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友よ 後編

 靖弥の手に握られた鍵の光が弱まり微かな光を湛える。靖弥はゆっくりと鍵を胸から離し、鍵の光を見つめる。淡い光がテレビの電源を切ったかのようにピタリと消える。鍵冷たく灰色になり、座り込んでいた靖弥はその冷たさや暗さに驚き跳び上がった。ファオウルの言葉の通り靖弥は鍵を持ってシャイン・ガイザーの側へ駆け寄ると、ひび割れた胸の穴へ鍵を差し込む。靖弥は穴から手を抜くゆっくりと立ち上がり後ずさった。降り注ぐ月光がシャイン・ガイザーの全身を包み込む。その光は生命の息吹をシャイン・ガイザーの鎧へ吹き込み、真っ黒な鎧が淡く輝き、シャイン・ガイザーの左眼へ青い光がともる。遠くの街空はパトカーのサイレンが五月蠅いほど鳴り始め、聞いたことの無い破裂音と爆発、途切れない避難誘導が更に起こり始める。シャイン・ガイザーは鍵の収まる胸鎧を押さえて立ち上がり、黒い鎧は音を立てて瞬く間に傷口が修復される。天井の空いたプレハブで立ち上がったシャイン・ガイザーの全身をくまなく光が覆う。修復された黒い鎧は厚みと白磁の輝きを取り戻し、輝く鎧はファオウルの青銅、あるいは黄銅色に縁取られ、赤い皮膚は藍青色へ変色していた。白磁の鎧を纏うシャイン・ガイザーは側の靖弥を青く光る眼光で見下ろすと、

「ササキ・セイヤよ、勇士ファオウルは死んだ。」

無感情に言い放ち、既に静寂に包まれた街へ向かいプレハブから歩み出る。

「待って!」

靖弥の声へシャイン・ガイザーは足を止めた。

「ファオウルは何で僕に鍵を・・・。」

「正常な判断では無いが、合理的な判断だ。君が鍵を持っていれば効率は落ちるが再生が可能であり、致命傷を受けたとしても回復のために仮死状態になるだけだ。相打つように満身の力を叩き込みたかったに違いない。」

シャイン・ガイザーの答えに靖弥は彼の背へ歩み寄り更に質問した。

「じゃあ何でシャイン・ガイザーの胸へ鍵を入れて再生させてから二人で戦わなかったの?」

「二人で戦わなかった理由は私が死にかけていたからだ。更に、ファオウルは次の魔人には勝てない事を悟っていたのだろう。力を残した彼は魔剣と融合してから死ぬことで私へ鍵を通じてその力を与えてくれた。その方法で無ければ他の魔人の鍵で回復することが出来ない。」

「何だよ、それ。何も僕には言ってくれなかったじゃないか。」

靖弥は立ちすくみ自分の靴を見つめた。悔しさに涙が零れ、乾いた靴先へ当たるとはかなく散る。俯く靖弥の視界にシャイン・ガイザーの白い足が重い足と共に映り込んだ。ゆっくりと白い爪先から脛を上がり腰、腹そして青い瞳へ靖弥は視線を上げる。

「ササキ・セイヤよ、ファオウルは勝利を見据えて戦い最期まで戦い抜いた。その勇士は胸の鍵を通じ、青い光となって私の目へ宿った。戦いの行く末を見届けるために。」

白い小手が差し出される。

「此処は涙を流す場所ではない。顔を拭け、前を向いて君も見届けろ。私たちと共に仲間として。」

頷く靖弥は小手へ手を乗せると、シャイン・ガイザーは小柄な靖弥を抱え街へ繰り出した。


 白磁の脛当ては力強く大地を蹴り、シャイン・ガイザーと靖弥の下を家々が流れる。次々と飛び回るシャイン・ガイザーは昼過ぎのオフィス街、避難区域からやや離れた日当たりの良いビルの屋上へ床を凹ませて立った。眼下の街は機動隊がシールドやバリケードを備え、避難誘導によって押し寄せてきた人々を匿っている。仮設テントの下では冷たい水と扇風機が回りビル内には人々がすし詰めになっている。時折、消防隊員や自衛隊員が飲料水の箱をビルへ運びは持ち出しを繰り返す。

