザーの胸が青く輝き、胸から腕を伝い魔剣の柄へ集中すると青い刀身が生じ、更に白色に輝く。ヴァザーゴは無言に魔剣を両手に握り、刀身を振り上げ上段に構える。刀身が空を切り裂きツンとした異臭が立ちこめる。シャイン・ガイザーは地を蹴り、魔剣をヴァザーゴの胴へ繰り出した。雷の走る刀身が輝く魔剣を受け止め、両者の握る魔剣の柄が打ち当たる。ヴァザーゴの握る魔剣のから伸びる雷がシャイン・ガイザーの皮膚を焼く。シャイン・ガイザーは魔剣のガードをヴァザーゴの指へ叩きつけたが、ヴァザーゴは瞬間的にエネルギーを指へ集中させ魔剣を弾く。


 魔剣を弾かれたシャイン・ガイザーの胴へヴァザーゴは走る雷を振り抜いた。ヴァザーゴの魔剣はシャイン・ガイザーの輝く胴へ打ち当たり刃先を僅かに進め食い止められ、シャイン・ガイザーは輝く刀身をヴァザーゴの純白の鎧へ叩き込んだ。白く輝く刀身は肩鎧を避け首筋へ切り込みを入れるが鎧の襟に刃を食い止められる。対するヴァザーゴの雷走る融合剣はガードをシャイン・ガイザーの右腕に咄嗟に掴まれて押し止められていたが、ヴァザーゴの剛力によりシャイン・ガイザーの胴を焼き切り始めた。黄色の血液が沸騰する中、シャイン・ガイザーは直ぐさまヴァザーゴへ食い込む剣を手放して胸の鎧を開けた。ヴァザーゴは魔剣から片手を離し、シャイン・ガイザーの胴へ手を伸ばす。シャイン・ガイザーは伸ばされた腕よりも速く胴の中に安置される美しい鍵を取り出し、その鍵をヴァザーゴの伸ばされた小手へ刺した。魔界からの光が二人を包み込み、組み合う二人は暗黒が飲み込みつつある魔界の地へ投げ出された。


 転がる二人は魔界のひび割れた大地へ叩きつけられ離れて転がる。ヴァザーゴは首へめり込んだ青い刀身の魔剣を、シャイン・ガイザーは胸を切り裂く雷走る魔剣を引き抜き向かい合う。魔界のエネルギーが瞬く間に二人へ注ぎ込まれたちどころに傷が治る。更にシャイン・ガイザーは全身を輝かせる。

「止めろ!魔界が崩壊する!」

ヴァザーゴは怒鳴りシャイン・ガイザーへ猛然と斬りかかる。輝くシャイン・ガイザーは雷走る魔剣を斬り上げて、兜目がけて振り下ろされたヴァザーゴの両腕を切断した。魔界のエネルギーがヴァザーゴへ注ぎ込まれ瞬時に両腕は繋がり青い刀身は勢いをそのままに蛇のようにしなりシャイン・ガイザーの首を切断する。しかしこれも、魔界のエネルギーによって直ちに修復される。守りを捨てた二人の魔人はエネルギー不足によって崩壊する世界で切り結び続ける。二人の戦いにより魔界の大地が崩れ暗黒へ溶け、大鏡までもが暗黒へ落ちていった。輝いていた地球への道は光が点滅し、広がる道は波紋のように揺れる。


 その最中、ヴァザーゴの一撃がシャイン・ガイザーの胸を貫き、鍵を完全に破壊する。シャイン・ガイザーの鎧が黒く変色する。ヴァザーゴは魔剣へ満身の力を両腕へ込め頭部を切り裂こうとするも、青い刀身が消失し勢いの余り後ずさり、更に力が入らず脚がもつれ倒れ込む。倒れ込んだヴァザーゴの胸には融合剣がつき立ち、手を着いて立ち上がろうとするも左手が痙攣しに倒れる。デモン・セイバーの柄は倒れた拍子に握力を失った両手からこぼれ落ち魔界を飲み込む暗黒へ落ちていく。シャイン・ガイザーも脱力感に負け片膝を立ててその場に崩れる。シャイン・ガイザーの視界はかすみ青い瞳は光を失う。倒れたヴァザーゴは胸から魔剣を引き抜き魔界のエネルギーを吸い込み続けている。魔界のエネルギーで鍵をいち早く修復したシャイン・ガイザーは震える足へ鞭を打ち立ちあがり後方の道へ目をくれた。道は光り地球への道は未だ繋がっていることが伺える。鍵を回復させたヴァザーゴへ視線を戻すと、フラつくヴァザーゴは立ち上がりその身体へエネルギーが集積し始めた。シャイン・ガイザーは鞘を腰から外し、渾身の力でヴァザーゴ目がけて投擲した。鞘は吸い込まれるようにヴァザーゴへ飛ぶ、ヴァザーゴは飛来する鞘へ身体の修復を後回しに魔剣にエネルギーを込めた。輝くヴァザーゴが鞘を打ち払う刹那、シャイン・ガイザーは叫ぶ、

「デモン・セイバー!」

シャイン・ガイザーの呼びかけに鞘は扇状に開き、更にバラバラに分解しヴァザーゴの身体へ打ち当たる。鎧へ細かな凹みを作り、蹌踉めくヴァザーゴへシャイン・ガイザーは駆る。シャイン・ガイザーの鎧が魔界のエネルギーを吸い込み黒色から白磁の輝きを放つ。シャイン・ガイザーの拳が一際輝き、唸る拳がヴァザーゴの胸をしたたかに打った。拳は胸鎧を陥没させヴァザーゴは身体を浮かせて打ち飛ばされた。魔剣はヴァザーゴの手を離れ暗黒に落ち、ヴァザーゴは背を魔界の大地を削り打ち倒された。魔界の崩壊は倒れるヴァザーゴを飲み込み、

「シャイン・ガイザー・・・。」

胸鎧を両手で押さえたヴァザーゴは力無く崩れ落ちる魔界の大地と共に暗黒へ落ちた。


 魔界の崩壊は突き進み、シャイン・ガイザーの足もとまで迫る。シャイン・ガイザーは急ぎ踵を返し崩壊から逃れるため走り出すが、風切り音と共に刃へ変形した融合剣の鞘が胸を貫いた。ヴァザーゴが暗黒へ飲み込まれながらも残る力を込めて投擲したものだ。蹌踉めくシャイン・ガイザーは構わず走り、両手で必死に剣を引き抜こうとする。刃は左肩よりに突き刺さり痙攣と共に左腕に力が入らず抜けない。鎧から輝きが失われ足が鈍る。崩壊する大地からは離れ地球への道は目前まで迫っていた。棒のような足を引きずるように交互に繰り出し光弱まる地球への道を目指す。刃が重みにより弱った装甲と肉体を切り裂く。鞘の縁を飾る装飾が垂れ下がり、切っ先を跳ね上げた。刃となった鞘はシャイン・ガイザーの左腕を容易く切断し、大地へ左腕と共にゴロリと転がる。止めどなく流れ出る黄色の血液を肩口から垂らし、シャイン・ガイザーの足へ力が入らなくなり地響きを立てて黒い鎧が大地へ打ち付けられる。砂にまみれたシャイン・ガイザーは藻掻くように右腕で割れた大地を這いずる。暗黒はシャイン・ガイザーへ迫り彼の左腕を飲み込む頃、遂に右腕が地球への道へ手を掛けて身を乗り出す。すぐそこには暗黒が迫り、魔界は既に四畳半もない広さだった。這いずるシャイン・ガイザーは消え行く魔界の地から傷ついた身体を光の道へ身体を踊らせ、エネルギーの流れへ身を任せた。地球へ向かうエネルギーに身体を揺られるシャイン・ガイザーは後方を振り返ると魔界が完全に暗黒へ飲み込まれる様子が見える。周囲のエネルギーは降下に必要最低限の量しかなく、到底鍵を修復するエネルギーは無い。薄れる意識の中で地球の光景をシャイン・ガイザーは思い浮かべる。いつもと変わらない街の風景、綺麗な夜の砂浜、割れる煎餅そして靖弥の喜んでいた姿に胸へしまわれている写真が色鮮やかに思い出され、シャイン・ガイザーは休眠状態に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