「見えた。黄金を纏うザラガスだ。」

靖弥を両腕から降ろしたシャイン・ガイザーが遠方の通りを指さす。靖弥の目にはまだ見えないが、シャイン・ガイザーの目には夏の熱気に温められた真っ黒なアスファルトをザラガスが陽炎に揺れ槍を片手に堂々と避難区域へ歩を進めていた。ザラガスの両肩からは天をつくような闘気がもうもうと立ち上る。

「あれが、ファオウルを。目立った傷が無いじゃないか。」

黄金のザラガスへ靖弥はおののき屋上の手すりへしがみつく。シャイン・ガイザーは屈む靖弥の肩を指先で軽く叩き、軽々とビルから飛び出した。シャイン・ガイザーの跳躍は避難所へ陰を落とした。避難者達は空を仰ぎシャイン・ガイザーを見つけると騒ぎ出し、地を揺らしバリケードの前へ白い鎧が降り立った。シャイン・ガイザーの鎧は太陽を反射し迫り来るザラガスの前へ立ちはだかった。白磁の兜を揺らしデモン・セイバーと呟くと黒鞘が扇状に開き、刀身の無い黒い柄を握りしめ、シャイン・ガイザーは魔剣を正眼に構えて地を踏みしめた。迫る陽炎に揺れたザラガスの姿は次第にはっきりと人々の目に映り、その様相へ人々は気圧され辺りは水を打ったかのように静まり返った。


 分かたれた黄金色の槍は人間達の命によって再び繋がり、黄金の鎧には曇り一つ無い。シャイン・ガイザーと向き合ったザラガスは石突きを下げ、刃先をシャイン・ガイザーの胸へ向けて半身に構える。闘気立ち上るザラガスはシャイン・ガイザーへ語りかけるには、

「ファオウルは哀れだ。お前のような狂人へ鍵を渡すとは。それを入れて儂と戦えば傷跡を残せたものを。お前は一体どれ程の同胞を殺すつもりだ。お前の後ろへ控えるモノの価値はそれほどの物なのか。」

シャイン・ガイザーは胸を張りザラガスの言へ答えた。

「彼等にその価値は無い。だが、これから魔界が食い潰す、あらゆる世界の未来には価値がある。そのために私は魔界を破壊する。」

シャイン・ガイザーの胸にある鍵から魔剣へエネルギーが注がれ、青い刀身が現れる。

「やはり狂人、お前は魔界に居たときから既に狂っていたか。僅かな魔人しか降下できないこの地を狙っていたな。」

いきり立つザラガスが地を蹴り俊足に駆けた。唸る穂先をシャイン・ガイザー胸へ打ち上げるように突き出す。シャイン・ガイザーは穂先を半身のザラガスの胸側へ打ち倒し、黄金の背へ回り込み後ろ足の関節を強かに蹴りつけた。ザラガスは瞬時に全身を輝かせて持ちこたえ、石突きをシャイン・ガイザーの胴へ向けて振り向きざまに振り抜く。致死の力が込められた石突きの一撃はとっさに引かれた白磁の胴鎧を擦る。黄金の足がアスファルトを砕き、ザラガスの兜が弾かれたように魔剣が空へ流れ、姿勢が崩れたシャイン・ガイザーを捉えると、勢いのままシャイン・ガイザーの胴を両断する一撃を薙ぐ。しかし、シャイン・ガイザーは振り上げた魔剣を輝かせ、ザラガスの脳天へ振り下ろした。素早い切り返しによって槍の一撃を諦めたザラガスは、両手で固く握りしめた槍の柄へエネルギーを注ぎ込み、魔剣を受け止めた。魔剣を受け止めるザラガスの両足はアスファルトへヒビを入れ、足下から黒いアスファルト片が転がり出す。艶やかな黄金の鎧は輝きを失い、追い打ちにシャイン・ガイザーの魔剣は火花を立て、槍の刃先へ向かって柄を滑りザラガスの指へ迫る。ザラガスは切っ先を下げて剣を払い石突きをシャイン・ガイザーの側頭部へ打ち当てる。苦し紛れに振るわれた一撃は白磁の兜へヒビを入れ、シャイン・ガイザーはその打撃を意にも介さず前足を力強くアスファルトへ打ち付け、輝く後ろ足が唸り黄金の胴鎧へ吸い込まれるように蹴り当てられた。ザラガスの巨体が浮き上がり電柱を折り締め切られた改装中のビルへ吹き飛ばされた。床一面に張られたコンクリートを削りザラガスは転がり仰向けに倒れる。


 黄金の脛当てを立てて巨体を持ち上げたザラガスは立ち上がりかけたが、地響きを立てて膝をつく。修復したはずの左足が裂け黄色の血液が流れ始めていたのだ。

「食い足りなかったか。」

膝をつくザラガスは建物の外から見下ろすように立つシャイン・ガイザーを睨み、思わずぼやく。よろめき立ち上がるザラガスを前にシャイン・ガイザーの魔剣の刀身は霧のように消えてしまう。シャイン・ガイザーは刀身の無い剣を腰へ納め不動の構えを取る。結びを解いた織物のようにザラガスの槍が折れ、兜へひびが入る。対するシャイン・ガイザーの鎧は灰白色へ変色し兜のひび割れすら直せていない。ザラガスは柄の切れた槍を剣のように垂直に立て構えシャイン・ガイザーへにじり寄る、ザラガスの目には僅かに見える避難所がオアシスのように映るがシャイン・ガイザーを相手には遠い。構えをとったまま建物から出たザラガスはシャイン・ガイザーを睨みつけながら避難所へ歩を進めるが、シャイン・ガイザーは歩調を合わせザラガスと並ぶ。やがて二人は避難所へ向かって走り、ザラガスは槍の穂先でシャイン・ガイザーの肩を切りつける。黄金の刃はシャイン・ガイザーの肩当てに刀傷を残し黄色の血液が流れる。シャイン・ガイザーは槍を振り抜いたザラガスの腕へ組み付き全身の力を込める。白い左手が腕を握り絞め、右手が黄金の胴鎧を掴み、シャイン・ガイザーの全身が輝く。黄金の腕甲がシャイン・ガイザーの膂力によって軋み、拉げ、金属のこすれる音が肩口から立つ。なおも疾走を続けるザラガスの胴から黄色の血液が流れ始め、ザラガスは腕ごとシャイン・ガイザーを。更にシャイン・ガイザーの両足が輝きザラガスの脇腹を蹴り飛ばした。甲高い破裂音と共にザラガスは避難所から遠ざかるように跳ね飛ばされ、槍を持っていた右腕は肩口から千切れ傷口からは止めどなく血液が滴る。シャイン・ガイザーはバリケードを打ち倒し、鎧は黒色へ変色し魔人の血に塗れて倒れ込む。人々は慌ててシャイン・ガイザーから距離を足り機動隊がシールドを構えて避難者達を守る。


 二人の魔人は地を踏みしめ立ち上がり向かい合う。ザラガスの右肩からの出血は止まり、下ろされた左拳は固く握られ異音を発する。黒い鎧が揺れ、シャイン・ガイザーは立ち止まるザラガスへ猛然と駆け出した。両拳は握られ、地を蹴る足はアスファルトを砕き、近づく両者は残された力を振り絞りぶつかった。ザラガスの拳は唸りシャイン・ガイザーの胴鎧へ迫るが、拳は黒い鎧を打ち砕くことは無かった。黄金を散しザラガスの胴へシャイン・ガイザーの左足が突き刺さり、ザラガスは二歩後退る。ザラガスの左腕が痙攣する。更に一歩後ずさるも、足が塵へ変わりザラガスは倒れ伏す。ザラガスは震える手をシャイン・ガイザーへ伸ばすが遂に全身が塵へ変わり、黄金を纏う魔戦士は空へ溶けファオウルの塵を包んだ写真だけが残された。シャイン・ガイザーは写真を拾い上げ、遠くで見守る靖弥へ振り返った。

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